第23話
騎馬隊が全滅したルーランド帝国軍であるが、それでも圧倒的な数字の利はルーランド帝国側に未だにある。
ザックたちの部隊は最初の攻撃を終え、すでに魔力が枯渇し倒れる兵士が幾人か出ていた。
元々から予測できていた事態であるが、それでも戦力が落ちている事には変わらない。
自分達が全滅するまでに、ルーランド帝国軍の戦力を出来るだけ削りたいのが正直な気持ちである。
「次は何が出てくるかな……、さっきみたいには行かないだろうしな……。
警戒されているだろうし、こっちが魔導師しか居ないことにも気付いているだろうな……」
「でしょうね、出来れば魔導師か敵の大将が出てきたら嬉しいですね……」
ザックの心配をよそに、部下は冗談で返している。
しかし、話している二人だけでなく周りに居る兵士達の表情にも魔法の使用で疲れが見え始めている。
体に掛かる負担が大きいのだろう……、それでも各人の目には強い意志が燃えている。
「やっと、敵さんが動いたようだが……。
まさか……な」
少し遠いが目を凝らして、敵陣地を見つめる。
動いているのは一人の様であるが、その人物が遠目でも分かるほどの威圧感を感じる。
「隊長、俺王都に帰ったら予言者にでもなりますわ……」
「おいおいおい、あの黒いガントレット……。
カタストロフこと、ボークス将軍じゃねーか!」
ザックだけでなく、周りの兵士にも動揺が広がる。
確かに自分達が生き残るには、大将が出てきて戦う方が話が早いと思っていた。
しかし、実際に大将が出てくる事など誰も期待していなかったのが本音であろう。
「隊長!今がチャンスだと思います!一斉攻撃しましょう!」
こちらに歩を進めるボークスの周りには護衛の兵士など居ない、確かにチャンスである。
「よし!一斉攻撃を行う!測距兵、距離知らせ!」
ザックの命で距離が上げられていく。
「敵まで八百メートル!!射程内です!」
「目標、敵大将!!うてぇぇぇ!!」
ザックの号令と共に三十近い数の炎の塊が、相手を燃やし尽くさんと飛来していく。
飛んでくる魔法が見えていないのか、ボークスは歩みを止めることなく進んでくる。
こちらが放った魔法は瞬く間にボークス将軍との距離を詰め、炎の塊が次々とボークスの付近に着弾していく……。威力が大きいので着弾と同時に周りの土を吹き飛ばし、砂埃でボークスの姿が視認出来なくなる。
「やったか?砂埃でよく見えんな……」
あれだけの数をまともに受ければ、どれだけ強靭な体をして様とも無傷ではいられないだろう。
目を凝らして、砂埃が舞う光景を見つめている。
「おいおい…、まじか!」
ザックが声を上げるのも納得する出来事が目の前に広がっている。
砂埃が風に流され、遮られていた姿があらわになる。そこには、あれだけの魔法を受けたボークス将軍が、倒れる事もなく攻撃を受ける前と変わらぬ姿でこちらに向かって来ているのである……。
「隊長、次どうしますか!」
ザックは次の攻撃を行うかで悩んでいた、今の攻撃で有効性が見出せなかった。
何より、魔力量の問題もある、無駄に消費するのは頂けない……。
考えている内に、ボークス将軍との距離は縮まっており、走り出せばすぐに手が届きそうな距離に感じる。
歩みを進めていたボークス将軍がこちらを見つめたまま立ち止まる。
ザックも、他の兵士も何事かと視線が集中する。
「我は、ルーランド帝国将軍が一人、ボークスである!!
諸君らの死を恐れない勇敢な戦いぶりに感動した!!
ゆえに、諸君らに敬意を評し、我は代表との一騎討ちを望む!」
一騎討ちの為にわざわざ向こうの将軍が出向いて来たのか、これは応えなきゃ男が廃るってもんでしょ、とザックがボークスの方へ歩いていく。
「俺が、今居る者たちの代表だ」
「ほう……。貴殿が、梟の代表か?」
「いや、ここに団長は居ない、俺は一番隊隊長ザックだ」
「一つ確認をして置きたい。無礼な質問であるが答えて頂きたい。後ろに控える兵士達は寄せ集めであるか?」
「ここに居る者達は傭兵団梟所属と王都騎士団の生き残りだ。
寄せ集めと言われたら、そうかもな……」
「合い分かった……。
それだけ団長とやらは慕われているのだな……、残る者たちは我らの足止めが目的で命を投げ打つか……」
「そんな、大層な理由なんてないぜ!」
「ハハハッ、ザック殿がそう言うのであれば、そうしておこう!
