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亡国の騎士団  作者: 雲ノ上
~序~ 動乱不運を告げる
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第15話

 王都からオール砦に向け騎士団を出兵した日の夜……。王都の酒場などでは色々な情報が飛び交っていた。

 今、巷で広まっている噂の大半を占めているのは、午前中に王政より発せられた非常事態宣言についてである。


 昨夜にもたらされた、ルーランド帝国との国境線にあるオール砦で戦闘状態に突入したとの一報を考慮した結果である。

 王政より出された非常事態宣言の内容であるが、オール砦においての戦闘はルーランド帝国からの宣戦布告とみなし、リング王国に対しての侵攻行為に他ならないとした。

 ただし、対話によって解決出来うるならば、此を主体としルーランド帝国と交渉し事態の収束を計る事とする旨も宣言の中に書かれている。

 現在、ルーランド帝国からの侵略を阻止するために、主とし自衛の為に王政はオール砦へ向け騎士団の派兵を決定。今朝、第一陣の騎士団が出兵した事の説明とされた。

 尚、状況から鑑みてもオール砦で応戦をしたことは事実上、戦争状態に入った事を示すものであり、王政の立場とし、リング王国が開戦をした事を宣言するものであった。


 以上の宣言内容が瞬く間に街を駆け抜けることとなった。王都内にある機関紙は号外を出すなどして非常事態宣言の内容を国民に知らせることに尽力していた。

 号外を読んだ者達を中心に噂は広まっていく事となった。

 特に噂の中心になっていたのは、今まで同盟国であったルーランド帝国がリング王国に対して攻撃を行った事についてである。

 リング王国は近年まで戦争という戦争をしたことの無い国であった。これには、ルーランド帝国とは軍事協定を結んでいる背景があったからだ。

 確かに同盟を結んでいるリング王国といえど過去には国境線において少なからず争いごとがあったことは事実である。が、対話で戦争になること回避してきた実績があった。

 また、外交によって各国と良好な関係を築いていると国民は思っていたし、平和な国だと信じていた。

 王政の政策において、軍事面では大国であるルーランド帝国と協定を結んでいることを盾に軍部の縮小政策を進めた。同盟もある事、対話による戦争回避の実績もあり、この政策に対して国民からの反対の声は少なかった。


 だが、今回は今まで王政が出たことのない非常事態宣言である。

 しかも、非常事態宣言の内容が内容である。突然の同盟国の裏切り行為により国民感情に不安感の波紋を広げることになった。


 酒場では酒を片手に大人達が憶測や感情論で意見を言い合っている。

 「こちらから攻撃を仕掛けたのではないか?」や、「去年ルーランド帝国で起きた飢饉が原因じゃないか?」等、中には「こうなる事は決まっていた」と言い出す者や「俺達の国に勝てる国は無い」などと豪語する者まで皆思い思いに話をしている。


 元々、酒場など人が集まる場所は情報収集をするのに適した場所であるのだが、今の状態では正確な情報など得る事が困難である。

 奥のテーブル席にローブ姿の男が三人座って、酒をチビチビ飲んでいる。

 店内であるためフードは脱いでいる男達であるが、特に会話などせずに酒を傾ける姿は今の店内の雰囲気からは異質である。


「やはり、今の王都でマシな情報を得る事は難しいですね……。待ち人も中々来ませんし、出兵した騎士団の情報さえ手に入れば良いんですがね……」


「噂の内容も、皆いい加減すぎますよ。ねぇ、一番隊隊長?」


「ん?んまぁ、仕方ないだろ……。状況が状況だし、皆酒飲んでるからな」


 三人ともに愚痴を言いつつも耳では噂話から情報を得ようと集中している。一番隊隊長のグラスが空になり手酌で酒をついでいるとき、後ろから声がかかる。


「いやー待たせてしまって、すみやせん。ちと情報を集めるのに苦労しやしてね……」


 少し髪が後退しかけた短髪の頭を掻きながら、中年の男が立っていた。


「ルドルフさん、遅かったですね……」


「いやはや、情報収集はあっしの本業なんですが、最近は若い奴に任せてたせいか少し時間が掛かってしまいました」


 苦笑いをしつつ空いてる席に座るルドルフに対して、新しいグラスに酒を入れて目の前に差し出す。ルドルフが言っている事が冗談と分かっているので、誰も文句を言わない。

 もし、ここにいる梟の諜報部隊の隊長であるルドルフの腕が落ちているなら団長は今回の情報収集を任せたりしないであろう事を知っているからだ。国内の情報なのにルドルフの腕をしても時間がかかると言うことは、それだけ情報が曖昧だったか厳密であったからであろう。

