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54話:斧と鍛接


「今日は手斧だったな……」


 そうヘンリー師匠が呟いて設計図とも呼べないような、形状を示したデザイン図を眺める。


「ナイフと同じように叩いて作りますか?」


 と、問うと。


「いや、斧にしてはかなり薄手だからな。あのナイフは逆に細い割に分厚い造りだったから鍛造したけど……。こいつはある程度の素材から貼り合わせて造った方がいいだろう」


 芯になる鋼鉄とガワとハンドルになる軟鉄二枚の三枚を熱して叩いて貼り合わせるという。日本刀のようなサンドイッチ構造だ。


 芯材はただの板。ガワとハンドルになる鉄はT字のようにハンドルになる部分を残して切り出す。師匠と俺が一枚づつ鉄用のこぎりでごりごりと切っていく。表面を金属ヤスリで削り、シンナーの強烈なヤツみたいな薬品で拭き上げる。ここから先は接合まで素手で触ってはいけないと師匠に念を押された。やっとこで挟んで師匠の元に持っていく。


 さて、鉄同士の接合作業だ。これは完全に師匠におまかせ。


 まず芯になる鋼鉄を熱して白い砂のような薬品をふりかける。軟鉄を合わせ、また熱して叩く。また熱して反対側に砂をかける。軟鉄を貼り熱して叩く。全体を満遍なく熱して黄色とオレンジの間くらいの色でぶっ叩いていく。これで鉄同士がくっついたのだそうだ。


 後は師匠の指示に従いながら熱して叩いて熱して叩いて。特に刃の部分とハンドルの境目を叩きまくる。当初の五分の一くらいの厚みになった所で鍛造は終了。かなりの重労働だ。


 金属ヤスリで削って形を整える。ヤスリで削った断面はいびつながら三枚が層になっているのが分かる。ハンドル部分は二枚がばっちりくっついて、どこが境界だったのか分からないほど。


 焼き入れ焼きなまし、表面処理は師匠に任せる。この作業はナイフの時とほとんど変わらないらしい。


「明後日には出来てるから、明日は休みでいいぞ」

「見学させてください。何度見ても勉強になりますから」


 食い下がると。


「見られてると気が散るから明日は休んどけ。明日は門外不出の魔法を使わないといけないからな」


 と言ってヘンリー師匠がにやっと笑った。


「魔法!?」


 この世界には魔法があるのか? それとも慣用句的な言い回しか?


「気になります! 勉強させてください!」


 閉口する師匠。ボリボリあたまを掻きながら。


「焼き入れの冷やし方にコツがあるんだよ。内弟子以外に教えたらマズいんでな。勘弁してくれや」


 秘伝の類の技術らしい。

 カマを掛けてみる。


「氷かなにかでキンキンに冷やすんですか?」


 師匠がギョッとした顔で俺を見る。


「うちの鍛冶系列でも秘伝中の秘伝だぞ? なんで知ってる!?」


 Ms点がどうとかマルテンサイト変態、残留オーステナイトなどと言っても分からないだろう。あっちの世界でも鉄を扱う業種の人かナイフを自作する人でないと普通は知らない。俺だって名前くらいしか知らない。


 この世界の、なにより開拓村出身の「僕」が知っている時点で説明がつかないのだ。「俺」だって鉄に詳しい訳じゃない。前の世界で焼き入れ工場のシステム構築作業の時に冷却室というのがあったので、なんとなく担当さんに聞いたことがあるというだけだ。


「なんとなく思いついたんで言ってみただけです」


 気の抜けた顔で返事をする師匠。


「……そうか。思いつきか。いつか誰かが思いついちゃうよなぁ。御先祖様も思いついて始めたことだろうし……」


 放心した顔でブツブツと呟く。


「一応、うちの秘伝なんで黙っててくれ……」


 なんだかかわいそうになってきたので了承しておく。それにしても氷を使うのかドライアイスなのか分からないがどうやって調達するのだろう。まさかバック・トゥ・ザ・フューチャー3のドクが造ったような氷製造装置がある訳でもなかろうに。


「氷はどうやって入手するんですか?」

「……氷屋」


 もはやうなだれて反応も薄いヘンリー師匠。やらかしてしまった。完成した斧の切れ味を試させた後にネタバラしをしようとしてたんだろうか。

 それにしても売ってるのか、氷。


「……今日は失礼します。お疲れさまでした」


 大人しく師匠の工房から帰宅することにした。


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