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亡国の騎士団  作者: 雲ノ上
~序~ 動乱不運を告げる
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第14話

 暗くなった街道を王都方面に向け進む一団がいた。ランタンで進行方向を照らし、昼間より速度的には劣るものの、それでも夜の街道を走り抜ける。

 本来、夜間の移動というものはリスクの方が大きい。暗がりを走る事はどんなに慣れたベテランでも注意を怠る事が出来ない、闇によって視野が狭くなる事も危険になる一因である。

 整備された、なだらかな道ならば良いのであるがフリージアと王都を繋ぐ街道は流通の道である。交通量が多い為に街道の彼方此方に轍が出来ている、ところどころで車輪を轍に取られながらも馬車を操縦しているのは従者の力量であろう。

 たまに轍に取られ揺れる馬車の中は、揺れる事に慣れているのか特に気にしてる様子は見受けられない。ただ、同乗者が七人も居るにもかかわらず会話等があまりにも無いのが不思議なくらいである。

 同乗者の一人でもあるエミリーは内心で早く王都に着かないだろうかと考えていた。

 馬車の中が密閉された空間であること、挨拶は交わしたが会話という会話をしていないので打ち解けた感じがしないことが理由になっていた。

 

(なんだか気まずいな……、日没前に会話してから皆さん話そうとしないし……。

 あ、そうか!私から話かけてみよう。何時までも会話が無いのは耐えられない)


 いざ、会話をしようと決意をしたものの何について話せばいいか悩んでしまう。当たり障りのない内容が良いだろうし、答えにくいのは避けるべきよね。と、考え出したら何が良いのか分からなくなってきた。

 会話をしようと心に決めてから早一時間は経とうとしていた、隣に座っているシーアがエミリーが難しい顔をしている事を気にして話しかける。


「エミリー?先ほどから難しい顔をしてるようだけど、何かあったの?」


 シーアが話しかけてくれた事は渡りに船であった、これをチャンスとして会話を広げる事が出来るとエミリーはうれしくなっていた。


「えーとですね……、特に何かがあった訳じゃないんです。

 そのですね……、皆さんにお聞きしたい事がありまして、良いでしょうか?」


「答える事の出来る事なら答えるわよ」


「私も同じね」


 シーアを初め他の同乗者も頷いたりして肯定している。シーア以外ではマリーのみが声で了承している。


「えーと……、皆さん傭兵が本職なんですか?他のお仕事とかしてたりするんですか?」


 仕事の話なら当たり障りの無い内容であろうとエミリーは考え切り出す。


「エミリーは知ってると思うけど、私は梟の止まり木亭がサブね。本職は傭兵で合ってるわよ」


 一番最初にシーアがエミリーの質問に答える、この流れで他の人も話てくれると会話が弾むだろうか?と考えていたがアリアの一言で空気が重くなる。


「はぁ……、仲間だからって色々詮索するのは失礼な事だし、嫌われる行為よ」


「まぁまぁまぁ!良いじゃない?話したくなかったら言わなきゃいい事なんだしね?」


「私は気にしないから大丈夫だよ!」


 すかさず、マリーとミアがフォローに入ってくれる。

 アリアの言う事も分かる気がするため、エミリーも会話の選択を間違ったかもしれないと思ったが、今更やっぱり良いです。と言い出せなくなってしまい、このまま進める事にする。


