第13話
空に流れる雲の数も少なく、太陽が頂点に達して大地を燦燦と照らしている。昼食を終えて木陰で休むには今日はとても最適な日だと思うほどである。
そんな穏やかさとは別に郊外の一画では異様とも言える一団が集まっていた。商隊にしては人数が多いように思われるし、軍馬と思われる馬もそれなりにいるようなので騎士団かと考えるが、騎士団にしては各自の装備に統一感もない。
はたから見た場合、人数にして百人以上居るのは確認できるが、各々の表情が硬いように感じる。そのような状態の為に容易に近づける雰囲気ではなく、近くを通る商人などは好奇心より警戒感の方が強いらしく避けるように距離を離していた。
まだ夏には程遠いといえど、太陽に照らされ遮る物がない状態で外に居ることは結構体力や気力を奪うものである。
だが、集まってる者達は気にしてないようである。ある者は自分の装備の点検をしているようであるし、また違うものは軍馬にブラッシングをしている。他の者も馬車の積載物を確認をしてるようである。
「俺も直接団長の言葉聞きたかったな……、なぁ、そうだろ?
店に全員入れないからって幹部クラスのみってのは悲しいよな……」
馬車の荷物を確認していた男が近くに居た女に話しかける。
話しかけられた女の方は、手に持った書類と積載物に間違いが無いかを確認作業を続ける。書類を見るたびに顔を下げるの繰り返しで掛けてる眼鏡が下がってきたのを直しつつ、仕方なく男に返事を返す。
「お店に入れないんだから仕方ないじゃない、だからと言って嘆いてないで仕事してよね!
それから、戦場で功績を残せば幹部にだってなれるし、団長の側近にもなれるわよ」
書類に落としていた視線を男に向けながら溜め息を付いてしまう。
「分かってるんだがよ、戦場で功績なんて中々挙げることなんて出来ないだろ……。
うちの団長にしたって幹部連中にしたって、俺らとは戦闘経験から技術に至るまで雲の上の人たちだろ?」
「そう思うなら地道に努力するしかないわね……、私は今与えられてる仕事をこなす事も大事な事だって思ってるから貴方とはおしゃべりする時間はないの!」
面倒になってきたのか、書類に集中できない為なのか返事が少し怒っているようにも聞こえる。
粗方の積載物の確認も終わった頃、フリージアの北門を抜けて此方に向かって歩いてくる一団が見える。遠目でも、此方に向かってくるのが団長の出発命令を受けた幹部達だと気づく。
待機していた他の団員も気づいたようで何時でも動けるように隊列を組み始める、幹部達が着いた頃には隊列は組み終わっていた。
先ほど店内で団長の前に歩み出た男が、隊列を組んだ仲間の前に歩み出る。
「少し待たせてしまったかな?
とりあえず、今回の要請内容を説明しよう!まず、今回の殲滅目標だが皆聞いて驚くなよ?
敵はな、我らが宿敵であるルーランド帝国である!」
隊列を組んで静かに話を聴いてた一団にざわめきが起きる。驚くなよと前置きをされていたにも関わらず驚きの声が出るのは団員が考えてた予想を上回っているためであろう。
「だから驚くなよって言っただろうが……。
まぁ、仕方ないかね。聞かされたとき俺達でも驚いたからな。
続きがあるから静かにしろよ。
現在、リング王国とルーランド帝国がオール砦で戦闘を開始、戦争に突入したってことである。
そこで、リング王国より正式に団長へ戦闘に参加するよう要請が来た。団長はこれを承諾してので、皆に召集がかかった訳である」
先ほどのどよめきは収まり、皆真剣な表情に戻っている。
「あーそうだった……。団長よりさっき言われた事なんだが「家族が居るもの技術的に衰えたと感じるものは残ってもらって構わない」だ、そうだ。
その言葉に対して皆を代表して俺が否定したが良かったよな?
