86話:ファインチューニング
2017/10/15 機種依存文字の修正
使いやすい銃とはいったいどういう物だろうか。
握りやすさ? これは必須。
狙いやすさ? それも必要。
扱いやすさ? これも重要。
しかし一番重要なのは撃とうと思ったときにちゃんと動作すること。そして意図しない発射がほとんどおきないことだ。
意図しない発射、つまり暴発。これは完全にゼロにはできない。弾を込めていないつもりだった、無意識にトリガーを引いていた、銃を抜こうとしたときにトリガーに指がかかってしまった、なんて些細なことで事故は起こりうる。ヒューマンエラーをなくすのは不可能。だが機械的なトラブルで暴発することを減らすことは可能だ。
手が滑って落とした、その衝撃でシアーが動きハンマーが落ちる、なんてことも考えられる。これはシアーの咬み合いを深くすれば減らせる。落としても地面にぶつからないように紐でベルトと銃本体をつなげるのも手段の一つ。トリガーを引いたときだけファイアリングピンが動く、という機構も元の世界でコルト・マークIV・シリーズ80で採用されていた。トリガーが重くなって概ね不評だったようだが。
シアーとハンマーの噛み合いを強くしたりファイアリングピンのセーフティ機構を組み込んだ場合、トリガーが重くなってしまう。すると引金を引くときの力も必要になる。グリップも強く握ることになるだろう。咬み合ったものが引きずられ、ハンマーが落ちる瞬間まで力がかかり続ける。
ハンマーが落ちきるまでトリガーに力がかかり続けることになると銃がブレる。でもとっさにトリガーにかける力をコントロールはできない。固く重ければいいってもんじゃない。逆にトリガーが軽すぎてもいけない。抜く時に自分の太ももを撃ち抜きたくはない。
トリガープルは4.5ポンド、およそ2kgを目指すことにする。
現状ではトヨダ式オート拳銃の出荷時は7ポンド弱、3kgちょっとの重さ。一方、標準的な.44口径のリボルバーはだいたい4ポンド、1.8kg程度だ。これではガンスリンガーには受け入れられないだろう。しかし初弾を装填したまま腰に吊っていて、抜き撃ちとなるとハンマーを起こす手間がない分だけ暴発させてしまう可能性もあるからむやみに軽くもできない。なので2kgを目標にする。コルトのM1911系45口径は標準で2.8kg、6.2ポンドだったと思う。チューニングは競技用バージョンくらいのイメージにしよう。
一般売り品はガンスリンガーより開拓村のガーディアン向けなので6ポンド程度に調整して売ればいいんじゃなかろうか。多少重いほうがうっかりトリガーを引いてしまう、ということが減る。不慣れな開拓民にはそっちのほうがいい。使っていくうちに馴染んで多少は軽くなるだろう。ジョン・トヨダさんに進言しておかねば。
ガンスリンガー向けチューン品は3.5ポンド、1.6kgくらいか。ハンマーを戻して腰に吊って、撃つ前にハンマーを起こす、というようなリボルバーと同じような運用をするだろう。セーフティをかけて解除するワンアクションをハンマーコック代わりにするコックアンドロックのほうが安全ではあるのだが。
なお、装填されたままハンマーを戻した状態で落としても暴発はしにくい。ファイアリングピンがハンマーと雷管との距離にぴったりの長さではなく、ごくわずかに短い慣性駆動に変更したのだ。ハンマーがファイアリングピンを勢いよく叩かないと弾に届かない。
落とした時の衝撃はファイアリングピンではなく、ハンマーからファイアリングピンブロックのほうに伝わってファイアリングピン自体は動かない。ちょっとの加工で安全性が買える。代わりに不発の可能性がわずかに上がる、トレードオフの関係。
トリガーの重さはトリガースプリングの強さで、滑らかさはパーツのすり合わせで調整する。シアーの角度でトリガーが切れる時のシビアさも調整が可能。どこまでチューンを追い込むかは個人の好みだな。自分のトヨダ式オートは内部パーツのすり合わせに腐心した。オイルが切れない程度には表面を荒らして、しかしトリガーを引くときには感じない程度に滑らかに。
