62話:まだアルミナムは手に入らない。
ベック師匠達との朝食、銃の訓練、ミリーの勉強指導。日々のルーチンを済ませつつ自分で自由に使える時間が増えてきた。
暇つぶしになにか作ろうか。
酸化鉄とアルミ粉末のテルミット手榴弾は無理でもナパームを使う焼夷手榴弾くらいなら作れるかもしれない。師匠に告げて、雑貨屋さんと薬屋さんに出かける。この西都市の雑貨屋には農薬の類もあるので必要なものは手に入るだろう。
雑貨屋さんで砂糖と灯油、ガラスビンを買う。農薬用の硫黄と火薬用の硝石を買って硫酸を自作してもいいが、薬屋さんで扱っているかもしれないので購入は保留。
西都市の薬屋さんは薬局と試薬屋さんが一緒になったようなお店だった。農薬として使われやすいもの以外の薬品はだいたいここでそろうようだ。希硫酸が手に入ればありがたいと思ったが、少量なら濃硫酸が買えた。一緒にうがい薬も買う。
帰宅し、ベック師匠に機械油の廃油がないか聞いてみる。
「そんなもんどうすんだ?」
「灯油やガソリンと混ぜて消えにくい燃料にします。旅で松ヤニを使ったトーチをでっち上げるよりボトルに混ぜたやつを入れて運んでおいたほうが準備が楽ですし」
それに水をかけても消えない炎は武器にもなります。という言葉は飲み込んでおく。
「ならそっちの缶に入ってるヤツを持ってけ。どうせ廃棄油だ」
新聞紙に吸わせて薪代わりにしないのだろうか、と思ったがこの世界じゃ紙は高級品だ。そのまま燃やすにしても黒煙が酷い機械油。手間がかかる精製をしなおして再利用するよりも、古い方は捨てて新しく買ってきた方が安いのだろう。
まずは実験。廃油に灯油とガソリンを混ぜ、ついでに砂糖も混ぜてゆく。廃油と砂糖は増粘剤代わりだ。ベトナム戦争で使われたナパームを再現するなら発泡スチロールをガソリンに溶かすやり方で近いものができるはずだがスチロール自体がない。
なので手頃に燃える増粘剤として廃油と砂糖を使う。灯油はドロドロになりすぎた廃油をガソリンに溶かすために少量を加える。メイン燃料はガソリン。これらを混ぜて燃料は完成。安全な場所で少量に点火。水をかけても砂でもなかなか消えない。グッド。
自動添加剤にはうがい薬と砂糖を一定比率で混ぜた点火剤と硫酸。使う瞬間に混ぜれば発火する。実際には疑似ナパームに硫酸を加えてガラスビンに入れ、外部に紙で包んだ点火剤をくくりつける方法がいいだろう。ビンが割れて混ざれば発火するはずだ。
材料さえ手に入れば製造は簡単だなぁ、モロトフカクテル。フィンランド万歳!
もちろんそのまま工夫も無く作ったところでまともにつかえる訳ではない。ガラスビンに割れやすいように傷を入れておくとか、使う直前に点火剤をビンにくくりつけるとか、いろいろと手を加える必要がある。学生運動の時みたいに火炎瓶がバンバン燃えていたのは地面が舗装されていて固かったからだ。土が向きだしの地面ではビンが割れない。
もしかして、これって森の中ではつかえない?
困った。
しかたないので雷管でガラスビンごと燃料をふっ飛ばすことにする。先端を閉じた細いパイプに点火剤と先日作った遅延点火装置を仕込む。ビンの蓋にパイプを接着して完成。ピンを抜いて投げる。
パン、という音と共にガラスビンが砕け、疑似ナパームがまき散らされる。が、点火には至らない。放置するのも危険なのでマッチを擦り、投げ込んで燃やして処理する。
燃え上がる炎を眺めながらタバコを一服。さて、どうしたものか。




