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亡国の騎士団  作者: 雲ノ上
~序~ 動乱不運を告げる
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第21話

 アルの偵察で得られた情報を元に、王都に向かうルーランド帝国のボークス将軍率いる部隊との戦闘は避けれないと判断するに至った。

 先のレクト将軍との戦闘により、リング王国騎士団は壊滅状態である。レン等が駆けつけた事で生き残れた者も居るが負傷者が多く、ボークス将軍の部隊との戦闘ができる状態では無いのは楽観的に見ても明らかであった。

 しかし、負傷者を王都に帰還させるにはここで一戦交え、時間を稼ぐ必要がある。

 生き残っている者が戦闘をし、負傷者の帰還する時間を稼ぐ事は、団長であるレンが決断した。


 撤収作業をする兵士達の姿を、一番隊隊長であるザックは作業を手伝いながら見ていた。

 作業をする兵士達の表情が暗い、今から起きる戦闘で死ぬかもしれない事に気付いているからだろう。


「おいおいおい、お前ら!まだ死んだ訳でも無いのに辛気臭い顔をしてんじゃねぇーよ!

 生きて帰ろうと考えてないのか?」


「ザックさん、相手の数が多すぎますよ……。

 どう頑張っても勝てないです……」


 近くに居た兵士が、ありのままの気持ちを話す。


「今から、その考えだとマジで死ぬことになるぞ!

 お前たちも兵士なら、覚悟出来てたんじゃないのか?」


 ザックの問いに、答えが出てこない。兵士に成った時、王都を出兵する時、もちろん覚悟はしてた。

 だが、いざ死の恐怖を体験してしまったら覚悟なんて、蝋燭の炎の様に吹けば消えるようなものだった。


「私には、王都に暮らす家族がいます。

 家族を守るためにと戦いました、家族の為なら死なんて怖くないと思っていたんです。

 でも、今は家族に……、家族に会って顔を見たいんです……」


 兵士が下を見つめながら、言葉を選ぶように話す。

 地面に涙が落ちて跡が出来ていた。


「そうか……」


 それ以上の言葉が出てこなかった。いや、出せなかった。

 当たり前の事、死にたい人間なんているはずないから……。





 

 撤収作業も残り僅かとなり、大半の負傷者は軍馬車に乗り込み出発できるようになっていた。

 兵士達がせわしなく動き回り、軍馬車に天幕などを積み込んでいる。

 先ほどまで野営地だった場所の端で、何名かが集まり話し合いをしているようである。

 話の中心にいるのはザックのようである、ザックの周りには梟の幹部である隊長格が数名とリング騎士団の生き残り数名の姿が見て取れた。


「……で行こうと考えている。

 もう、時間も無い。決断は各自に任せるぜ……」


 ここまで話を聞いていた三番隊隊長のウテナが口を挟む。


「一番隊隊長として、それでよろしいんですかえ?

 損な役割りやと思いまへんか?」


「後悔なんて後で何度でもできるさ、今はこれが最善だと思ってる……」


 ザックが本気だと分かったウテナは、これで黙ってしまう。


「ザックさん、アルや一番隊の部下はどうするんですか?」


 七番隊隊長のマリーがザックに問いかける。


「幸いな事に、俺らの梟には優秀な隊長が多いから俺は部下のことに関しても、ましてや団長が居るからアルに関しても心配はしていないぞ」


残される・・・・者の気持ちになれと言ってるつもりなんだけど」


 マリーの表情が険しくなる。


「おいおいおい!俺達は傭兵で、家族ごっこじゃないんだ。

 アルは俺の息子だが、今は傭兵として此処に来ている。

 今は理解できなくても、いつか分かってくれるだろ……」


 これ以上言っても、話が進まないと思ったのかマリーは黙ってしまう。


「それじゃ、他の奴らにも伝えてくれ……」


 話は終わりだとザックが離れていく。

 これ以上の話し合いは無いのか集まっていた者達も別れていく。







 最後まで残っていた作戦を決めたり、会議を行ったりしていた天幕も解体が始まる。

 撤収作業を確認する為に、レンとシーアが各軍馬車を見て回っていた。


「ん?なぜ、まだ負傷者を乗せた馬車が残っている?」


「あ、本当ですね……。確認してきます」


 シーアが確認の為に馬車に近づいていく。

 確認をしにいっただけなので直ぐに戻ってくると思っていたが、中々戻ってこない……。

 シーアが確認に向かった馬車の方から言い争いが聞こえてくる。


「どうしたんだ……?」


 確認に向かうと、シーアと負傷者達が言い争いをしていた。


「あの……、負傷者の一部の者達が軍馬車に乗ろうとしないので……」


 とりあえず理由を尋ねてみても誰も答えようとしない。

 困りは果ててると、ザックがレンに近づいてくる。負傷者の説得でもしてくれるのかと思っていたが……。


「サザナミ!俺は……、俺は傭兵団を抜けさせてもらうぜ!

