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魔法少女"某(ナニガシ)"  作者: 小津敬一郎
五人目 魔法少女ちどりちゃん
15/23

精算


 ラヴェールを「連れて」家に帰りました。

 道中、ラヴェールからこんな話を聞いたのです。


「召喚された魔人は、三人。一人はちどり様が倒しました。」

「まだ、二人残ってるんだ。」

「そうです。これといった騒ぎは起こしていませんが。」

「じゃあ、ボクが残りの二人も倒しちゃおう!」


 ボクがそう言うとラヴェールはそれは難しいでしょう、と答えました。


「ちどり様の功績はとてつもなく大きいです。魔人を倒しただけでなく、こんな強力な固有能力まで……」


 節制……って、そんなに凄い力なのでしょうか。ボクには今ひとつピンときません。


「今までの持ち主は……例外もありましたが、およそ500から800程の魔力がありました。」


 ということは、つまり……


「今まで一人一回しか使えなかった殺意の大魔法(ラウド・ヴェール)が10発以上撃てる。これがどれほどの事か!」


 確かに。と、いうことは。


「ボクも後三発は撃てるんだよね?」


 ボクは自転車を止めます。家に到着しました。


「おおう、随分スリリングな家にお住まいで……」


 ラヴェールは最大限気を使って言葉を選んでいる気がしますが、そんなフォローは要りません。


「お父さん、ただいま。」


 と言ってももう暗いです。電気も点かないので今日はこのまま眠りましょう。


(父親……ですか?随分ドライな反応ですね。)

(ちょっと人格が向こう側に行っちゃってるだけ。)

(というと?)

(薬物でわかる?)

(アヘン……でしょうか?)


 まあ似たような物だよ、と答えます。

 ああ、今日は随分疲れました。そのまま意識が落ちていきます。


 翌日。

 ボクはラヴェールに確認をとるのです。


(ラヴェール、あの魔法、まだボクは三回は撃てるんだよね?)

(はい、撃てますが……まさか……)


 お父さんは食卓の前で正座しています。


(お父さんを、解放してあげないと。)


 それが悪いことだとは、微塵も思っていません。


(薬物で廃人ですか……部外者の私は何も言えません。ちどり様の意志に任せます。)


 殺意……殺意。


「お父さん、おかえり!どうしていつも帰ってくるのが遅いの?」

「ちどり。僕はね、世の中のみんなを守る仕事をしているんだよ。」


 違います、この記憶じゃないです。ちゃんと殺意を持たないといけません。


「お父さん!ボクもケーサツカンになりたい!」

「ははは、僕と違ってちどりは強いからすぐなれるよ。で、何で自分の事をボクって言ったの?」

「お父さんのマネ!」

「ははは、ちどりには敵わないなあ。」


 この記憶でもないです。殺意を……ちゃんと殺意を。


「僕はちどりのお母さんも当然守るんだ。警察官だからね。」

「ボクは守らなくてもいいの?」

「そういうわけじゃない。お母さんの手術、きっと成功するから。だからちどりは安心して。」

「うん、わかった!」


 この記憶でもないです……でもあと少し。あと少しで。


「僕は……守れなかったんだ……一番身近な人を。」

「お父さん……?」

「少しだけ、一人にさせてくれないか?」

「うん……わかった……」


 そうです、もう少しです。もう少しで……


「うおおおおおおおお!!何が警察官だ!何が人を守るだ!妻一人守れずに!」

「お父さん!落ち着いて!」

「うるさい!お前は誰だ!」

「お父さん、ボクだよ、ちどりだよ!」

「お前はドリーだ!ちどりはどこだ!」


 そう、ここからは忌まわしい記憶です。忌まわしい……


「ドリー。ごめんなあ、見ず知らずの他人に……」

「お父さん、ボクがちどりだよ。」

「僕は妻も娘も守れなかった……二人とも死んでしまった。」

「お父さん、ボクはまだ生きてるよ。」


 違う……違う……!


「お父さん、おかえり!どうしていつも帰ってくるのが遅いの?」

「ちどり。僕はね、世の中のみんなを守る仕事をしているんだよ。」


 記憶が巻き戻ります。今現在のボクはその場で泣き崩れました。


「あああああああああああああああ!!」


 そうです……そうです。

 ボクが、お父さんを殺せるわけが……無いでしょう?


(ちどり様……私はその意志を尊重します。)

(うるさい、うるさあああい。)


 ボクは卑怯者だ。お父さんを殺そうとした。


 ボクは臆病者だ。お父さんを殺せなかった。


 ボクは……弱い。お父さんを守れなかった。


 ボクは……ボクは……


 ドンドンドン、と扉を叩く音。


「ドリー!いる?」


 その声は、所長のものでした。

 突然だったから涙を拭わずに玄関に出てしまいました。


「所長さん。ごめんなさい、今から行きますので。」

「………………!」

「所長さん?」

「今日は休みなさい。これ、今日の新聞と今日発売の情報誌。」

「ありがとうございます。」

「明日には来るんだよ?」


 ボクは新聞と情報誌を受け取りました。

 そして扉は閉められ、階段を下る音がゆっくりと。


「お父さん、新聞なんて、久しぶりだね。」


 お父さんの目の前に新聞を置くと、お父さんは新聞を開いて読み始めました。

 といっても……記事を読んでる訳では無いのですが。


(ちどり様。私の次の主人ですが……)

(わかってる。ボクも考えてた。)


 情報誌を何となく後ろから見ながら、ラヴェールとお話しします。


(ねえ、ラヴェール?)

