63話:都市外射場に現れた訪問者
ベック師匠のシューティングレンジ。
その一角で火炎瓶や点火剤の実験をしていると。
遠くから歩いてくる人影が見えた。誰だ?
血まみれでぼろぼろの服。なにもしゃべらない。不審にもほどがある。
「あの……」
声をかけようとした瞬間。
そいつは急に吠えるとミシミシと音をたて、筋肉を盛り上がらせた。まるでアメリカンコミックのハルクだ。
「マジか……」
変身しやがった。ライカンスロープってのは通称で、ワーウルフのことだと思っていたのだが。本当にライカンスロープだったんだな。人サイズの狼ではなく、人に化ける狼。
俺の意識が切り替わる。同時にレバーアクションカービンをライカンスロープに向け、胸部に銃弾を叩き込む。火薬と弾頭が空気を切り裂く破裂音とレバーの作動音が遠く響く。意識はターゲットとレバー、トリガーを引く指に集中。それ以外はどうでもいい。
50m、40m、30m。銃弾をくらい、胸の筋肉から血を流しながらも近づいてくるライカンスロープ。やはり拳銃弾では力不足か?
レバーアクションの弾が切れ、俺はカービンを左手で投げ捨てる。同時に右手でコートの裾を払い、トヨダ式オートを抜く。左手はスライドを掴み、右手でフレームを前に押し出し初弾を装填、腰を落とし、一発発射。左手を添えつつ残りの8発を胸と頭に撃ち込む。20m。
時間がスローモーションのように流れる。
スライドが開いたまま止まる。無意識のうちにスナップを利かせマガジンを捨て、左手は予備の多弾装マガジンを挿す。スライドロックを解除し、初弾が送り込まれる。
一連の動作は師匠が予備マガジンを作ってくれた時から毎日、身体が覚えるほど繰り返してきた。動作の間にも照準はターゲットを外さない。ライカンスロープと銃と俺の右目を一列に並べ、位置関係は変えない。あと15m。
再度、今度はロングマガジンの15発をライカンスロープの体幹に沿って撃つ。約5秒。1秒間に3発撃ち込み、一拍おいて狙いを再調整。それを繰り返すこと5回。
グラリと。ライカンスロープは倒れる。ロングマグを捨て、再度マガジンを交換。今度は12発マグ。10m。
倒れたライカンスロープの頭部に12発全弾を叩き込み、動かないことを確認。
そりゃ動かない。頭蓋が割れ、ピンク色の豆腐のような脳みそが9mmの鉛でグチャグチャにかき混ぜられている。銃を下ろし、マガジンを交換した後で。腰のホルスターに戻し、ショベルを手に取る。ライカンスロープの首に突き立てて切り離すと、それまで忘れていた呼吸を再開する。硝煙と血の臭い。
俺は、吐いた。




