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亡国の騎士団  作者: 雲ノ上
~序~ 動乱不運を告げる
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第8話

 王都を出兵した部隊は少しばかし強行軍であるが順当に進軍をしていた。オール砦には早くても後二日はかかる距離である、部隊を野営させる場所を確保して兵士を休ませつつ魔導師隊の隊長は空を見上げながら考え事をしていた。金髪の髪がそよ風になびき沈もうとしている夕日に照らされ微かに光を反射していた。

 今回の混合部隊の指揮権は騎馬隊の隊長であるロッソ騎士団長が持っているが、ロッソ騎士団長は魔導師の指揮権ならびに作戦立案は魔導師隊の隊長であるサーヤ魔導師に一任する形にしている。

 ロッソ騎士団長の言い分としては効率よく部隊運営するには畑違いな自分が指揮するよりも本職の人間に任せるほうが効率も作戦の成功率も上がると考えたからである。魔導師隊からの進言に耳を傾けるだけの価値があると考えての指揮権の委譲である。

 サーヤもロッソ騎士団長の考えを汲み取り今回の作戦においては失敗は出来ない気持ちと現状として戦局がかなり厳しいことも理解せざるおえなかった。

 

 ((このまま進めば早ければ明後日には接敵する。しかし、それはあくまでもオール砦が陥落していないことが前提だ・・・。もし、オール砦の戦いで我が軍が負けていればおそらく向こうも進軍を開始している可能性だってあるだろう、そう考えると明日には接敵してもおかしくない。そろそろ本格的に斥候を送っておくべきだろう・・・))


 段々と夜の色に染まる空を見つめつつ考え事をしていると、後ろから声がかかる。大体予想できるがサーヤは声の主を確認するようにふり返るとまだ若い女の魔導師が額に汗を滲ませながら立っていた。今回の混合部隊で魔導師隊の副隊長になったフッカである。


「隊長探しましたよ・・・天幕にお伺いしたんですけどいらっしゃらなかったので」


「あぁ、すまない。少し考え事をしたくてな・・・」


 今回の混合部隊にサーヤの右腕として副隊長に任命している弟子のフッカ。サーヤを師として近年実力を現してきた魔導師である。


「かなり考え込んでいるように思われますが、オール砦のことでしょうか?

 個人的に私としては隊長がいらっしゃるので心配なんてしていません。次期宮廷魔道師とまで言われている隊長がいればルーランド帝国の騎士たち等相手になりませんから」


 サーヤの気持ちなど露とも知らずにフッカはここぞとばかりに、自分の考えをサーヤに伝える。

 サーヤは少し困った顔をしつつ淡々と胸の内を語りだす。


「買いかぶってもらっても困る。私はそんなに強くない・・・、。こんなときに私の師匠がここに居てくれたらよかったのにと出兵してから何度考えたことか・・・・・」


 隊長という責任ある立場にいる人間としては、かなり弱気な発言である。しかし、どんなに客観的に考えても今回のルーランド帝国の侵略に対抗することが難しいことであると部隊を率いる人間として分かってしまっているサーヤの本心なのであろう。

 

「私からすれば隊長の魔法に勝てる人間など居るとは思えません。隊長はリング王国において唯一オリジナル魔法を持ってらっしゃるではありませんか?ルーランドの魔導師にさえ出来ないことを隊長は出来ます。自信を持って下さい」


 サーヤを励まそうと出た言葉であるが、言われた本人には届かない言葉のようである。サーヤは近場にあった岩に腰掛て胸のポケットから煙草を取り出し口にくわえ右手の人差し指で煙草に近づける。人差し指に小さな魔法陣が現れ煙草に火がつくとサーヤは煙草の煙を一回深く吸い込んでから吐き出す。


「まず、私が使っている魔法で皆がオリジナル魔法だと言っているものは実はな、私の師匠のオリジナル魔法の劣化なんだよ。私でも使えるように師匠が簡略して私に授けてくださったものなんだ」


 煙草の煙を吐き出しつつサーヤは話を続ける。


「少し昔話をしよう、フッカも腰を下ろしなさい」


「隊長が過去について話してくださるなんて珍しいですね。時間もありますので聞かせていただきます」


 サーヤに正対してフッカも近場の岩に座る。


「さて、どこから話そうかな・・・。まずは師匠との出会いから話そうかな。

 私がまだ十三歳の時にルーランド帝国とライド王国との間で戦争が起きた。フッカも知っていると思う。

 実はな私はリング王国の出身じゃない、ライド王国の出身なんだ。当時ルーランドの兵士は侵攻する道にある村なども焼き払い住人を残虐をしていた。

 私の住んでいた村はラザー平原の近くにあってだな、もれなくルーランドの兵士に村を焼かれ、両親も殺された・・・・」


 煙草をまた深く吸い、過去を思い出すようにサーヤは空を見上げた。

 フッカはなんて声をかけたらいいのか分からず、サーヤが話し出すのを待つことにした。


「村で生き残ったのは小さな子供ばかりだった。私は数人の子供達と一緒に敵の兵士から逃れるために当ても無く我武者羅に逃げたんだが大人と子供では簡単には逃げることなんて出来なかった・・・・」


 昔を思い出し、少し表情が暗くなっているのが、話の続きを語りだす。


「もう駄目だと思ってる時に助けてくれたのがと言うライド王国の騎士団だったんだ・・・。村を襲ってたルーランドの兵士は百人ほどの部隊だったんだが、梟に居た魔導師が一人で殲滅してしまったんだ・・・。信じられるかい?

 しかもだ、その魔導師は何と私より年齢が若かったんだ、それで居て当時十二歳でライド王国の騎士団に所属していた。

 私より若く、でも実力がある人物と出会った時とても不思議な気持ちになったよ・・・」


 先ほど吸っていた煙草が短くなったので魔法で燃やし尽くして、新しい煙草を咥え火を付ける。

 煙草の先から紫煙が昇るのをサーヤは見つめながら、過去を思い出しようにまた空を見上げる・・・・

 フッカはサーヤと同じように紫煙を見つめ空を見上げる、今までサーヤが語らなかった過去に少しでも理解しようと耳を傾ける。空は段々と夜の暗闇が近づいていた・・・・・


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