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亡国の騎士団  作者: 雲ノ上
~序~ 動乱不運を告げる
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第17話

 何だろう……、慌しく動く人の気配。

 そして、私の周りで騒がしい声が耳に届いてくる……。

 ここは何処だったか、段々と意識が浮上していく。


「お、嬢ちゃん目覚ましたか?」


 重たい瞼を開けると、私を覗き込む男が居た。


「え、えっと……」


 あ、確かザックさんだったっけ?


「団長が放った魔法のな、衝撃で気を失ったんだよ。

 俺が作った壁なんて、衝撃を和らげる為に張ったのに殆ど意味を成さなかったぜ……」


 ザックさんが苦笑いをしながら申し訳なさそうに言っている。

 そうだった……、あれは凄い衝撃だった。

 体に受ける衝撃もそうだけど、それよりも心に受けた衝撃の方が大きかった。

 初めてのことに頭がついていってない。


「あ、あの!私はどれ位気を失っていたんでしょうか?」


「そんなに時間は経ってないはずだぜ、半日くらいだと思うがな」


 改めて周りを見渡す、傷の治療を受ける仲間が視界に入る。

 そして、自分もテントの中でベットに寝かされていることに気づく。

 おもむろに、テントの入り口の方に視線を向けると、外から入り込む日差しが赤い色をしている。


「ここは?」


「あぁ、ここか?戦闘のあった場所から後方、王都側に十キロ下がったところだ」


 後方に居ると言う事は戦闘は終了している可能性がある。

 あの魔法を見た後だから、負けたなんてありえないだろう……。


「意識が戻ったのね、体を動かす事に支障はない?」


 入り口から入ってきた女性が近づいてくる。


「た、隊長!現状はどうなっているのですか?」


「少し落ち着きなさい。もう一度聞くけど、体は大丈夫?」


 サーヤが心配そうに顔を覗き込む。

 言われるままに体を動かしてみる、節々が痛いけれど動かす事に支障はなさそうである。


「はい、特に問題ありません!ですので、どうなっているのか教えてください」


 サーヤが周りを見渡し、フッカに付いて来るように目配せする。

 テントの外に出ると、生き残った騎士団の仲間達が天幕を作る作業をしたりしている。

 テントをわざわざ出るという事は、治療している兵士のことを配慮しての事であろう。


「向こうの天幕で話そう、聞かれたくないこともあるからな……」





 先を進むサーヤの歩調に遅れまいとフッカも歩く速さを上げる。

 目的の天幕に向け、先を進んでいくサーヤとフッカの後をザックはマイペースで着いて行く。

 サーヤに付いて天幕に向かう途中途中で、作業している仲間を見かけるが、あからさまに人数が少ない事にフッカも気づいてしまった。

 サーヤに続いて天幕に入ると、先の戦闘で助けてくれた者達も居た。

 天幕の中では色々と情報が飛び交っており、今回の戦闘の被害等が整理されているようである。

 

「ここまで来るまでに、フッカも薄々気付いているだろう……。

 我が隊の存命率は二割ぐらいだ……。

 はっきり言おう、全滅だ」


「あ、あの……、ここにロッソ騎士団長の姿が見えないのですが……」


 気付いている、分かっている。

 サーヤの表情で理解しているけど、事実として聞かされてないのに判断できない。


「ロッソ騎士団長は、先の戦闘で勇敢に戦われた……。我らの勝利の為に戦われたんだ……」


「そう……ですか……」


 暗くなる天幕内に遅れて歩いてきたザックが入ってくる。


「ん、辛気臭え雰囲気だな。現実を直視して後悔してんのか?

 これは戦争だぜ、人と人が戦うんだ。

 人が死なないことなんてありえないだろ?」


 ザックの一言に、二人の表情が険しくなる……。

 しかし、ザックの言葉に反論できるほど今の二人には力がないようである。

 図星であったからでもある、突かれたくない事実だと分かっているからだ……。

 ザックは、フッカやサーヤの表情の変化など気にしない。

 自分の言いたい事だけ言い放ち、ザックは奥に居たレンの横に歩み寄る。


「生き残りが居ないか捜索に行っていた者の報告だが、これ以上の捜索は無意味であるとさ」


「そうか、分かったよ。後は、うちの団員が到着するのを待ってから今後の行動を決めようか」


 奥でザックさんと話しているのは誰だろう?とフッカは視線を奥に向ける。

 そこに居たのは、ローブを着た少し幼く見える青年であった。

 情報の中心にいるようであり、部下らしき者たちからの情報が青年に集まってきている。

 特徴的なのは、髪が白髪で、分けている前髪に少し黒のメッシュが入っていてる。

 フッカの視線にサーヤが気付いたのかレンの紹介をする。


「フッカ、この方が梟の団長であり私の師匠でもあるサザナミ様です。

 先の戦闘で広域魔法を使用した方ですよ」


「はじめまして、サザナミです。

 今はレンの名前で生活してます、私はどちらで呼ばれても気にしないので好きに呼んでくれて結構ですよ」


 紹介された男があの・・魔法陣を使った男だと分かり戸惑ってしまう。


「は、はじめまして、今回の魔導師部隊の副隊長をしています、フッカです」


 話し方や雰囲気は何処にでもいるような普通の人と変わらない気がするけれど、目の前に居る男が広域魔法を使ったのを見てしまっている。

 正直今紹介されても、フッカは挨拶以上の言葉を発する事ができなかった。


「サザナミよ、負傷者が多い。

 オール砦を目指すより、王都に帰還するほうが良いと俺は思うぜ」


「ザックさんの言い分はもっともですね。負傷者を抱えての戦闘はデメリットしかないですからね」


 この会話を聞いて、フッカは怒りが湧いてきた。


「ここまで!ここまで来たんです!

