■-1-■
俺は、転生に成功した。
もちろん、中世ヨーロッパ風ファンタジーかつ、RPG的な世界だ。自分の能力値とかがどういうわけか、ステータス画面みたいに目に見えてわかっちゃうようなアレ。
やったぜ。
しかも俺の人生は、これでもう三周目に突入していた。
いや、それどころか、これからもう、何度でも好きなだけ転生できる。
いわゆる、「強くてニューゲーム」状態で、何周でも人生をリセット可能なのだ。
はっきり言って、やることなすこと何もかも楽勝である。
だいたい、世の中というのは何かがヘンだと、二周前の人生を生きていた俺――
石黒正樹は、常々感じていた。
イケメンの上に、スポーツ万能で、テストの成績もトップクラスで。
過去に生きてた世界では、クラスに一人ぐらいはそんなヤツがいた。
絶対にチート野郎だ、と俺は思っていた。
でも、この異世界では俺が、そのチート主人公の座を射止めているのだ。
「ご立派な勇者になられましたな、ルーク様」
使用人のウイルズが、皺の寄った手で、ぷるぷると杖を突きながら言った。
彼はこの異世界で、俺が転生した貴族の家に仕える老人だった。
俺の現在の父親たる伯爵から、屋敷が建つ敷地の外れに粗末な小屋を与えられ、そこで寝起きしつつ、庭の手入れなどして暮らしている。
――ルークというのは、俺の転生したこの世界での名前だ。
「風の噂では、いまやルーク様を『漆黒の剣匠』なる二つ名で呼ぶ者も多いとか。生気に満ちた若々しいお姿が、年寄りの目にはまばゆく映ります」
現代日本に生きていたら、きっと厨二病の一言で片付けられたであろう異名も、今の俺の耳には心地よく響く。
俺が黒い刃の剣を振り回しているうち、どこの誰とも知れないヤツから勝手に付けられた呼称だが、まあそこに畏敬の念が込められていると思えば、実際満更でもなかった。
「なに、今の俺があるのもウイルズのおかげさ」
俺は、余裕たっぷりの態度とは裏腹に、殊勝なことを言ってみせた。
「そして、多くの人の支えがあって、邪悪なドラゴンも倒すことができた。本当に、色々な人に、感謝してもし切れない気持ちだ――。これからも、この世界のために自分のちからを役立てていこうと思っているよ」
○ ○ ○
俺は、転生前の小学生だった頃には、そこそこ成績優秀だった。
中高一貫の私立進学校に合格し、前途には明るい未来が開けていると確信していた。
ところが、いざそこへ入ってみると、どう考えてもチートとしか思えないような頭脳の連中が沢山居た。
定期テストの上位常連メンバーは、概ね格が違った。
もちろん異論はあるだろうけど、俺は結局、日本式の筆記試験の勉強ってのは、類題データの記憶量が、勝負の行方の大勢を左右するもんだと思っている。
数学とかでさえ、突き詰めると特定の出題パターン、その解法をどれだけ沢山知識として記憶しているかで、単純なパズル的な閃きに頼って設問に挑む人間より、ぐっと有利になるものだ。
で、いわゆる、「勝ち組予備軍」とでも呼ぶべき手合いだが、俺はそいつらがどう考えても、自分と同じ脳構造の持ち主とは思えなかった。
人間、一日二四時間という制約は、誰しも平等なはずである。
でも、俺が通う高校で、勝ち組予備軍の記憶量っていうのは、自分と同じだけの時間しか人生を生きていないはずの人間が、どうやって身につけているのか、どうしても理解できないレベルに思えた。
たまに、俺が教科書五回読んで、ノートに三回書き写さないと覚えられないような内容を、一回見ただけでスラスラ暗記しやがるヤツがいる。
たとえば、五組の岡井とか。
なんで、S台模試で総合全国三位のくせして、某有名モンスターハンティングゲームを、あいつは二〇〇〇時間以上もやり込んでるんだ。
やっぱり、チートとしか感じられなかった。
いやまあ、もちろん本当に、俺なんか全く及ばないほどの物凄い努力を重ねて、成績上位を維持し続けている人間が、実際には大半なんだろう。
でも――
本当に、みんなそうなのか?
