第24話
リング王国王都ザバ。王が住まう王城を中心地に頂、王城の周りは城壁と堀により守りが強化されている。
王城を中心に市街地や住宅地が広がり、王都の外郭に王都防衛の為の防壁が築かれている。
王都築城から時間も経ち、王都に住まう住民が多くなるにつれ外郭の防御壁の改修工事は幾度と行われてきたが、ここ近年は王政の政策により兵士数の削減だけでなく、防壁の改修工事の資金削減も行われていた。
よく見て回ると補修が必要な箇所はいくつでも確認する事が出来る……、その防壁の上を兵士達が行き交っている。
特に、北門の周辺は兵士の行き交いが激しくなっている。すでに門は閉門されており閂が掛けられて出入りが出来なくなっている。
見張りの兵士達が、北の方角を望遠鏡を使いながら警戒に当たっている。
昨日、オール砦に向かった仲間達が還って来た、かなりの数を失っての帰還であったが有益な情報を持ち帰ってくれていた。
攻めてくるルーランド帝国の部隊数や指揮官などの情報がもたらされた事で、リング王国の兵士達の不安は少しは解消されていた。
見張りをこなす兵士の後ろには、何時敵が攻めてきても良い様に魔導師部隊も配備されているが、数が少ないように感じられる。
「騎士団本部の考えが分からん……、重要な防衛戦なのに配備されている魔導師が少なすぎる……」
北門に詰めている兵士の取りまとめを行っている、警備隊の隊長のレリーは上層部の配置方針に疑問の声を上げていた。
「何でも、王城の守りの方がプライオリティーが高いと判断したようです……」
レリーの後ろに控えている兵士が、本部の方針を口にする。
「それは分かるのだが……、ここが落とされれば国民に被害が出るではないか……」
「国民よりも王族の守りが大事なのでしょう……。
こちらの兵士の不足分に関しては、冒険者と傭兵で補うようにと命令が出ております……」
レリーが後ろを振り返ると、思い思いの格好をした者達が地面に腰を下ろして雑談する姿が視界に入る。
「使える者は使えと言う事だろうが……、いざ!と言うときに士気が乱れそうで私は怖いんだ……」
「隊長の心配は分かります……。
ですが、もう決まってしまっています。この戦力で戦うしかありません……」
「分かっている、分かっているんだ……」
王都防衛戦の為の戦力であるが、王都に残っている魔導師が約三千人強であった。
騎士団本部は二千名を王城防衛に回す事を決定、防壁への戦力としては千名を送る事にした。
足りない戦力は、冒険者並びに傭兵を使う事で解決できると判断。
防壁の兵力は魔導師千名、歩兵と工兵を四千名、冒険者、傭兵の千名合わせて六千名とされた。
この決定に対して、王城の守りに魔導師を割りすぎだと疑問を呈する声が上がったが、本部としては王城の守りに正規の魔導師や工兵、歩兵以外を使う事に難色を示した。
どこの馬の骨とも分からない者に王城の守りを任せられないと言うのが本音であった。
防衛に当たる各将軍の声を無視した形になるが、王都防衛に必要となる相手戦力の三倍を保持している為に、騎士団本部の決定に従うしかないのも事実であった。
そして、現在の状況に至る。
「親父達が稼いだ時間は何だったんだ……。これじゃ、親父達の頑張りは意味が無いじゃないか!!」
北門の防壁の片隅で敵の襲来を待つ者の一人が声を荒げていた。
「無意味なことはない!こうして兵士の配備する時間と対策をする時間を我らに齎してくれている!」
「その配備された魔導師の少なさや、本部の判断は間違っている事に皆気付いているだろう?
