表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔法少女"某(ナニガシ)"  作者: 小津敬一郎
六人目 魔法少女ユズハちゃん
17/23

討伐せよ!


 私のこの未来予知。いくつかの例外がある。

 まず、死者の未来は視えない。この世の(ことわり)から外れた人も視えない。

 そして、自分自身の未来も視えない。


「ラヴェールの未来も視えないわ。」


 ラヴェールは自分の事を「異世界から来たかもしれない」と言っていたが、実際は……この世界の過去の住人。恐らくこの宝石自体は、異世界の物で間違いは無いと思う。


 異世界から何らかの力でこの世界に辿り着いた魔石。

 それをラヴェールは"改良"し、人の魂を無差別無制限に吸い取るだけの魔石を、魔道具までに昇華させたということがわかった。

 ラヴェールの未来は視えない。という事は、この世の(ことわり)から外れたか、死者としてカウントされているか。


 そうだ、知りたい事がある。私はトランプをシャッフルしながら下の階へ向かう。


「お母さん、たまには占わせて。」


 そう私が言うとお母さんは私に。


「当たりすぎて怖いから勘弁して。一ヶ月分の食事のメニューまで的中させるなんて……」


 そういえばそんなこともあった。


「大丈夫。知りたいのは一つだけだから。」


 お母さんはしばらく考え込んでいたが、許可を得ることが出来た。

 私はカードを並べていく。


(娘の葬式……は少なくとも一ヶ月間は無い。一ヶ月は……死ぬことはないってことかな。)


「気が済んだ?内容は、言わないでね。」

「ええ。ありがとう、お母さん。」

「なんだ、パパも占っておくれよ。」


 お父さんも占う。

 ……26日後に私と釣りに行く、か。


 これで確定。私は少なくともこの一ヶ月間で死ぬことは無いらしい。

 私は二階の自室に戻る。


「ラヴェール。明日、魔人を倒しに行きましょう。」


 私の占いは、当たる。が、それは回避することが可能。

 つまり、私が運命にない動きをした場合、「日常を回避」して死ぬことも十分ありうる。

 可能な限り早いほうが、いい。


「どこに魔人がいるのか、わかるんですか?」


 わかる。数日前から閉鎖されている入園者数日本最大のテーマパーク、東京ディストピアランド。恐らく一人はそこにいる。

 通常ではあのテーマパークが事前告知なしで数日も閉鎖されるなんて、ありえない事だから。

 恐らくとんでもない事が起こっている。


 今日はもう遅い。明日に備えて寝る事にする。

 私はベッドにもぐりこんだ。


 眠れない。

 眠れない。

 眠らなきゃ……嫌だ!怖い。

 怖い、怖い……怖い。


(ラヴェール、起きてる?)


 寝る前に教えてもらった念話だ。


(起きてますよ。不安ですか?)

(うん、とっても怖いの。)


 ん、怖い?私に感情があったなんて。

 今までは、未来予知の力の器だった私に、感情は無かった。


 そっか、私にも。感情、あったんだ。

 それを解き放ったのは……ラヴェール、あなたでしょう?


(ありがとう。)

(ユズハ様?)


 強烈な引っ張られる力と共に意識が薄れていく。おやすみ、また明日。


「で、問題なのが足ね。直接"転移"で行くか、それとも電車で行くか。」


 翌日の朝。私はラヴェールと打ち合わせ。


「ユズハ様。魔法、無駄遣いしないほうがいいと思います。」

「まあ、慣れるっていう意味で。」

「なるほど、それだったら座標指定で。問題は、高度なんですよ。」

「高度?」

「ええ、あんまり高すぎると、地面に落ちた衝撃で死にます。」


 戦う前に落下死は確かにしたくないかも。


「おとなしく電車で行きますか。」

「ユズハ様。時間はたっぷりあるんです。焦らないで。」

「ん、ありがと。」


 そして到着。閉園中と掲げられた巨大なボードに……観光客の怒鳴り声が響いてる。


(ここまで来れば、"転移"でさっさと中に入っちゃいましょう。)

「そうね、"転移"!」


 テーマパークの中に入りました。

 入り口からは見えない奥の方まで行くと……


「ひっ!」


 死体がゴロゴロ転がっていました……

 私は頭を抱えて地面にうずくまる。


「いやだ、ラヴェール。嫌だよ。怖いよ……」

「ユズハ様!やめましょうか?」


 やめる、か。確かにそういう手もあるけど……


「そうも言ってられない。でも……」


 私は死体に祈りを捧げる。

 僧侶じゃないけど、せめて安らかな眠りを。


「……お待ちしておりました。」


 !?誰!