俺には、どうしても何か、別の不可思議なカラクリがあって、だから岡井は毎日一狩りどころか、二狩りも三狩りもしてるのに全国三位なのだとしか考えられなかった。
俺は、そんなどうしても納得し切れない気持ちを、悶々と抱えたまま、高校を平均より下の成績で卒業し、地元の三流大学に進んだ。大学四年間は、自由な時間こそ多かったが、どうも親しくなれる友達を作る機会に恵まれず、一人で鬱屈した学生生活を過ごした。
大学四年の半ばを過ぎた頃、どうにかこうにか営業職の内定を得たが、社員研修の段階で仕事に嫌気が差し、半年勤めたところで辞めた。その後、だらだら次の働き口を探したものの、あまり上手くいかず、フリーターを経たあと、三年ぐらいかかってようやくIT系企業の派遣社員に滑り込んだ。
けれども、この頃になると、もう俺は自分の将来に、ある程度見切りをつけつつあった。
派遣の仕事は、当然待遇も悪くて、給料は手取りにすればやっと一二万円程度。その気になれば、いつでも簡単に無職に戻れるという立場が、逆にある意味気楽ではあり、希薄な人間関係でも居心地悪さがないことだけは、まあ救いではあった。
そこにやっぱり、漠然と流されて、気づいたときには三十路を超え、彼女が居た試しなどないままにアラフォーが近付いた頃、派遣切りに合った。欧米発の金融危機の影響で、派遣されていた会社の関連企業が業態縮小をぐいぐい推進していた。
「すまないけど、石黒君。もう、明日から出社しなくていいから」
と、ある朝突然、担当の上司から言い渡され、俺は「はあ、そうですか」としか返事ができなかった。
こういうのは、誰にどういう文句を言っても無意味であることは、もちろん充分承知していた。
かえって、そういう話を持ってくる側も、多少は相手に気を遣うものかもしれないと思って、むしろ俺は上司にそのとき、気がついたら、
「お疲れ様です。今まで、お世話になりました。最後の一日、よろしくお願いします」
なんて、言っていた。
すると、その上司も、少し居心地悪そうにして、
「うん。まあ、これから大変かもしれないけど、君ならまた、次の仕事が見付かるよ」
と付け加えてくれた。
その言葉が気休めにすぎないのは理解していた。
事実、次の仕事なんてものは、そう簡単に見付からなかった。
かくして、三〇代後半にして、またもフリーターに逆戻り。近所のコンビニで、自分と大体同年輩の店長と一緒に並んで接客する日々がはじまった。
しかし、転機が来たのは、まさにそのバイト中だった。
客のいない時間帯、なんとなくカウンターの中に店長が置いていった地元のローカル新聞を見て、俺の人生が動いた。いや、あるいは悲劇に近付いた。
その日の一面は、近々やってくる参議院選挙。激戦予想の地元選挙区と、公示前の予定候補者について、細々と記事は紹介していた。
その候補者の中の一人が、あの同級生の岡井だった。
詳しく読むと、岡井は最近、ある政党幹部の支援を後ろ盾に、福祉改革を公約として頭角を現しはじめた期待の若手らしかった。これまでの経歴は、東京の一流大学法学部を卒業後、法科大学院を修了、司法試験に一度の挑戦で合格し、地元に戻って大企業のお抱え弁護士として活躍したあと、政界進出を目指している、と書かれていた。
相変わらず、一分の隙もないチート人生だった。
プロフィール欄に、「趣味:ゲーム」と書いてあるのが笑えた。あいつ、まだ一狩りしてんのかよ。
いったい、どこで人生に差がついたのか。
慢心、環境の違い……なんて、お約束のネットスラングだけでは片付けられない何か。
つくづく、鬱屈した気持ちになった。
現実から目を逸らしたくなって、新聞を畳もうとしたとき。
不意に、俺の目に紙面の隅に掲載された、四角いちいさな広告が飛び込んできた。
完全に単なる偶然だったが、そこに書かれていた文字に、妙に注意が引き付けられた。
『 ~もし、人生をやり直せるとしたら、どうしますか?~
【パールヴァティ=アヤコ、新生の城】
女神の導きで、貴方も思いのままに生きられる! 』
