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〈守銭奴〉シリーズ

豆の木が育ちすぎると……

作者: 赤羽 翼

豆の木は全然関係ないです。



 高校二年の夏休み! 物凄く青春を謳歌していそうな言葉の響きですけれど、わたくし北条ほうじょう赤姫あきは暇を持て余していますわ。

 ベストフレンズの美屋子みやこさんは夏休みをお母様の実家で過ごすようですし、香耶かやさんは水泳部で忙しい。他の方々も色々と用事があるらしいですし……。


 わたくしも一応テニス部ですけれど、先日の活動で二名が熱射病で倒れてしまいました。そのため、現在テニス部の部活動は停止中なんですわ。

 故に暇なのです。クーラーが効いた自室で何もせずにベッドに寝転がるくらいに暇なのです。


 寝転んだままデジタル時計に視線を移します。時刻は二時十六分。日付は七月二十九日。わたくしの通う音白ねじろ高校では二十五日という微妙な時期に夏休みに入るのです。

 ……暇ですわね。散歩にでも繰り出しましょう。





 家から出て十秒で後悔しました。二時は一番気温が上がる時間。西に傾いた太陽が容赦なく照りつけてきたのです。おまけに湿度が高く、日傘も意味をなしません。


 ですが、まだ家の敷地から出てもいません。わたくしの家は、ここまで大きくする必要がないとも思ってしまうほど大きく。また、庭も同様に広いのです。


 わたくしは暑いのを我慢して歩を進めます。城のような外観の我が家を背に、門扉を押し開けます。

 散歩なら川沿いがいいですわね。マイナスイオンを取り込みませんと……。





 川沿いも暑さは殆ど変わりませんでした。まぁ、川沿いと言っても、堤防があるので距離はけっこう離れていますから……。下まで降りれば少しは変わるかもしれません。やりませんけれど。


 ふと、川の向こう側の道路に小さなお店を見つけました。植物関連の物を売っているようです。ちょっと面白そうですわね。

 橋を渡り、そのお店に入りました。


 狭い店内を見回し、あることを思いつきました。

 花でも育てましょうか……。よし、そうしましょう。暇な夏休みですので、何か一つ楽しみが欲しいんですの。

 わたくしは朝顔の花が好きですので、その種を購入しました。





 四つの植木鉢に種を三つずつ植えました。数日で芽が出てきましたわ。

 それからも徐々に育っていき、支柱が必要だと気づいてそれを差し込みました。思えば植物を育てたのは小学校のホウセンカ以来ですわね。

 ペットとは少し違いますけれど、成長を見られるというのはなかなか面白いですわ。


 そして夏休みの終わりが近づいた頃、朝顔はツルが伸びて支柱に絡まり、蕾もできました。おそらく、夏休み中には花が咲くのではないでしょうか。

 そんなことを思っていたある日、というか今日。木曜日です。いつものように真夏日で、いつものように水を上げようとした時でした。


「え?」


 衝撃を受けました。四つの植木鉢のうち、一つの鉢の朝顔が全て枯れていたのです。それも、枯れて数日経ったかのように、少し黒ずんでいます。

 ……何があったんですの!? 昨日までなんともなかったのに、一日でこんなに枯れるものなんでしょうか……。ありえませんわね。何か理由があるとしか……。マ、マズいですわね。


 わたくしにはちょっとした悪癖があるのです。何らかの謎を気にしだすと眠れなくなってしまうんですわ。小中と、この悪癖が原因で色々と大変なこともありました。


 しかし高校には謎を解き明かすことのできる男子生徒がいました。変人ですけれど、わたくしの話を本を読みながら聞いただけで、納得のいく答えを導き出してくれるのです。……有料で。


 けど今は夏休み! その男の連絡先は知りませんし、家も知りません! 夏休みが終わるまで今日を入れて五日。わたくしその間、一睡もできないということになります。


 寝れないだけならまだしも、謎に頭を占領されて他のことも疎かになってしまうんですわ。

 ……かなり危うい状況ですわね。何故、急に枯れたんですの? 昨日の昼には何の変化も見られなかったのに。……き、気になる。凄い気になりますわ。


 ど、どうにかしてあの男と連絡を取りませんと……。電話帳で探してみましょうか……。結構珍しい苗字ですし……。あっ!

