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魔法少女"某(ナニガシ)"  作者: 小津敬一郎
四人目 魔法少女まゆみちゃん
12/23

凶事の兆し


 部屋がぐにゃりと曲がっているように感じられる。一体、何が起こっているのか。


「ラヴェール?何が起こってるの?」

 私はとっさに机の上の宝石……ラヴェールに問う。

「"解析"!登録者名、まゆみ。魔力量、479。心身状態、正常。固有能力、召喚。この固有能力、"召喚"の概要を"解析"……消費魔力、300。効果、別世界の英知を得る為の扉を開く。射程、手の届く範囲。使用条件、魔道具とのリンク。備考、処分の際にはあらゆる手段を。」

 ラヴェールはそう答える。……答えるというよりは、分析したのだろうか。


 そして、私の発現させた魔法は……召喚魔法だった。回復職(ヒーラー)の名折れである。


 部屋の床に円が描かれる。これは、どう考えても、アレだ。魔法陣だ。

 魔法陣は光を放つ。そしてその光が消えたところに現れたのは……


 三人の男だった。三人ともキョロキョロと周囲を見渡す。一人の男が口を開いた。

「ここは、どこだ?」

 ここは私の部屋だ。次の一人が口を開く。

「召喚陣の痕跡があります。我々は恐らく、異世界に召喚されました。」

 若干口調が紳士めいている。最後の一人が口を開く。

「餌が一匹。コイツの仕業か?だとしたら、魔道具はどこだ。」

 ……餌?なぜだか嫌な予感がする。この人は乱暴そうな人だ!

(まゆみ様!転移で避難してください!)

(ラヴェール、私はこの部屋から出たくないの。)


「魔道具……あの宝石か。いや、まさか。そんな事が……」

 信じられない、といったような声で、なにやら動揺している。……そして。

「ハハハハハ!なんだ、こんな所にあったのか!そうかそうか!まさか異世界に隠れていたとは!」

「随分壮大なかくれんぼになりましたね。」

「百年!待ちわびていたぞ!」

 恐らく代表格であろう中央の男が畳み掛ける。

「おい、餌!その宝石をよこせ。それさえあればこの世界に用はない。」

 よこせと言われてはいあげますよ、なんて都合のいい話は無い。

(まゆみ様!転移で逃げましょう!)

(ラヴェール?さっきも言ったけど……いえ、それはいい。あなただけ逃げなさい。)

(しかし!)

(私はこの人たちに話があるの。秘密のお話がね。)

(いえ、でも……!)

(ラヴェール。私の魔法、固有能力?はもう発現したの。だから私はもう用済み。そうでしょ?)

 男は机の上のラヴェールに手をかける。

「仕方ありません、"転移"!」

 ラヴェールはどこかへ消えた。


「なんだと?宝石自体が意志を持ち、固有能力を使っただと?」

「何か変化があったのでしょうか?となると、かくれんぼがおにごっこになりますね。」

「まあ、いい。とりあえずこの餌を頂いて英気を養おう。」


 話はなんとなく解った。この三人は、あの宝石を長い間探していた。あの宝石は異世界の物。私が彼らを召喚したことで、彼らの時間が動き出したのだ。そしてあの宝石は、当初持っていた性質とは別の性質が与えられて……恐らくそうしたのは、ラヴェールなのでは?

 そして先ほどから頻出している単語、餌。

 餌とは恐らく……ニンゲンのことだ。

「三人にお願いがあるの。命令は出来るのかしら?」

 私が召喚した、という事は召喚主の命令に従うはずだ。私は続ける。


「この世界を、滅ぼして。」


 そう言い放った私に三人は、互いに視線で相談を始めた。……そして出た結論は。

「失礼ながら、餌の命令には従えません。」

 と紳士が答える。

「なんだ、物騒な命令だな!この世界の餌はどうなっている!」

 乱暴者はそう答える。そして代表格の男は……

「異世界に召喚された場合のマニュアルに従うと……我々は穏便に事を済ませる必要がある。」

 そんなマニュアルがあるのか。他の項目も見てみたい。

「そうですね。穏便に遂行しましょう。」

「おうそうだ!穏便にだ!」

 代表格の男は私に背を向け二人の方を向く。

「お前達の思ってる穏便は私の知っている穏便ではない。穏便の定義をここで示してみろ。」

 二人は答える。

「制圧して黙らせます。」

「ぶっ壊して黙らせる!」

 代表格の男はやれやれ……といった仕草を示す。

「この世界の餌は我々の世界の餌とは勝手が違うようだ。十二分に気をつけろ。」

『ハハッ!』

 その直後、三人は遮光カーテンとガラスを破り、窓から外に出ていった。


 一人取り残された私。

 私は……私は、ひょっとして命だけは助かったのだろうか?

 私は、心のどこかで望んでいたのだろうか、私を殺してくれる存在を。


 まあそんな事は、もうどうでもいい。


「仕事でも探そう……」

 心底そう思った。ファンタジーの世界も、楽ではないことを思い知ったからだ。

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