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魔法少女"某(ナニガシ)"  作者: 小津敬一郎
四人目 魔法少女まゆみちゃん
11/23

日常殺風景


 その、魔法少女に私が選ばれたのだろうか。その宝石は確かに魔法少女に興味はないか、と言うのだ。


 私の返事は一つ。

「正直かなり興味あるんだけど?」

 そう答える。さて、どう動く。

「魔法少女になりませんか?魔力は頂きますが不思議な力が使えるようになります。」

 興味があるか、と聞かれてYESを選べば当然次は、なりませんか?だろう。とにかくこの宝石は、魔法少女候補として私を選んだらしい。

「いくつか質問してもいい?」

 そう質問の質問をする。

「まず、魔法少女になったら具体的に何をさせられるの?」

「特に何もしなくて結構です。」

 ほう、特に何もしなくていいと。それは楽でいい。

「……魔法少女の選考基準は?」

「ナイショです。」

 内緒ときたか!なるほどこの宝石、嘘も巧みに使う。正直聞いてみたものの、興味のない情報だった。

「契約期間中にあなたが強く思った事が魔法として発現します。私はそれを引き継ぎ、次の持ち主へ渡ります。」

「なるほど、つまりあなたを持ち続ければいいのね、卵を温める鳥のように。」

「いいですね、そのイメージはかなり近いですよ。」

「私は何人目?」

「四人目です。」

「という事は、今のところ三つの魔法が使える訳ね。詳しく教えて。」

「殺意と転移と虚飾です。」

 殺意……まあ攻撃魔法だろう。転移……これはワープ魔法で間違いない。虚飾……虚飾、虚飾か……

「虚飾って何に使うの?」

「……実は私もわかりません。」

 使途不明か!まあ、一つだけ確実に言える事がある。

「その三つとも、私には必要のない魔法ね。」

 そうだ、攻撃魔法?誰に使う?ワープ魔法も、トイレと風呂以外ほぼ部屋から出ず、家から出た事はここ数年間一度もない。最後の一つに至っては使途不明ときたものだ。

「まあ、特に差し支えなければご協力を。私にはある目的がありますので。」

 目的?

「それ、聞いてもいい?」

「……ある人を助ける為です。」

 そうか、人助けか。それならば協力してもいいかもしれない。その、魔法少女になって……魔法少女……

「衣装はどんなデザイン?」

「その質問はあなたで四人目です……そんなに重要な項目なのでしょうか。」

 重要である。超重要。魔法少女といえば衣装である。

「衣装の類はありません。」

 ファ○ク!正直この答えで興味が五分の四ほど削がれた。まあ、でも、である。

「いいわよ、なってあげても。」

「そうですか!では名乗りあえば契約成立です。通り名でもいいですよ。私はラヴェールと申します。」

 なんだその簡単な契約の成立条件は。きっと今までそれを利用して、いたいけな少女を勝手に魔法少女にさせていたんだ。そして、何か痛い目にあったのだろう、私の番あたりで慎重になって、わざわざ魔法少女に興味があるか聞いてきたのだろう。

「まゆみ。」

 この際本名だ。

「まゆみ様、あなたは今この瞬間から魔法少女です。素敵な魔法が発現することを期待します。」

「ある人を助ける……って、回復魔法なら治せるのかしら?」

「回復魔法なら治せるんじゃないかと思っています。」

「なら、回復魔法の使い手である私の出番ね!」

「ええ?使えるんですか、回復魔法!……"解析"!」

 宝石……ラヴェール、か。ラヴェールはしばらく押し黙る。……そして沈黙が解かれた。

「魔法……固有能力と呼んでいますが、まゆみ様はまだ発現していません。」

「今は発現してなくても、見てなさい。きっと回復魔法を発現させてみるから。」

「自信がおありで?」

「私は回復職(ヒーラー)よ!みんなの癒しなの。ぱぱっと目覚めて、ぱぱっと回復させちゃうから。」

「まゆみ様!頼もしいです!」

 頼もしい、なんて言葉はしばらく聞いていなかった。天狗のお面があれば被りたいものである。


 特にやる事はない。ラヴェールは確かにそう言った。特にやる事はないのであれば、私のする事は一つだ。

「二人ともごめんね、お客さん来てて。」

「気にしないよ!」

「寝るには早い時間だ。」

 ボス装備も手に入れたし、ヒュルダ鉱山オーク野営地にもう一度行こうか。いや、むしろそれをすっ飛ばして迷宮の森に行くのはどうだろうか。

(あのー、まゆみ様。)

