第28話
空を見上げれば曇天で、今にも大地に雨を降らしそうな雰囲気である。
北門が破壊された事でリング王国が断然不利になった状況下であり、北門を死守しているレリーにも疲れが見えていた。
そして、ついに敵に動きを見せ始める、敵の動きで危険を察知したレリーの判断によって先手を打つことが出来たが敵も唯では攻撃を喰らってくれないようである。
敵は少なくは無い死傷者をだしているが、指揮官の指示か素早く陣形を建て直し北門に対して進撃を開始する。瞬く間に高速移動を駆使し約千人が突破しようと襲い掛かってくる。
門では冒険者、傭兵、騎士団の兵士が防御を固めてまちかまえているのだが、突撃してくる魔導師に恐れを抱き逃げ出そうとしている者さえ居る。
防壁の上からリング王国兵と傭兵の魔導師が遊撃を開始するが、相手は高速移動を駆使する魔導師部隊で人数が多い……、狙いをつける事も間々ならない状況になっていた。
ここで広範囲魔法を使用する手もあるが、広範囲魔法は発動までには時間が掛かる上に味方の兵士を巻き込む恐れまである。
苦渋の決断として防壁上から素早く撃てる魔法を、数を撃つ事で対処するしかなかった。
「このままでは、門を通過されるのは時間の問題だろうな……。
どうにか、増援がきてくれれば……」
伝令を走らせている……、もし騎士団本部が無能で無ければ増援が必ず来るとレリーは信じるしかなかった。
魔法を撃ち続ける兵士や傭兵、投石を行っている兵士を見渡せば、皆表情は死守しようと必死の形相になっている。
敵軍が門に近づくにつれ攻撃は激しくなっていくが、敵の魔導師も防御魔法を展開しつつ距離を詰めている。
中には門を死守する兵士と直接刃を交えている場所が出始めている……。
「ここを通すな!! 何としても死守するぞ!」
敵の魔導師が目前に迫る、敵に向ける切っ先は震えている……。しかし、ここを通すわけにはいかないと門で構えている兵士達も奮起している。
だが、相手は魔導師である。即時発動法を使用されれば、一兵士に防ぐ手段などない……。
一人、また一人と門を守る兵士が倒れていく……。あるものは業火に焼かれ、声にならない声を上げ……、あるものは風の刃に頭を刎ねられて息を引き取っていく。
梟の団員達も健闘をしているが、一度に相手に出来る人数などたかが知れている……、戦争とは数が必要だとわかる瞬間であった……。
門を守る兵士と敵の魔導師との戦闘が本格的になり、防壁上からの攻撃は仲間を巻き込みかねないと判断をレリーは下し、防壁上の兵士も下へ降りて戦闘に参加する様に指示を出す。
北門での守る者と攻める者の攻防が激化していく……。
お互いに向かい合い、どれ程の時間が過ぎたのだろうか……。
白銀の甲冑に黒いガントレットの男と黒いローブを着込んだ男が、ただただ見つめ合っているようにしか見えない。
この状況になってから初めての変化がガントレットの男、ボークスによって齎される。
一瞬体勢を沈めたと思った瞬間には、一気に距離を詰めていた……。
予備動作なしによる高速移動である、相手との距離が手が届きそうなくらいの距離になっている。
とっさにローブ姿の男、サザナミが魔法障壁を展開してボークスの攻撃に備えているが、ボークスの右のストレートによってサザナミが展開していた障壁は消滅していた。
先ほどまでのボークスの両腕には変化など無かったが、障壁を打ち砕いたボークスの両腕には青い炎がガントレットを包み込むように発現していた。
サザナミはボークスの両腕の炎を確認して、一旦距離を離すためにバックステップに高速移動を織り交ぜて後ろに下がる、サザナミが下がった事で距離は十メートルほどに広がる。
距離を開いた瞬間にサザナミも攻撃にうって出る、手をボークスの方へと向けると一瞬にして六つの魔法陣が展開され、それぞれからボークスに向かって火の弾、氷の弾、石の弾が飛んでいく。
ボークスに魔法が届いていないのにサザナミは次々と魔法陣を展開していく、一つの魔法陣が発動すれば次の魔法陣を展開していく。ボークスには魔法の弾が雨のように降り注いでいる。
すでにボークスに最初の魔法が到達してから五分ほどサザナミの攻撃が続いている、攻撃の中心に居るであろうボークスは砂埃で見えなくなっていた。
ここでサザナミが一旦攻撃の手を緩める、ボークスが倒れたのかそれとも攻撃に有効性が見出せなかったのか……。
ボークスを遮っていた砂埃が晴れてくる……、そこには殆ど傷を負うことなく佇むボークスが居た……。
サザナミを見つめたままのボークスが口を開く。
「貴様に聞きたいことがある……」
ボークスの発した言葉に、静かに相槌を打つ仕草を返す。
「何ゆえに自分の国でもない、この国のために命を掛ける?」
サザナミの相槌を肯定の意味として捕らえて、質問を投げかける。
「この国には恩がある……。それに傭兵として雇われている。
仕事をこなしているだけだ……」
サザナミが淡々と答える。
「そうか……。ならば金を払えば我らに仕える事もありうるのか?」
「それは、無いだろうな……」
分かっていて質問をしているのか、相手の答えも予想していたようである。
「お前達は何の為に戦うのだ……、恩だけではあるまい」
「そうだな……、如いて言えば平和のためかな……」
サザナミの答えにボークスが意外そうな顔をする。
「ほう、傭兵であるお前たちが平和を口にするか……。
矛盾しているとは思わないのか?」
「確かに矛盾しているように思うだろうが、俺達の手で戦争を終わらす事が出来る」
一旦話すのを止めてサザナミが一息入れて、また話し出す。
「そして、相手に戦ってはダメだと思わせる事で、抑止にもなると思っている……。
俺たちが居る国には戦争を仕掛けることを躊躇うようになればいい。
俺は皆が笑って暮らせる国が欲しいんだ……」
「それは偽りの平和だな……。
誰かが犠牲になることで成り立つ平和だ……。
それだけは無い、我らのような強靭な軍に攻められる事は防ぎようが無い……」
今度は此方の番だと言わんばかりにボークスが話を続ける。
「我らルーランド帝国はこの大陸に覇を唱える。
大陸を一つにするために今こうして出向いている!
