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69話:発明家の時間

2016/09/01 表現修正


 実のところセミオートの拳銃、特にハンマー式の場合、フルオート化するのはそこまで難しくはない。特にコルトM1911系列のシングルアクションモデルの場合は。なぜならトリガーを引いたらハンマーが開放されてファイアリングピンが弾薬を叩くというシンプルな構造だからだ。本来ならトリガーを引きっぱなしだとハンマーが開放されたままで、スライドが元の位置に戻るときにまたハンマーがファイアリングピンを叩いてしまうのだ。とはいえスライドが戻りつつあるときにハンマーも倒れていくので、完全なフルオートとは言えないのだが。


 トリガーを一回引いて一回だけハンマーが開放される、というのを実現するためにシアーが仕事をする。トリガーとシアーは直接連動しておらず、ディスコネクターという部品が間に入っている。トリガーを引き、ハンマーが一回開放されたらディスコネクターが移動、次にハンマーが起きたときにはトリガーの状態がどうであろうとシアーがひっかかる。トリガーを一度戻すまでディスコネクターが正しい位置に戻らず、シアーとトリガーは連動しない。本来ならこれを実現するため、設計に苦労したのだろうということが想像に難くない。


 だがあえてこれを逆手に取り、ディスコネクターが元に戻るスライド位置でトリガーが引かれたままだった場合に、シアーを強制的に開放してしまうようにするとフルオートマティックが実現できる。しかしトリガーが引かれていない場合にはシアーがかかるようにしないと全弾を撃ち尽くすまで停止しない厄介なものになる。


 使いこんだコルト45オートはパーツが磨り減ってフルオートになったりしたそうだ。自衛隊が11.4mm拳銃として80年代まで採用していたものは割とそうなっていたと聞く。どこが削れたらフルオートになるのか、はバラしてみないと分からないけれども。ま、少なくとも基礎的な設計がコルト社のM1911とほぼ同じトヨダ式オート拳銃は同じように改造すればフルオートにできそうだ。


 シアーを変造し、スライドの動きによって強制的に開放させるための突起でもつければフルオートのみにはできるだろう。しかし単発で撃ちたくても二発以上発射されてしまうのは面倒だ。かといって切り替えスイッチをつける、というのも大変だろう。機構の一部を外部に取り出してやらないといけない。シアーを開放するためにシアーから棒を出して、スライドが戻ったときに押すようにすれば実現は可能か。


 問題はフレームの加工、シアーの加工、スライドの加工に加えてカービンキットに組み込んだときに弄れる場所にセレクターをつけなければならないことだ。フレーム左側はセーフティがついているからムリ。シアーに棒をつけてスライドの出っ張りがそれを動かすとなると間に邪魔ものがない右側だ。しかし右側はカービンキットの強度を得るためにギリギリまで被せてある。スライドの出っ張り分くらいは削ればいいが、オート・セミ切り替えレバーまでとなると厳しい。


 などと悩んでいたが、要はアイデアを出したら現物合わせで微調整するしかない、ということだ。


「ここまで機構に興味がなければ読み飛ばして良し」

 と日記に注意書きを追記。誰()てなんだ、この日記。


 弾薬の量産も開始されている。ギルド長であるムラタのおやっさんの所で量産も始まり、44口径と変わらない仕切り値で手に入る。組み上げ前の弾頭と薬莢、発射薬、雷管プライマーも入手できた。さらに欲しければおやっさんの事務所に行けばいい。


 実包カートリッジ組み上げ(ロード)は専用の道具がある。色々なサイズの弾薬で使えるように余裕があり、専用の治具を用意すれば好きな種類の弾薬が作れる。発射薬の量も好きにできる。


「師匠、特殊な弾頭向けの鋳型を作って欲しいのですが……」


 とベック師匠にお願いをする。


「またぞろ何か企んでやがるのか。いいぞどんなのが欲しい?」


 師匠もにやけつつ悪だくみに乗ってくる。


「またジョニーが何か悪いこと考えてる顔してる……」


 ちょっと引かれた。へこむね。俺、そんなに悪いこと考えてるわけじゃないよ。ほんとだよ。


「弾頭に窪みができるような型を起こして欲しいです。だいたい弾頭の1/3から1/2くらいの深さで。あと先端に傷みたいなのが入るようにしてください」


 イラストを描きながら説明する。師匠は不思議そうな顔だ。


「それだと弾が軽くなって安定しないんじゃないか? 重量バランスも良くねえだろうし」

「飛距離よりダメージ優先の弾にしたいので。わざと変形する弾頭なら生き物に当たった時にダメージを大きくできると思います。散弾を至近距離で撃ち込むのと似た感じでズタズタに」

「うわっえげつねえ!」


 師匠にも引かれる。


「……ま、やってやれねえ事はねえけどよ。三分割型にして。傷はどうすっか。サイジング(・・・・・)ん時に入れりゃいいか?」


 師匠が口にしたサイジングとは、説明がめんどくさいので簡単にだが、鉛の弾頭はサイズをわずかに大きめに作るので圧力を掛けて適正サイズにする作業行程のことだ。理由は精度の問題。合金の比率によって収縮率が異なるため。冷えたときに微妙に縮むんだよね。


 師匠がブツブツと呟きながら型の構造や作業工程を考えている。こういうときは邪魔をしてはならない。エンジニアとはそういうものだ。何を考えているのか分からないとき、ボーッとしているように見えるとき、なにかひとりごとを言っているとき。作業をしていないときは脳みそがフル回転しているのだ。


 ミリーに言ってコーヒーのおかわりを用意してもらう。自分は紙と鉛筆、先ほどの説明イラストを無言で師匠の前に出す。


 さて、午後はミリーの算術でも見てやるか。


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