(ちどり様、何でしょう?)

(今までの魔法少女の選考基準って、どう考えても場当たり的なアレだよね。)

(はい、その通りです。それしか手段がありませんでしたので。)


 ボクは情報誌の広告欄を指差しました。


(初めから強力な女の子を主人にする、っていうのはどう?)

(それがわかれば苦労しませんよ!)


 ボクの指差した先は……


――脅威の的中率89%!小学五年生にして天才占い師!


(どう思う、ラヴェール?)

(100%じゃなくて89%ってところがかなり信憑性ありますね。)

(確かこの子、テレビにも出てたんだけど。)


 待ってくださいとラヴェールは言いました。


(小学生とは書いてありますが、女の子とは書いてないですよ!)

(どう見てもどう考えても女の子でしょ?)

(人は見た目によらないのです!万全を期しましょう!)


 ああ、ラヴェールも人を見た目で判断して、痛い目にあったクチですか。


「お父さん、行ってきます。」


 目指すは……鳥袋(とりぶくろ)

 電車賃は持ち合わせていないので……徒歩で行きましょう。


 平日の昼間だったこともあり、行列はさほどではないそうです。

 それでも、一時間待ちだそうです。


 ボクの番が来て、占い師の女の子と目を合わせると……

 その女の子は首をうん、と縦に一回振りました。


「待っていました。」


 ボクはラヴェールをバッグから取り出し、女の子に見せました。


「魔道具。しかも、とても危険な。」

「使い方、わかる?」

「お借りしてもよろしいでしょうか?」


 ラヴェールを女の子に渡すとボクは帰――


「待ってください。」


 うん?


「占い師のところまで来たのに占わせないのは変です。変人です。」


 それもそうでした。


「でも、お金が……」

「いりません。大丈夫、すぐ終わりますので。」


 席に着くと、異様な空気の重さに息が苦しくなります。


「魔道具の所有者である貴女には言いますが、私には未来が視えるのです。」


 !!


「肉眼なら24時間。小アルカナ(トランプ)なら、一ヶ月。大アルカナ(タロット)なら、一年。」


 女の子は続けます。


「全てを始める前に、貴女の名前をフルネームでここに記入してください。」


 瀬島……千鳥……っと。


「では、瀬島千鳥様。何をメインで占いましょう。」

「恋愛!」

「了解しました。」


 女の子は、凄まじい速度でカードを捌きます。


「ん?ううん?ここが変だ。」


 再度シャッフルして、カードを並べ直します。


「瀬島千鳥様。貴女は、来年の一月に死にます。」


 !?


「死因は……うーん、なんだろう、これ。」


 女の子はもう一度カードをシャッフル。そして、また並べ直しました。


「死因?………………!」


 ボクは恐る恐る尋ねます。


「死因、な、なんでしょう。」


 女の子は深く息を吸い込みます。


「死の運命を、今ここで変えましょう。瀬島千鳥様、この魔道具ですが。」


 女の子はラヴェールを指差します。


「私が買い取ってもよろしいでしょうか?」


 買い取る?ボクはあげるつもりでしたが。


「その場合、正式な代金をお支払いしたいのですが……私のお小遣いだと、到底足りないのです。」


 まあ、小学生ですしね。


「これくらいでどうでしょう。」


 女の子はその小さい手のひらでパーを作りました。

 五、ですか。

 

 五百円?五千円?


「……五億円までしか出せないのが心苦しいです。」


 ご……お…………く……?


「あ、じゃあ、それで。」


 としか言えませんでした。


「ありがとうございます。」


 女の子は立ち上がり、深々とお辞儀をしました。


 家に帰る途中、銀行に立ち寄り、残高を確認しました。

 確かに一桁の違いもなく、五億円が振り込まれていました。


(これでお父さんを療養施設に入れられる。もしかしたら快方に向かうかも。)


 返事はありません。


(ラヴェール。ラヴェールのおかげだよ、ありがとう。)


 返事はありません。


(ラヴェール……ラヴェール……)


 ボクはうずくまり、本日二回目の号泣です。

 こんな時間。今日はもう帰っておやすみ。


 翌日……


「先輩、ネコちゃんか何かが側溝に入っちゃってるみたいですよ。」

「ドリーの勘は当たるんだよなあ、今度は何が入ってるやら。」


 側溝の蓋を開けると……そこにはネコちゃんがいました。

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