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1st&2nd 稲穂は実り、豚は貪る2



山の中は夜の帳に包まれ、パチパチと焚き火の火が音を立てている。その焚き火を中心にして2人の姉弟と狼男が囲んでいる。



「「うめぇーーーーーーー!」」




遼一は毒々しい色をしたきのこや山菜がたくさん入ったスープに舌鼓を打っている。警戒に値する見た目に反して、口に入れると濃厚なうまみや、味わいある苦味が広がり、非常に美味しい。




狼男もまたお前の鼻は大丈夫なのかと言いたい程の勢いで遼一が生み出したシュールストレミングを喜々として食べている。




「ふぅ・・・中々美味かったわ。でさっきは食い物をくれとすごい勢いで迫られたから先に飯にしたが、どこから来たんだあんたら?この山に入るのなんて俺らの村の人間ぐらいなんだが」




「助けていただきありがとうございました。私は椎名希と言います。がむしゃらにご飯食べているのが弟の遼一。どこから来たといわれましても気づいたらこの山にいたとしか」





弟が必死の形相でこの狼男に詰め寄って食べ物を催促したとき、希はあまりの無鉄砲さに慌てたが、狼男は夜営に慣れない二人を気遣って食事の準備から何からやってくれて、すぐに襲ってくるような人物ではないと警戒を解くほどには信用していた。


「へぇそれは不思議なこともあるもんだ。そしてこれは失礼。先に名乗らせちまったな。俺の名はライザ。ヴァラヴォルフ一の狩人ガイラ・ルーガルーの子、ライザ・ルーガルーだ」




ヴァラヴォルフ――狼男の呼称は間違っていなかったようだと希は思う。そうしてこの世界は人ならざる、神話に登場するような種族も数多存在する世界なのかと予想する。


聞きたいことは他にもたくさんあるが、思った以上に体が疲弊している。希はパンツスーツにピンヒールといった山歩きに最も適さない格好で半日もの間歩いてきた。弟は空腹で苦しんでいたし、弟の負担になるわけにはいかないと、弱音を吐くことなく歩き続けてきたのは、高校生の弟を一人で養っている頼りになる姉としてあろうとする希の矜持だ。



うつらうつらとしながら希もスープを口にすると、黙々とスープを食べていた弟が口を開く。



「ライザさん、こんだけじゃ足りない。もっと探しにいってくるよ。食べられるものは道々で教えてもらったし、キノコも山菜もこの果物も悪くない」


空腹を満たして元気を取り戻した弟は、食べられる食物への好奇心と更なる充足のために立ち上がる。



「いやいや、もう辺りはすっかり暗い。それに夜行性の動物も活動し始める。おまえは何か戦闘に使える『天恵』を持ってるのか?」



「「『天恵』?」」



「『天恵』も分からないのか・・・この世に住む生物ひとつひとつがその生を全うするために与えられている、まぁ異能だな。どんな生物であってもこれが被る事はない。そいつが生きていれば必ず必要になることがあるから自分の天恵をしらねぇって奴は初めて会ったぜ」



そこで二人はピンと来るものがあった。空腹でどうしようもないとき、食べ物が欲しいと願い、現れた缶詰。それが遼一に授けられた『天恵』だというのか。


「ちなみに俺の天恵は『遠くを見通す力』。ここからとなり山で飛び立った鳥の種別も分かるほど目が利くようになる。『天引』は鼻が利かなくなることだ」


「「『天引』?」」



「ああ、神さんが世界を作った時点で世界の天秤は完全に釣り合ってしまってるらしい。そこから力を与えたり、取り上げたりは出来ない。そのせいか、用いる力には必ず減じる力が生じる。俺の力は遠くを見る程度のものだから、鼻が利かなくなる程度におさまる。まぁそれを逆利用してこのくそったれな臭いを放つ果物や塩漬けも美味しく食べられたりするが」




遼一はその話を聞いて、自身の天恵におおまかな予測を立てた。『望んだ食べ物を生み出す力』。天引は自身は決してその食べ物を食べられないこと。食に並々ならぬ執着を見せる自身にとって非常に残酷な力ではないか。しかしこの天引で果たして天恵と釣り合っているのだろうか。無限に食べ物を生み出せるとすれば、自身にとっては意味のないとはいえ計り知れない価値が生まれる。いまだ一回しか使ったことのない異能。分からないことが多すぎる。



「試してみるか―――『いつも僕が作っているカレーライスが欲しい』!」




そうすると遼一の臍の辺りに、先刻現れたよりも大きな光が集まり、彼の前にお櫃と具がごろごろと入ったカレーライス鍋が出現した。



弟のように悪食でもない希にとってキノコと山菜のスープは、食べられることは食べられるが、あまり食指の動くものではなかった。そこに普段食べている、弟の作る料理のレパートリーの中でもベスト3に入るほどの好物であるカレーライス。喜色を露にして弟からカレーライスを受け取り、食べ始める。



ライザもまた今まで微妙な顔で食事していた希が美味しそうに食べているカレーライスを見て、更にはその鍋から香る食欲をそそる匂いに誘われて希によそってもらう。




「おいし~~~~!!」



「なんじゃこりゃあ!!美味すぎる!!」





感動のあまり希とハイタッチする狼男。こっちの世界にもハイタッチの文化があるのかと思いながら、付き合っていると、ライザの姿の後ろで弟がうずくまっているのが見えた。





「さ・・・最悪だッ」





―絞り出すような声で叫ばれる。







「僕の天恵の天引はっ・・・僕の体に蓄積されているcalだっ!!」




ここから場面が別主人公に展開します。



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