 声のあった方向に視線を移すと……スーツ姿の紳士風の男が。

 未来が……視えない。この世の(ことわり)から……外れた存在!


「初めまして。ユズハと申します。」


 そう名乗るとその紳士は咳払いを。


「レディに対して先に名乗らせてしまいました。これは申し訳ない。」


 紳士は続ける。


「私はジェントと申します。冥土のお土産に是非。」


 紳士は礼をする。


「"解析"!」

(ユズハ様?一体何を!)

(登録名、ジェント。魔力量、9999。状態、正常。固有能力、使役。)

(ユズハ様!?)

(何言ってるの、ラヴェール。解析は、名前を知った対象の情報を得る。でしょう?)

(まさかそんな使い方が……)

「固有能力、"使役"を"解析"。」


 魔法を使う宣言は、念話では不可能。声に出さないと。


(消費魔力、100。効果、生物でない対象を操作。射程、声の届く範囲。使用条件、魔道具とのリンク。備考、数に応じて追加で魔力を消費。)


 そこまで確認したところで、魔人は高笑いする。


「ハーッハッハッハ!どうやら私は先制攻撃を受けてしまったようだ!」


 なにがおかしい!?


「固有能力は、一人一つ!そんな戦闘に向かない能力で、よくぞこの場に足を踏み入れたものだ!」


 なるほど。


「レスト・イン・ピース。せめて安らかな眠りを!」


 魔人が襲い掛かる。私はラヴェールを前方にかざし……


「ラウド・ヴェール!」


 一発、放った。上から降り注ぐ力。

 完全に油断していたし、当たったはず……


「未知の攻撃は右か左に避けろ。」


 声の方を向くと……魔人が。無傷の魔人が。


「戦いの鉄則の話です。失礼ですが、少々説明させていただいても、よろしいでしょうか?」


 丁度いい、私は時間を稼ぎたい。


「大体、攻撃魔法と言うのは……大抵が自分から一直線状に放つモノ。そして次に多いのが、今ユズハ君が使った様な、範囲指定型。上から降り注ぐ力か、下から這い上がる力か。」


 ……続きを。


「つまり、どちらの攻撃も、右か左かに避ければ良いのです。簡単でしょう?」


 どちらにしても、人間には不可能な話。


「ユズハ君はどうやら固有能力を複数持っている模様。危険な存在です、殺さなければなりません。」


 それは、どうも。


「私の力……大体何に使うかわかりますね?"使役"!」


 周囲に散らばっていた死体が……立ち上がる。まさか……


「その(むすめ)を殺せ!」


 死体が……襲い掛かってくる。これは、私のメンタル的な意味で、凄く効く攻撃。

 ……ごめんなさい。


「ラウド・ヴェール!」


 死者に殺意を放つ。


「ラウド・ヴェール!ラウド・ヴェール!ラウド・ヴェール!」


 周囲の死体を、全て消し。

 ごめんなさい、行方不明にしてしまいました。


「ハッハッハ、随分焦っているんだねえ?」


 当然。死体が動くシーンなんて、一秒でも長く見たくないから。


「知ってると思いますが……生物でないなら何でも操れるのです。"使役"!」


 メリーゴーランドの馬が……動き出して……突進してくる。


「ラウド・ヴェール!」


 無視して突進を続ける馬。そうか、生物じゃないから、効かない。


(ユズハ様!避けられません!)

(大丈夫よ、ラヴェール。)

「"転移"!」


 1メートルほど横に"転移"する。突進をとめられない馬は障害物にぶつかって砕ける。


(なるほど!こんな使い方が!)

