第16話
いつもより長くなってしまいました。
長すぎて読みにくかったらスミマセン!区切りが付けれなかったのです
リング王国から出兵しオール砦を目指す騎士団は、先行させていた斥候が敵であるルーランド帝国軍を発見したとの報告で一気に緊張状態になっていた。
接敵する時間が思いのほか早かったことにより、ロッソ騎士団長とサーヤ魔導師の考えていた事が現実味を持つようになっていた。
斥候を先行させて僅か一日でルーランド帝国軍を発見、これはオール砦が落ちたことを意味している。
オール砦を守れなかった事で今後ルーランド帝国からの軍は国境線を難なく進行するということになる。
今、目の前にいるルーランド帝国軍をもし撃破出来たとしてもオール砦が無い為に戦況は圧倒的に不利なままである。
「報告します」
斥候部隊の隊長がロッソ騎士団長に第二報を持ってきていた。
ロッソ騎士団長は目の前にいる男に頷き、報告を待つ。
「ルーランド帝国軍は第一発見場所から動く様子が有りません。こちらがオール砦に援軍を寄越すことを考慮して待ち構えていると思われます」
「そうであるか……」
「尚、敵部隊は工兵を有している模様で陣地前面部に柵などを建て、簡易的でありますが壕も作っているようです」
「敵の陣地はかなり整備されているのか?」
「いえ、まだ作業を開始して間もない感じです」
ロッソは騎乗したまま考え込む。今は奇襲するのに好機ではないかと思えてきた。
ロッソ騎士団長が思考を巡らせていると、今まで黙っていたサーヤが口を開く
「敵の兵士の陣形が分かるならば教えて頂きたい」
サーヤの発言を聞いてもロッソ騎士団長は静かに考え込んでいる。
「現在の陣形は、前面に工兵部隊と歩兵部隊が作業中です。騎馬隊が中ほどに控えており魔導師部隊は後方で待機しています」
「敵の兵力の損耗はどれくらいであるか?」
サーヤと斥候のやり取りにロッソ騎士団長が口を挟む。
「はっ!オール砦を一時通過したルーランド帝国軍は約五千名を越えて六千名程いたと王都に報告が上がっています。
尚、オール砦を越える際にルーランド帝国軍から出された兵士数の内訳書を元に考えますと、今現在の兵士数は四千名強程と見積もられます。
また、私の部下からの情報を纏めますと、騎馬隊約二千名及び魔導師約千名、並びに貯蔵庫約千名は無傷。
消耗しているのは、工兵と歩兵だと思われます。内訳書には工兵の記載は無く、全て歩兵で申告されています」
「ふむ、砦戦をするなら工兵が必要で有るからな……。
今、陣地を作る兵が居ないのであれば完成までに時間がかかるであろう、完成まで待ちわざわざ不利な状況になる必要もない。
それに、むざむざ相手に休息の時間を与えるのは得策と思えん、奇襲を仕掛ける」
ロッソ騎士団長は今が攻め時であると結論付けた。サーヤもロッソ騎士団長の考えに賛同する。
「我が騎馬隊は敵軍の右翼側に攻めこむ。前面にいる工兵並びに歩兵の撃破後に相手の騎馬隊との戦闘に移る。
魔導師部隊は、騎馬隊の突入後に左翼から回り後方の魔導師部隊に攻撃後、敵の騎馬隊を後方から攻撃する事。サーヤ魔導師作戦について意見を述べよ」
「奇襲の効果を上げるために、後方の魔導師部隊に対しての攻撃目的を混乱させる事とし、相手の与えたダメージを考慮せず、速やかに相手の騎馬隊に我らが攻撃を与える方が宜しいのではないでしょうか?」
「うむ、それでは相手の魔導師部隊が立て直した場合に不利にならないか?」