すごく、怪しかった。
どうやら、新手の宗教の宣伝みたいだ。こんな広告を、地方紙とはいえよくぞ、公の報道機関たる新聞社が紙面に載せたもんである。
なんとなく、改めて目を通してみると、「死後の世界の実在」とか「前世の記憶で人生は決まる」とか、やっぱり非常に胡散臭くて、ある種の終末論系カルト宗教の紹介にありがちな語句が溢れていた。
そして、最後には「救いをお求めの方は、下記連絡先まで」と、電話番号や事務所のものと思しき住所、ホームページアドレスが記されていた。
俺は、少なくとも自分では無神論者だと思っている。
だから、普段なら、こんなわけのわからない広告など、一顧だにしなかっただろう。誰がどう考えても、それが常識である。
ところが、俺はなぜかその広告を完全に無視できなかった。
その明確な理由は、はっきりとは言い表し難い。
でも、強いて表現するなら、「腹が立ったから」だろうか。
人生をやり直したい。
そんなふうに本気で思ってる人間は、きっと俺だけじゃない。でも、不可能なのだ。そういうことが許されるのは、無料web小説やRPGの中の世界だけだろう。
それを、この謎教祖のアヤコだか何だかいうヤツは、いかにも現実にできるんですよと、広告を使って宣伝して回っている。
ふざけるな、と言ってやりたかった。
あとあと考えてみれば、確実にこのとき俺は、頭が沸いていたとしか思えないのだが、もしかすると直前に選挙の記事で、あの岡井の顔写真を見ていたのがよくなかったのかもしれない。
俺だって、人生周回プレイして、チート能力さえ持ってれば、今の自分の年齢ぐらいで、わけなく弁護士にだって国会議員にだってなってやる。
そんな、強烈な反発心が、その広告によって焚き付けられていた。
いやむしろ、そういう異能を、今すぐ俺にも授けてみろ!
……そして、ふと我に返ったとき、俺は手近な紙切れとエンピツを手に取っていた。
新聞広告に掲載されていた連絡先をメモし、それをジーンズのポケットにねじ込んだのである。
○ ○ ○
【新生の城】なる教団の事務所に、俺が電話を入れたのは、バイトが引けたあとのその日の晩だった。
受付担当者に予約を取って、五日後の次のバイトが休みの日に、早速そこの事務所を訪れることになった。
あれから俺の怒りの感情は、ますます色濃く、ねっとりと渦を巻くように深くなっていた。
人間の絶望に付け入り、「転生」なんて非現実的なものを商売に用いて、俺みたいな人生の負け組から金を巻き上げようだなんて、その宗教のやり方が気に食わなかった。
入信希望者を装って接触し、化けの皮を剥がしてやろう。
きっと、これまで食い物にされて、泣きをみた被害者も沢山居るはずだが、俺がそういう人たちに先んじて、このけしからん教団と教祖を、詐欺罪で告発してやるつもりだった。
俺は、正義の味方気取りだった。
自分は、ただのアラフォーフリーターではない。そんな、根拠のない自負心が、俺の内側から湧き上がる奇妙な行動力を生み出していた。
予約の日が来て、俺は教団事務所に出向いた。
事務所は、街中の雑居ビルの五階にあって、目立たない場所だった。じかに訪れてみると、ますます胡散臭さは極まった。
ドアをノックし、受付で名乗ると(念のため偽名だ)、事務所の奥まで通された。
狭い応接室で、革張りのソファを勧められて、そこに座って少し待った。
すると、五分もしないうちに、俺が入ってきたのとは別のドアが開いて、そこから入室してきた人物があった。
「――お待たせしました。入信希望の方ですね?」
陶製のフルートのように、涼やかな声が響き渡った。
そこに居たのは、どう見ても高校生ぐらいの、可愛らしい女の子だった。
ていうか、セーラー服を着ていた。このへんで、ちょっと有名な、たしか平均偏差値やや高めなお嬢様女子校のそれ。そのセーラー服の上から、白い法衣……とでもいうのか、何か、巫女さんが上に羽織る着物みたいなやつ(たしか、千早というんだったろうか?)を着用に及んでいる。で、前髪パッツン、さらさら黒髪ロングヘア。
