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78話:怪我と治療と街での立ち位置

2018/02/10 表現を一部修正

2017/10/15 機種依存文字を修正


 元の世界では戦闘の負傷時に食事済みだった場合、内容物が腹腔(ふっこう)内にこぼれて感染症や、腹膜炎などになる。なので戦闘が予期される場合には水分だけ取って食事はほとんどしない、というのがセオリーと聞いたことがある。腹部まで守れる装備をしている軍隊は別だ。


 だがこの世界、特に都市外での戦闘の場合はそうではない。なぜならメインの敵は銃を使ってこないからだ。ハグレと呼ばれる徘徊モンスターや野生動物などやっかいな敵は山ほどいる。そしてそれらが全て銃を使わない。牙や爪という野生の武器で襲ってくるのだ。


 この爪や牙というのはやっかいなもので、雑菌その他なにが付いているか分からない。可能性の高い物ではパスツレラ症やエキノコックス、破傷風。確率は分からないが危険な病気は狂犬病、結核、ダニ媒介性脳炎等と多岐にわたる。


 野生動物に近づいてはならない。


 獲物として食に供するなら。血を抜いて、皮を()いで、内臓を取り除き、肉の部分だけを綺麗に洗い、きっちり火を通すという行程を経てやっと安全に食べられる。ヘンリー師匠からときどきいただく鹿肉はそのように処理されている。


 生で食べられるものを有り難がるのは日本人としてよくあることだが、この世界では生肉を食べるという事はない。新鮮な鹿の肝臓などは美味いらしいが、食べるとしてもきっちり焼いてからだそうな。内臓は寄生虫が怖い。美味さを優先して肝臓に虫食いができたり脳みそを食い荒らされるなんてのはごめんだ。


 さて戦闘時に腹の中をあけておく、というのが無駄(・・)な理由はある程度想像がついたと思う。


 戦闘で怪我を負った時点で感染症のリスクが跳ね上がるのだ。その上、ライカンスロープやクマなどの腕力で振るわれた爪で腹を割かれたらその時点で内臓をぶちまけることになる。


 助からないと判断され、余裕があれば慈悲の鉛玉が一発提供される。余裕がなければギリギリまで手持ちの弾薬を敵にぶち込み続けながら事切れるのを待つだけだ。一時的に助かったとしても大けがレベルなら治療の甲斐なく死ぬことが多い。


 傷付いた内蔵を縫って周りを洗浄し、膿み抜きのドレーンを留置して腹筋と皮膚を縫合、なんてことは期待できない。都市の外での治療は応急処置の域を出ない。傷口を押さえて止血止まり。余裕があれば傷口を水や消毒液で洗うこともあるが。ま、当然だ。抗生物質はあるのかもしれないが見たことはない。今度、薬屋さんに行ってみるか。


 これが都市内の喧嘩や決闘などとなったらまた話が微妙に変わってくる。とはいえ.44口径を腹や肺に喰らったらその時点でだいたい手遅れ。動脈の近くだったらその圧力でショック状態となる。心臓、頭だともう即死が多い。どちらにしろ手遅れだ。後遺症を抱えながら生きられるほどやさしい世界でも医療制度が進んでいたりもしない。


 都市内の喧嘩や決闘で即死がほとんどなのはごく近距離、10メートル以内で撃ち合うことがほとんどだからだ。どっちかの弾が当たって決着、腕が拮抗していて運が悪ければ両方が死んで終わりだ。


 知れば知るほどきつい世界だ。とはいえほとんどの人間は都市内なら銃撃戦などを経験せずに過ごしている。ガンスリンガーや用心棒が出張るのは金回りの良い、しかし治安がそこまでよろしくない都市である。西都市は幸い金回りも良いが、治安も良い安定した都市だ。ギャンブラーが金銭トラブルで撃ち合うことはたまにはあるが、当事者になることはまずないそうな。


 師匠曰く「賭け事には手を出すな。銃はいつでも抜けるようにしておけ。そしてそれを見せることはあっても、自分から使おうとするな」だそうだ。


 その言いつけを聞いてからは常に銃を持ち歩き、左前に納めたリボルバーを見えるようにコートの裾をまくっている。愛用のトヨダ式オート拳銃はコートの下の膨らみとしてバックアップがあることをアピールしている。


 最近ではガンスリンガー御用達なベック銃砲店の店員として、ギルド幹部の弟子として顔を覚えられてきている。これはありがたい。師匠の後ろ楯があるから俺を敵に回そうとする人間は少ないだろう。


 それにミリーの買い物に付き合うこともしばしばなので、商店の人にはミリーとセットで数えられている。ミリーに手を出すと俺が出る。俺に手を出すと鍛冶ギルドが敵に回る。短慮な人間はそこまで考えないだろうけれどさ。


「おや、今日はエミリーちゃんと一緒じゃないのかい?」

「エミリーちゃんは元気かい? これをお土産に持っていきな」


 これではセットというよりオマケ扱いである。知人や顔見知りが増えるのは悪い事じゃない。俺の顔を単品で覚えてくれているのは雑貨屋の店主と薬屋の女将さん、タバコ屋の旦那に、そして無愛想なバーテンくらいだろう。あ、無茶なオーダーを受けてくれたテイラーの店長を忘れていた。


 ほとんど俺の趣味で通っている店ばっかりだな。


 俺もこの西都市に馴染んできたといえるのだろうか。愛想の良いミリーのほうが顔を売れている気がするぞ。


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