命に関わる事だから、心配や不安があれば残ってくれ!」
先ほどのどよめきより大きな声が上がる。口々に「そんな奴は俺らの仲間に居ない」や「召集が掛かった時点で覚悟は出来ている」、「私は団長の為に、この身を捧げます」など意見が出ている。最後の意見は少し違うように感じるが気にしないでおこう。
「よし、皆ならそう言ってくれると思っていた。
まず、足の速い先行部隊を王都へ向けて出す。
先行部隊の隊長を一番隊長とし足が早い者を十名を選出する、一番隊の団員は各隊に分散せよ。尚、一番隊長に声を掛けられた者は従うように!
それでは、今から王都に向け出発だ!
各部隊の魔導師どもは高速移動で王都へ向かえ!!
他の者達は馬と馬車で移動開始!!以上だ」
指示が出されると一斉に動き出す、何名かは一番隊長に声を掛けられたようで先行部隊が出来上がっていた。
先行部隊と魔導師たちが動き出した頃に、シーアとエミリーがやってくる。
「凄い……!!ここに居る人たち全員梟の団員なんですか?」
「そうよ、これでも全員集まってないのよ」
エミリーが驚いているが、シーアにとっては慣れた風景である。今更感動するような事もないし、今はレンから言われた事に集中していた。
「ところで、エミリーは高速移動は出来ますか?」
「えっと、出来ますが魔力が王都まで持ちません……」
シーアは困ってしまう。途中でエミリーを置いていく事もできない、かといって抱えて移動するにはシーアでも大変である。団長から言われたのは王都まで連れてくる事なので、確実に移動できる馬車が妥当だなと考える。
「それでは、空いている馬車に乗っていきましょう。それでいいですね?」
「は、はい。お願いします」
シーアがエミリーの返事を聞き終えると、まだ出発してない馬車の空きを近くに居た、眼鏡を掛けた女性に確認を取る。
数分でシーアとエミリーが乗り込む馬車が決まる、エミリーはシーアの後を着いていくしかなった。
シーアが立ち止まった前にあった馬車は荷物を運ぶような馬車ではなく、人間を乗せるために設計されたもので、尚且つ少し装飾もされた綺麗な馬車であった……。
「ち、チーフ!これに乗るんですか?」
「そうよ。時間もない事だし、さっさと乗りなさい!」
何を気にしているんだと言わんばかりの表情をしているシーアをよそにエミリーは戸惑うばかりであった……。
「し、失礼します……」
シーアが先に馬車に乗り込んでしまったためにエミリーも覚悟を決めて馬車に乗り込む。中にはすでに六名乗り込んでいる、最後となるエミリーが乗り込んできても気にするような素振りを見せるものは居なかった。
「はじめまして、エミリーです。よろしくお願いします!!」
乗り込んで知らない人ばかりの空間、気まずいと思ってエミリーが自己紹介をするが誰も反応を見せない。
「エミリー、馬車を出せないから早く座ってね」
「は、はい」
シーアが優しく声を掛ける、やはり他の者達は興味を示さないようである。エミリーはシーアに言われたように腰掛けると、エミリーが座るのを待ってたかのように馬車が動きだす。
馬車の中にはシーアとエミリーを合わせて七名が乗り込んでいる、向かい合わせで座っているために大体の顔を見る事が出来る。
乗り込んでいるのは全員女性のようである、全員ローブを着用しているので魔導師だと分かる。エミリーが一人一人の顔を確認するように見ていると、シーアが横で話しかけてきた。
「エミリーは梟の面々と会うのは初めての人の方が多いのよね、この馬車に居るのは女性幹部ね。
一番左に居るのが、一番隊の副隊長のアリア」
エミリーが座っている場所は馬車の従者側の入り口側である、隣にシーアが座りシーアの左に赤髪の女性が座っている。