 頭の中で声が響く。

「うん?何?」

(頭の中で私を意識しながら語りかけてください。念話も出来ます。)

 そういえば、私の頭の中にラヴェールの存在が、確かにあるのだ。

(へえ、テレパシーも出来るなんて便利ね。)

 誤爆に気をつけなければ。

(ええ、私の魔力とまゆみ様の魔力を共鳴させているんですよ。共鳴させているだけなので魔力は使いません。)

 モニタには私のキャラクターであるmayumikoと、あの二人が映っている。

(これもゲームの一種……ですよね。どういったゲームなんですか?)

 オンラインゲームの一つと答える。どうやらラヴェールはパソコン自体を初めて見たらしく、基礎的な事も理解できていない。これは骨が折れそうだ……と言っても、一緒にプレイするわけでもないから別に構わないのだが。

(このキャラが私。で、この二人、いるでしょ?別の場所から人間が接続していて、しっかり生身の人間なの。)

(なるほど、これも科学技術という魔法の一種ですか?)

 科学技術が、魔法、か……言われてみればそうかもしれない。

(そんなかんじ。)

 適当にラヴェールをあしらう。

「さっき行ったオーク野営地。もう一度行きたいな~。」

 などと言うと先ほどと違い二人は難色を示す。

「えー、さっき死んじゃったし……」

「移動に時間かかるんだよなー。」

 時計を見ると……そうか、もうすぐこの二人は晩御飯の時間だ。

 この二人は私の提案を断る時、食事が近いから、と言った理由を持ち出さない。

 まあ、心当たりはある。私は毎日一定の時間になれば、勝手に部屋の前の廊下に食事が置かれていて、それを食べながらプレイする。そんな私に言わせれば食事ごときで席を離れるな、である。更に上位の廃人になると、風呂に入らない。私はこれでも女なので、流石に毎日風呂には入るが。更に上に行く為にはトイレも部屋の中でしないと駄目らしい。流石にそこまで行くと、男だとか女だとか言う以前に人として何か違う気がする。とにかく、オンラインゲームで上位に食い込むためには現実生活をどれくらい犠牲に出来るか、が問われるのだ。

「やっほー、こんばんは。」

 私のギルドの最後の常連、Gumbit86だ。仕事を理由に平日昼間にログインしてこない軟弱者だ。

「ガンさんお仕事お疲れ様!」

 それでもうちのギルドではエースである。レベルは同じカンスト勢なのだがx影月xや†殺人鬼†とは比べ物にならない。やはり装備と立ち回り、か。

「カゲさんがマッシュルームヘッド装備になったよ。」

 とGumbit86に伝えると、なんだろう、喜びというより安心に近い反応を示した。

 そうだ、†殺人鬼†にも装備させたら面白い事になるんじゃ、と思い競売所を覗いたが、出品はゼロだった。なんだかんだいってもボスレア。10%という数字は決して低くはないが、いかんせん一週間に一体の出現。性能が玄人向けではないので安くしないと売れないが、二束三文で売るくらいならコレクションに加えたほうが利口だろう。

「八時になったら、みんなでどこかいこうね。」

 とだけギルド発言で流す。四人いれば、ドラゴンバレーに挑戦できるだろうか。


 そんな生活は延々と続く。私にとっては今までの日々の延長線上でしかないが、それを我慢出来ない人がいる。

(まゆみ様!たまには外に出ましょう!)

 ラヴェールだ。執拗に私を外に追い出そうとする。外に出ても私の求めるものは何一つ無いのに。

(あれからもう一ヶ月ですよ!外の空気が吸いたいです。)

 私にはやる事がある。今日もオーク野営地で金策、金策だ。

「やっとお金が溜まったー。」

「俺も俺も。これでアレが買えるな。」

 お、ついにワンランク上の装備品を買うか!全員で競売所まで行き、欲しいものを購入。

「ジャラジャラジャラジャラ……ジャン!お、武器強化鉱石!」

 ……は?

