二話:ここはどこのウェスタンだよ? ファンタジーですが何か?
二時間ほど歩いただろうか。それほど疲労感もなく渓谷のような場所にたどり着いた。
一呼吸置いて水筒から水を飲む。2Lほど入りそうな水筒に半分ほど水が残っている。どうも無意識に水分補給をしながら歩いていたようだ。
「こっちの身体はずいぶん鍛えられているんだな」
以前なら二時間も歩き続けることなんてなかった。通勤は電車で、帰りも電車で。
たまに終電逃してタクシーで。
「どうも前の考え方が抜けない。これじゃ生きていけるか心配だ」
人間、ストレスが増えるとひとりごとも増えるようだ。
岩に囲まれた渓谷を歩く。渓谷といっても小川が流れるような所じゃない。グランドキャニオンかインディ・ジョーンズ最後の聖戦の遺跡がありそうな枯れた場所。
ここをしばらく歩くと街道に出るはずだ。こっちの「僕」の記憶をなぞる。街道に出たら西を目指して歩くと日が落ちる前には都市に着く、はずだ。
どうしてもあっちとこっちの記憶が混じってあいまいになる。今は15歳の若者が職を求めて都会に出る旅の途中。
PCに向かってコードを書く必要はない。スケジュールに追われてデスマーチをした経験も無用だ。
などとつれづれ思うままに歩いていると乾いた爆竹のような音。びくっと身体がこわばる。自分の中の「僕」が警告する。「発砲音だ、伏せろ! 」でも「俺」は反応できない。思わず音源のほうを見てしまう。
岩の上にオオカミ男。それに向かって発砲するおっさん。
やっぱりここはファンタジーだった。