表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

雪降る小道

吹雪の中、僕は歩いていた

あたりいちめん真っ白で、何があるのかわからない

ひとつ、明かりが見えた

家だ

僕はそこに住んでいるという女性に、雪がおさまるまでお世話になることにした


「寒かったでしょう? 暖炉で暖まりなさい」

今の時代には珍しい、薪の暖炉があった

体が暖まってきたころ、彼女が静かに口をひらいた



貴方にひとつ、昔ばなしをしてあげる

それは、一人の少女のお話……






「私は、幸せになんかなっちゃいけないんだっ……」

『人はみんな、幸せになっていいんですよ』

「じゃあなんで私の好きな人は、私を捨てたの?」

『そりゃあ、お前を嫌いになったからだろ』

「どうして私の親はそばにいてくれないの?」

『貴方は片親でしょう? だから、貴方のお母様は忙しいのですよ』

「いろんなこと?」

『彼氏つくったり、仕事したり、お前の妹を世話したりしてるじゃねぇか』

「だから私は一人ぼっちなの?」

『そうですね……』

「小さい頃から、一人ぼっち」

『そうだったな……』

「ねぇ……二人は誰?」

『私は貴方』

『俺はお前』

『『貴方(お前)が生み出した、他の人間』』

「じゃあ、“私達”は一人ぼっちじゃないね」

『そうですよ』

『あぁ、そうだ』

「これからもよろしく、私!」



―――――――――――


ジリリリリッ


朝の目覚まし時計

母の朝の怒鳴り声をきかなくなってから、何年たつだろう


母と妹は、俺と離れて暮らしていた

父は俺が産まれてすぐ別れたから母子家庭

だから家には、祖母と祖父と俺だけ

二日前、祖母が体調を崩し入院した

だから今は祖父と二人で家にいる

母と妹は、一日だけ実家に帰ってきた

次の日に男友達が泊まるという理由で帰ってしまった


「……眠い」

ぶっちゃけ言うと、寂しい

高校生にもなって……

とか思うかもしれないが、いろいろあったんだよ

この口調で、しかも声が低くて、一人称が“俺”

言っておくが、一応女だ

一応女の俺が、家に一人ぼっち

そりゃ寂しくもなるさ


まぁ親とか、もうどうでもいいけどな

自分の親だが、改善の余地がない

「一人の女として生きる前に、まともな親として生きろよ」

……本人の前で言ってみたい

面倒だから言わないが


『言ってみたらいいじゃない』


……あ゛?

『親だからと言って、遠慮する必要は無いのです』


……お前ら誰だよ

『私は貴方』

『あたしはキミ』

……マジかよ

『本当ですよ』

夢だけだと思ってたが……

ホントに多重人格なんだな、俺……

『違うよ』

違う?

『あたしが本当の人格。キミはあたしがつくりだしたの』

俺が?

『泣き虫で、甘えん坊で、さみしがり屋でどうしようもないあたしを隠すための人格がキミ』

隠すため……

『敬語の彼女はあたしを守るための人格』

『あまり“人格”と言って欲しくないです』

『……ごめん』

『私達3人は、人格ではなく一人の人間です』

何も知らなかったのは、俺だけだったのか?

『そういうことになりますね』

『だってキミ、プライド高いからはっきり言えなかったの』

そうか、すまんな

多重人格者は自由に人格をいれかえられるのか?

『今はまだ、自由ではありません』

『あたしは表に出たくない』

『こんなことを言っている子もいますから』

そうか……

『辛いですか?』

え?

『辛いなら、仰ってください。私がでますから』

お前は、辛くねぇの?

『私は、それを耐えるためにいますから……』

本物の人格はなぜでてこない

『あたし、今表にでたら大変なことおきるから無理』

大変なこと?

『自分の腕見なよ』

腕?

俺の腕にはリストカットをした傷があった

『つまり、そうゆうこと』

大変だな、お前

『キミはあたしなんだよ? キミも大変なんだよ』

そうだよな、敬語のやつもだな

『そうですね、大変です』

前に本で読んだことがある

多重人格というのは

嫌なこととかあるたびに人格が分裂して、個人になるのだと

しかも、それ用の病院があるんだってな

『つまり、精神科ですか』

あぁ、そうだな

『今行ったら、リストカットのことについて言われるよ?』

『多重人格なんて、誰も信じていませんからね』そうだろうな……

『ほら、早くしないと学校に遅刻しますよ?』


……忘れてた!

