18話:やっぱりノートは手放せない
朝食をいただいたあと、ざっくりな仕事の流れについてベック師匠に教わる。
ベック師匠の店でのガンスミスの主な仕事は販売、修理、カスタム。
まず販売。客の欲しい銃or主な用途を聞いてアドバイス&販売。
アドバイスについては相手がどういったシチュエーションを想定しているのか、そのときに選んだ銃が使い物になるのか、その人が銃を扱うときの立ち方、撃ち方、利き手、ホルスターのポジション、細かい癖、等々。
いろいろと知っておかなければならないことが沢山ある。相手の立場になりきって使うときのことを想像しなければならない。
修理。これもユーザーの撃ち方、癖によって故障箇所が変わってくる。
動作できるように修理するだけなら割と簡単だが、また使い続けたら同じ箇所が故障するかもしれない。壊れにくく補強する、カスタムパーツを組み込むなど相手の予算に合わせた選択が必要となる。
単純修理なら新品パーツに交換するか、精度が必要ないフレーム箇所ならアーク溶接と表面削り等でなんとかなる。まさかアーク溶接がこの世界にあるとは思わなかったが、エンジン式発電機があるらしくなんとかなるらしい。
ろう付けとか半田付け、リベット打ちがせいぜいかと思っていた。師匠が穿いているズボンも帆布にリベット打ちの、いわゆるジーンズの先祖みたいなやつだったし。
カスタム。これはとても難しい。販売のアドバイスと同じようにユーザーの使用スタイルに合わせて機能とそれに合わせた低コストの改造を提示する必要がある。ユーザーの要望に合わせて言われたまま改造したら使い勝手が悪くなりました、じゃ店の評判に関わる。なによりせっかく来てくれたユーザーが改造の不備、使い勝手の悪さによって死ぬようなことがあれば、貴重なお客さんが減ってしまうのだ。
修理、カスタムにかかる作業時間の見積もり、納期決めも不慣れな自分には大変である。師匠がいないときの店番時に要望を聞いて、後日コストと日数を提示、というのがスマートなやり方になるだろうか。
ベック師匠の説明を作業の流れ、要点だけかいつまんでノートに書きつつ、疑問点もメモしていく。質問はあとでまとめて時間を取ってもらおう。
なんせ弟子が師匠から技術を盗む以前に、仕事の流れやらユーザーの主な使用シチュエーションやらを全然知らないのだ。
ハンターのヘンリーさんにアドバイスをもらう機会もなんとか捻出したいところだ。他にはガンマン、この世界ではガンスリンガーと呼ばれるらしい。そのあたりの人にコネをつくれないものか。
他の仕事としてはよく壊れるパーツや消耗品、弾薬の発注、発注品の受け取り、製造メーカーへ改良点の要望出しなどがある。
「ここが使いにくい」などユーザーの声をメーカーに届けるのも提携ショップの仕事らしい。パーツ交換だけの仕事は大して儲からないし、よく壊れるなんて話が広まってはそのメーカーの取扱店としては打撃を受けることになる。
ベック師匠が主に取り扱っている銃器のメーカーは他の大規模都市に製造拠点がある。
そのうち発注&以前の発注品の受け取りに連れて行ってくれるらしい。そのときに新製品をいくつか入荷したりもするそうな。
以前ヘンリーさんが取り寄せを依頼したというポンプ式ショットガン。これもそのメーカーが以前告知していた新製品のカタログをもらってきて店頭に置いておいたそうだ。それを見てヘンリーさんが大型獣、モンスター対策に発注したという。
最近はそのメーカーだけじゃなく他のメーカーの製品取り扱いも視野に入れているとのこと。
まずは仕事の流れを勉強しよう。やはり初めての仕事では覚えることが多くてメモ帳兼ノートと鉛筆が手放せない。
予備のノートも作っておきたい。




