討伐せよ!
二
私のこの未来予知。いくつかの例外がある。
まず、死者の未来は視えない。この世の理から外れた人も視えない。
そして、自分自身の未来も視えない。
「ラヴェールの未来も視えないわ。」
ラヴェールは自分の事を「異世界から来たかもしれない」と言っていたが、実際は……この世界の過去の住人。恐らくこの宝石自体は、異世界の物で間違いは無いと思う。
異世界から何らかの力でこの世界に辿り着いた魔石。
それをラヴェールは"改良"し、人の魂を無差別無制限に吸い取るだけの魔石を、魔道具までに昇華させたということがわかった。
ラヴェールの未来は視えない。という事は、この世の理から外れたか、死者としてカウントされているか。
そうだ、知りたい事がある。私はトランプをシャッフルしながら下の階へ向かう。
「お母さん、たまには占わせて。」
そう私が言うとお母さんは私に。
「当たりすぎて怖いから勘弁して。一ヶ月分の食事のメニューまで的中させるなんて……」
そういえばそんなこともあった。
「大丈夫。知りたいのは一つだけだから。」
お母さんはしばらく考え込んでいたが、許可を得ることが出来た。
私はカードを並べていく。
(娘の葬式……は少なくとも一ヶ月間は無い。一ヶ月は……死ぬことはないってことかな。)
「気が済んだ?内容は、言わないでね。」
「ええ。ありがとう、お母さん。」
「なんだ、パパも占っておくれよ。」
お父さんも占う。
……26日後に私と釣りに行く、か。
これで確定。私は少なくともこの一ヶ月間で死ぬことは無いらしい。
私は二階の自室に戻る。
「ラヴェール。明日、魔人を倒しに行きましょう。」
私の占いは、当たる。が、それは回避することが可能。
つまり、私が運命にない動きをした場合、「日常を回避」して死ぬことも十分ありうる。
可能な限り早いほうが、いい。
「どこに魔人がいるのか、わかるんですか?」
わかる。数日前から閉鎖されている入園者数日本最大のテーマパーク、東京ディストピアランド。恐らく一人はそこにいる。
通常ではあのテーマパークが事前告知なしで数日も閉鎖されるなんて、ありえない事だから。
恐らくとんでもない事が起こっている。
今日はもう遅い。明日に備えて寝る事にする。
私はベッドにもぐりこんだ。
眠れない。
眠れない。
眠らなきゃ……嫌だ!怖い。
怖い、怖い……怖い。
(ラヴェール、起きてる?)
寝る前に教えてもらった念話だ。
(起きてますよ。不安ですか?)
(うん、とっても怖いの。)
ん、怖い?私に感情があったなんて。
今までは、未来予知の力の器だった私に、感情は無かった。
そっか、私にも。感情、あったんだ。
それを解き放ったのは……ラヴェール、あなたでしょう?
(ありがとう。)
(ユズハ様?)
強烈な引っ張られる力と共に意識が薄れていく。おやすみ、また明日。
「で、問題なのが足ね。直接"転移"で行くか、それとも電車で行くか。」
翌日の朝。私はラヴェールと打ち合わせ。
「ユズハ様。魔法、無駄遣いしないほうがいいと思います。」
「まあ、慣れるっていう意味で。」
「なるほど、それだったら座標指定で。問題は、高度なんですよ。」
「高度?」
「ええ、あんまり高すぎると、地面に落ちた衝撃で死にます。」
戦う前に落下死は確かにしたくないかも。
「おとなしく電車で行きますか。」
「ユズハ様。時間はたっぷりあるんです。焦らないで。」
「ん、ありがと。」
そして到着。閉園中と掲げられた巨大なボードに……観光客の怒鳴り声が響いてる。
(ここまで来れば、"転移"でさっさと中に入っちゃいましょう。)
「そうね、"転移"!」
テーマパークの中に入りました。
入り口からは見えない奥の方まで行くと……
「ひっ!」
死体がゴロゴロ転がっていました……
私は頭を抱えて地面にうずくまる。
「いやだ、ラヴェール。嫌だよ。怖いよ……」
「ユズハ様!やめましょうか?」
やめる、か。確かにそういう手もあるけど……
「そうも言ってられない。でも……」
私は死体に祈りを捧げる。
僧侶じゃないけど、せめて安らかな眠りを。
「……お待ちしておりました。」
!?誰!