 私達はオール砦を奪還するために此処まで来たんです!

 なのに、王都に帰還?撤退ではないですか!

 まだ、任務は終わってない!!」


 言葉が荒くなる、決死の覚悟で戦った者達の為にもここで帰還の選択は出来ない。


「はぁ~。嬢ちゃんよ、現実を見ないで威勢の良い事を言っても意味なんて無いぜ?

 そんなのは、馬鹿な俺にだってわかるぞ。

 戦力が少なすぎる、それとも嬢ちゃんは全滅したいのか?」


「そう思うなら、貴方達の力を貸してくださいよ!!

 あれだけ凄い魔法を使えるんですから、ルーランド帝国の兵士なんて相手にならないでしょ!!」


 フッカが熱くなっていく。先ほど言われた事もあって収集がつきそうにない。


「おい、嬢ちゃん!サザナミが何の代償もなく、あんだけ凄い魔法を放てると思ってるのか?

 お前も魔導師だろうが!そんな事も分からんのか?」


 言い争う二人の間にサーヤが割り込む。


「フッカ!!言いすぎだ!

 それから、ザックさんも大人気ないです!」


 サーヤの剣幕に負けたのか二人とも静かになる。


「フッカは負傷している仲間の手当てをして来い!

 そして、少し頭を冷やして来い」


 サーヤからの命令に背くことが出来ないためにフッカは天幕を出て行く。

 フッカの表情は悔しさが滲み出ていた。


「師匠、私の部下の非礼をお許しください……」


「どうなってるんだ、お前の部下は?躾がなってねーぞ、サーヤ!」


 レンに対して謝るサーヤにザックが非難の声を上げる。


「ザックさん、もう良いですよ……。

 僕は気にしてません、彼女には彼女なりの想いがあるでしょうしね……」


 彼女の気持ちも理解できる。

 死んでいった仲間の事を考えれば、彼女の言い分が正論のようにも感じるが、感情論では戦争は勝てない。


「サーヤも疲れたろ……、今日は休むといい」


 レンの言葉を受け、サーヤも天幕を後にする。

 色々と言いたい事が有るだろうが、冷静になって会話しなければ間違った選択をしかねない。


「しかし、今回の戦闘でリング王国の騎士団が負けたのは、内通者が居た事が一番の敗因だろ……」


 フッカとサーヤが居なくなった天幕でザックがレンに話しかける。


「僕が知っている限り、騎士団に内通者がいるなんて情報は無かった……。

 ルーランド帝国も今回の戦争に関しては、事前からかなり作戦を練っているようだな……」


 裏切り者がいた事実はかなり厄介である。

 戦闘で不利になることが目に見えている事と内通者が判っていないためである。


「まぁ、此処まできたら成る様にしか成らないか……」


 フッカやサーヤの前では気丈に振舞っていたザックでさえ、弱気になっていた。






 次の日の昼過ぎ、後発部隊のメンバーが合流した事で簡易的な野営地は少し混雑の模様を呈していた。


「ただいま到着しました。現在の状況は大方のところで理解をしております」


 レンの居る天幕に、後発で王都を出た団員を代表してシーアが顔を出していた。


「梟としては負傷者を王都まで護送しようと考えている。戦力があまりにも少ないしね」


 レンの言葉を受け、シーアがレンの顔を確認する。そのときに気付く……。


 

 団長の髪が白くなっていることに……。

 そして、両腕に包帯を巻いてるのがローブの隙間からも確認できる。


 団長は無理をして広域魔法を使用したのだなと、それだけ危機が迫った戦場であった事が理解できてしまう。


「了解しました。王都までの護送を任務とし作戦を考えます」

 

 団長の意図を汲み、作戦の立案をするためにシーアは天幕を後にする。

 負傷者を抱えての撤退は戦闘になった際の負担が大きい……。

 念密に考えなければ梟と言えども痛手を負うことになりかねない。


 自分に振り分けられた天幕に足を向けた時である。

 奥の方でマリーとサーヤが何か話しているのが見えてしまう……。

 盗み聞きするつもりもないのだが、穏やかそうな雰囲気ではないのが気になり近寄ってしまう。



「あなたが居ながら無様な負け方ね……」


「言い訳をするつもりはないわ……」


「団長の姿を拝見したけれど、かなり無理をなさったようね……。

 ザックから話は聞いたけど、団長が居なかったら貴方は今頃天国ね……」


「言い訳をするつもりはないわ」


「なら良いわ。そのうちウテナも団長に会うから貴方も覚悟しておきなさいよ。

 ウテナは団長の事が一番の子だから、あの姿をみたら怒って貴方に突っかかってくるかもね」


「ええ、分かっているわ……。他の団員からも攻められても仕方ないわ……」


「そうね……。でも、貴方の妹のことは信じてあげてね。

 ここまで来る間、結構心配してたようだから。

 あの子は表情に出してないつもりかも知れないけど分かりやすいから……。

 後で、ちゃんと顔を見せて安心させて上げなさいよ」


 マリーはサーヤの頭を撫でて自分の作業に戻っていく。


「ありがと……」


 去っていくマリーの背にサーヤが優しく声をかける、マリーには届いていないけど感謝の言葉が自然に口から出ていた。


 シーアは、皆何だかんだ言っているけど仲間が無事な事に安心している姿を見て心が温かくなっていくのを感じていた。

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