びっくりした。
すげー美少女だと思った。
それで、瞬間、俺は意外すぎるものを見た心地になって、ちょっと混乱しかけた。だって、もうアラフォーだけど、なんせ俺は童貞なのだ。
どんなに年下でも、こんな漫画のキャラみたいな美少女見たら、そりゃテンパる。
「は、はあ。どうも……」
ここを訪れる直前までの、毒々しいまでの怒りの感情はどこへやら。
俺は、いまや昔、営業職の新人研修で身につけた腰の低さが、自然と外側へ染み出て、ソファから立ち上がり、腰を折って頭を下げていた。
「ああ、楽になさってください。うちは、一応宗教法人なんて体裁を取っていますけど、そんなに堅苦しい場所じゃありませんから」
セーラー服巫女さんとでも言うべき、何やらその手のマニアが歓喜しそうなジャンルの美少女は、手をヒラヒラと翻してみせる。応接テーブルを挟んで、俺の真向かいのソファに腰掛けた。左手には、病院で使われているカルテのようなものと、薄い冊子を何種類か持っていた。
「私、教祖のパールヴァティ=アヤコと申します。まあ、とはいえ、別に信者の皆さんから見て、特に地位が偉いとか何とか、そういう立場でもないので。私のことは呼び捨てでも、アヤコちゃんでも、アヤニャンでも、呼びやすい名前で、ご自由にどうぞ」
「――は、はあ……」
予想外に軽いノリだった。
もう、この時点でかなり調子を狂わされ、俺はついつい大人しく形通りの挨拶を(やっぱり偽名でだが)返してしまった。
「えーと。それで早速、本題に入らせて頂きますけど」
アヤコは、カルテを捲りながら、いきなり単刀直入に言った。
「イシヤマさんでしたっけ。プランは色々あるんですけど、うちへの入信にあたって、どういうコースをご希望ですか?」
「え、コッ、コースですか?」
「ええ、まあ。ご予算の関係もあるので、即決とはいかないかもしれませんけど。例えば、こちらの『らくらく転生プランA』なんてどうですか?」
俺が問い返すと、アヤコは物慣れた手つきで、カルテと一緒に持っていた冊子を、目の前のテーブルに広げてみせてきた。
何やら、カラフルなパンフレットだった。
「こちらだと、だいたいお申し込みから一週間以内での転生が可能で、現世での記憶と特殊技能が引き継ぎ可。転生先には、同一世界の他に、異世界、平行世界、過去と未来を選ぶオプションもあります。現世での死亡方法も、追突(トラック及び列車ほか)や転落(崖及び高層建築ほか)といった事故から、突発性の発作で病死するといった状況まで、お好みのシチュエイションをひとつ選択可能ですよ」
「えっ。えーと……」
「特典ポイントで、転生後の身体的特徴も、イケメンやガチムチ、トランスセクシャルまで思いのままです。まあ、そのぶん、ちょっとお値段は高くついてしまいますが」
畳み掛けられて、俺はたじろいだ。
この女の子、何を言っているのか。
まるで、携帯電話会社かカルチャースクールの契約手続きみたいな調子で、この謎の美少女教祖は矢継ぎ早に話した。
「ちょ、ちょっと待ってください。その、どうも話が見えなくて――」
俺は、思わず自分より二回り近く年下と見える女の子を、制止するように言った。
「ここは、【新生の城】さんの事務所ですよね? 女神様を信仰するっていう教団の」
「ええ、そうです。表向きのところは」
「表向きって……」
「ああ、もちろん、そういう普通の宗教活動に興味がおありでしたら、そのニーズに沿ったコースも用意してあります。この『わくわく修行プランB』とか。これはこれで、まだ現世に未練があって、かなり人生のっぴきならないところまで来てるけど、なんとかこっちの世界でもう一旗上げてみたいっていう、難易度設定高めの生き方をお好みのマゾ気質の皆さんに人気ですね」
アヤコは、やっぱりテキパキとおすすめコースを紹介してくる。
しかし、俺が弱り切った顔をしていると、そこでようやく何事か察したように、いったん言葉を切った。そして、改めて順を追うように説明しはじめる。
「えーと。イシヤマさんは、新聞広告を見ていらした方でしたっけ」