声のあった方向に視線を移すと……スーツ姿の紳士風の男が。
未来が……視えない。この世の理から……外れた存在!
「初めまして。ユズハと申します。」
そう名乗るとその紳士は咳払いを。
「レディに対して先に名乗らせてしまいました。これは申し訳ない。」
紳士は続ける。
「私はジェントと申します。冥土のお土産に是非。」
紳士は礼をする。
「"解析"!」
(ユズハ様?一体何を!)
(登録名、ジェント。魔力量、9999。状態、正常。固有能力、使役。)
(ユズハ様!?)
(何言ってるの、ラヴェール。解析は、名前を知った対象の情報を得る。でしょう?)
(まさかそんな使い方が……)
「固有能力、"使役"を"解析"。」
魔法を使う宣言は、念話では不可能。声に出さないと。
(消費魔力、100。効果、生物でない対象を操作。射程、声の届く範囲。使用条件、魔道具とのリンク。備考、数に応じて追加で魔力を消費。)
そこまで確認したところで、魔人は高笑いする。
「ハーッハッハッハ!どうやら私は先制攻撃を受けてしまったようだ!」
なにがおかしい!?
「固有能力は、一人一つ!そんな戦闘に向かない能力で、よくぞこの場に足を踏み入れたものだ!」
なるほど。
「レスト・イン・ピース。せめて安らかな眠りを!」
魔人が襲い掛かる。私はラヴェールを前方にかざし……
「ラウド・ヴェール!」
一発、放った。上から降り注ぐ力。
完全に油断していたし、当たったはず……
「未知の攻撃は右か左に避けろ。」
声の方を向くと……魔人が。無傷の魔人が。
「戦いの鉄則の話です。失礼ですが、少々説明させていただいても、よろしいでしょうか?」
丁度いい、私は時間を稼ぎたい。
「大体、攻撃魔法と言うのは……大抵が自分から一直線状に放つモノ。そして次に多いのが、今ユズハ君が使った様な、範囲指定型。上から降り注ぐ力か、下から這い上がる力か。」
……続きを。
「つまり、どちらの攻撃も、右か左かに避ければ良いのです。簡単でしょう?」
どちらにしても、人間には不可能な話。
「ユズハ君はどうやら固有能力を複数持っている模様。危険な存在です、殺さなければなりません。」
それは、どうも。
「私の力……大体何に使うかわかりますね?"使役"!」
周囲に散らばっていた死体が……立ち上がる。まさか……
「その娘を殺せ!」
死体が……襲い掛かってくる。これは、私のメンタル的な意味で、凄く効く攻撃。
……ごめんなさい。
「ラウド・ヴェール!」
死者に殺意を放つ。
「ラウド・ヴェール!ラウド・ヴェール!ラウド・ヴェール!」
周囲の死体を、全て消し。
ごめんなさい、行方不明にしてしまいました。
「ハッハッハ、随分焦っているんだねえ?」
当然。死体が動くシーンなんて、一秒でも長く見たくないから。
「知ってると思いますが……生物でないなら何でも操れるのです。"使役"!」
メリーゴーランドの馬が……動き出して……突進してくる。
「ラウド・ヴェール!」
無視して突進を続ける馬。そうか、生物じゃないから、効かない。
(ユズハ様!避けられません!)
(大丈夫よ、ラヴェール。)
「"転移"!」
1メートルほど横に"転移"する。突進をとめられない馬は障害物にぶつかって砕ける。
(なるほど!こんな使い方が!)
