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亡国の騎士団  作者: 雲ノ上
~序~ 動乱不運を告げる
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第25話

 ボークス将軍の降伏勧告は伝令によって、騎士団本部に伝えられていた。

 

「攻撃の準備を怠るなと各指揮官達に伝えるように!」


 騎士団本部の決断は開戦以外になかった。今、降伏すれば死亡する兵士はいないかもしれない。

 しかし、何もしないでの降伏など王国の威信にも関わる。また、それ以上にルーランド帝国との関係を気にしていた。

 あくまでも、リング王国としては停戦協定を結び、平等な条約を結ぶ事を目的としていた。

 降伏を受け入れると言うことは、相手の言うがままの不平等な条約を受け入れるしかなくなるからである。

 幸いな事に、ルーランド帝国の兵士は此方を攻略するには数的に足りていない。

 防衛戦を行い、相手の戦力をさらに減らすなり出来れば、向こうも此方から提案する停戦に応じるとエイド将軍以下騎士団本部は考えていた。

 この作戦は、ルーランド帝国に増援が無い事を前提として考えられた物であった。この時点で、作戦としては破綻しているのに騎士団本部の将軍達には気づいている者が居なかった……。

 





 ボークス将軍が伝えた一時間が経とうとしていた。

 防壁の上で待つ兵士達は、この一時間が一日にも感じられるほどの緊張を強いられていた。

 緊張が高まる最中、敵の部隊で動きが起こる。一人の男がボークスに近づいていく。


「ボークス将軍、お時間になります。決断を!」


 ボークス将軍の後ろで控えるメイドの間に片膝を付き頭を垂れて報告しているのは、先任参謀であった。


「そうか……。先任参謀セサよ、この王都攻略戦の初手は私が行う。

 それまでは、この大剣より先には兵士を送るなよ!

 私の攻撃に巻き込まれたいなら話は別だがな……。

 メメンとモリンよ、門までの護衛を任せる!

 付いて来い!!」


「はいですわ!ボークス様」


「はいですの!ボークス様」


「畏まりました。ボークス将軍の武勇を後ろで拝見させていただきます」


 先任参謀は何事も無かったかのように自陣に戻っていく。






 大剣に両手を付き静かに待っているボークスの後ろに部下が近寄り、何かを伝えている。

 用件が終わったのか数分の出来事で、部下は敵陣に戻っていく……。するとボークス将軍の後ろに控えるメイド達が徐に立ち上がる。


「時間になったが開門される様子が無いゆえに決裂と判断し、今から我がルーランド帝国軍は交戦に入る!!」


 ボークス将軍の声が響き渡る。

 宣言が終わるとボークス将軍とメイドが門に向かって歩き出した。

 この姿を防壁の上から見つめていたレリー以下、リング王国騎士団の面々は呆気に取られていた。

 それもそのはず、本来であれば歩兵や工兵が波になって門に突撃するのが普通であったからである。

 ましてや、将軍自らが先陣を切って先頭を歩くなど、戦術を心得る者からしたら常識外れの行為であった。


「ま、魔導師部隊!攻撃はじめ!」


 レリーの号令で、レリー配下の魔導師達及び、冒険者と傭兵の混合部隊が一斉に攻撃を開始する。


「と、投石部隊も攻撃はじめ!」


 慌しくレリーの命令が飛び交う。

 サーヤ率いる部隊もボークス将軍を目標に定め、攻撃を開始する。


「さすがにボークス将軍と言えど、これだけの攻撃を凌げるはずは無い!」


 サーヤの願いにも似た言葉が口からこぼれる。


「ボークス様の進む道に邪魔はさせないですわ!」


「ボークス様の進む道の邪魔はさせないですの!」


 メイド二人がボークスの前に出たと思ったら、魔法障壁がボークスを守るように展開されている。

 防壁上から繰り出される魔法の全てをメイド二人の障壁が防いでしまっている。魔法障壁はそこまで強い魔法ではないはずだが、メメンとモリンの魔法障壁は悉く魔法を防いでいる。