「はい、そうです」
「なるほど。そうすると、誰かの紹介というわけではないから、うちの営業形態とかについても、ほとんどご存知ありませんよね……」
アヤコは、うんうんと、一人で勝手に納得した様子で、何度か深くうなずいてみせた。
「まあ、端的に言うと、うちは『転生』関係の商品販売を手掛けているんです」
「……は?」
「ほら、生命保険とか有価証券とかだって、保険商品だの金融商品だのっていうじゃないですか。それで、そういうのを扱ってるところが、保険会社だったり証券会社だったり」
右手の人差し指を上に向け、アヤコはくるくると回してみせながら、
「で、うちが扱ってるのは、『転生商品』です。だから、本当は宗教法人じゃなくて、普通の株式会社でやるべきかもしれないんですけど、転生を扱うことについては、まだほとんどの世界――異世界や平行世界も含め、金融商品取引法みたいな感じの法整備が進んでなくて」
「は、はあ。そりゃ、そうでしょうね……」
「ええ。しかも、こちらの世界だと、転生行為も超常的な、物理法則なんかを無視した異能パワーみたいに見えちゃうらしいじゃないですかー。そうすると、これはなかなか説明しても、現地球人の方々とは分かり合えないもんなんですね。だったら、やっぱりこれはいっそ、全部女神様のおかげってことにして、宗教ですって言って営業していた方が、まあ色々と面倒が省けて、私共としては楽ができると申しますか」
わかったような、わからないような。
アヤコの説明で、ますます俺はこの宗教団体が胡散臭く思えてきた。
ただし、何か決定的に、話を聞く前後で、怪しさのベクトルがまったく異なる方向にすっ飛んでしまったことも、事実ではあるが。
「ええっと、だいたい今聞いた話を簡単にまとめると……」
俺は、混乱しかけた自分の頭の中を、必死に整理しつつ、
「ここでは、お金さえ払えば、生まれ変わって人生をやり直しできる、ってことですか?」
「はい。掻い摘んで、要点だけ言えば」
美少女教祖は、にっこりと微笑んだ。やはり、とんでもなく可愛かった。
女性に免疫のない俺は、それだけで妙な緊張感を覚えて、ついコホンと咳払いを挟んでしまう。
「その、流行の転生web小説みたいに?」
「はい」
「記憶もステータスも、ゲームみたいに引継ぎして?」
「はい」
「現代社会じゃない、中世ヨーロッパ風の異世界とかでも?」
「そのセットは、弊社の商品で一番人気のプランです。つい、いましがたも説明させて頂きましたけども」
完全に失笑ものだな、と俺は思った。
こんなの、物理法則で説明ができるとかできないとか、それ以前の話だ。荒唐無稽にすぎる。
ただ、俺は同時に、なんだかこの目の前に居る、教祖を名乗る女の子がひどく気の毒に思えてきていた。こんなに可愛いのに、どこでどういう生き方をしてきたら、この種の電波に思考がヤラれてしまうのだろう。
「どうやら、ご信用頂けていないみたいですね」
教祖アヤコは、微笑んだまま、軽く肩を竦めながら言った。
俺は、黙って、正面から視線を外した。
「まあ、こちらの世界の生まれで、転生経験のない方でしたら無理もありません」
俺の態度を無言の肯定と見たらしく、アヤコは話題を転じてきた。
そして、にわかに驚くべき人物の名前を持ち出してきた。
「イシヤマさんは、岡井という弁護士さんをご存知ですか。なんでも、このへんの地元じゃ割合有名人みたいで、次の参院選に出馬予定らしいですけど」
「岡井、ですか」
知ってるも何も。
俺は、中高生時代のチート同級生(特に親しく会話したことはなかったけど)、圧倒的人生勝ち組野郎の顔を、咄嗟に思い浮かべた。
「そうです」
続けて、アヤコが口にした言葉は、馬鹿げた内容としか思えなかったが、しかし俺を動揺させるには充分な威力があった。
「実はあの方、人生ループ四周目の転生者なんですよ。私たちの業界で管理している、サービス利用者名簿で明らかになっていることですので、間違いありません」
突如、頭部をハンマーで殴られたような心地がした。