梟の止まり木 (2)
旧市街の中でも酒場は夜に近づけば繁盛する場所である、沢山の飲食店が軒を連ねている中にレンがマスターを勤める梟の止まり木亭はある。
他の酒場と比べて外見的に違いがあるとするなら建物の周りにも掃除が行き届いており清潔感があることが一番の違いであろう、二階建ての木造建築で外壁をニスで塗装しているためか少し暗めではあるが酒場としては落ち着いた雰囲気が出ている。
そんな梟の止まり木亭は酒場として考えると料金は安くは無いけれども、質のいい料理と酒を出すことで日雇いの労働者から大手の商会長まで夜の時間帯にもなると色々な者達で賑う、特に客層で多いのは冒険者を生業とした者達である。
冒険者と言えば無骨で愛想がなく、どちらかで言えば荒れくれ者や無法者が居ることも否定できない現状である。しかし、マナーが悪いのも低ランクの冒険者に多いだけであって歴戦の冒険者や高ランクの冒険者は礼儀や一般常識を持っているほうが圧倒的に多い、この店では冒険者同士の喧嘩など争いごとが他の店に比べて圧倒的に少ない。なぜなら梟の止まり木亭と言えばフリージアに置いて一部の高ランクの冒険者が集まる場所として皆に知られている酒場だからだろう。
高ランクの冒険者が集まることもあって、若い冒険者の中にはランクが上がり収入が増えたら梟の止まり木亭で食事をすることを目標としてがんばっている者も多いらしい。
さて、そんな梟の止まり木亭の裏手の通路をちょうど二人の人物が歩いている。
「18時までまだ20分もあります、とりあえず開店には間に合いそうで一安心です」
エミリーが腕時計を見ながら、微笑をみせている。
「そうですね。しかし……、私はマスターですけれど、あまり仕事をしないので出勤しなくても変わらないと思いますよ」
納得してここまで来たと思っていたがレンは納得できてなかったようである。
「何度も言いますが、マスターが出勤しないと私がチーフに怒られます!! それで無くてもマスターにしか処理できない書類は多いのですよ。ご自宅にお持ちしてない書類はまだまだありますし」
エミリーはあきれそうになりなつつも、ここまで来たのだから諦めてくださいと話してると目的地に着いていた。
エミリーが先に扉に近づきマスターの為に従業員用の扉をあける、扉が開かれると目の前に厨房と作業してるコック達の声が聞こえてくる。
現在厨房内は開店前でコックた達が忙しそうに動き回っていたが扉が開かれたことに気づいて一斉に作業していたコック達の動きが止まった。
扉から中に入ってきたのがマスターであるレンであることを確認にしたコック達総勢六名は一列に並びマスターに挨拶をする。
「「おはようございます、マスター!!」」
「あぁ、おはよう」
厨房内で交わされる普段の光景である挨拶が終わると、その中で一番年齢を重ねてるであろう男が一歩前に出る。コックのまとめ役であるであるルドルフだ、身長190近くあり齢五十を超えてるように見えない位筋肉がついている、頬には切り傷の跡が残っておりコックよりも現役の冒険者だと話したほうが納得できると皆が思うような男である。ルドルフは元々冒険者であったが、冒険者をしていたのも珍しい食材で料理がしたいと材料を求めての事であった、年齢を重ねたこともあり体力的にも現役は無理だなと考えていたときにレンにこの店に誘われて入った。普段は物静かなルドルフであるが言わなければならない事や必要なことは遠慮なく発言する性格である。
「そういや、先週出勤してないのでシーアが書類が溜まってると嘆いてましたぜマスター。まぁ、あっしには関係ないですがマスターの為にと頑張ってるルーアが少し不憫に思ったので報告しておきやすぜ」
「そうか、分かったよ。他に何かあれば私に遠慮なく言ってくれ」
「とりあえず、こんなもんですかね、シーアは多分二階に居るとおもいやすぜ」
シーアに後で小言を言われることに嫌気がするが自業自得かもなと考えながらホールの方へ向かう。
厨房からホールにつながる扉を開けると、ホールはホールで8名の従業員がテーブルを拭いたり、椅子を並べたりしている。
キッチンは男性の比率と女性の比率は半分に対して、ホールは男性が二人に対して女性が六人と女性のほうが多い。
皆が皆それぞれ開店作業をしている姿を見つめてると、作業していた従業員がマスターが出勤したことに気づく、キッチンと同様に一列にならび挨拶が交わされる。
それぞれの挨拶も終わると
「私もホールの仕事がありますので失礼します」
一言声を掛けてエミリーもレンから離れていく。一人になったのでシーアの所にでも顔を出すかなと考えつつ二階につながる階段に向かう、この後の事を考えると言い訳はしないほうが良いかなと内心を決めたとき階段の上から声がかかる。
「おはようございます、マスター。
報告したいことも、沢山たくさ~んあります」
にこやかに笑う女性が階段の上に居るのだが、雰囲気とは裏腹にまとう空気は鬼気迫るものがあるように感じてしまう。
「おはよう。常々シーア君がチーフとして仕事をしてくれてるから私は自分の事が出来るので感謝しているんですよ」
機嫌がよくなるように話してみたが、シーアの目が笑ってない事に冷や汗を背中に流しつつ会話を続ける。
「シーア君、折角の美人さんなのに目が笑ってないのでクールな印象になってしまいます。目元も柔らかく使って表情を豊かにしたらもっと可愛く見えるので、現状だと少し損をしていると思いますよ」
「大きなお世話なのと内容がセクハラですし、こんな表情にしてるは誰のせいだと思ってんですか?」
「うーん……?」
「悩まないでください!!ふぅ、もういいです。とりあえず報告書は後ほどお持ちしますので何時もの場所で良いですか?」
「そうだね、それでお願いするよ」
そう言ってレンは自分の落ち着ける場所に移動を開始する、広い店内の角奥に手すりに囲まれてる場所がある、その場所だけ他と違い2メートルほど深くなっていて半地下みたいになっている。広さは八畳ほどで天井が高い為に光量が他の場所と比べ少ない、階段を降りるとバーカンターがあり席は四つ、他には二人用のソファーが二つ、ソファーの間にローテーブルが置かれているだけのシンプルな作りになっている。
レンは二人がけのソファーに座ってシーアを待つことにする、シーアが書類を持ってくるころには開店してお客さんの話し声が店内に響いていた。