 突然の閃きが脳内で瞬きました。……そうです。あの手がありましたわ!




◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆




 その男──峰霧みねぎりしゅうは市立図書館にいました。茶髪で常に柔和な笑みを浮かべ、優男然としている男ですわ。


 水色のポロシャツを着て、膝丈の半ズボンを穿いています。椅子に腰掛け、何か本を読んでいるようです。

 わたくしは小走りで近くまで寄り、肩に手を置きました。

 峰霧さんはちらりとこちらを見ました。わたくしは小声で話しかけます。


「やっぱりここにいましたわね」


 自慢気にそう言うと、峰霧さんは文庫本に目を落としました。



 ……む、無視!?





 市立図書館の二階は公民館や体育館、調理室などの施設が配置された場所でして、小声でなくても喋っていいのです。現に中年男性の方々がそこそこ大声で話をしています。

 そして、わたくしと峰霧さんは円状のテーブル挟んで向かい合い座っています。


「何で僕が図書館にいることが分かったんだい?」


 峰霧さんが文庫本片手に尋ねてきました。

 やっぱり、最初にそれを訊いてきますわよね。わたくしは胸を張ります。


「推理したんですわ」


 文庫本から目線だけをわたくしに向け、


「推理? ……君が?」


 笑いを押し殺したように、峰霧さんが言いました。……ば、馬鹿にしおって!


「じゃあ、聞かせてもらえるかな? 君の推理とやらを……」


 峰霧さんは文庫本を開いたままテーブルに置きます。

 わたくしは不敵な笑みを作ります。


「いいですわよ。……まず、わたくしは考えました、峰霧さんはどこにいるのかと。最初に思い浮かんだのは、自宅でした。けれど、わたくしはあなたの家を知りません。

 ですが、それはすぐにないと気がついたのです。峰霧さんはいつも小説を読んでいました。きっと夏休みの間もそうだと思いましたわ。すると、自宅の可能性はないと判断できるのです」


「どうして?」


「自分が一番知っていると思いますけれど、峰霧さんは守銭奴でケチです。例えこの暑さでも、クーラーは使わないと思うんです。暑さに耐えながらの読書はなかなか辛いですから……」


 わたくしは峰霧さんに人差し指を向け、


「だから! 図書館にいると思ったのです! 図書館ならば、本を読むのに最適ですしね……」


 ……決まった。しかし峰霧さんはテーブルに置いた文庫本を再び読み出してしまいました。読みながら、


「なるほど。分かったよ。……連絡網を見て僕の家に連絡、家の人に訊いて、ここを割り当てたんだね」


 バ、バレた!?


「な、何で分かったんですの?」


 思わず尋ねてしまいます。


「君が推理なんていう高等な真似できるなら、今僕に会いきてないでしょ?」

「ま、まぁ……、そうですわね……」


 これで終わりでいいのに、峰霧さんは続けます。


「それに、君の今の……、推理とも言えない何か……」


 失礼ですわね!?


「あれは先に結論を知って、推理の過程をこじつけたから出てくるもの。……こじつけ推理だ」

「ど、どういう……」

「穴だらけ、ってことだよ。虫に食われた葉っぱみたいに」


 またまた失礼ですわね!?


