あとがき
早いもので、猟闇師シリーズもこれで三作目となります。今回は前二作と趣向を変え、犬崎紅を登場させない話を考えてみました。同時に、今後の話でも使おうと思っている新たな人物、鳴澤皐月にもご登場願ったわけです。
しかし、最初に結論だけ言ってしまうならば、この作品は私にとって不完全燃焼なものでした。
剣舞の家元の娘を襲う怪異と、それに巻き込まれる霊感少女。颯爽と現われた美人霊能者に、最早シリーズのお約束となりつつある、嶋本亜衣の都市伝説講座。様々なものを盛り込んだ割には、自分の中で書きたかった作品を書けた気がしないのです。
呪いに立ち向かうということは、呪いを仕掛けた相手を突き止めるということです。その点では、霊能者も探偵も、やっていることは犯人探しなんですね。
今回は推理物の要素を強めるべく、私自身、古典的な推理小説を読み漁ってもみました。陰鬱な慣習に囚われた家が舞台ということで、横溝正史の金田一耕助シリーズなどを手にとったわけです。それこそ、『犬神家の一族』や『八つ墓村』といった、骨肉の争いを扱った作品を中心に……。
ただ、出来上がったものを改めて見直してみると、やはり自分の作りたかったものとは微妙に違っているように思えてなりませんでした。確かに前二作に比べて完成度は高くなりましたが、そもそもホラーとして扱うべき話だったのか、と……。
要所要所で幽霊や都市伝説の話を盛り込んでいますが、実は、それがなくても話そのものは成り立つということに気づいてしまったのです。呪いの描写を直接的な殺人描写に置き換えれば、話の流れに殆ど矛盾を生むことなく、ラストまで行きつけてしまう……。
結局、蓋を開けてみれば、出来上がったのは火サスの劣化版のような作品でした。何度か改稿を繰り返してごまかしましたが、それでも全部は隠しきれません。歪んだ家の話を書くつもりが、実際には自分の作品そのものが歪んでしまい、なんだかミイラ取りがミイラになったような気分です。
やはり、私の書きたいものは別にありました。鬼舞の家は、それを私に気づかせてくれたという点では、十分に意味のある作品です。そのため、読者の皆様のお目汚し覚悟で、今回の投稿に踏み切った次第です。
古典的ホラーとモダンホラーの融合。それこそが、私の目指すホラー小説の方向性なのかもしれません。なんだか、自分で勝手に敷居を上げているだけのような気もしますが、自分の気持ちに反したまま作品を書くつもりもありません。
次回は、いよいよ犬崎紅の過去について触れる話にしようと考えています。今後も未熟な作者の試行錯誤は続くと思われますが、長い目でお付き合いいただければ幸いです。
2010年8月25日(水) 雷紋寺 音弥