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81話:二人の師匠から学んだ成果をモノにしてみる


 弟子入りしてそれなりの時間が過ぎた。


 ベック師匠からガンスミス店員業と金属機械加工の教えを乞うて約三ヶ月、ヘンリー師匠から野鍛冶の指導を受けて一ヶ月。

 表面処理や焼き入れは師匠任せだがそれなりに出来るようにはなった。刃物の研ぎに関しては「僕」が幼少の頃から叩き込まれているし、元の世界でも包丁を研いだり趣味の機械弄りくらいは、素人DIYレベルだがやっていた。そろそろ新しいことをやってみたい気もする。


 ベック師匠の機械で元の金属を削り、ヘンリー師匠に焼き入れ・焼き戻しをやってもらうことで、ナイフやその他の刃物をある程度量産できる技術の元になるネタを再現してみようと思う。


 ストック&リムーバル法。元の世界では1954年にナイフの名工ラブレスが開発した手法である。元の鉄を叩いて炭素鋼にする鍛造ではなく、元から丈夫な工具用鋼材をヤスリやグラインダーで成型し、焼き入れして作る方式だ。同じ形を大量に削り出して順次焼き入れをしていくので分業化もできる、量産ナイフの基礎となった方式だ。


 この世界で元の世界にあったステンレス鋼などに近い材料の入手は不可能だろうが、ドリルや金属ヤスリに使われている鋼材であれば代用は利くだろう。本当なら最初から鋼鉄を軟鉄でサンドイッチした利器材(りきざい)を使いたい所だ。

 だが作っているメーカーは無いし、材料を重ねて圧延加工が出来るのはギルド長であるムラタのおやっさんの所くらいだろう。残念ながらギルド長へ切れるカードはトヨダ式オートの弾薬製造を依頼してしまって品切れだ。さすがにさらに借りを作るのはどうかと思う。同じギルドとはいえ道具がある会社は別組織。あまり無理を言える立場ではない。


 代用できる鋼材は工具鋼か車の板バネに使われているものくらいだろう。


 まずは適当な厚みの鉄板を好みの形に自分で削り出してヘンリー師匠に焼き入れしてもらう、というやり方でノウハウを蓄積しよう。


 以前作ったダガーは元銃剣用ということで長すぎる。馬上で振るう剣の様なポジションだ。至近距離で絡まれたときに銃が抜けないと恐いので、その時に抜きやすく刺しやすい短めのダガースパイクにしようと思う。他の持ち歩きナイフは普段使い用と使い捨ててもいい自作の数打ちナイフがある。


 師匠に打ってもらった業物ナイフは勿体なくてロングダガーと一緒に自室の置物になっている。斧にしては小型薄手のやつも同様。他都市に行く時くらいしか出番が無い。


 見せ武器としては左腰前の.44リボルバーと数打ちナイフでいいだろう。右トヨダ式オートは実戦武器だ。コート下に隠してある。同じようにとっさに抜ける刃物として汎用的な使い勝手に拘らず、ダガースパイクを作ろう。


 機械削りで作りやすい形、刺して抜きやすい細身のスパイク形状、とっさに抜ける長さ。これらを考えてグリップ部分の11cmに、刺さりすぎ防止と手が滑って刃で怪我をしないように(ヒルト)をつける。それに相手が動けない程度にダメージを与えられる刃の長さ。最後の項目は要検討だな。長すぎても取り回しが悪いし、短いと刺さらない。とりあえずだが14cmもあれば十分だろう。


 三角形の断面でねじれた形のスパイクも元の世界では存在したが、あれは実用品とは言いがたい。ねじれていたら刺してダメージは大きくなるかもしれないが、抜き差しできないじゃないか。血抜き溝は参考にいいかもしれないけれど。


 まずはアップルゲート・フェアバーンナイフを造ろう。元の世界の日本で作ったら銃刀法でアウトなダガー形状のナイフだ。刺突がメインのスティレットに似ているが斬りも考慮された、細いダガースタイルのフェアバーン・サイクスナイフ。それのさらに斬りに寄せたバリエーションだ。


 いや、素人が人を斬るためのナイフを持って使えるのか、という疑問が涌いて出る。もう刺突向けのフェアバーン・サイクスナイフのほうが使いやすいというか使う時に考えずにすむのでは?


 結論、両方作ってみる。そういうことにした。


 幸いベック師匠の厚意で材料と時間は割と好きに使えるのだ。日々のトレーニングと師匠がいない間の店番をちゃんとしていれば他の時間は何をしててもかまわない。ありがたいことである。代わりに思いついたことややったこと、開発したものについてはメリット、デメリットを含め師匠に報告をしている。


「包丁が研ぎ減ってたので二日で新しく造りました」

「そうか、使いやすいなこれ」

「トヨダ式オート拳銃のコンペンセイターとフォアグリップを新しく削り出しで造ってみました。かなり安定します」

「手間がかかりすぎるから商品にはならんなぁ。オーダーメイド品扱いだな」

「新型の手榴弾を造りました。手数減る割に破壊力は三割増しです」

「どこと戦争をする気だ、おまえ」

「午後はヘンリー師匠とハンティングに行きました。鹿の死体で実験したので新しいナイフの刺しやすさが良く分かりました」

「お、おぅ……」


 そんな感じで日々を過ごしている。

 今日は二種類のナイフを削り出そう。


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