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妹の話

 狭山さんと別れて家に戻ったのはもう夕方近くだった。


 家に戻ると、妹が子供部屋でテレビを見ていた。


 僕の実家には個人の子供部屋というものがない。あるのは十五畳くらいの大きな部屋がひとつあるだけで、それを共同で使っている。


 妹とは五つ齢が離れている。現在妹は二十歳でアメリカの大学に留学している。でも、今向こうの大学は長期の休みに入っているらしく、その間特にすることもないので、妹は地元の宮崎に帰ってくることにしたようだった。


「どこにいっちょったて?」

 と、妹はテレビ画面に視線を向けたまま宮崎弁で僕に話しかけてきた。

「ちょっとファミレスに。」

 と、僕は言った。

「昨日本屋さんで高校のときの同級生にばったり会って、それで久しぶりだし、ご飯でも食べようっていう話になったんだよ。」


「じゃあて。」

 と、妹は僕の返事にどうでも良さそうに頷いた。


「裕子はいつ帰ってきたの?」

 と、僕は尋ねてみた。今朝僕が起きたときには妹はどこかに出かけていて家にいなかったのだ。

 妹は部屋の壁にかかっている時計に目を向けると、

「一時間くらい前やね。」

 と、答えた。


 僕は妹が座っている近くのフローリングの床の上に腰を下ろした。それから、

「どこにいってたの?」

 と、特にどうしても知りたいというわけでもなかったのだけれど尋ねてみた。


 部屋のなかは冷房がよく効いていて涼しかった。窓から差し込んでくる日の光は微かに夕暮れの色素を帯び始めていた。もうすぐ夜になるんだな、と、僕はなんとなく思った。


 妹はテレビ画面に視線を向けたまま、

「友達のお墓参り。」

 と、短く答えた。


「お墓参り?」

 僕ちょっと奇異に思って妹が口にした科白を繰り返した。


 すると、妹は僕の方を振りむいて、

「あれ、兄ちゃんに前に話さんかったけ?」

 と、怪訝そうな声を出した。

「ほら、わたしの同級生が死んだ話前したがね。」

 と、妹は非難するように言った。


「ああ。」

 と、僕は曖昧に頷いた。


 あれは確かに二年くらい前に僕が実家に帰省したときのことだ。そのとき妹は自分の同級生が自殺してしまったことを僕に話した。


 僕は妹から話を聞いただけなので詳しい事情まではわからないのだけれど、妹の話によると、その妹の同級生は自分の進路のことや、家族についての問題で悩んでいたという話だった。僕はそのとき妹が浮かべていたいつになく思いつめた表情と、僕がそのとき感じたこととを思い出した。


 僕はそのとき、妹の話を聞いて、その同級生は何も死ななくても良かったんじゃないか、と、思ったものだった。でも、今ならその自殺してしまった同級生の気持ちも少しは理解できるような気がした。ひとは極端に気持ちが沈んでしまうと、何かを冷静に考えたり、受け止めたりすることができなくなってしまうものなのだ。全てが嫌になってそこから逃げ出したいような弱い気持ちなってしまう。


 僕もその妹の同級生ではないけれど、意味もなく気持ちが沈んでしまって、何もかもがどうでもいいような気持ちになってしまうことが、そんなにいつもというわけじゃないけれど、あった。


「今年がその自殺した子の三回忌やったっちゃわ。だから、みんなでお墓参りにいってきたとよ。」

 と、僕が頭のなかで考えごとをしていると妹は続けて言った。


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