エミリーから見て向かい側は、一番左に黒髪でショートヘアの女性。この女性が一番隊の副隊長なのであろう。シーアの説明の後に微かに頭を下げる仕草をしている。
「で、その隣が三番隊の隊長のウテナね」
アリアの隣に座る女性も黒髪であるけれどロングでポニーテールにしている。アリアに比べて優しそうな表情をしている。ただ、紹介されていても関係ないと言わんばかりに無視をしている。
「次が七番隊の隊長のマリーね」
マリーは明るい水色の髪をセミロングにしている、右目に泣きホクロが有るのが印象的な女性である。シーアの紹介と同時にエミリーに手を振っている。
「一番右に座ってるのが、えーと……誰だっけ?」
「なんで、私の名前を忘れるのよ!!嫌がらせですか?ミアですよ!」
「じょ、冗談よ?怒らない怒らない。たしか七番隊の副隊長……だったはず」
「覚えていないの?ひどいじゃないシーア!!七番隊の副隊長よ、ちゃんと覚えてよね!」
シーアとミアのやり取りでエミリーの緊張していた雰囲気が柔らかくなる。シーアなりに気を使ったのかもしれない。シーアと言い争うミアは栗色の髪でショートにしている、話し方と合間って元気な女性だなとエミリーは思ってしまう。
「で、最後はフェイね。十番隊の隊長ね」
赤髪の女性はエミリーの場所からはよく見えないけれど、シーアの紹介に合わせて深々とエミリーに頭を下げたのが見えたのでエミリーも失礼のないようにと深々と頭を下げる。
「他の隊長や副隊長は追々覚えていけばいいわ。最初だし、直ぐには覚えられないと思うけど頑張ってね」
シーアのよって紹介を受けたが、エミリーは全員を覚えるの大変だなーと思う事しか出来なかった。
さすがに覚えたつもりで名前を呼んで間違ったりしたら、どうしようと今から少し不安になっていた。
エミリーの乗り込んだ馬車はひたすら街道を王都へ向けて走る。王都へ向かう梟の馬車が列を作っている姿をエミリーは馬車の窓から見つめていた。
他の馬車の中はどうであるかは分からないけれども、エミリーの乗る馬車はとてもとても静かであった。必要以上の会話が無いのはとても退屈であるし、なにより時間が進むのが遅い気がする。
空にある太陽が傾き、後数時間で日没を迎えるのだろう時間に差し掛かっていた。
「このまま進めば明日の朝には王都につけそうね。先行部隊はもう直ぐ王都に着く頃かしら」
マリーがシーアに話しかける。久々の会話にエミリーも参加したいと思うけれど内容が分からないので参加する事が出来ないで居る。
「順調にすすんでいれば到着していてもおかしくは無いわ。さて、王都からどの部隊が出兵しているか気になるところね」
シーアが質問に答えつつ、オールに向かった部隊の事を気にしている。
「まぁ、確かにどの部隊が出ているかで勝率が変わってくるからね……。
シーアのお姉さんが率いる部隊が出兵しているのが一番勝率がありそうね」
「ええ、団長も同じ意見でしたね。
しかし、姉の部隊は第三魔導師団です、緊急事態なら第一魔導師団や第二魔導師団が動くのが常です。
ここでの選択を間違えると王都防衛線に一直線になると団長は言ってました」
シーアから団長の考えを聞かされ同乗しているものたちも思う事があったのかもしれない。珍しくアリアが口を開く。
「一番隊の隊長が先行しているのは万が一を見越しての事です。団長の期待を裏ぎるような事は一番隊長はしません!」
「何も疑っているわけではないさ。だが、最悪を想定して動かないと、いざって時に動けなくなるよ」
アリアの気持ちだって理解できるが、マリーの意見の方が正しいとエミリーは思う。色々会話に参加したいとおもうけれどやはり内容が分からず会話に参加できないのでエミリーは聞き手に徹するしか出来なかった。
空を見上げると夕日に照らされ赤くなっていた。まるで今の自分みたいで、後は暗くなるだけだなとエミリーは思った。