「ご、ごめんなさい。深く考えていませんでした……、言いたくなければ結構ですので……」


「はいはい!んじゃ、次は私ね」


 会話に飢えていたのだろうかミアが元気に手を挙げている。


「私は本職もサブも傭兵だよ。梟が活動してないときは違う傭兵団で活動してるよ。

 でも、梟の方が大事だからフリージアを拠点にしてる傭兵団以外では活動していない、召集が掛かったときに違う地域とかにいたら出遅れるからね」


 ミアが一人で納得したように頷きながら話している。


「ミアさんは傭兵一本なんですね」


「結構多いよ。両方傭兵って珍しくないし、冒険者と兼務してる人だっているよ。

 まぁ、私は頭使うの苦手だから体を動かすしか取柄が無いってだけなんだけどね」


 ミアが自傷気味に言いながら苦笑いをしている姿が可愛らしくみえてしまう。


「次は私かしら、私はフリージアで雑貨類を扱う店をしているわ。

 エミリーも時間があったら顔を出してね」


 ミアの次にマリーが答える。


「お店で使っている食器などは全てマリーさんの所から仕入れているわ」


 シーアが補足をしてくれる。お店で使っている食器類は柄が可愛い物や色彩が綺麗な物が多いのは、マリーさんのセンスなんだとエミリーはお店の食器を思い出していた。


「はい、時間を作って必ず伺わせて頂きます」


 此処までは上手く話が流れたようだが、またしても会話が途切れてしまう。残るはウテナとフェイとアリアだけである。

 先ほどの感じからアリアは話しそうに無いと考えたほうが妥当であろう。そうなるとウテナかフェイのどちらかに話しかけるしかない……。


「えっと、ウテナさんにお聞きしても大丈夫ですか?」


「うちですか?うちはそこまで気にしてませんよって、聞いて貰っても構いませんえ」


「それではお願いします」


「うちは……、レンさんの愛人です。本職もサブも同じですえ」


「え、え?えぇ?あ、愛人ですか?」


 意外な答えにエミリーが慌ててしまう、真面目な顔をして言っているので冗談を言っているようにも思えないので返答に迷ってしまう。


「何くだらない事言ってるのよ……。エミリー冗談よ信じちゃ駄目!、ウテナはお店に食材を下ろしてる商会の店主よ」


 ウテナの冗談だとシーアに教えられても、ウテナの表情が変わらない為に冗談と分かってるつもりでも戸惑ってしまう。


「シーアはん。そないすぐに、バラさんでもええんちゃいますか?」


「ウテナの冗談は面白くないし、冗談でもキツイからね」


 シーアとウテナの間で火花が散っているような幻覚が見える。この様にらみ合う二人に対して話しかけるには、かなり勇気が必要であろう。


「もう、シーアとウテナは仲がいいですね」


 ん?誰かが会話に口を挟む。エミリーの座る場所からはあまり見えないけれど、フェイが発言したようである。


「ちょっと、私はこんな女と仲良くは無いわよ!」


「そうですえ、フェイはん。この女とうちは仲良くないですえ」


 今の状況で、火に油を注ぐようなことを言ってのけるフェイさんは凄いなと率直に思ってしまう。

 でも、フェイの喧嘩をするほど仲がいいと言う言葉で考えればシーアさんとウテナさんは仲がいい事になるなぁ、とエミリーも同意してしまう。


「もう、馬車の中は狭いんだから喧嘩するなら外でしてくださいね」

 

 険悪になっている雰囲気に嫌気が差したのかマリーが苦言を呈する。

 エミリーもさすがにこのままでは駄目だなと思い無理やりだが話題をフェイに振る事にする。


「フェ、フェイさんはサブに何をしているんですか?」


「私ですか?私はサブは何もしてませんよ。梟の召集が無ければ自宅にいるだけなので」


 フェイの返答にエミリーが困ってしまう。どういった意味で言っているのか理解できないでいる。


「えっとね、フェイはフリージアでも五指に入る財閥の令嬢なの……。

 だから、普段は何もしてないのよ」


 困ったときに助けてくれるシーアである。

 シーアから令嬢だと言われると、フェイの少しおっとりしている性格も納得してしまう。

 しかし、この馬車にいる人たちは皆個性が強いなと今までの会話を聞いてエミリーは考察していた。

 これだけ個性が強いと纏める人は苦労しそうだなとも少し思う。まぁ、纏めるられるのは団長であるレンかシーアしか居ないのかもしれない。


「それなら尚更、傭兵をしてる意味が分かりません……」


「それは色々あるのよ。これこそ、深入りしては駄目な問題ね」


 シーアから注意を受ける、確かに本人から話そうとしない場合は何らしか事情があるのだろう。話す気がない事を聞くのは先ほども注意されたことである、学ばないといけない。


「そうでした。今後は気をつけます。

 えーと、色々皆さんのことを知ることが出来て嬉しいです」


「まだ、アリアさんが話していませんよ」


 触れないでいた事にフェイが触れる。


「アリアさんも話して欲しいです、私達だけ話すのはフェアじゃないですよね?」


 フェイが追い討ちを掛ける。フェイに言われたアリアは溜め息を吐き出すと静かに話し出す。


「私は本職がオルゴール職人で、サブが傭兵よ」


「お、オルゴール職人ですか……」


「ええ、そうよ。オルゴールは楽器なの、音楽を奏でる素晴らしい仕掛けなの……。

 オルゴールの音色を聞いて、少しでも平和について考えて欲しいと思って作っているわ」


「平和ですか?」


「そう、平和よ。

 私はね、人が音楽を聴くときは二つしかないと思っているわ。

 平穏である事を実感するために聴く音楽と、戦場で兵士を鼓舞する為に聴く音楽よ」


 エミリーはアリアの言っている事に対して答える事が出来ずにいた。何て答える事が正解かも分からない……。


「丁度いいわ、エミリーだっけ?平和ってどうやって生まれるか知ってる?」


 突然の質問に慌ててしまう、アリアからされる質問は答えに窮するものばかりだ。


「わ、わかりません……」


「平和って願えば平和になる?

 兵士の数を減らして戦争をしないとアピールすれば平和になる?

 相手に支援物資を送れば平和になる?

 私はどれも正解じゃないと思っているわ」


 アリアが一息入れてから、又続きを話し出す。


「平和ってのは軍事力が有ってこそ初めて実現するの。矛盾しているように感じるでしょう?

 でも、矛盾はしてないわ。

 軍事力を有している事、その国を攻める事が出来ないと思わせる事で戦争の抑止になる。

 後は、軍事力を有していると相手と結んだ条約が守られる事になる。

 その上で、相手の事を理解していく事が必要になるの……。分かり合えて折り合いがつけば戦争をする意味がなくなるからね。


 そもそも、戦争をする要因は自分とは違う種族や国籍であること、相手の考えている事が理解できないから、理解できないものを排他しようとする延長線上に戦争が起きるの。

 今回の戦争に関してはリング王国の軍事力が少ない事が原因だわ、本来軍事力ってのは全国民の1%を有していないと国防なんてできないの……


 なのに、リング王は軍の縮小を行ってきた。これはかなりの失策だわ。

 今回のルーランドの侵攻も国を守れる兵士の数が減ってきた今を勝機と考えての事でしょう。

 傭兵が助けてくれるなんて甘い考えを突き通した結果が今なんだよ……」


 無口な人だと思っていたアリアは話し出すと淡々と塞き止められていた水が流れ出すように話し出した。

 アリアを知っている他の者達でさえ驚きを隠せずに居た。どれだけアリアがしゃべる事が珍しいのだろう。


「少し話し過ぎたわね……。まぁ、後は自分で考えなさね」


 アリアは言い終わったのか馬車の窓から外に視線を向けて、何も無かったように静かになる。

 今聞かされた言葉がエミリーの中で消化できずに、もやもやとした気持ちになっていた。今まで戦争の事についてなんて深く考えた事も無かったし、攻められたらやり返せば良いと単純に考えていたりもした。

 アリアから投げかけられた質問でエミリーの意識に今回の戦争について、ルーランド帝国について考えてみようという気持ちが芽生えていた。

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