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39話:北都市での商売


 ギルドに到着すると荷を降ろし、北都市鍛冶ギルドのボス、オリバー・シラカベと面会となった。


「おつかれさん。いつも済まんね」


 鍛冶ギルドのボスということで気を張っていたが、紳士然とした態度に少々驚く。なにせ西都市のギルドは町内会みたいな集まりだったが、北都市は工業都市。その一角を牛耳るギルド長ともなると貫禄かんろくが違う。エンジニアというよりは、三つ揃いのスーツを着こなし、やり手の商売人といった印象だ。


「いつものことですよ」


 言葉では気軽に返すが、ベック師匠も多少なり緊張感を身に纏っている。


「紹介しておきます。先日弟子に取ったジョニー・オカジマと販売担当のエミリー・コウです。……エミリー、帽子を取れ、失礼だぞ」


 いわれてエミリーはおずおずとハンチングを取る。


「ふむ、帽子を脱ぎたがらないのも仕方ない」


 ギルドボスはエミリーの耳を見てそう呟く。


「安心しなさい、北都市は人種が入り乱れている。君のような人間もうちには多く居るからね。私は気にしないし、この街では命の危険はないよ」


 優しくほほえむ。

 師匠は咳払いをし、


「で、今回持ち込んだムラタ式の銃なんですが」


 露骨に話題を変えるがオリバー・シラカベ氏は気にしていないようだ。


「うん、前回の契約のとおりのようだね。無事に着いてよかった」


 ベック師匠とオリバー氏の会話を聞いていた所によると、オリバー氏は自前の工場の生産品だけでなく他社の製品も総合的に扱っているようだ。


「ああ、気がつかずに済まない。君たちに商売の話はつまらないだろう。ちょうど新製品を開発しているトヨダくんの所のせがれが来ている。エンジニア同士なら彼との会話のほうが楽しかろう」

 そういって別室に案内された。



 しばらくお茶を飲みつつ待っていると紙束と木箱を抱えた、いかにもエンジニアです、といわんばかりの作業着の青年がオイルの匂いと共に現れた。年の頃は20をすぎたあたりだろうか。エンジニアにしては少々伸びた印象のある髪と丸眼鏡が特徴的だ。


「やあ、お待たせしました。僕がジョン・トヨダです。君がベックさんの所の新人くんだって?」


 といっててのひらの機械油をズボンで拭いて握手を求められた。


「どうも、ジョニー・オカジマです。先週あたりからベック師匠の所で勉強させてもらってます。あとこっちが俺の幼馴染みで一緒に師匠の所で売り子をやってるエミリー・コウです」

「は、初めまして」


 機械油にまみれた好青年にミリーも緊張しているようだ。


「で、いろいろと新しいアイデアを生み出してるんだって? 興味あるなぁ。色々聞かせてよ、僕も自分なりにいろいろ新機構を試してるんだ」


 ジョン・トヨダ氏が木箱をどけて紙束を広げる。

 設計図らしきそれを見て俺は震えた。

「オートマティックハンドガン……」


 ジョンの目が光る。


「分かるのか! やっぱり聞いたとおりの発明家なんだね!」

「分かります。ここがスライドして次弾を装填、ここを支点にバレルが発射の反動で傾いてバレルのロックを外すんですね」


 どう見てもコルトの45口径オートマティックと同系統の反動利用式機構。ティルトバレルと呼ばれるタイプだ。


「そうなんだよ! この咬み合い方式なら軽くてバレルの固定もそこそこしっかりできるからハンドガンにぴったりだと思ってさ!」


 ジョンは興奮してまくし立てる。


「なかなか理解してくれないんだ。バレルは固定されてないと当たらないだのなんだの! そもそもリボルバーだって100発100中で当ててないだろう! ならすばやく何発も連射できたほうがよっぽどいいじゃないか!」


 ジョンは機械マニアというよりオタク的な気質のようだ。しかもつかうシチュもちゃんと見えている。合理的なモノの見方ができる、有能なオタだ。寝食を忘れてのめり込むタイプだな。


「こいつの実物はいつ頃できるんですか?」

「それはこいつを見てからいって欲しいもんだな!」


 ジョン・トヨダは木箱を開ける。そこには完成品のオートマティックハンドガンが鎮座していた。


「すばらしい……」


 おもわず感嘆する。削り出しのフレームとスライド。プレスで作られたらしいマガジン。大きさはほぼコルト45オート。いわゆるコルトガバメントとほぼ同じだ。


「持ってみても?」

「どうぞどうぞ!」


 手に取りマガジン、薬室が空であることを確認して動作を見る。シングルアクションオンリーのようだがそこは問題ではない。ほぼコルト45オートと同じ動作、機構のようだ。ハンマーを起こして安全装置も掛けられる構造。

 二発目からは自動でハンマーが起きるからうっかりトリガーに触れても発射しないようにしたのだろう。見た目は角張ったM1911系列だ。弾は.45口径ではなく.38口径程度か。全長は短く、バレル長は4.3インチから4.5インチといったところか。


 無意識のうちにフィールドストリッピングを行う。設計図を見た限り、M1911と同じ手順でバラせるはずだ。

 一度バラし、バレルを薬室側から覗く。やはり.38口径くらいの弾をつかうようだ。マガジンを見る。装弾数は9発か。これは悪くなさそうだ。

 組み直し、ジョンに返す。


「……よくバラし方、組み方が分かったね」

「さっきの設計図のおかげです」


 エアガンをバラしたり組んだりしてたおかげとはいない。


「これ、テストは済んでるんですか?」

「一応ね。ちゃんと動作しているし、引っかかるところもまったくないよ。社長のゴーサインは出てないんだけどね」


 ふむ、社長さんはオートマティックの利点を理解するところまでは行ってないってことか。

 男共2人の暑苦しい語らいに入れないで呆然としているミリーは放置することにする。


「たしかにいい銃だと思います。でもいくつか難点もありますね。たとえば……」


 機械オタク2人の熱い討論はまだまだ続く……。


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