「例えば、どこですの?」


 ここまで言われたら聞くしかありませんわね。


「うん。……その前に、」


 峰霧さんは右手を差し出し、


「茶番に付き合うんだ。千円くらい貰おうかな?」


 爽やかな笑みを向けてきました。……やめておくべきでしたわね。

 でも気になってしまい、千円を渡してしまいました。


「まず君の推理(笑)では、僕が家にいる可能性しか消去できていない。いや、正確に言っちゃうと家にいる可能性すらも排除できていないんだ」


 (笑)が気になりますけれど、今は無視しますわ。


「どうしてですの? 完璧な推理……もといこじつけだと思いますけれど……」


 峰霧さんはかぶりを振りました。


「君のこじつけでは、僕が守銭奴でケチだからクーラーを使わない。この真夏日にクーラー無しでは読書はキツい。故に自宅ではないと判断している」


 わたくしは頷きます。


「面白いこじつけだとは思うよ。確かに、僕は守銭奴でケチだ。……でも、僕の家の人までそうかな?」

「あっ……」


 思わず声が漏れます。


「僕の家の家族は別に守銭奴じゃないよ。流石に家でクーラーが起動してるんなら、家で読書するよ」

「な、なるほど……」

「これは別に、こじつけ推理どうこう以前に、北条さんには思い浮かばなかったと思うよ」

「そうかも知れませんわね……。他には?」


 峰霧さんは頷き、


「今度はこじつけたからこそ、結論を知ったからこそ、思い当たらなかったことなんだけど……。

 僕が家族旅行に行ったという可能性もあったと思うんだ」


「まぁ、そうですわね……」


「けど、北条さんはこれはこじつけ不要と判断した。何故なら、僕の家に電話して居場所を聞いたんだ。家に人がいたんだから家族旅行の可能性はない。無意識のうちにそう判断してしまった」


 確かに……。完全にこじつける必要性を感じて……というより、家族旅行という可能性すら考えてませんでしたわ。……流石にこれは馬鹿でしたわね。


「まだまだあるよ。僕がバイトをしている可能性とかね」

「してるんですの?」

「してるよ。土日に喫茶店で」


 初めて知りました。


「君はよく僕にお金を落としてくれる」

「その言い方は……、どうなんですの?」


 峰霧さんはわたくしのつっこみを無視し、


「北条さんは僕のことを、自分から金を巻き上げていく優男。自分から稼いでいるのだから、バイトはしていない。と考えていたんじゃない?」

「心のどこかでは……」


 実際そうだと思うんですが……。


「そんなことを考えているから、バイトという可能性をこじつけ推理に組み込まなかった。結論を知っていたんじゃ、尚更だ。僕は守銭奴なんだから、お金はいくらでも欲しいんだよ」


 この話をしているうちに、だんだん何しにここへ来たのかあやふやになってきました。……どうしてでしたっけ? ……枯れた朝顔でした! そうでした……。

 峰霧さんのこじつけ推理の穴検証はまだ続きます。


「まだある。買い物っていう可能性もあったし、友達と遊んでいるという可能性もあった」

「え? 友達がいるんですの?」

「そりゃいるさ」


 衝撃の事実ですわね。ことあるごとにお金を要求してくる少々口の悪いこの男に、友達がいたなんて……。


「よく一緒に遊んだりしているよ」

「へぇ……。ん? 土日はバイトしてるんじゃありませんでしたっけ? いつ遊んでいるんですの?」

「………」


 峰霧さんは少し言葉を詰まらせ、


「……放課後に遊んでいるんだよ」


 どことなく柔和な笑みが引きつっているように思われます。わたくしはニヤリと笑って、


「放課後は天文部の部室で本を読んでいるじゃありませんか。そのお陰で、わたくしはあなたに謎の解明を頼めるんですのよ」


 峰霧さんは暫く黙ると、


「……………………………………本題に入ろうか」



 勝った! 勝ちましたわ!





「で、どんな謎が起こったんだい?」


 気を取り直して、峰霧さんが尋ねてきました。


「ジャックと豆の木ですわ」


 思いっきり顔をしかめられました。


「豆の木がどうかしたの?」

「豆の木ではなく朝顔ですわ」

「じゃあどこから豆の木が出てきたの?」

「残念なジャックと豆の木現象が発生したんですのよ」


 峰霧さんは頭を掻きながら小声で、


「残念なジャックと豆の木……、ってことは……。一夜にして育って育って育ち過ぎて……。なるほど」


 峰霧さんは軽く欠伸をしました。


「つまり、一夜にして朝顔が枯れたんだね」


「……今の説明でよく分かりましたわね」

 変な説明をしたのはわたくしですけれど、まさか分かるとは思いませんでした。いえ、一つ違いますわね。


「一夜ではなく、昨日の昼から今日の朝にかけての間に、ですわ」

「ジャックと豆の木って言わなかったけ?」

「まぁ、いいじゃありませんの。……枯れた原因は分かります?」

「今のだけじゃ分からないけど……。誰かが変な薬物でも入れたんじゃないの?」


「ただの水道水ですのよ? ……使用人の方々には水やりはしなくてもいいです、と言ってありますし。……それに、薬物が入れられたとしても、枯れて数日経ったかのように黒ずんだりはしないはずです」