『ドジだね』

お前らが話しかけるからだよバカッ!!

てか、今俺どーやってお前らと話してるんだ?

『簡単に言うと頭の中の妄想みたいな感じだよ。直接声で出してない』

……そうか、なら安心だな

『そうそう、だからほらっ!』

あぁ、いこうか


「行ってきます!」


―――――――――――


ガチャ


「ただいまーっと」

夜8時、部活終わって帰るいつもの時間

おかえり、なんていう言葉はあるはずがない

だって祖父は寝てる時間だから

親? いるはずがない

「腹減った……」

まずさきに台所の電気をつける

「よっしゃ、晩飯すき焼きだ」

一人でガッツポーズ

しかも超笑顔

はたからみたら、めちゃくちゃ怖い人だろう

でも、いいんだ

肉が食えるから


『……単純ですね』

『さすがバカだよ』

バカってなんだよ、バカって!

てか、なんで今まで黙ってたんだよ!

さっさと話しかけろよ、このタイミングで出てきたら恥ずかしいじゃないか!?

『タイミングをみはからってたのさ☆』

うわぁ……、俺の人格うぜぇ

『そーいえばさぁ』

ん? どした?

『3日後大会でしょ? 大丈夫なの?』

大丈夫だよ、俺強いし

『そうではなく、体調の話です』

体調? 大丈夫に決まってんだろ


そこであいつらは表情をかえた

怒っているようだが

悲しそうな目をしていた

『大丈夫なはずないでしょう?』

『肉体的にも精神的にも限界なはずだよ?』

はぁ? そんなわけ……

『大丈夫?』

は?

『大丈夫?』

大丈夫だ

『大丈夫?』

大丈夫だっ!

『大丈夫じゃないよね』

大丈夫だって言ってるだろ!?

俺は怒鳴った、だって大丈夫なのにしつこいから

でも、次の一言で気がついた


『だって、泣いてるよ?』


そう、泣いていた

軽く涙を流す程度だったが、泣いていた


『寂しいのを我慢しているからですよね』

やめろよ……


声にならない声って、このこというんだな


『誰かがそばにいてほしいだけなんだよね』

やめろよっ……


かすれた声でも、否定しなければならない


『誰かに認めてほしいだけなんだよね』

やめろって言ってるだろ……


否定しなければ


『笑顔で誰かにほめてほしかっただけだったんですよね』

もうやめてくれよ……


俺は


『死にたいなんて、何度おもったことでしょう』


やめろぉぉぉぉぉっ!!





俺でいられなくなる







その少女はいつも笑顔でいた

どんなに辛くても、悲しくても

笑顔で誤魔化してきた

心配する人たちもいたが、その人たちに心配かけまいと

笑顔をつくり、必死になって言い訳をした

「私は大丈夫です」

……って

助けてなんて誰にも言えなかった

少女の仲間は皆いい人ばかりで

少女が辛そうにすると、皆辛そうにする

それが少女には耐えきれなかったからだ

「こんな辛いおもいをするのは自分だけでいい」

そういって、一人ですべてを抱え込んだ


そんなことを続けていくうちに

自分の感情がわからなくなった

怒りも、悲しみも、喜びもすべて



自分がなんなのかもわからなくなった

どんな表情をするのか、どんな性格なのか、何が好きなのか


そして、自分の生きる意味がわからなくなった


親は自分自身の利益にしか働かないようにみえてきて

親戚は思うように少女を操り

少女が苦しんでいることを、大好きな仲間は知らない

知ったとしても、誰も少女を救うことはできない

心が闇に埋め尽くされた少女を……




……気をつけてくださいね

自分の気持ちに嘘をつき続けたり

我慢し続けたりすると

その少女のように

多重人格者になりますよ?

いや、正確には

自分を作り続けることになりますよ?


もう既になっていても、まだ手遅れではありません

仲間を信じ、共に歩めばいい

辛いことがあるのなら、誰かに相談しなさい

それがやがて、貴方の光になるでしょうから



彼女が語り終わるとほぼどうじに、吹雪がおさまった


「吹雪もおさまったようです、早めにおかえりなさい」

「そうします、ありがとうございました」

「いいのよ、気をつけてね」


彼女は笑顔で軽く手をふっていた

外にでてみると、空はほとんど晴れていた

チラチラと雪が降る中

僕は軽い足取りで

家に続く小道を歩いていった



よんでくださり、ありがとうございました!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