72話:タバコ屋さんで買えるもの
タバコ屋にタバコ葉とマッチを買いに行った。
普段は初期IMCO風の塹壕ライターを使っているが、どうしてもオイル切れや擦り石切れが起こる。いざという時に予備が無いと不安になる性質はどうしようもない。
手巻きタバコのシャグはすでに一缶を吸い尽くして手巻き済みのタバコケースになっている。ケースの中には予備マッチを数本入れてはいるが、自分の机の上にも予備を置いておきたいのだ。どうしてもタバコが吸いたいのに火がないというのはストレスになる。
それに毎晩、日記の時間にランプの明かりを点すのにもマッチは必要だからね。生活必需品は大事。
「どうも、シャグとマッチをください」
タバコ屋に入るなりカウンターに向かい、店長に声をかける。
「いつものやつかい?」
何度か店を訪れているうちに店長の中で俺は顔なじみのお得意さんに格上げされたらしい。言葉遣いがフランクになっている。
「いつものセンチュリオンシャグを2つと、あとオススメのシャグはありますか?」
慣れたタバコもいいが、たまには気分転換も悪くないと思う。
「そうだね、これなんかどうかな。ラムとハチミツで香りづけしてある気分転換向けのやつだけど」
「じゃ、それもください」
晩の一服にいいかもしれないと思いそれもオーダーする。
「そういえばマッチも新しいの入ってるよ。どこでも着火というわけにはいかないけど、勝手に発火したりしない安全なマッチ」
店長が新製品を見せてくれる。擦り薬がついている、前の世界でよく見たタイプのマッチのようだ。
「家で一服するときにはいいかもしれませんね、それも10箱ばかりお願いします」
気前のいい客だと思ったのか上機嫌で用意してくれる。
「いつもの巻紙もサービスしとくよ。銀三枚と大銅二枚だね」
いそいそと安紙で包んでくれる。
「安全マッチは箱の横の茶色いところで擦ると火がつくから。吸っていくでしょ? これはオマケ」
と、銘柄の分からないシャグをひとつまみと巻紙、そしてブックマッチを渡してくれる。
「ありがとうございます」
その場で手早く巻いてテーブルにつく。
擦り薬がついたボール紙に、同じくボール紙軸のマッチが挟まれている。これを本のように開いて紙軸をちぎり擦り薬に当てて引き抜くと着火できる。持ち運びに便利な薄いタイプなのでこれは温存しておこう。
オイルライターでタバコに火をつけて一服。ハーブかお茶の焦げるような匂いとタバコの匂い。薬草タバコだろうか。
ちょっとだけリラックスしてきた気がする。
帰宅し、シャグと安全マッチをいくつか引き出しにしまう。机の上には裁縫セットと安全マッチとハサミ、短い導火線と無煙火薬。さらに蝋燭とゴム接着剤と炊いた米から作ったデンプン糊。警告鳴子の上位版を作り始めた。




