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43話:彼女から身を守り、彼女の身を守る5つの方法。

2016/10/30 表現修正

2015/08/02 表現を一部修正、追加。


 角だけをすこし落とした四角い鉄塊てっかいのようなトヨダ式オート拳銃。


 これはベルトに挟んで運ぶには少々重い。それにフレーム自体が分厚くて重い。M3ネジくらいの太さなら前に穴をあけてコンペンセイターをネジ止めできそうなほどだ。


 そうだ、コンペンセイターを作ろう。ブロック削り出しからバレルが通るくらいの穴をあけて、ガスを上に逃がす穴もつけて。ちょっとくらい伸ばしたロングバレルをつっこむのもありだよね。

 一インチのコンペに半インチ伸ばしたロングバレル。ストライクガンのようにコンペをギザギザにすると格好いいかもしれん。それに相手に押しつけて撃てるし。


 それに重たいのをなんとかするために角をざっくり削り取ってしまうのもいい。師匠のフライス盤で削り取らせてもらおう。素材は削り出しのようだし強度的には問題ないはずだ。動作試験用だから強度重視で造ったっぽいもんな。スライド重量が変わるからリコイルスプリングのレートを落とさないとまずいかな?


 などとトヨダ式オート拳銃の改造案を考えつつミリーとデートっぽい買い出し。いちいちトヨダ式オート拳銃と呼ぶのもめんどくさいな。1911みたいな略称はないんだろうか?

 トヨダオートだと自動車屋さんのようでいまいちかっこ悪い。


「ちょっと! せっかくの買い物なのに上の空ってどういうことよ。うちとのデート、そんなにつまらない!?」


 怒られた。ついさっき「機械弄りに興味がわいた」と説明したが、その興味がいまの「俺」の大半を占めていることに気づいてはもらえなかったようだ。


「ごめんって。で、ミリー。何の話だっけ?」

「だからさっきのお店のアクセサリー、可愛かったって話!」

「おう、ミリーには似合うと思うぞ」

「……」


 エミリーがジト目で睨んでくる。

 実はそのアクセサリー、ミリーが別の物を見ている間にこっそり買って包んでもらっておいた。ミリーの視線がかなりマジだったからなぁ。


 ちなみにそのペンダント、プレート状のペンダントヘッドにおまもり的な意味合いの模様を刻んだデザインがいくつか並んでいる。ルーン文字やエジプトのお守り、ホルスの目やらアンクに似た紋様が刻まれているシリーズだ。


 エミリーはアヌビスだかウプワウトだかと呼ばれる犬か狼系の獣人らしい。死や戦を表す神の名を継いでいるというのは物騒だ。なので幸運のお守りとしてホルスの目のような紋様のペンダントにした。裏表で月と太陽それぞれを表す、左右の目が描かれている。月の神ウジャトは治癒、守護、回復、太陽神ラーは冒涜ぼうとくに対する復讐ふくしゅう、破壊だったか。意味合いも逆になってしまうがまあいいだろう。どんな神様も表裏一体。日本的な考え方だけどさ。


 それにラーは自分の目から作った冒涜的な人間に対する復讐神、ライオンっぽいセクメトから復讐の要素以外を取り出し、ネコ神様バステトを作ったともいう。そのうちエミリーの遠縁の親戚あたりから猫耳娘が出てこないかな、という思いは断じて含まれていない。


 さすがに「僕」と長いつきあいである彼女のことだ。趣味も嗜好もだいたい分かっている。彼女が「僕」のことを純粋に思ってくれていることも理解している。だからこそ「俺」が混じってしまった今の自分が彼女とどうこう、となると躊躇ちゅうちょしてしまう。だから兄から妹へのプレゼントとして、お守りくらいが丁度いいんじゃないかな。


「まあまあ、それより師匠から小遣いもらってるからさ。そこらの出店でなにか食べていこうよ」


 ちらっとミリーのしっぽをチェック。喜びで揺れてもいないが怒りで膨らんでもいない。落ち着いたか。


「あっちの甘味かんみもつけてくれるなら許す」


 予定外の出費だが背に腹はかえられまい。とほほ。


 そしてミリーを連れてあちこち回ったりウィンドウショッピングや屋台飯を楽しむうちにうらびれたスラム街とまではいかないけれど、居住区の裏道にうっかり迷い込んでいたようだ。そのまま引き返せば大通り。


「おう、そこの坊ちゃんよう、可愛い娘を連れてるじゃねえか。お前にゃあ、ちーっとばかりもったいないとは思わねえか? だよなあ、お前もそう思うだろ」

「へい! まったくでさぁ兄貴!」


 定番のヒロインを連れていると絡まれる、というイベント発生である。お約束ならここで負けてヒロインがさらわれ、救出劇になる。もしくは圧勝して俺つえぇ! な展開だ。お約束すぎる。冗談みたいだが現実だ。


 見るともなしに相手を観察、兄貴と呼ばれたチンピラと、その取り巻き一人。どちらも着込まれた革のロングジャケット。前はあけているし、腰の上あたりのふちが擦れているところを見ると抜き撃ちタイプのガンスリンガーか。取り巻きのほうは腰にでかいナイフを吊っている。もはや鉈だな、ありゃ。


 ナイフか銃でも出してくれたら正当防衛の名の下に銃を抜けるんだけどなぁ。などとのんきに考えている。因縁をつけておいて、反発してきたらいきなり抜き撃ちして「正統な決闘だった」とかいう面倒な手合いだろう。


 エミリーには俺の真後ろに隠れて、いつでも大通りに逃げられるように小声で伝える。集合場所は宿だ。

 俺自身は思案するかのようにすこし横を向いてゆっくり首を回し、口の中を湿らせる。相手に悟られないように行動態勢を取るテクだ。これをやると緊張も多少はほぐれる。


 さて、行動だ。


 エミリーに合図をして走らせると同時にありったけの大声で叫ぶ。


「火事だー!」


 あっけに取られているチンピラ二人を尻目に俺もかけ出す。


「火事だ! 誰か来てくれ!」


 もし撃たれてもエミリーに当たらないように真後ろを追う。

 あたりがざわつき、家の窓が開く。住人の視線が集まったところで走りながら後ろを指差す。


「あいつらが火をつけた! 火元はあっちだ!」


 唖然あぜんとするチンピラ二人。


 大通りに出たところで振り返るがチンピラは追ってこない。

 無事に二人とも宿に逃げ帰ることに成功した。


 事件解決のため、俺はあえて、あえて社会道徳をかなぐり捨てて、ミリーの安全を優先しなければ。

 そうなのだ、これは『超法規的措置』!

 あーっ! 最低だ最低だ。俺はなんと最低なガンスリンガー!

 故郷の両親よ、師匠よ、血の繋がらぬ妹ミリーよ。

 このジョニー・オカジマの魂の選択を、笑わば笑え!

 どれだけ無様でも、守るべき者を守り、生きて帰れた者だけが勝者なのだ。


 地元の皆様、騒ぎを起こしてごめんなさい……。


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