46話:ToDoも改造したいモノもいっぱい
2018/03/03 表現の一部修正
2016/08/03 タイトルと誤字等を修正
ジャック・ムラタさんは.38口径オート弾を採用してくれることだろう。
口径違いの弾薬を作るために製造機械を複数、しかも同時に導入するとなるとギルド長の会社といえど無理がある。なのでオート拳銃に向いた弾薬は、先に量産を依頼したトヨダ式.38口径オート弾に統一されると思う。
後からもっと威力が欲しい、となった時は.44口径オート弾を設計するなり火薬量が多いライフル弾を流用することになるはずだ。ライフル弾を使うときはハンドガンじゃなくてオートマティックカービンを企画することになるんだろうけれど。
SMGの設計について提案というのもやりたい所だ。
やりたいことと言えば。
トヨダ式オート拳銃の試射。.38オート弾と.44口径弾の威力比較テスト。ミリーにプレゼントを渡す。ToDoは山積みである。ミリーの分のブッシュハットも受け取りにいかねば。それにこの世界の暦やその他のいろいろなことを調べたいというのもある。調べ物はどこですればいいんだ? 本屋や図書館は存在するのか?
まぁ一つ一つ潰していくしかないんだけどね。
そんな訳で。帰還した翌日のリボルバートレーニングは早々に終わらせてトヨダ式オート拳銃のテストに入った。
トヨダ式オート拳銃は、いわゆるM1911とほぼ同じ機構のオートマティック拳銃だ。違いと言えば4.25インチバレルのせいか全体が短くコマンダーサイズであることとフレーム、ダストカバー部分がスライドと同じ長さであることだ。おかげで全長はリボルバーより短く、ずっしりとしている。スライド自体が鉄塊の削り出しみたいになっているので全体的に四角い。角を落としたい所だ。
握ってターゲットに向ける。トリガーの手前が削り込まれていないのでトリガーが引きにくい。トリガー自体も長すぎる。まんま改良前のM1911と同じ欠点だ。だが撃てないレベルではない。
スライドを引いて初弾を装填。狙って引き絞る。
パン、カショッ、キンッ。
7メートル先のターゲットに当たる。
悪くない。連続してトリガーを引いていく。
パン、カショッ、キンッ。
パン、カショッ、キンッ。
パン、カショッ、キンッ。
パン、カショッ、キンッ。
パン、カショッ、キンッ。
パン、カショッ、キンッ。
パン、カショッ、キンッ。
パン、カッ、キンッ。
一マガジン全部撃ってホールドオープン。次のマガジンに交換してスライドロックを開放。
再度一マガジン全部をターゲットにぶち込む。
ホールドオープンして終了。
次は薬室を空の状態で新しいマガジンを装填。ベルトに銃を挿す。
抜き撃ちの練習だ。
コートの前身頃を払って銃を抜く。胸の前、左手でスライドを掴み銃本体を前に押し出し、一発撃ってから左手を添える。そのまま残りの8発を撃ち込み終了。
.44口径のリボルバーより反動がマイルドなので撃ちやすい。そして7メートル先のターゲットには全弾命中。今ではリボルバーでも全弾命中させられるようになったが、それは一応ターゲットに当たっているというだけのことだ。このトヨダ式を使えば最初の一発は多少離れた所に着弾するが、以降はターゲットの真ん中近くに集中する。なんと撃ちやすい銃だろうか。
四マガジン目。
初弾を装填した状態からの抜き撃ち。
狙わずに胸元で銃を固定して撃ち込む。多少はズレたがターゲットに全弾命中。
「そんなに使いやすいか、それ」
急に師匠から声をかけられる。
ビクっとした。いつから見られていたんだろう。
「これ、やっぱりいいですよ。思った通りです」
「初弾はリボルバーより遅いが、二発目以降は十分に速い。売り物になりそうだな。それにしてもジョニー、いつの間にトヨダ式向けの抜き撃ち練習をしたんだ?」
「いえ、練習なしです」
半分は嘘である。前世でガスガン使って遊んでました、とは言えない。ましてやセンターアクシスリロックの真似撃ちですなどと言ってみたところで理解されまい。
「最後は狙ってなかったじゃねえか。リボルバーのファニングみてえに狙わずに速射してただろ」
顔が引きつっていたかもしれない。
「しっかり固定してしまえば弾はまっすぐ飛びますから……。それにしても師匠、見てたんだったら脅かさないでくださいよ」
「ハハッ。わりいな。あんまり集中してるもんだからよ。声をかけそびれちまったんだよ。エミリーちゃんもずっと見てたぜ?」
振り向くとエミリーがだまって壁際に立っていた。
「声をかけちゃ悪いかなって。ごめんね」
「いや構わないよ」
「さて、昼飯食いながら感想でも聞かせてもらおうかね……」
「フレームを一部削ってトリガーを多少短くします。トリガーが引きやすくなるはずです。スライドも角の部分は落としてしまいましょう。軽くなれば取り回しがさらに良くなるはずです」
師匠は黙ってうなずいた。
ミリーがコーヒーのおかわりを入れてくれる。ありがとう、ミリー。
「やっぱお前さんもだいたい同じ所に辿り着くか」
師匠がぼそりと呟く。
「師匠も同じ考えですか」
「トヨダ式、俺も握ってみた。指先で引く事になる割にトリガーが重い。トリガーの根元の所は削っちまっても強度にゃ大して影響ない。それに全体も重すぎるだろ、これ。もっと軽いほうが楽だと思うんだよ」
「強度重視での試作品だからだと思います。無理を言って譲ってもらったやつですからね。実用品としては練られてなくても仕方ないかと」
師匠がうなずく。
「スライドとフレームは俺が削ってやる。午後中には仕上げてやるからのんびりしてろ。トリガーはどのくらい削る?」
「3/32インチほどお願いします」
およそ2.38mmだ。トリガー自体が金属削り出しのパーツなのでそのくらい削っても動作に影響はない。
「分かった、任せときな」
「あとフレームの下、マガジンを入れる部分の角をほんの少し、1/32インチ弱ほど角を落としていただけますか?」
「ああ、マガジンを突っ込みやすくするんだな……。っておい、それくらいは後で自分でやれ! ヤスリは貸してやっから」
ため息一つ。
「いい加減に銃弄りも教えてやるか。フレームとスライドの削りは俺がやってやるが、それ以外は自分でやれ」
「ありがとうございます師匠!」
トヨダ式オート拳銃の改良方針が決まった。
「あ、薄い鉄板があればください。グリップに挟み込むクリップを作りたいんです」
師匠の顔にクエスチョンマークが浮かぶ。
ノートに図を描いてゆく。銃をそのままベルトに挿したときに引っかけるクリップのデザインだ。スライドの右側にはみ出るが動作に支障はない。切り出した後に鉄のブロックに挟んでぶん殴るか万力で挟んでぐいっと曲げれば成形できるだろう。あとで焼き入れすれば強度も出るはずだ。
「なるほどね。でもそれだとスライドが引きにくくならねえか?」
「幅を抑えて作ります。それでも引きにくければスライドの前のほうにも滑り止めとして削りを入れますよ」
「ん、スライドのほうはやる前に言え。フライス盤の使い方をきっちり叩き込んでやる」
ついに俺好みのオートマティック拳銃を手に入れられることになる。が、それが正解かどうかはまだ分からない。取り返しがつかなくなるような改造はまだ先だな、うん。