「そ、そんな……馬鹿な……」


 レリーの驚きの声が上がる。これには、サーヤも同じだったようで驚いた顔をしている。

 攻撃が防がれている内に、ボークス将軍は門の目の前に迫っていた。


「ボークス様に傷を付けたいのなら、降りてきて攻撃すればいいのですわ!」


「ボークス様に傷は付けさせない!私達を倒せたら話は別ですの!」


 ボークスを守るメイドが城壁を見上げながら啖呵を切る。


「ええ!なら殺してあげますえ!」


「あら!珍しく意見が合ったわね!」


 メメンとモリンの表情が一変する。

 突如として二人の背後にウテナとシーアが現れ、メイド二人を吹き飛ばす。

 辛うじて、攻撃を防いだメメンとモリンはウテナとシーアに釘付けになる。


「小娘が粋がってはいけませんえ!」


「傭兵をなめてると怪我するわよ!」


 ウテナはメメンとシーアはモリンと対峙する形になる。


「ボークス様、少し離れますわ」


「ボークス様、うざいの処理してきますの!」


 ボークスは振り返ることなく一言だけ声をかける。


「負けるでないぞ!」


「はいですわ!」


「はいですの!」


 ボークスを守るメイドが居なくなったことで、今度こそ攻撃が通用すると思われたが、ボークスは両腕につけているガントレットで魔法を打ち消していく。


「まさか、ボークス将軍は魔導拳闘士か!」


 サーヤが指摘した通りである、ボークス将軍は魔導師としては欠陥品であり、魔法を遠くに飛ばしたりする事が出来ない。

 魔法陣は正確に書いているにも関わらず、魔法を発動している本人の体的な構造なのか、ボークスの手の届く範囲しか魔法の効力を得る事が出来なかった。

 いまだにルーランド帝国で研究は進められているが、原因の究明に至っていないのが現状である。

 ボークスは魔導師としての才が無かったが、接近戦に置いて才能を発揮する事になる。

 魔導師としての不足を格闘術と併用する事で、ボークスはライド王国の戦闘で戦果を上げたのである。

 

 防壁上から繰り出される攻撃を物ともせずにボークスは、とうとう門に辿り着いてしまう。

 門に辿り着かれてしまったために、魔法での攻撃が出来なくなる。レリーは防壁上から石を落とすように指示を切り替える。


「急げ!!敵将は眼下である!」


 レリーの指示で兵士が慌てて石を運ぶが、間に合いそうに無かった。

 


 ボークス将軍の手が門についてしまう。しかし、この巨大な門を一人でどうこう出来るとは考えにくい。

 ましてや、鉄で出来た閂がかかっている。この門を攻略するには何千と兵士が突撃を繰り返してやっと突破できるかと思われるほどの強固さを持っている。

 ボークスは手の届く距離で体を右に捻り、力を溜める格好になる……。

 次の瞬間、ボークスが力に任せるように門を殴りつける。右のガントレットに包まれた拳が門に当たると同時に門に魔法陣が一瞬浮かんだと思ったら……。

 

 ドゴォォォォォォォン!!!

 

 爆風が周りに強烈な熱風と門であった物を周辺に撒き散らす。

 たった一人の男に、強固な門は一瞬にして崩壊してしまう。あまりの衝撃だったのか、門の上に居た兵士達が衝撃で倒れたりしている。


「門が……、門が……破られた……。

 で、で、伝令!!本部へ報告を、報告を上げろ!!」


「た、隊長!!敵軍に増援の影あり!!ものすごい速さで此方に向かっております!!」


 伝令を呼びつけるレリーに対して、望遠鏡をのぞいていた兵士が悲鳴に近い声を上げている。

 門はボークスによって破壊され、敵の部隊は損傷が無い状態で増援が向かっている……。


「お、終わりだ……」


 防壁の上に居る兵士も、冒険者や傭兵でさえ呆然としてしまうほどの呆気無さであった。


 


 ボークスは破壊した門を一歩踏み入れようとした瞬間、なぜか伸ばした足を戻してしまう。


「ふむ、強き者の登場であるかな?」


 誰も居ないように見える目の前に、語りかける。

 すると、風きり音と共に砂埃が昇る、何者かの地面を滑りながら止まる音がする。

 

「ザックさんが稼いでくれた時間が無かったら、今この瞬間、この時に間に合っていなかった。

 この数時間が貴方にとって後悔する時間になるよう、私が全力で相手をしよう!!」


 ローブ姿に両腕に包帯を巻き、頭髪は白髪に前髪に黒のメッシュ。歳はまだ若そうな男が立っていた。


「ほう、中々の面構えだな。

 我が名はボークス!

 貴殿の名を問う!」


「私は傭兵団梟の団長、サザナミだ!」


 サザナミの名を聞き、ボークスの顔色がさらに変わる。


「なんとも懐かしい名を聞いた。そうか、そうであるか!!

 これで、全てに納得できた!」


 ボークスの表情には笑顔が張り付いている。


「そうか、あの時の小僧であるか……。

 ザック殿と良い、今回のリング王国との戦争は私を楽しませてくれる!!!」


 ボークスは門を潜ることなく踵を返し、目線で付いて来いとサザナミを促す。

 





 リング王国王都まで、あと僅か。目の前にまで迫っていた。

 防壁の前に陣取る自軍が視界に入っている。アーカディア率いる魔導師部隊が少し遅れたが到着する寸前であった。

 まもなくという時に、前方で爆発音が鳴り響く。


「もう、始まっているのか……。

 ボークス将軍も我らが到着するのを待っていただけたら良いものを!!」


 アーカディアが前方を注視している。


「ボークス将軍はああ見えて、時間や作戦に忠実な男ですから」


 部下の一人がボークスを評する。


「それは分かっておるが、我らが駆けつけた意味がなくなるではないか!」


「攻略戦は、そこまで早く済むようなものではないですよ。

 我らの出番もありましょう……」


「で、あれば良いがな……」


 アーカディアは早く戦闘に参加したいのか、一段と速度を上げてボークス将軍の下に向かっていた。

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