第2話
店内を歩く二人組の女性に中ほどで男三人で気分良く酒を飲んでた同業者の一人が気づく、同じテーブルで今日の獲物は凄かったとかお前は何もしてないじゃないかと声を上げてる仲間に話を振る。
「おいおい、ありゃ、ラークの所のおっとりお嬢さんと愛想なしじゃないか」
冒険者の中でも最近勢いがあることで有名になりつつあるラークのパーティーを知ってる者も増えてきている。
「ん、そうだな。どっちもイイ女だがお前みたいな弱い男は相手にしないだろ」
相手にされないのだから気にするなと無精髭の男が元の話に戻ろうとするが、言われた男は気にせず会話を続ける。
「二つ名は確か殲滅姫と連撃姫だったけな、二つ名が付いているなんて凄いよな」
冒険者にとって受けられる仕事の難易度が上がることも名誉なことであるが、それ以上に二つ名を持っている方が周りから尊敬される。二つ名を付けられるほど知名度があり活躍している事を示しているからだ。
元の話が無かったように目の前の女性の話で盛り上がり始める、無精髭の男の隣で今日何もしてなかったと言われていた片目の男が感心するように話に乗る。
「しかし、おっとりしてる性格なのに範囲魔導に関してはピカイチのリリー嬢と、二刀流で相手に休ませる時間を与えずに殲滅しちまうシリル嬢か・・・」
「でも、まぁ欠点が無いわけじゃない。リリーはクイックが出来ないらしいし、シリルも手数が多いが一撃一撃が軽いから幾らでも対処はできるだろ。対人戦闘なら負ける事はないと思うがな」
不精髭の男がロックグラスの酒を飲みながら、個人的な見解を仲間にする。
「今のは一対一の話だ、これが集団戦闘だと重撃のライと一閃のラークが居るからな、俺達じゃ無理だな」
まぁ、こんなくだらん話なんか止めて、今日の反省とこの後の女の話でもしようやとグラスの酒を飲み干す不精髭の男に仲間もそうだなと同意して時間が流れていく。
酒の肴にされていた事なんて知らない二人組は、店内の奥の一段低いスペースを降りていた。この場所は常連ぐらいしか使わない場所でマスターのお気に入りの場所でもある、梟の止まり木亭に通う者達の常識となっている。
階段を降りきった先で、ソファーに座り何かの書類に目を通してる男の姿が視界に入ってくる、シリルは普段通りを装いながら、書類と格闘しているレンに声をかける。
「こんばんは、マスター」
書類に目を通していて二人が居ることに気づいていなかったレンが書類に落としていた目を目の前の女性達にむける。
「あぁ失礼気づきませんでした。こんばんは、シリルさんもリリーさんもいつも贔屓にしてもらってありがとうございます。今日もゆっくりとしていって下さい」
マスターの優しい声を聞いただけでシリルは自分の体温が上昇しているように感じながら、顔が赤くなってないか声は裏返ってなかったかなど不安になりつつも平静を装いながら自分の中でお気に入りになってるカウンターの端に座る。狭い空間であるがレンからは一番遠い場所になるこの席をシリルは気に入っている、レンの顔を伺っていても比較的にばれにくい場所であるからだ。今は遠目に顔を見れるだけでも幸せだと思っている。
二人が席に座ったタイミングでウエイターの一人である女性が飲み物を持って階段を降りてくる。リリーとシリルの前にそれぞれ飲み物を置き「ごゆっくり」と一声掛けて下がっていく。
とりあえず当面の目的だったレンの顔を見て会話も出来たのでシリルはリリーと今日の戦闘についてや明日の予定を決めるために会話をはじめる。
一方でマスターであるレンの顔は書類の束の一枚で険しい顔に変わりつつあった。仕入れの書類でも売り上げの報告書でもない報告書に目を通している。
書類の中間ほどまで来たところで読むのを止めてテーブルに投げ出してしまう、次の書類を持ってきたシーアに対して呟いてしまう。
「これは本当ですか?」
「報告書の評価として八割は事実ですね、残りの二割に関しては曖昧な情報でしたので現在裏取りをさせています」
近くに他の客が居るので大きな声で会話は出来ない、しかし報告書に書かれてることが重大なのか声が自然と低く小さくなっていた。
「そうですか・・・、この件に関しては今は保留にしておきます。シーアもいいですね?」
普段からは想像できない真剣な顔をルーアに向ける
「かしこまりました、マスターの判断にお任せします」
一礼してしーアは個人の作業をしている二階に向うため踵を返して動き出す。
その時である、店の入り口が勢い良く開く、店内で飲食している客達が何事かと入り口のほうを伺う。皆の視線を受けて店内に入ってきたのは身長180cmほどでブロンドの髪を綺麗に整えていて顔つきも悪くない、着ている服も冒険者などと比べると高そうな生地を使ってることが一目瞭然で清潔がある制服を着用している。しかし今はその見た目も良く女性にモテそうな顔には焦りからか額に汗を滲ませている。フリージアにある王立騎士団第三支部の騎士団長をしてるシズである、ただし慌てている理由も分からないし梟の止まり木亭に顔を出してることも分からず飲食してる客だけでなく従業員も何事かと様子を見ている。
静まり返った店内を見渡すシズ、誰かを探しているようだ。ここで探し人が居なかったのだろうかカウンターにいるリックに対して話しかける。
「仕事中にすまない、今日はレン殿が此方に来ている日だと聞いている。レン殿はどこに居る?火急の用件である、レン殿に取次ぎを願いたい」
勢いがある話し方にリックもあまり良いことでない事が予想できたのかも知れない、言葉少なく奥に一段低い場所がある、其処にマスターは居るから行けば良いと声を掛ける
「ありがとう、失礼した」
お礼の言葉を早々に急ぎながら言われた場所を目指す。周りの様子を伺う客など気ににも留めていない。シズを知ってる者が店内にもちらほらと居たが普段のシズからは想像できない姿だったのだろう、声さえ掛けることが出来ずにいた。
騎士団長であるシズが火急の用件だと言っていたことも慌てる姿も、この場所で飲食している者達を不安にさせていた。