板バネの固さは太さで調整。さすがに一から作り直す技術はないがわずかに削ってスプリングを弱くするだけなら俺でもできる。削りすぎに注意。
削りすぎに注意、と自分でメモしておきながらやらかしてしまった。トリガープル2kgを目指していたが、1.8kg台になった。ちょっと軽い。競技銃とまではいかないので実用の範囲ではある。
自室の机でトヨダ式オート拳銃を組み立てながらノートに純正バネの削り具合と反り具合をメモ。トリガープルを記録していく。どの程度削ればどのくらいの重さになるのか、の参考になるかもしれない。一カ所を削り込んだ場合と全体を細くした場合のトリガーフィールの違いも研究したいがちょっと面倒だな。
空撃ちで銃が傷付かないように空薬莢と木製ダミーの雷管、木製弾頭を組んだダミーカートリッジで空撃ちする。これはちゃんと雷管を叩いているかの確認の意味合いもある。数日かけてすり合わせた内部パーツは滑らかに動作する。スライドもノーマル状態より引きが軽い。動作がザラつくこともない。
命中精度の向上を狙い、バレルのガタを減らす。といってもバレル自体を新造するのも大変なのでバレルを前方で保持しているブッシングを改良する程度にしておく。焼き戻した後、ブッシングに金ノコで切れ込みを入れ、バネの様に少しだけ曲げる。エッジでバレルを傷つけないように丸く削り、師匠に焼き入れしてもらう。
これで擬似的にタイトなブッシングになった。バネで押さえてブレをなくす構造なので、動作に支障がない範囲のテンションにするのが大変だった。最初は安定動作のためにわずかに遊びがあったのだが、それがない。バレルがティルトする動作にも支障がない。バレルとブッシングの接触面積は最小になるように曲げるのには難儀した。まあなんとかなるものだ。使い込んで割れたりしないかチェックせねば。
そしてファインチューンとは関係ないがリアサイトの形状をノバックタイプに変更。片手でスライドを引けないときにリアサイトをどこかにひっかけてスライドを引くために便利なのだ。これもガスガンでの経験から。当然、オートマティックハンドガン用のサイトなんて売ってる訳がないから鉄ブロックの削り出しで作る。完全にくさびの先端を切り落としたノバック型ではなく、四角のブロックにリアサイト用の溝をフライス盤で刻み、トップをナナメに削る方法で作る。ナナメに削るといっても、最初からナナメに固定して、フライス盤で水平面に削り取って仕上げるだけだけれども。
元のリアサイトは横からはめ込んでかしめてあったが、無理やりハンマーとポンチで叩き出した。取り付け部分を削り、平面出し。カスタムしたリアサイトをはめ込んで上からネジで押してとめる。ネジ止め剤を忘れずに。これの利点は個人の癖に合わせて左右調整が利くことだ。高さは削り出すときに考えておくしかないけれど。
とりあえず50ヤード、45メートルでゼロインとなるように計算しておいた。それ以下の距離なら狙ったところよりわずかに下、それより先ならわずかに上に当たるはずだ。もっと先なら落ちていくはずだが、厳密な距離は撃ってみないと分からない。が、ハンドガンで狙撃をするつもりもないので問題ない。50ヤードで人間サイズに当たれば十分だ。7メートルなら心臓付近の10cmに全弾ぶち込める。
グリップの形状変更や薬室周りのすりあわせ、ロック機構の噛み合わせ調整もしたけど地味な行程なので省略。以前にベック師匠から教わってスライドに刻んだ滑り止めや師匠がしてくれた角の削り軽量化も合わせて、トヨダ式.38オートのカスタムはこれでだいたい終了。実用性と精度のバランスは取れたんじゃないかと思う。4インチ、厳密には4.25インチのトヨダ式.38口径オート拳銃はこれで使っていこう。近接での射撃は短い方が取り回しもいい。
ふう、と息を吐き、ペンを置く。日記にトヨダ式.38オート拳銃の改造記録が増えていく。充実した日々だ。
さて、次はなにを弄ろうか。