「それもそうだね。……昨日、何かあった?」


 わたくしは即答します。


「パーティーがありました」


 それを聞いた峰霧さんは顔をしかめながら、


「去年もパーティーで靴がどうこう言ってたよね」

「それなこともありましたわね。しかし、今はどうでもいいですわ!」


 峰霧さんは表情をしかめっ面から柔和な笑みに戻し、


「どんなパーティーだったんだい? 靴の件の時は四社合同婚活パーティーだったけど」


「昨日行ったのは小学生たちを招いての流しそうめんと、バーベキューですわよ。昼と夜に分けたんですの。昼が流しそうめん。夜がバーベキューですわ。開始時刻は昼が十二時。夜が五時半ですわ」


「そんなこともやるんだね」

「ええ。……因みにそうめんは一流の職人が打った高級麺で、バーベキューのお肉や野菜などもまた然りですわ」


 峰霧さんは少し黙った後、


「それ無料?」

「そうですわよ」

「来年から僕も行くよ」


「入っていいのは、小学生以下の子供たちとその保護者さんだけですわ。参加するには配った参加書に名前を書いてわたくしの家に送るんですわ。それは小学生がいるお宅にしか配られません」


「なら保護者として行けばいいんだね。……来年が楽しみだ……」


 な、何する気ですの……。ま、まぁ……、それは置いておいて。


「そのパーティーには沢山の子が参加してくれました。昼が四十三人。夜が六十一人。参加した子供たちの名前は昼の部にいたのは涼子さん、健二くん、美咲さん、竜成たつなりくん、透くん、美香さん、ちひろさん、利人くん、リョウくん、裕一くん、恵里佳さん、おさ……」