では、いざ御相手願おう」
対峙した二人の間の緊張感が高まっていく、動かない両者の睨み合いが始まった……。
リング王国王都、北門では兵士達が慌しく動き回っている。何事が起きたのかと住民が見に来ているが、見張りの兵士によって追い返されている。
騒ぎの中心になっているのは、オール砦に向けて出兵した兵士が戻ってきたと報が入ってきたからであろう。
衛生兵達が帰還する兵士を待ちわびているが、遠くからこちらに向かって進む部隊が少ない事に皆気付いてしまう。
そもそも帰還兵が居ると言う事は、オール砦を死守できなかったと安直に物語っている。
「王都に入り次第、サーヤは上に報告してくれ。
私達は傭兵だから意見を言う立場には無いからね……。
一旦此処でお別れだ」
「了解しました。報告が終わり次第、また合流できるようにします。では後ほど……」
サーヤは、負傷した部下を乗せた軍馬車を連れ、衛生兵のところに向かって離脱していく。
「団長はどうされますか……?」
「私は私で治療に専念する……、折角ザックさんが稼いでくれた時間だ。
無駄に出来る時間など一秒だってない……」
レンは包帯の巻かれた自分の腕を見つめながら答える。
「ザックさん達が戻ってきたときに、何をしてたんだ!と言われないようにしないとね……」
「とうとう、王都防衛戦ですか……。
ライド王国を思い出してしまいます……」
「あの時のような気分は二度と味わいたくないしな……」
「そう……ですね……」
街を守る防壁を見上げながら、今後の王都防衛戦に気持ちを移していく。
騎士団本部では、帰還したサーヤにより敵情報告がされていた。
「報告します。
オール砦は敵将、レクト将軍により落とされた模様。
我がロッソ騎士団はオール砦を目指す途中でレクト将軍率いる部隊と交戦し、敵の部隊を梟の助けもあり全滅させるに至りました。
しかしながら、代償としてロッソ騎士団長以下、騎士団員約二千四百名をこの戦いで戦死させてしまいました……。
そして現在、我が王国へ侵攻しているのはボークス将軍率いる万を超える軍勢であります。
しかしながら、レクト将軍の部隊が全滅により、ボークス将軍の部隊だけでは王都攻略は難しいと考えます。
なぜなら、偵察を行った者の報告で、敵戦力には魔導師部隊が少数である事も分かっております。
以上の事と、敵の兵士数から考えても、我がリング王国は篭城戦を行うべきだと進言します」
報告を聞き、最高司令官であるエイド将軍は篭城をし、相手の増援部隊が来るまでにボークス将軍との間で停戦協定を結べれば、リング王国の生き残りが出来ると確信する。
「報告ご苦労であった。
王都戦はまもなくだが、それまでは体を休めておくといいだろう。
下がりたまえ」
「エイド将軍!作戦についてでありますが……」
「下がってよろしいと言った筈であるが?」
「はっ!失礼します……」
サーヤが去った室内で、机上による王都防衛戦の話し合いが始まる。
現場を離れた者達による作戦ごっこである。本来であれば現場の兵士の意見を取り込もうとするが、戦争から離れすぎていたリング王国では、現場と上層部の意思疎通が疎かになっていた。
騎士団本部の廊下を歩く、サーヤは悔しさで涙が溢れていた。
折角命を懸けて逃げる時間を作ってくれた兵士達に、報いる事が出来ない自分の立場に憤りしかなかった。
元々この国の人間で無い事も、作戦に意見を挟むことを憚る原因になっていた。これがロッソ騎士団長であったなら少しは違っていたかも知れない。
もう、上は当てに出来ない、残るは団長に頼るほかなさそうだと廊下を歩くサーヤは心に決める。
王都防衛戦まで幾許の時間もない状況となった王都のはずなのに、街は戦争の事など忘れているような静けさが広がっていた。