 特に、軍に関わる情報と言うのは機密性が高い。部隊編成からそれを指揮する者の名前が仮に敵国にでも漏れれば勝てる戦であろうが敗戦する可能性だってあり得るからだ。


「それでは、報告しやす。派遣されたのは、ロッソ将軍を騎士団長とし約三千人を出したようです。

 内訳ですが、半分が騎馬隊で後は魔導師と貯蔵庫タンクだそうです。

 あと、移動手段ですが軍馬車を使用しているようです」


「うーん、短期間で編成した部隊だが、そこまで悪い選択じゃなさそうだな」


 ルドルフは一口酒を飲み、続きを話す。


「ああ、それから、魔導師隊の隊長はサーヤが任命されたようですぜ」


「そうか……、とりあえず一安心だな」


 ここまでの話を聴いていた仲間の一人が席を立ち、店を出て行く。去っていく仲間を見つめつつ残りの男達はグラスに残った酒を飲む。


「さて、団長はどう判断するかな?もう少し情報収集をしたら、俺達も戻るぞ」


「あっしは別口で収集してきやす。では、のちほど」


 ルドルフも店を後にする。

 彼の事である、違う酒場にでも行くのか、それとも何処かの情報屋と情報交換でもするのかも知れないな、と考えながら酒場の語らいに耳を傾けるのであった。






「そうですか、分かりました。

 今、情報収集に出ている団員が戻り次第オール砦に向けて出発します。

 王都に向かっている他の団員については、王都で一旦休息をとらせた後に、私達の後を追うように伝令してくれ」


 ホテルの一室において、先ほど酒場に居た男がレンに報告を終え、レンから次の指示を受け速やかに退室していく。

 レンは室内の簡易椅子に座りながら、腕を組んで瞼を閉じる。しばらくすると閉じていた瞼を開け徐に足元にある鞄から、地図を取り出しテーブルの上に広げる。

 地図をみてオール砦までの道のりを確認する、現在のリング王国軍の進行状況を予測をしているようだ。

 地図に視線を落としていると、扉がノックされる。返事を待たずして扉が開かれ、一番隊隊長が入ってくる。


「団長、今戻ったぜ」


「ご苦労様、丁度良かったよ。今から今朝出兵した騎士団を追いかける」


「了解、速やかに準備させます」


「報告に来た彼には別の伝言を頼んだ、残りの者は速やかに北門に来るように言ってくれ」


「では、北門で」


 短いやり取りをして一番隊隊長は自分の部屋に戻っていく。

 静かになった室内でレンは窓の方を見ながら話しかける。


「ルドルフはこのまま王都に留まり、情報収集を頼む」


「了解しやした」


 姿は見えないけれど、ルドルフの声が室内に響く。






 夜も深くなり日を跨いでいるであろう時間であるが、王都の各門は閉まることなく空いている。篝火が焚かれ門の付近は明るくなっている。

 警備の問題もあるのだが、王国の中心地だけあって各都市からの物資が時間を問わず集まって来るため夜間であろうが開放しているのが現状である。

 非常事態宣言を出されたばかりではあるが、門の閉鎖迄には至っていない。

 いつもより常駐している兵士の数を増やし対応をしているようで、武器を携帯した兵士が六名ほど門の前に立っている。

 篝火の明かりが微かに届くところでローブ姿の集団が集まっている。警備をしている兵士も少なからず意識しているのか視線が集まっているように感じる。


「集まった様だから出発するが、騎士団がオール砦に向かうルートが二つ予測出来る。

 まず、正規の街道を進む場合だ。緊急を要するのに、ロッソ将軍がこのルートを選択するとは思えない。

 次が、オール砦まで続く平原を突っ切るルートだ。道は無いが時間を短縮するには、平原を突き進む方が遥かに速い」


「で、団長はどちらのルートで行きますか?」


 一番隊隊長が他の団員の代弁をする。


「平原を突き進むことにする。

 但し、平原は広い。各自細心の注意を払いながら移動してくれ」


「「了解」」


「先頭は私が行く。遅れるなよ」


「え?団長が先頭?マジか……、野郎共覚悟決めろ」


 振り返りながら一番隊隊長が団員を励ますように声をかける。

 皆、フードを被っている為に顔色を伺うことは出来ないが、緊張感と言うか張り詰めた空気になっている。

 レンは周りにいる団員を見渡した後ゆっくりと走り出す。十メートルほど進んだところで姿が消えたように見えなくなる。


「行くぞ!!」


 一番隊隊長の掛け声と共に団員が一斉に走り出す。次々と闇に消えていくのを門番をしていた兵士は驚きながらみていた。

 




「隊長……、団長の移動する速度が速くないですか?付いていくので一杯です!」


「団長はまだ本気で走ってないぞ。喋る余裕が有るなら速度をあげろ!

 俺だってキツいんだからよ……」


 月明かりが大地を照らしているといっても夜である。

 走るのは不十分である視界にも関わらずレンは馬で駆ける以上の速さで走っている。後ろを追従している団員達はレンから離れないように走るだけに集中しているようである。

 団員の速度が少し落ちてきたので一番隊隊長は慌てて速度を上げてレンに追いつく。


「サザナミよ、団員が遅れだした。少し速度を落とした方が良いんじゃないか?」


「そうですか、分かりました。少し落とします」


「頼む」


 一番隊隊長からの進言のおかげで速度は少し落ちたが、それでも他の者にとって楽になった訳ではないようである。


「あんまり変わったようには思わないんだが?

 急く気持ちは分からんでも無いが騎士団に追い付いた時に皆がへばっていたら戦闘に支障をきたすかもしれない。

 もう少し余裕をくれ」


「あぁ、そう……だね。悪かった、昔の仲間と行動している感覚でいた。

 オール砦に向かったのがサーヤだと聞いたから少しでも速く向かいたいと思って」


「弟子だから気にかけるのは分かるが、今は団員の事に気を掛けてくれ」


「すまない、団員も大事な仲間だからね。

 もう少し落とすことにするよ」


「あぁ、そうして貰えるとたすかるぜ」


 先ほどより移動する速度は落ち、団員達も余裕を持って動いてるようである。

 オール砦に向かう十名の者達を夜空に昇る月が照らし、草原を駆ける姿が大地に影を作っていた。

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