平和を願うのならば、一つの国に統一されれば成せるぞ!」
「それこそ、偽りの平和ではないのか!
今の元ライド王国がどうなっているか知っているか?
ルーランドに負けて統合されたはいいが、ライド出身の人間と言うだけで、ルーランド人に蔑みを受けている。
それだけならまだ耐えることもできるだろう……。
しかし、お前達は今なお罪無きライド出身の人間を反逆の恐れがあるとして殺している。
同じ国になって尚だ……。統一されれば平和になるわけがないだろうが!!」
サザナミの言っている事は事実である、軍事統一を受けたことを不服とする人間は少なからず元ライド王国内に居る。しかし、ルーランドとしては統合した国で反逆が起きる事は望まない……。
反逆を未然に防ぐために、危険思想を持つものや発言力のある者を捕らえては公開処刑を行う事で、歯向かう事がどれほど愚かな事かを知らしめていた。
「それも、大陸が統一されれば無くなるであろう……。
私は、あの二人に平和を感じて生活をして欲しいのだ……。
この狂った世界は一つになることで正常な道を歩む事が出来ると私は確信している!!」
ボークスが視線を向けた先には、シーアとウテナを相手に戦うメイド二人の姿が見える……。
「自分達の平和は自分達で勝ち取るしか得る事は出来ない……」
サザナミがボークスに届くかギリギリの声で呟く……。
「誰かから享受する平和は楽だと思う……。争そい事の無い世界を何回夢に見ただろう……。
ザックさんが私に託した思いも同じ……、笑って暮らせる国を作る事だ。
今、血を流す事で後の平和に繋がるのなら、幾らでも流そう!
ボークス! 貴方の考える平和を私は享受する気はない!」
ボークスの顔には哀れみが現れている……。
相容れない考えだと分かってしまった。
「そうであるか……。ならば障害は排除するしかないな……」
再び両者の間に緊張感が高まる。
その時である、北門の方から爆発音が聞こえてくる。
ボークスもサザナミも自然と視線を向けてしまう。
防壁上から待機していたルーランド軍の前面に向け魔法による攻撃が行われていた。
ボークスが攻撃を受けているのを確認すると、踵を返してサザナミに背を向ける……。
「折角の戦闘であるが、我がルーランド軍の一部が水を差したようだ……。
この戦いは預けておく……」
敵であるサザナミに背を向けたままボークスは自陣に向かって歩き出す……。
背を向けているボークスは無防備だが、何故かサザナミは攻撃をする事が出来ずに居た……。
「メメン! モリン! 戻るぞ!!」
戦闘中のメイドを呼び戻す。
「ボークス様に呼ばれましたので、この戦いは終わりですわ!
それではごきげんよう!」
「ボークス様に呼ばれたからお仕舞い、またですの!」
ウテナとシーアを相手したメメンとモリンは、戦線を離脱しボークスの所に駆け寄っていく。
ウテナとシーアであるが、戦いが激しかったのか追うことが出来ないようである。
去っていく二人を見つめる事しか出来ない事に対してウテナとシーアは悔しさが表情に浮かんでいるた、それほどにメメンとモリンは強かったのだろう……。
「先任参謀よ! あれはアーカディア将軍の部隊か?」
自陣に戻ったボークスが先任参謀を問いただしている。
「はっ! 左様でございます。
ボークス将軍が戻るまで待つように言ったのですが聞く耳を持っておりませんでした……」
先任参謀が申し訳なさそうに発言している。
「よい! 気にするでない……。
先任参謀の言う事に耳を貸さなかったアーカディアが悪いのだ」
ボークスの表情に怒気が見て取れるほどに変化していた。
サザナミとの戦闘に水を差されたことに対してか、それともアーカディアの身勝手な判断に関してなのかはボークス本人にしか分からない事であろう……。
「今から攻撃を開始する! 目標はアーカディア将軍率いる魔導師部隊である!」
ボークスの口からでた言葉に周りにいる参謀達の表情が固まる。
「あれらは我が軍の一部ではない……、軍規を乱すものに用はない」
戦場において軍規を乱すことは死を持って分からすほかない。軍規を破る事で他の者達を危険にさらす行為であるからだ。
先任参謀はボークスがこうなる事を予測していたが、アーカディア将軍には予測できなかったのであろう……。
いざ、ボークスの命で進撃を開始しようとしたときである。
またもや戦況が大きく動く事になる、北門の方から上空に向かって魔法が三発打ち上げられたのである……。
それが、対話を行いたいときに使われる信号である事は兵士であれば誰でも知っていることであった。
大変お待たせしていました! 更新が遅くなりまして申し訳ないです。段々と話が加速していくはずなんですが、上手く表現出来たか不安です……。それでも読んでくださる皆様に伝わるように、これからも一生懸命書いていきます。今後も亡国の騎士団をよろしくお願いします。ではではでは




