「手紙」
プロローグ
弟子として 友として 恋人として 親愛なるエリア=ラヴェルに捧ぐ
私は未だに君の死を受け入れられずにいる。
あの時、私は君を止めるべきだったのだろうか。
「あの宝石」を装飾品にするという依頼を請けた君は興奮気味に私に話してくれたね。
あれほど美しい宝石は見た事が無いと。そのような宝石を加工することは装飾加工師の誉れであると。
私も手伝いたい、と申し出ると君は首を横に振り、今回の仕事は今までの集大成だから、と突っぱねた。
半年後、君の家を訪ねた私の目に飛び込んできたのは、完成されたブローチと、その傍らで横たわる君の抜け殻だった。
そのブローチの中心にあった宝石は、美しくも冷たい輝きを放っていた。
箔がついた、と依頼主は喜び、そのブローチを「呪われた」物としてコレクションに加えた。
君の仕事は知っている。いつも通り、魂を削りそのブローチに込めたのだろう。
「魂を削る」とは比喩表現であることは間違いない。
君の寝食を惜しみ、私を小間使いとしてしか使わず、ただ一人作業に没頭する姿を見た比喩表現である。
――もし、仮に。
そう、もし仮に、件の宝石が、魂を吸い取るものだったとしたら。そのような力があったとしたならば。
君の魂は易々とあの宝石の中に入り込んでしまうだろう。そう考えれば、外傷も無く、ただ魂を抜き取られただけとしか言いようの無い君の抜け殻にも合点がいってしまうのだ。
君の魂は、今もあの宝石の中に存在しているのではないだろうか?
なんて考えてしまうのも私も君同様、ロマンチストなのだろう。
ああ、どうか怒らないでおくれ。君の持っているモノと私の持っているモノでは、格が違う。
ただ、君と同じ感性を共有しようとした私の戯言と思って、笑って欲しいのだ。
追伸 近いうち、私も君のところに行くことが出来るかもしれない。その時は――