74話:軽機関銃の登場
ジョン・トヨダさんが現れた。
モンスターじゃあるまいし。しょっちゅう西都市に来てるのだろうか。
「やぁやぁ。元気に発明してるっ?」
いつものハイテンションでトヨダの倅ことジョンが顔を出す。
「どうも! 件のショートカービンできましたよ」
と同じくハイテンションでトヨダ式オート拳銃の5インチモデルをベースにしたカービンキットを見せる。
「おう、また来たか。親父さんはムラタのおやっさんのとこかい?」
「いらっしゃーい」
奥から出てきた師匠やミリーも声をかける。
「はい、ギルド長の所で商談です」
「なんか面白い物でもできたか?」
と話が弾んでいる。
テーブルにはジョンが持ち込んだ紙束。三脚がついた銃のイラストが大きく載っている。カタログらしい。イラストではえらく大きなマガジンが銃の上部に備えられているようだ。
「これは、全自動銃?」
「軽機関銃だよ。海外から製造権を買おうかどうか検討中でね」
とうとう来たか、フルオートの時代!
「ほう、お前さんとこはうちと違ってずいぶん羽振りがいいねぇ」
「いえいえ、ベックさんの所も開拓村に出資しようとしてるらしいじゃないですか」
ちょっとだけ火花が散っているような気もするやりとり。世間話にしちゃ腹の探り合いがジャブの打ち合いのように鋭い。
「軽機関銃ってことは、重機関銃もあったりするんですか?」
空気を変えたいので話を振ってみる。
「ああ、あるにはあるらしいんだけど。こっちには売ってくれないのさ。
軽機で装弾数も50発に満たないやつなら数秒で撃ち尽くしちゃうからなのか、輸出も許可が出たみたいでね」
「そこで技術研究のために一丁購入ですか」
と意味深にニヤリと笑ってみる。
「ふふふ、もちろん僕が初めっから作った方がいいものになるさ」
えらく自信満々なセリフが返ってくる。
西都市や北都市で流通している銃火器の技術レベルからみるとマキシムかオチキスあたりの機関銃か?
カタログのイラストを見るとぶっといバレルジャケットに円盤形マガジン。ルイス軽機っぽい。分からない人はザクマシンガンを想像してほしい。だいたいあってるから。
「これは…… でかいですね」
「でも普通の機関銃からすればかなり軽くなってるよ。たったの12kg! これは革新的だね!」
たしかに革新的ではある。が、兵士が持ち運ぶには重すぎる。拠点防衛用だろうか。馬車に積んでなら運用も十分に可能だろう。
「で、ジョンさんが考えているのはどんなやつなんですか?」
オート拳銃を発明するほどのエンジニア、ジョン・トヨダさんのことだ。当然、腹案があるに違いない。
「こんなやつなんだけどね」
バサッと設計図を広げる。
「おいおい、同業に見せていいのかよ」
と師匠が突っ込む。
「いいんですよ。北都市の発明家が西都市の発明家に意見を聞きに来ただけですから」
商売はどうした。親父さん泣くぞ、チワワみたいに。
視線を図面に落とす。wow……
そこに描かれているのはガスオペレーション式、分隊支援火器の始祖、ブローニング自動小銃。通称B.A.R.だった。細部は違うかもしれないけれど。
「どう? なにか意見はあるかな?」
二脚がついて、照準は対象距離に応じて変更できるタンジェントサイト。グリップはピストルタイプ。バレル先端にはマズルブレーキ。B.A.R.より、後に改良、民生品として販売されたコルト・モニターに似ている。どれだけ時代を先取りする気だ。
「マズルブレーキのアイデアはもしかして……」
念のため聞いてみる。
「もちろん君がオーダーしてくれたオート拳銃の10インチバレルからだよ。最初から作り付けるのは大変だから別パーツにしてあるけどね」
やっぱりか。改良案はいくつか出るが、さてどうするか……。