「俺は防具強化鉱石だった。」

 おい、まて。

「二人とも……何を買ったの?」

 そう聞かざるを得ない。

「カプセル。」

「カプセル。」

 カプセル……いわゆるガチャアイテムだ。使用すると一定確率で様々なアイテムが中から出てくる。強化鉱石は、まあ代表的なハズレだ。カプセル自体は他のプレイヤーに売る事が出来るので、金策で詰んだらカプセルを売って資金にするのが常套手段だ。

「やった!武器が強くなったぜ!」

「防御力が少し上がった。」

 ちょっとまて。ガチャに入ってる強化鉱石をおまえらの弱い装備に使うな。強い装備品をより強くする為のアイテムじゃないのか。とにかく、私の一ヶ月の苦労はこいつらのカプセル代に消えた。

「やってらんねえ……」

 そう呟いてしまう。

(まゆみ様!やってられないなら外の空気でも吸いに行きましょう!)

(いやうるせえぞ。私にはやる事があるんだ。)

 そう、分配は三等分。当然私にもいくらかのゴールドは分配される。このゴールドの使い道は……魔石のブローチだ。詠唱時間を50%ほどカットしてくれて、その代償で魔力と最大MPがそれぞれ半減する。当然回復魔法の効果も半減するが、今の環境だと速度の方が重要である。x影月xと†殺人鬼†が前衛の仕事をしないから。Gumbit86はガンナーなので後衛。前衛が二人に後衛の火力が一人、そして回復職(ヒーラー)一人と、編成のバランスだけならどこにも負けない。

「ちゃんと次は装備買うんだよ?」

「えー、やだ。」

「カプセルの方がいい。」

 釘を刺そうとしてもこの二人には通用しない。この際、カプセルから超絶レアアイテムが出る事を期待しよう。


 ある事件が起きたのはその数日後。いつも通りパソコンを眠りから解放して……いつも通りゲームを起動……

「ゲームサーバーに接続できません。」

 ?どういうこと?

 起動画面でその状態。それ以上進めないのでゲームを起動できない。定期メンテナンス時間でもないし、緊急メンテがあるわけでも……

 症状を確認する為にインターネットブラウザを開く。しばらく待つとインターネットに接続されていない、と表示された。タスクバーのインターネット接続状況を見ると……オフライン。なるほど、回線が繋がってないのか。接続端子が外れているのだろうか、部屋を出てルーターのある一階の居間へ移動する。風呂以外の用事で一階に下りるなんて何年ぶりだろうか。ルーターを確認すると……これは。

「まゆみ。インターネットは解約した。」

 居間にいた父親は冷淡に言い放った。一体何の為に……

「まゆみ、お前はいつ働くんだ?」

「……働きたい条件の仕事が無い。」

「そう言って何年目だ?」

 何年目だろうか。今日が何年かはわからない。今日は何月だ?何日?何曜日?わからない。

「近所の斉藤さんの娘はな、商業高校を出て商社の事務の仕事をこなしている。結婚の噂もある。」

 知るか。ヨソはヨソ、ウチはウチだろう。

「お前はこの三年間、何をしていた?成人式にも行かずに家でパソコン、パソコン。」

「パソコンで仕事を探し――

「ゲームだろう?わかってるぞそんな事は。」

 知りもせず頭ごなしで否定して。私はちゃんとパソコンで就職活動して、回復職(ヒーラー)に就いたんだ!

「お母さんとお父さんが死んだら、どうするつもりだ?」

 知るか。そんときは生活保護でも受けて、私は変わらずに毎日冒険に出かけるんだ。

「実権はこっちにある。まずはインターネットから離れる事から始めるんだ。」

 私の人生を……否定するのか、この父親は。私は部屋に戻る。液晶モニタから発せられる光が、いつもより弱く感じられた。

(まゆみ様、顔色が悪いですよ。)

 ああ、「あの場所」に行きたい。私の全てがあるあの場所に……行きたい。私が居なくなったら、あの三人はどうすればいい。あの場所に行かなくては。Gumbit86は実力者だから……他のギルドに行っても問題ないだろう。でも、残りの二人は……?あの場所に行かなくては。


 行かなくては?違う!

 私はこの部屋から出たくない!


 お前らが、来い!

 私の所に来い!

 私の言う事に従え!

 私の思うとおりに動け!

 私の欲求を、全て満たせ!

 どうした?出来ない?私はこの世界の……


 机の上の宝石が鈍く光りだす。……ほう、ようやくこの時が来たか。


 私は……宝石に手をかざした。

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