「不利になる可能性は否定出来ませんが、相手の主力である騎馬隊に少しでも損害を与え、我が騎士団の騎馬隊が優位に戦闘が出来ると考えます」
ロッソ騎士団長はまたもや瞼を閉じて考察を始める。
こうして、考えている間にも相手は陣地を整備しているであろう、奇襲を仕掛けると決めたのだから迷っている時間はないな。とロッソ自信でも分かっているつもりである。
しかし、一歩でも間違えると負けてしまう状況であることも悩ませる原因になっていた。
「厳しい戦いになるが、魔導師部隊は任務を遂行できるのか?」
「出来る出来ないではございません。未来がかかっていますので、必ずや成功させます。」
サーヤの言葉でロッソ騎士団長も覚悟が出来たのであろう、閉じていた瞼を開ける。
敵軍のいる方を見つめる眼には強い意志が宿っている。
「ならば、その作戦で行う。魔導師部隊の活躍に期待しておるぞ」
「ロッソ騎士団長もご無事で」
作戦が決まったことにより、それぞれの攻撃開始位置に向け動き出す。
太陽が丁度真上に差し掛かろうとしていた。
相手までの距離が約三キロの場所に少し小高い丘がある、この丘を最後に敵陣営までの遮蔽物がない。
奇襲を仕掛けるにはもう少し近寄りたいとも思えるが察知される危険性が格段に上がるため、これ以上は近づけない。
奥に居る敵の魔導師部隊まで五キロ以上離れているが、高速移動ならば瞬く間に距離を詰めることが出来るだろう。
後は、ロッソ騎士団長率いる騎馬隊が突入するのを待つばかりである。
魔導師部隊の先頭をサーヤが務めるようであり、サーヤを先頭に陣形が出来ていた。上空から確認をする事が出来るなら「く」の文字にも見える。
敵の魔導師部隊と騎馬隊に攻撃を仕掛けるために陣形を一列ではなく歪ましていることが分かる。
「隊長、相手に勝てますよね……、失敗しませんよね?」
今まで隊長が居れば負けないと言っていたフッカが弱気に成ったのか、普段と違うことを言い出した。
「あぁ、大丈夫だ。心配するな、私達なら出来るさ」
サーヤも緊張しているのだろう、胸ポケットに入っていた煙草を取りだし一本口に運ぶ。
「最後の煙草になったりしてな……、冗談だ。冗談だよフッカ、そんなに怖い顔で見ないでくれ」
「隊長が言うと冗談に聞こえません!」
サーヤとフッカのやり取りを近くで聞いていた魔導師達は、何だかんだと緊張していたのだが二人の会話が可笑しかったらしく、つい笑みを溢してしまう。
今から作戦だと固くなっていた緊張感が適度に緩和されたように感じる。いや、気負いすぎてる雰囲気から、柔くなったと表現すべきかもしれない。
「もう、そろそろか。皆、生きて戻りぞ!!」
「「勿論ですとも」」
魔導師達の顔を一通り見渡し、前方のルーランド帝国兵に視線を向けたとき、ロッソ騎士団長率いる騎馬隊が勢い良く走り出した。
敵の陣地に徐々に近づいて行くのが後方からでも確認できる。足の速い魔導師部隊はもう少し待機である。
騎馬隊が敵と衝突するまでの距離が約一キロに成ったところで、サーヤの声が響く。
「各自襲撃!私に決して遅れるなよ!」
号令と共に魔導師部隊も出撃していく、隊列を維持しながら約二千名が動く姿は目を見張るものがあるだろう。
距離が明確に縮まっていく、予定通りに敵の魔導師部隊に攻撃を行うため相手の工兵や歩兵を横目に通り過ぎていく。
(何かおかしい……感じがする。何かが変だ……、何が引っかかるんだ?)