「いや、いいから」


 強く静止されました。


「そうですの? せっかく全員の名前を憶えていますのに……」

「相変わらず、記憶力だけは凄い……。いつも通り回想よろしく」


 わたくしは頷きました。




◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆




 昨日は朝からテンションが上がりまくっていました。

 だって子供たちが家に来るんですもの! わたくし、実は子供が好きだったりしますわ。

 朝顔に水やりをしに来た時、使用人の皆様は朝から流しそうめんをするために、竹を組み立てていました。

 元々このイベントは、お父様とお母様が広すぎる庭を持て余した結果始めたものです。最初の開催は四年前でしたわ。なかなか反響が良かったので、それから続けているのです。





「四年も!? 一銭の儲けにもならないのに!?」

 無視して回想に戻ります。





 昼の部が始まるまでは自分で朝食を作って食し、お姉様と暫しの談笑。それからは自室で勉強をしていました。

 そして昼の部。時刻は十一時五十分。

 わたくしの家には家の右側と左側の二つの庭があります。流しそうめんを行うのは右側で、朝顔もそこにありますわ。この時には、まだ枯れていません。

 夜の部のバーベキューは右側より広い左側で行われます。こちらの方が人が多いですから。


「こんにちは! 赤姫おねえちゃん!」


 徐々に集まる子供たち眺めていると、一人の女の子が跳びついてきました。わたくしはその子の頭を撫でます。


「こんにちは。涼子さん」


 茶髪のツインテールで、歳は小学一年生。見るからに天真爛漫な女の子ですわ。


「いつもありがとうございます。北条さん」


 涼子さんのお母様が微笑みを浮かべながら、話しかけてきました。


「いえ。こちらこそ」


 わたくしは時折公園で子供たちと一緒に遊んでいますから、保護者の方々からはなかなかの信頼を得ています。

 その後は、特に何もなかったかと思います。あったとしても子供たちに夢中で憶えていないと思います。子供たちにあーんしてあげたり、してもらったり。

 健二くんや葵くんとおいかけっこしたり、栞奈かんなさんをおんぶしたり……、





「ショタコンでロリコンって……。それに北条さんってシスコンでもあったよね。大丈夫?」

守銭奴マネーコンプレクッスは黙っててほしいですわ」





 滞りなく昼の部は終わりました。子供たちと一緒に竹を解体し、昼の部は終わりました。夜の部は人が増えるので、大変ですわ。

 そして昼の部終了時点では、朝顔に変化はなかったことを明確に憶えています。

 その後はテニス部の部活があり、五時半過ぎまで学校にいました。


 そして帰宅した時には夜の部が始まっていました。大勢の子供たちがいますわ! 昼の部より人数が多いです。ざっと見た所、参加者ほぼ全員が揃ってます。

 汗は学校のシャワールームで流したので、荷物を自室に置きに行きましたわ。そこで、美屋子から急を要する電話がかかってきました。関係ないと思うので省略しますが……。


 庭に来た時には六時でしたわ。わたくしは椅子に座って子供たちの会話を聞いていました。





「いや、何のために?」

「子供が好きなんですのっ! ですから、子供たちの声が聞きたかったんですわ!」





 詩織さんと凛さんがこんな会話をしていました。


「お肉おいしー」

「そうだね。この玉ねぎも甘くて美味しいわよ」


 因みにお二人は姉妹ですわ。詩織が二年生。凛さんが六年生。

 美香さんとちひろさんの会話は、


「この間のプ○キュア見た?」

「うん見たよ! ~~」


 オホホ、可愛いですね。お二人共一年生。

 そしてリョウくんと裕一くんは、


「おせーよリョウ。肉無くなっちまうぞ!」

「ごめんごめん。テレビ見てたら遅くなった!」


 心配しなくてもお肉はまだまだありますわよ! お二人共四年生。

 雷太くんと里奈さんは、


「らいくん。ほらあーん♪」

「あーん♪」


 最近の小学生の方は普通に恋人を作るといいますが……、本当だったんですわね。お二人共五年生。

 それから……、





「もういいよ」


 峰霧さんが思いっきり切り捨ててきました。


「何故ですか?」

「仮説が立ったから」


 なんと!!


「どういう仮説ですの?」

 そう尋ねると、峰霧さんは三本指を立てました。


「確認が三つ。……まず一つは昼の部から今日の朝まで、朝顔は確認していないんだよね?」


 わたくしは頷きます。


「先ほどもいいましたけれど、流しそうめんと朝顔が右側、バーベキューが左側ですわ」


 峰霧さんは納得したように頷き、


「なら二つ目。昼の部と夜の部で庭を分けるのは、前からずっと同じかい?」

「そうですわよ」

「なら、最後の確認。植木鉢はどこで買った?」


 何でしょうか? その質問の意図は……。まぁ、いいですわ。


「全て百均で買いましたわ」

「……お嬢様なのに?」

「お嬢様なのに」


 峰霧さんは文庫本を閉じると、言いました。



「それの解決……、二千円で手を打とう」



 あら? 良心価格ですわね。いつもより少し安いですわ。わたくしはお財布から千円札を二枚手渡します。


「教えてください。朝顔が枯れた理由を……」


 峰霧さんが小さく頷きます。


「まず、朝顔は枯れたんじゃない」

「どういうことですの?」



「すり替えられたんだよ。枯れた朝顔に」



 ……はい?


「どういうことですの?」


 そう訊きますと、峰霧さんが無言で爽やかな笑顔を向けてきました。

 ……そうでしわね。あなたはそういう方ですわね。

 わたくしは追加料千円を渡します。


「誰がそんなことしたんですの?」

「リョウくん」

「え!?」


 わたくしの声がこの階に響き渡ります。あの、背が低くて童顔だけどちょっとやんちゃな感じが可愛い……リョウくん!?


「何でそうなるんですの!?」


 わたくしは峰霧さんに突っかかります。しかし、またしても爽やかな笑顔。

 千円を渡します。


「何でリョウくんだと思うんですの!?」


 峰霧さんはまだまだ無言の笑顔。

 ……こ、この男ぉ……。更に千円を渡します。


「何でリョウくんだと思うんですの!?」

「リョウくんが遅く来たから」


 裕一くんとそんな会話をしていましたけれど、


「それだけ!? そんな理由ですの!? テレビを見ていたから遅れたんですわ!?」


「それは殆どの確率で嘘だよ。今日は木曜日。つまり昨日は水曜日。平日だ。……バーベキューは五時半で、リョウくんが来たのは六時だよね? テレビを見て遅れたんなら、五時半以前からテレビを見ていたということ。家に帰ったら新聞のラテ欄を見てごらん。びっくりするほど情報番組ばかりだから。

 小学四年生で、あの時間帯のEテレを見ていたとは思えない。もし見ていたら、恥ずかしいだろうから、例えバレなくてもテレビを見ていたとは言わないよ。小学生四年生が見るような番組が、放送されているとは思えない」


 わたくしはラテ欄を思い返します。確かに……、峰霧さんの言う通りですわ。ですが!