(え……知らなかったの?"転移"を移動じゃなくて回避に使うやり方。)
"節制"のお陰。湯水の様に魔法を使える。
「ラウド・ヴェール!」
魔人本体への攻撃。でも当たらない。
「もうタネはわかっております。上から降り注ぐ力。我々の身体能力なら……簡単に避けられます。」
余裕綽々の魔人。
「さあ!諦めてその宝石を渡しなさい!」
断ります。
「ラウド・ヴェール!」
「ハッ!だから効かないと――
右に避ける魔人、左に放たれるラウド・ヴェール。
「外した。でも右か左かに避けられるなら、そこに置けばいいでしょう?」
魔人はキョトンとしている。そして、笑った。
「ハッハッハ!それは面白い!それならば私も面白いものを見せてあげましょう。」
魔人はスタンガンを取り出す。
――"使役"の対象は生物以外!
「"使役"!」
「"転移"!」
バチンッと魔人の手元から雷が発生し、私の居たところまで到達する。
危ない。あれを喰らったら気絶くらいはする。
(ラヴェール、ラヴェール、聴こえる?)
(どうしましたか!)
(最初の魔人、どうやって倒したの?)
(隙だらけだったので最初のラウド・ヴェールで行動不能にしました。)
なるほど、隙か。
バチッバチッと魔人がスタンガンを唸らせる。よし、次に攻撃してきたら。
「"使役"!」
「"転移"!」
今度は横でなく……お前の、後ろだ!
「ラウド・ヴェール!」
凄まじい反応で魔人は横に跳ぶ。そして、範囲外に着地。
「ふう、危ない危な――
「ラウド・ヴェール!」
その着地点にもう一発。
……今度は……私の方に跳んできた!
「接近戦は得意ではないのですが。」
「"転移"!」
また魔人の背後へ――
「二回目です。通用しませんよ。」
捕まっ……
「"転移"!」
息が上がりそう。
「戦いを面白いと言う人の考えは理解できなかったのですが……」
可能な限り呼吸を整えなければ。
「そう、今なら理解できます。こんなに強い餌を見るのは、初めてです。」
(ユズハ様、ラウド・ヴェールを遠くから撃つのはどうでしょう?)
(ダメ。ラウド・ヴェールの射程は声の届く範囲。大声を出したら、同じ事。)
ん?大声を出す?そうだ、あれがあった。
あれを使うしかない。出来れば、使いたくなかったけど。
「"転移"」
メリーゴーランドの上に転移して……
魔人、私を見失いました。
気付かれないように、小さな声で。
「"虚飾"」
そして、声色を変えて、大声で。
「そこの二人!待ちなさい!」
魔人はこちらを見た。
「今日も乙女が呼んでいる!乙女のピンチに緊急出動!魔法少女、ギルティ・エリザ!参上!」
ステッキを掲げるポーズをとる。
私が今「見せて」いるのは、小さい頃女児向けアニメで見た、最高にプリティーな衣装。
「"虚飾"」
"虚飾"でそのビジョンをその場に残す。
「"虚飾"」
そしてもう一度の"虚飾"で私は姿を消す。
「"転移"」
魔人はまだ「私の映したビジョン」に気をとられている。
私の転移先は……魔人の真横。私の映したビジョンは崩れだしている。
「ラウド・ヴェール!」
そう耳元で叫ぶと……魔人は声の反対側に回避した。
そう――
――とっさに大声を聞けば、その反対側へ回避するか、真後ろに回避するか。
何度も右か左かに回避する悪癖……そこに置けばいい。
上から降り注ぐ力で、魔人は消滅。
("虚飾"にそんな力が!考えもしませんでした!)
ラヴェールは驚いてる。
エリザさん、私はやりました。
めぐみさん、助かりました。
ちどりさんも。
そしてあかねさん、守ってくれてありがとう。
……まゆみさん、早めに死んでください。