横目に通り過ぎるときにサーヤは何かを疑ったが、何が変なのかに気づけなかった。今は作戦に集中すべきだと気持ちを切り替える。
胸にモヤモヤした気持ちがあるけれど、ロッソ騎士団長率いる騎馬隊はすでに交戦に入っている。
今さら引き戻れない、やるしかない。
予定の位置に達したので速やかに攻撃体勢に移る。
「測距兵!! 目標、敵魔導師部隊、旗持ち 測距始め!!」
測距目標を指示され速やかに距離を測る。
測距兵が覗き込んでいる、六十センチ程の長さの円柱型の筒が測距儀である。両サイドにレンズが付いており、片目で真ん中にあるレンズを見る。覗きこんだレンズは真ん中で線が入っており上と下で画像がずれている、上が右側のレンズで下が左側のレンズから見た目標であり、上下のズレが無くなれば正しい距離が分かる。ダイヤルを動かし調整し、距離表示も覗きこんだレンズに表示されている為報告も容易になる。
「目標まで、八百メートル!!」
測距兵の声が部隊に響く。掛かった時間は五秒程である、良く訓練をされているようである。
「第一射、一斉攻撃開始!!」
サーヤの号令で沢山の魔法陣が展開され発動する。
目標である魔導師部隊に魔法が届くのを見届けてから、次の目標に移る予定でいた。
その時にサーヤは気付いてしまう、あからさまに敵魔導師部隊の数が少ないことに。
しかも、反撃をする素振りさえ見せていない。ただ、攻撃を受けているだけである。
「斥候の報告と違う!!
それに、私達が攻撃をしたのは本当に魔導師部隊なのか?」
先程の違和感は、工兵と歩兵の数が多かったからじゃないのか?だとすると罠に飛び込んでいるのではないか?と考えが頭の中を巡る。
その時である、
ドゴォーーン! ドゴォォーーン!
爆風がサーヤ達の後方から襲う、これで理解してしまう。魔導師は後方に居るのは嘘だったんだと、多分歩兵が魔導師を装っていたのであろう。
リング王国騎士団は、自ら後ろを取らせたことになる。
仲間が敵の魔法を受け吹き飛ぶ姿が見える。紙屑みたいに人が宙を舞っている……、どうしようも出来ない自分が居る。
「隊長!!伏せて下さい!!」
フッカが物凄い勢いで抱きつきながら倒れ込む。爆発が近くで起き倒れこんだ二人も吹き飛ばされてしまう。
爆風の影響で意識を失ってしまう。意識が途切れる瞬間、もう助からないとサーヤは諦めの気持ちが心を支配し始めていた。
「た……ょう、たい……ょう!!隊長!」
顔の近くで誰かが叫んでいる声が聞こえる……、意識がハッキリしない。ここは何処だ?何が起きたんだったか?
「隊長大丈夫ですか?動けますか?動けるならば移動しましょう!!」
段々と意識が覚醒していく、そうだ!後方から攻撃を受けているんだったと辺りを見渡すと攻撃を受けた仲間たちが横たわっている。
原形を留めていない者もいる、腕が吹き飛んで激しい出血を伴いながら絶命していく仲間の姿も目に写ってしまった。
「お願いします、動いて下さい!!サーヤさんはここで死ぬような人じゃないんです!!」
フッカは、サーヤを一生懸命庇いながら後退しようとしている。
しかしながら、敵の攻撃は続いている。まるで全員を殲滅するまで攻撃を止めないつもりではないかと思うほどである。
「フッカ……、先に逃げなさい。私は最後まで戦うわ」
「何を寝ぼけているんですか!!今や我が隊は全滅寸前です!!隊長が死ななければ、また再編出来ます!」
無理やり腕を引きながら戦場から遠ざけようとする。
「私はここを死に場所とします!!」
サーヤは果てる覚悟をしてしまったようである。
そんな言い争う二人の後ろから、声がかかる。
「おいおい!お嬢ちゃん方元気がいいな?
助けに来たんだが、要らん心配だったかな?」
サーヤとフッカは突然の声に、彼が発してる言葉の意味が分からず振り向く。
振り向いた先にはローブ姿の者達が立っていた。フードで顔は見えないがサーヤには聞き覚えのある声であった。
「まぁ、余裕こいてる場合じゃないか!お前らは生きてるやつを探せ!