こんな判断しか出来ないのなら、親父達が命を賭ける意味など無いじゃないか!」
アルの言っている事に、サーヤはこれ以上何も言えなかった。
「アル、そんなことはないわ……。
今、団長が治療を受ける事が出来ているのもザックさん達が残ってくれたお蔭なのよ。
意味が無いとは言わないで!」
シーアがアルの肩に両手を置きながら、話しかけている……。シーアの瞳に涙が溜まっている事に気付き、今度はアルが黙ってしまう……。
現在、団長であるレンは王都に居る梟の仲間の一人の治療士の元で、両腕の治療に専念していた。
レンの両腕であるが、両腕の内部が焦げ付いている状態である。
魔法陣は完成したら無条件で発動する。
それを、発動させない方法は魔法陣を体内に保持するしかない。体内に保持され続ける間は、完成していても発動はしないからである。
レクト将軍の部隊を殲滅させるために、レンは両腕に広範囲魔法を三つも保持していた事になる。両腕に集まった魔力により、レンの両腕の内部は魔力焼けを起こしていた。
レクト将軍の部隊との戦闘でフッカ達が見た、レンの両腕から淡い光が蒸気みたいに立ち昇っていたのは、両腕に集まった魔力で魔力焼けを起こした時の症状だったのだ。
ザックさん達が、レンを戦場から逃がしたのも両腕が使えないことを見越しての判断だった。
だからこそ、今レンが治療を受けれているのだ。
「敵の部隊を視認!!敵の部隊を視認!!」
梟の面々のことなど知る由の無い、見張りを行っていた兵士の一人が大声を上げている。
「ルーランド帝国軍の姿を確認!!」
瞬く間に、防壁の上は慌しくなる。騎士団本部に伝令に走る兵士の姿、配置に付く兵士達。
「こちらに到着するのに一時間と掛からないと思われます!!」
部下の一人がレリーに進言している、サーヤもレリーの元に駆け寄り状況把握に努める。
「サーヤ殿、傭兵との混合の魔導師隊でも問題はないか?」
「彼らは、歴戦の兵士と変わらない。こちらは何時でも戦闘に入れる!」
防衛戦でサーヤの下に割り振られた兵力は魔導師五百名と傭兵団梟だけであった。それでも、梟を自分の所に入れることが出来たのが、せめての救いであった。
「かならず、この防衛戦を勝とう!」
「かならず!」
歩兵、工兵が投石準備に入るのをレリーは見つめながら、この防衛戦で必ず勝つと心に誓っていた。
万を超える兵士が歩く事で起きる地響きが凄い音と振動を齎している。
防壁の上に居るのに、地面が揺れている振動が伝わってくる。人が歩くだけでこれだけの振動が起きるのだと改めて畏怖を抱く兵士も少なくないだろう……。
北門側防壁の一キロ程手前で一斉にルーランド軍が停止する。一糸乱れぬ動きをする兵士を見れば、錬度の高い部隊だと一目瞭然である。
停止した部隊から、男が大剣を肩に担ぎながら北門に向けて歩いてくる。
白銀の鎧に不釣合いな黒いガントレットを装着し、後ろにメイドらしき従者を二人連れて歩く姿は、優雅と表現したくなるほどである。
門との距離が二百メートルほどのところで男は立ち止まり、肩に担いでいた大剣を地面に突き刺す。
突き刺した大剣は戦闘で使用するような無骨な物でなく、所々に装飾がされた儀式で使うような大剣であった。
男は大剣に両手を乗せると、後ろに控えていたメイド達がマントを広げ男の肩に装着する。マントを装着し終えるとメイドは後ろに下がり方膝を付きながら頭を垂れて待機する。
赤地に黒糸で頭蓋骨が、頭蓋骨の周りには白糸で散り逝く花弁が刺繍されたマントを羽織る男が、口を開く。
「我が名は!ルーランド帝国軍将軍が一人、ボークス・バッハである!!
リング王国王都攻略戦の全指揮を取るものである!!
今から述べるは、ルーランド13世の言葉として受けとられよ!
我が帝国は、無駄な争いを望まぬ!故に、リング王国の全面的な降伏を求める!!
我が帝国の申し入れを受けるならば、一時間の内に門を開門されよ!!
一時間を以って尚、門が開かぬ場合は受け入れる事が叶わぬと判断し、交渉決裂としてルーランド13世の名に置いて開戦を伝える物とする!!
リング王国の懸命な判断を期待する!!」
降伏勧告を宣言したボークス将軍は、陣地に戻ることなくその場で立ち続けている。
「おお!そうであった!!
我が部隊の足止めを行った者たちは、とても勇敢で責任感に溢れる者達であった!!
余興と思っていたが、彼らと対峙して考えを改めさせられた!
自らの死を受け入れて尚、立ち向かう姿は賞賛に値するもであり、故に、我が直接戦わさせて頂いた!!
そして、素晴らしき戦闘であった!
梟と言う傭兵団の者に、我が声が届いているならば団長に伝えよ!!
いい部下を持ったことを誇りとするべし!!と。
そして、我はその団長とやらと戦う事を期待している、とな」
ボークスがザック達と戦った事を言っているのだろう。そして、ザック達が死した事も伝えている。
「お、親父……」
防壁の上で、アルが涙を流していた。握る拳に力が入って自分の爪で手のひらからは血が滲んでいるほどであった。
しかし、アルは怒りに任せることなく、静かにボークスを睨みつける。
親の敵を目に焼き付けているのだろう。今はまだ、攻撃出来ない。だが、火蓋が切って落とされれば、あいつを真っ先に殺そうと心に考えているのかも知れない。
「アル!仇は貴方では討てない……。
でも、サザナミなら必ず仇を取ってくださるわ。
いいえ、違うわね……。
私達で必ず取って見せるわ!!」
マリーやウテナ、アリアだけでなく、他の団員達もアルの後ろに真剣な表情で立っていた。アルの気持ちを理解している者たちばかりである。
ルーランド帝国とリング王国による王都防衛戦まで、残り一時間を切っていた。