(え……知らなかったの?"転移"を移動じゃなくて回避に使うやり方。)


 "節制"のお陰。湯水の様に魔法を使える。


「ラウド・ヴェール!」


 魔人本体への攻撃。でも当たらない。


「もうタネはわかっております。上から降り注ぐ力。我々の身体能力なら……簡単に避けられます。」


 余裕綽々の魔人。


「さあ!諦めてその宝石を渡しなさい!」


 断ります。


「ラウド・ヴェール!」

「ハッ!だから効かないと――


 右に避ける魔人、左に放たれるラウド・ヴェール。


「外した。でも右か左かに避けられるなら、そこに置けばいいでしょう?」


 魔人はキョトンとしている。そして、笑った。


「ハッハッハ!それは面白い!それならば私も面白いものを見せてあげましょう。」


 魔人はスタンガンを取り出す。

――"使役"の対象は生物以外!


「"使役"!」

「"転移"!」


 バチンッと魔人の手元から雷が発生し、私の居たところまで到達する。

 危ない。あれを喰らったら気絶くらいはする。


(ラヴェール、ラヴェール、聴こえる?)

(どうしましたか!)

(最初の魔人、どうやって倒したの?)

(隙だらけだったので最初のラウド・ヴェールで行動不能にしました。)


 なるほど、隙か。

 バチッバチッと魔人がスタンガンを唸らせる。よし、次に攻撃してきたら。


「"使役"!」

「"転移"!」


 今度は横でなく……お前の、後ろだ!


「ラウド・ヴェール!」


 凄まじい反応で魔人は横に跳ぶ。そして、範囲外に着地。


「ふう、危ない危な――

「ラウド・ヴェール!」


 その着地点にもう一発。

 ……今度は……私の方に跳んできた!


「接近戦は得意ではないのですが。」

「"転移"!」


 また魔人の背後へ――


「二回目です。通用しませんよ。」


 捕まっ……


「"転移"!」


 息が上がりそう。


「戦いを面白いと言う人の考えは理解できなかったのですが……」


 可能な限り呼吸を整えなければ。


「そう、今なら理解できます。こんなに強い餌を見るのは、初めてです。」


(ユズハ様、ラウド・ヴェールを遠くから撃つのはどうでしょう?)

(ダメ。ラウド・ヴェールの射程は声の届く範囲。大声を出したら、同じ事。)


 ん?大声を出す?そうだ、あれがあった。

 あれを使うしかない。出来れば、使いたくなかったけど。


「"転移"」


 メリーゴーランドの上に転移して……

 魔人、私を見失いました。


 気付かれないように、小さな声で。


「"虚飾"」


 そして、声色を変えて、大声で。


「そこの二人!待ちなさい!」


 魔人はこちらを見た。


「今日も乙女が呼んでいる!乙女のピンチに緊急出動!魔法少女、ギルティ・エリザ!参上!」


 ステッキを掲げるポーズをとる。

 私が今「見せて」いるのは、小さい頃女児向けアニメで見た、最高にプリティーな衣装。


「"虚飾"」


 "虚飾"でそのビジョンをその場に残す。


「"虚飾"」


 そしてもう一度の"虚飾"で私は姿を消す。


「"転移"」


 魔人はまだ「私の映したビジョン」に気をとられている。

 私の転移先は……魔人の真横。私の映したビジョンは崩れだしている。


「ラウド・ヴェール!」


 そう耳元で叫ぶと……魔人は声の反対側に回避した。


 そう――


――とっさに大声を聞けば、その反対側へ回避するか、真後ろに回避するか。

 何度も右か左かに回避する悪癖(セオリー)……そこに置けばいい。


 上から降り注ぐ力で、魔人は消滅。


("虚飾"にそんな力が!考えもしませんでした!)


 ラヴェールは驚いてる。


 エリザさん、私はやりました。

 めぐみさん、助かりました。

 ちどりさんも。

 そしてあかねさん、守ってくれてありがとう。


 ……まゆみさん、早めに死んでください。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