俺は壁でも作ってくるぜ」
瞬く間に行動を開始する、近くに魔法が着弾して爆風が起きている中を、軽々と進んでいく。
ルーランド帝国軍とリング王国騎士団の間に躍り出る、突然の出現に相手側も困惑している。
「いっちょやりますか!」
掛け声と共に男の上空に大きな魔法陣が現れる、魔導師なら見たことのある広域魔法陣である。
ただし、一人では発動できる者は居ないとされている魔法である。
「な、な、何ですか、あれは?」
目の前で起きている事が理解出来ないフッカが声を上げている。
「多分、私の知ってる人達なら、あれくらいはしてしまうわ……」
サーヤは目の前の男を知っている。ラザーで世話になった事も覚えている。何よりあのローブを着ているから。
魔法陣が完成すると男は徐に地面に手をつける。
すると、地震か?と思わせるほど地面が揺れる。男がルーランド帝国軍の前に躍り出て僅か十秒の出来事であった。
魔法陣が発動した瞬間、目の前に全長七百メートル、高さ五メートル、厚さ一メートルの壁が出来上がっていた。
「これで少しは持つだろ」
壁を作り終えた男がサーヤ達の所に戻ってくる。
「おし、後退するぞ!動けるなら自分で動いてくれ」
「相変わらずですね、ザックさん。大雑把な魔法陣の方が扱いが上手いのは昔と変わりませんね」
「お、気づいたか?俺にはサザナミみたいな芸当は出来ないからな」
フッカだけが状況掴めていない、この人は誰なんだろうか?
「し、師匠も!ここに、き、来ているんですか?」
突然のサーヤの豹変にザックもフッカも驚いてしまう。
驚きつつも、ザックは後ろを見てみろと目線で促す。
後ろを振り返ると今居る場所から少し離れた場所に一人立っているのが見える。
「早く下がらないと俺たちも巻き込まれるから、動いてくれ!」
またもや、ザックの言ってる事が理解出来なくて、サーヤもフッカも首を傾げてしまう。
「早くしてくれ、俺らがもらった時間は五分だ!俺とは比べ物にならない広域魔法陣が発動するぞ!!」
ここでやっとサーヤも事態を理解したのか先ほどとは逆にフッカの腕を強引に引いて後退を始める。
「ザックさん、重要な事は最初に言ってください!!フッカも急いで後退して!」
今まで見せたことのないほどサーヤが焦っている姿をみて、フッカも急いで後退を開始する。
「フッカ、今から起きることをちゃんと観ておきなさい」
後退中にサーヤが呟く。フッカは先ほどからサーヤの様子がおかしく感じていた。
後方にいたローブ姿の男を通り過ぎるときフッカは不思議な光景を眼にする。
その男の両手から両肘にかけて淡い光を発しながら蒸気みたいなのが立ち上っていたからである。
戦場に出ている仲間が全て戻ったのか、それとも先ほど聞いた五分を越えたのか。男はゆっくりと走り出す。
十メートル位進んだところで、いきなり姿が掻き消えてしまう。
「え?消えた?」
「消えていないわ、高速移動になっただけ。あれが、オリジナルの高速移動の速さよ」
「嬢ちゃん、上空を見てみな!我らが団長様の広域魔法陣が発動するからよ」
ザックさんに言われるままに空を見上げると、ルーランド帝国軍の上空にいつの間にか移動している。
空中に停止した形で佇むローブ姿の男、両手を下の方に構えると三つの魔法陣が同時に展開される。
敵の陣地が約二キロは有るのだが、全範囲が魔法陣の中に収まる形になっていた。
「な……、な……」
余りの事にフッカは言葉さえ紡ぐ事ができなかった。
あれだけの魔法陣を一人で維持している事実。しかも、三つである。何より魔法陣の展開までに数秒しかかかっていないことに驚きを隠せずにいた。
「伏せろ、衝撃がくるぞ」
ザックさんの声で慌てて伏せる、伏せながら発動の瞬間を見ていたフッカは発動を確認したまでは良かったが、その後の衝撃で意識を失ってしまう。