 お前の作戦では生き残れねぇ、俺は無駄死になんて嫌なんでな!」


「い、いきなり何を言っているんですザックさん!!」


「だからよ、俺は梟を脱退させてもらう。

 後は好きにさせてもらうぜ」


 突然のザックの宣言にレンもシーアも困惑するしかなかった。

 先ほどの話し合いでは、何処までも付いていくぜ、と言っていた男がいきなり態度を変えるなんて思っていなかったからだ。


「おぉ、そうだった!

 お前らの中で、ここに居る梟を信用できない奴らは俺に付いてこい!

 俺がリーダーとして新しい傭兵団を立ち上げるからよ!」


 騒がしくなったせいで人だかりができ始める。声に釣られてサーヤや他の隊長なども集まってきていた。


「俺に賛同する奴は、付いて来い!

 こんな小僧のために死ぬのがいやなら、決断するんだ!」


 ザックの言っている事や態度に違和感をサーヤは感じていた。

 何かおかしい……、周りを見渡すとザックの話を聞く兵士の表情が硬い……。


「はぁ……。まったく、隊長が抜けるなら俺も抜けだな」


「だな……。おれはザックさんの部下だからよ。他の奴の命令なんて聞く気が無いしな」


「おいおいおい!俺を忘れるなよ」


 ザックの求めに、王都の酒場で一緒に行動していた梟の団員達が賛同する。

 それに反応するように負傷者からもザックに付く者が出始める。


「隊長!何を言っているんですか!!

 ここで分裂しても戦況が悪くなるだけで勝率は上がったりしません!!」


 駆けつけたアリアがザックを問いただしている。


「だが、サザナミのところで戦っても同じだ!

 だから、俺は俺の思うようにする!

 そうだ、一番隊隊長は今からアリアだ。俺は抜けたからな」


「……隊長が抜けるなら、私も付いていきます……。

 私も貴方の部下です!ザックさんだから今まで補佐をして来たんです」


「ハハハッ!くだらん!

 俺の新しい傭兵団に女や子供はいらねぇーよ。

 うるさいし、弱いわで使えないからな……。

 付いてくるなよ、足手まといはいらない」


「そ、そんな……」


 ザックの一言を聞いて、信じてきた人に裏切られたんだとアリアは泣きそうになっていた……。


 今までのやり取りで、サーヤは違和感に気付いてしまった。

 ザックは決して男や女という性別で見下す事が無い男だったからだ。まるで、無理やりに遠ざけているようではないか!

 それに、団長のことを馬鹿にされているのにウテナが傍観しているのもおかしい。

 これじゃ、わざと悪役を演じているようではないか……。


「私はザックさんの脱退を認めません……。

 抜けるなら、この戦場から還ってからでもいいでしょ?」


「だからよ、俺は無駄に・・・死にたくないんだよ。

 サザナミよ、お前傷も回復してないよな……。

 本調子じゃないお前ではボークス将軍とは戦えないだろ。

 使えない奴の下で働きたくないからな」


「ザックさんの言うとおりだな」


「あぁ、そうだな」


 ザックの言い分に他の者達も頷いている。

 このままでは埒が明かないと思ったのか、ザックがサザナミに近寄っていく。


「サザナミよ、よく考えて・・・くれ。

 助かる命は多いほうがいいだろ……」


 サザナミの肩に手を置いたときである。サザナミが崩れ落ちるように倒れる。


「ザ、ザックさん……、何を……するんですか……」


「弱ってる大将には戦線から離脱してもらうかと思ってな……。

 なーに、痺れ針だ。半日もすれば動けるようになるさ」


 倒れたサザナミを見下ろしながらザックが悲しそうに呟く……。


「さて、梟の団長様はこの様だ!梟さんは団長を抱えて王都に帰って頂こう!

 ボークス将軍との戦いは、俺の新しい傭兵団の初陣に使わせてもらうぜ!」


 周りを見渡しながら、ザックが大きな声で兵士達に語りかける。


「それともう一つここで宣言させてもらおう。

 俺の傭兵団の奴以外は元味方であろうが、元仲間であろうが関係なく、ボークス将軍の部隊との戦闘に参加してきたら敵とみなして攻撃させてもらう!!

