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亡国の騎士団  作者: 雲ノ上
~序~ 動乱不運を告げる
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第7話

 噂話など所詮は不確定情報であるけれど、全てが嘘だとも言い切れない。話を伝えた人の偏見も含まれれば展望だって含まれるだろう。

 だから、シリルが語ったことにも多分に個人的感想だって含まれる事もエミリーは理解しているつもりだし、仲良くしてくれる友人が言っていることが嘘だとも思いたくないと心のどこかで思っていることも事実だろう。シリルはエミリーのことを思って聞き及んでることを話してくれているのだから、今までの所で気になる事も沢山出てきた。

 でも、事実を確認するには直接確認する以外に手段が無いことも少し考えれば分かることである。後にも先にも、エミリーに取っての問題は傭兵団に参加するかどうかなのだから・・・・


「シリルさん、色々教えてくれてありがとうございます。今教えてくれたことも参考に明日までに結論出したいと思います」


 エミリーの表情が先ほどと比べて少しは明るくなっていることにシリルは内心で安堵していた。少しでも役に立つことが出来ることは友人としても人生の先輩としてもやはり嬉しいことであろう。


「私からはー無理はしないでね、とし言えませんー」


 リリーも友人としてエミリーのことを心配しているのが伝わってくる。リリーもシリルもいずれ戦場に出来ることが予想できるが今は友人のことが大事のようだ。

 少し気分的にも楽になったエミリーは大切な友人に見送られて宿を後に自宅への岐路に付いた。



 エミリー達が梟の止まり木亭を後にしてしばらく経った店内で、レンはルーアとこれからの事を話している。まだ周りには準備やマスターの手伝いをする従業員が数名残っていた。


「明日の昼までだとどれくらいの戦力が確保出来そうかな?」


「そうですね、全体の八割が集まればいいところだと思います。人数で約百六十名になるかならないかだと考えています」


 レンの問いかけに速やかにシーアは答える、突然の召集でも約八割の人間が集まることは組織としては優秀であることが垣間見ることができるであろう。


「そうか、編成はシーアに任せるよ。隊長格については変更は無いから、今まで通りでかまわない」


「はい、かしこまりました」


 短い会話であるけれど、両者の間で意思疎通が出来ているのも長年の関係性の賜物であろう。組織の運営に関して客観的に采配できる人材はとても重宝する。特にシーアは私的な感情をはさまない性格もありレンからの信頼も厚い。

 

「マスター、今回の戦争が俺の最後になりそうだな」


 シーアとレンの会話が終わった頃合で、近くに居たルドルフが語り掛けてきた。


「どう言う意味かな?私は仲間を戦場で死なせたりするような采配はしない。もし間違えそうになっても皆が正してくれるしね」


「いやいや、マスターの采配に文句付けるわけじゃないぜ。俺の体力的なことだよ、途中で冒険者なんて職業をしてたこともあったから戦士としても寿命が少し早まったのかもな……、最近じゃ体にがたが出始める始末さ。

 傭兵団に身を置き続けておけば良かったと最近は思っているんだ。拾ってもらったのに途中で道を別ち、都合が悪くなったらまた拾ってもらって……、マスターには恩しかないな……」


「ルドルフ……、何か悪いものでも食べたのか?」


 ルドルフの真面目さが嘘のように崩れる。レンに対して感謝を述べることが普段のルドルフからは想像できないほどである。近くにいたシーアでさえ哀れむように見ている。


「おいおい、俺が感謝を言うのがそんなに変なことですかい?」


「変なことじゃないけれど、まだ早いし今回の戦争で生き残って此処に帰ってきてからで十分だ」


「そうですよ、マスターのおっしゃる通りです。まるで死にに行くみたいで縁起でもないです」


 珍しくシーアもルドルフに嗜めるように言葉をぶつける。


「俺は死にに行くつもりもないし、夜梟のメンバーとして誇りを持っている。マスターが納得する戦果だって残すつもりだぜ」


「あまり張り切りすぎて、後半で失速しないでくれよ……」


 レンがルドルフにあまり気負いすぎることの無いように注意を促す。一人の緊張は組織の仲間に簡単に伝染する、逆に気の抜けた態度をすれば怠慢が伝染する。適度に士気をあげるのには緊張も必要だし気の抜ける雰囲気も大事であろう。特に人数が多くなるほど士気を維持するのは大変なことである。

 例えば騎士団のような組織であれば規律が士気を維持するのに役に立つ、規律といえば組織運営では当たり前のことでる。

 階級もまた規律である、これらのことが守られていれば最低限の士気を維持することは出来るであろう。

 ただし、戦闘中などにおいては規律も大事であるけれど上司になる人物の人柄も重要になるであろう。それだけではなく部隊歴や戦歴も多分に関係する、それらを踏まえてカリスマなどと称するのであろう。

 では傭兵団ではどうであろうか?もちろん規律もあるであろうが騎士団のような厳しいものは無いことであろう、となれば組織を運営する上で重要になるのは人柄であろう。傭兵の中には金で動く人物も居るであろうが金を払うのも又組織の運営者である。金払いのいい運営者は傭兵の中において人気が高かったりするけれど、金払いのよさと言うのも運営者の采配であるので人柄につながるのである。

 夜梟において金銭感情で所属している人物が少ないことはマスターであるレンの人柄がいいことを示しているであろう。

 少し脱線してしまったが、適度な緊張と気の抜ける雰囲気は纏める人物に左右されることを言いたかったのである。


「わかってますぜ、まぁ感謝の言葉は改めてこの戦争が終わってからにしますわ」


「そうしてもらえると嬉しいかな、当面は生き残ることに主軸をあわせていこう」


 男同士の会話をシーアは編成に頭を悩ませながら聞いていた。一刻一刻と時間は過ぎて行く、まだまだしないといけないことはあるのだから……

 梟の出陣まで時間はもう少しである、気丈に振舞う仲間を失うことがないようにレンも心の中で決意を新たにする。

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