「CSやDVD、録画していたものを見ていた可能性もありますわ!」

「録画は後で見ればいい。DVDなら『テレビ見てた』ではなく、『DVD見ていた』って言うと思う。……でもCSか、盲点だったね。リョウくんの家は分かる? できれば片道何分かかるか知りたい」

「片道十分ほどです」


 峰霧さんは少し黙り込み、


「うん。CSもないと思う。リョウは六時に到着した。片道十分なら、五時五十分に家を出たことになる。それは微妙な時間だよね。どうせなら、最後まで見た方がいい。走れば、それくらい埋められる。

 でも、三十分に枯れた朝顔を持って家を出て、すり替えて持ち帰る。その後、また戻ってくれば……六時になるじゃないか。リョウくんが来た時には殆どの人が集まってたんだよね?」


 グッ……! 確かに。でも、リョウくんはわたくしが守ってみせます!


「動機は何ですの! リョウくんが朝顔をすり替える動機です!」


 その言葉を聞いた峰霧さんは、「マジで言ってんのかこいつ」とでも言いたそうな顔をしました。


「本気で言ってる?」


 近いことを言われました。


「え、ええ……。そうですけれど……。何ですの? 動機」


 峰霧さんは小声で、


「鈍っ……!」


 と吐き捨てました。本当に失礼ですわね。

 溜息を吐きつつ、峰霧さんは教えてくれました。


「小学生。朝顔。夏休み。……この三つと言えば、一つしかないよね。定番中の定番だよ」


 それって……。


「自由研究ですの?」


「そう。リョウくんは朝顔を枯らしてしまった。花も咲かず、途中枯れたなんていう舐めた観察日記を提出する気にはなれなかった。多分、写真をノートか何かに貼ってたんだと思うよ。だから、でっち上げようにもできなかった。

 まぁ、写真を剥がして絵を描けばいいんだけど……、絵が下手なんだろうね。きっと。そんな時、昨日の流しそうめんパーティーで北条さんの朝顔を見つけた。それが枯れた時と同じくらいの朝顔で、しかも百均で買った植木鉢までお揃いだった。

 リョウくんはきっと、以前にもイベントに出たことがあった。……違う?」


 頷きます。


「だから夜の部は別の庭で行うと知っていた。そして、やっちゃった訳だよ。ひょっとしたら、目撃者もいるかもしれないね。植木鉢を抱えた小学生は目立つだろうしね」


 そう言うと、峰霧さんは読書に戻りました。




◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆




 謎は解けました。峰霧さんの推理は当たっているでしょう。ですが……、ですが……、これが真相だったとしたら!




 リョウくん可愛い過ぎですわ!!!




 朝顔をすり替えてまで観察日記を書く! なんて健気なんでしょう……。

 にこにこと微笑みながら、家に着くと門扉の前に二つの人影がありました。

 リョウくんと、そのお母様ですわ。リョウの隣に朝顔が生えた植木鉢が置いてあります。

 これは……、


「ごめんなさい!」


 リョウくんが頭を下げてきました。突然のことに困惑するわたくしにお母様が、


「すいません。うちの子がお宅の朝顔と、家の枯れた朝顔をすり替えたみたいで……」


 峰霧さんの推理は当たっていたようですね。

 リョウに目を落とします。俯いて顔は見えませんが、肩が少し震えています。

 わたくしはリョウの目線と同じになるようにしゃがみます。


「今度は枯らしてはいけませんよ」

「え?」

「貰っていいんですか?」


 お母様が尋ねてきました。わたくしは頷き、再びリョウと目線を合わせます。


「その代わり、ちゃんと観察日記を完成させてくださいね」

「何で知ってるの?」


 リョウくんが目を丸くさせます。わたくしはニコリと笑って……、



「知り合いに、お金が大好きな探偵さんがいるんです」





 その時の峰霧くん。

「ヘックシュッ! ……冷房にあたりすぎたかな?」

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― 新着の感想 ―
[一言] 微笑ましい可愛らしい結末に、にやりとさせて頂きました。 面白い作品でした。
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