 俺達の初陣に水を差すなってことだ!いいな?」


 ザックが宣言をし部隊を離脱していく、ザックの後を追うように何十人もの兵士や負傷者、梟の団員が付いていく。


「ダメだ……、行かせては……ダメ……だ」


 痺れて上手く喋れないけれど、レンが一生懸命にザックを引きとめようとしている。

 だが、去っていくザックにその声は届かないのか、届いていても聞こえない振りをしているのか、振り向くことなく歩いていく。

 ザックが去った梟の団員達は、何事も無かったかのように撤退準備に入る。

 サーヤが他の隊長などに、喰って掛かるが去った奴のことは知らないと言われるだけであった。


 先ほどの、軍馬車に乗り込もうとしなかった負傷者は全てザックについて行った。もう、乗せる負傷者が居なくなった為に軍馬車は王都に向けて出発する。

 軍馬車に乗り込んでいる幾人かの兵士達は涙を流していた……。去っていった仲間から「王都は任せたぞ」と言われたのが耳に残っていた。



 


 ザックを団長として、約百二十名の人数が集まった。騎士団の魔導師が二十一名、梟から抜けた魔導師とザックを入れて九名、残りの人数は貯蔵庫タンクであった。

 部隊として考えたら、魔導師一人に対して貯蔵庫タンクが三名付く編成になる。

 本来一人の魔導師に一人の貯蔵庫タンクが付く、それ以上の貯蔵庫タンクを付けても、魔術師が安全に魔法を発動できなくなるからである。体に掛かる負担が大きいために過去に運用された事例が一件もないことなのである。


「みんなに損な役割を押し付けて悪いな……。そして、俺に付いてきてくれてありがとう!」


 ザックが付いてきた者たちに頭を下げる。


「よしてください、勝手に付いてきただけなので」


「そうですよ、勝手に参加してるだけですからね」


「感謝は全てが終わってからで、お願いしますよ」


 片腕が無くなっている者や、顔に包帯を巻いている者、笑顔の者……、皆が気にしないと言いたげな顔をしている。


「あぁ、そうだな!

 いっちょ派手に戦場で暴れてからにするか」


 皆を鼓舞するように、自分に言い聞かせるように大きな声を出す。

 覚悟が決まり、戦場に向けて移動を開始したときである。

 ザックの前にアルが立ちはだかる。


「親父!俺も連れて行ってくれ!

 俺も魔導師として役に立てる!」


「ん?俺の前に居る奴は自分の事を一人前だと言っているのか?」


 後ろに付いてきてた兵士に問いかける。


「ザックさん、俺から見ても半人前の奴に見えますがね」


「だよな、俺らの傭兵団に半人前は必要か?」


「冗談を……、必要ないですね」


 それでもアルは引き下がらない。


「親父、死にに行くんだろ?

 俺が居れば生き残れる確立は上がるだろ?」


「うぬぼれるなよ!

 誰が死にに行くか!俺は、俺達は勝ちに行くんだ!

 お前のような半人前に心配される筋合いはない」


 真剣な表情で怒りの声をあげる。


「でも……、状況を……考えたら……」


 アルの声が段々と掠れ、涙声になっていく。


「心配するな、俺はお前の親父だぞ。

 強いことは、お前が一番分かっているだろ?」


 ザックが涙を流すアルを抱きしめ親として、優しく優しく話しかける。


「そうだ、このローブをお前に預ける。

 このローブはな、俺がライド王国の騎士団に居たときから使っている大事なローブだ。

 これをお前に預ける、後で取りに行くから大事に持っていてくれ……」


 ザックが身に着けていたローブを脱ぎ、アルに着せてあげる。


「大事な物だから、お前に預けるんだ。いいな?」


「あぁ……、親父が戻って来るまで……俺が預かっておくよ……」


 頭を優しく撫でて、アルの横を通り過ぎていく。

 涙で前が見えないが去っていく親父の顔を目に焼き付けようと、アルはザックの姿が見えなくなるまで見つめていた。


「あんな別れ方でいいんですか?」


「いいんだ……、俺もアルも男だ。涙の別れなんて嫌だろ……」


「はぁ、だったら泣かないで下さいよ……」


「ああ、すまない。息子がいい男になったなと思ったら涙が勝手にな……」


「確かに、いい男になりましたね……。

 これは、尚更負けれなくなりましたね」


「あぁ、そうだな。

 この戦に勝って帰って、デカイ顔をしてやらんとな」


 顔を上げた視線の先、目の前には砂埃を上げながら進む、ボークス将軍率いる万の軍隊が迫っていた。

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