表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<R15>15歳未満の方は移動してください。
この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

ららら(ヤケクソ)

作者: 朝霧
掲載日:2026/04/06

 帝国一の武人がやけに神妙な面構えで「陛下と皇配様に内密にご相談したいことがあります」と自分に言ってきたのが今から少し前の話だった。

 帝国一どころか世界一と言っていいかもしれないその青年の申し入れ、しかもやたらと神妙で真面目な顔をしているのでこれは『やばい』ことなのではと、全ての用事を後回しにして対応することにした。

 国の防衛関連に何か問題があるのかもしれない、なんらかの危機がこの帝国に近付いているのかもしれない。

 青年に人払いを頼まれたので念入りに人払いをした上で、女帝と共に彼に向き合う。

「お忙しい中、自分のために時間をとっていただきありがとうございます」

 そう言って青年は神妙な面構えのまま礼をした。

 その態度に少なからず驚いた、普段の彼は『礼儀正しい』という言葉からかけ離れた存在だったので。

 自分だけでなく女帝も少しばかり驚いているようで普段の余裕ぶった微笑みを引っ込めている。

 そういう顔をすると本当にゾッとするほど美しい女だと、隣の女のことを思う。

 普段の余裕ぶった微笑みを貼り付けた顔も、そりゃあ美しいが。

 何故自分はこんなに高貴で美しい女の配偶者の座に着いてしまったのだろうか、一応貴族の末席ではあったものの、皇族に加われるような身分なんかではなかったのに。

 ……ケチ臭いから、理由がただそれだけなのが今でも割と納得できない、他になんかなかったんだろうか。

 ちらりと、紅玉よりも美しい目がこちらを見た。

「不満顔で我に見惚れている場合か。美しい我に見惚れたくなる気持ちはわかるが、そんな場合ではなかろう」

 呆れたような顔と目と声、見惚れていないというと不敬だし嘘になるので「申し訳ありません」と小さく謝ると女帝は「うむ」と頷いた。

「して、相談事とはなんだ。貴殿がそのような面構えをしているということは、余程のことなのであろう?」

 女帝がそう問いかけると、青年は真面目な顔のまま頷いた。

 さて、彼の、帝国一の武人の相談事とは一体何事なのか。

 この帝国になんらかの危機が迫っているのか、どこかの誰かが何かよからぬ企みでも練っているのか。

 この顔ならおそらく『好きなお菓子屋さんが閉店しちゃいそうなんでどうにかしてくれませんか陛下〜』とか『有給三ヶ月ください!! 修行しにいってきます』とか『城の外装を金ピカにしましょう、その方がかっこいいので!』とかいうバカみたいな言葉は出てこない……はずだ。

 普段の彼奴の言動、馬鹿すぎないか?

 帝国一なんだから普段からもっとこう真面目にしてほしい、今みたいに。

 というか女帝陛下相手に貴族でもなんでもないただ強いだけの武人がそんな軽い口調で話しかけないでほしい、普通に不敬だ。

 ……とはいえ、だからこそ今、とんでもない異常事態が起こっている、もしくは起こりそうだということなのだろう。

 馬鹿な彼奴がここまで真面目な顔をしているのだ、帝国どころか世界レベルの危機かもしれない。

 酷く真面目な青年の顔を見る、彼の口から一体どんな『危機』が飛び出してくるのか、と。

「……相談したいことは、末姫様のことです」

 彼は普段の彼の声色からは想像できないくらいかたく真面目な声でそう言ってきた。

 末姫様、つまり自分と彼女の子。

 五人いる自分達の子供達の末っ子であるその子は、女帝の母、つまり前皇帝の皇妃の血を強く受け継いでしまった。

 そのせいでどちらかというとインテリ路線な上の子たちと違って、猪突猛進な脳筋に育った無骨系の姫である。

 無骨だろうと脳筋だろうと可愛い我が子であることに変わりはない、そんなうちの末っ子に一体何が、と身構える。

 世界の危機くらいなら覚悟できたが、自分の娘の危機となると、予想外だったのもあって少々受け入れ難いかもしれない。

「……我が末の姫に、何が?」

 女帝の声は普段の余裕のあるそれとほぼ変わらない。

 けれども自分は彼女と長い付き合いなので、その声にわずかな揺らぎを感じた。

 女帝の問いかけに、青年はやはり神妙な顔のまま口を開く。

「末姫様を、この城……いえ、城でなくてもいい。とにかく人目につかないどこかに隠してください」

 隠せ、と青年は言った。

 それはつまり、自分達の末の姫に、うちの末っ子になんらかの危機が迫っているということなのだろうか。

 隠さなければなんらかの危険があるということなのだろうか。

 この世界で最も武力のある帝国の末の姫を、隠すという方法でしか守れないと?

 そもそもうちの末っ子は冗談抜きで強い、少なくとも自分なんかよりもずっと。

 あの小さい身体のどこにそんな力があるのか、鎧を着込んだ大柄な兵士とかを素手でポイッと投げ捨てていたりする、やろうと思えばお手玉とかもできるかもって前言ってた。

 うちの皇族には戦闘力が強い方が大勢いるが、うちの末っ子は歴代含めても五本指に入る強さを持つ、と言われている。

 そんな強者であるうちの子を隠せと、そうでなければどうにもできないと?

 そして帝国一の武人どころか世界一にすら届きそうなこの青年でも、どうにもできないということなのだろうか。

「……隠すというか匿うというか……あの子のことだからどんなに言っても聞く耳持たないでしょうから……いっそ閉じ込めるとか監禁、幽閉、とかの方が正しいかも?」

 考え込んでいるうちに青年が次の言葉を発していた。

 その顔は、ただひたすらに真面目な顔をしている。

「……何故、隠せと? 恐れ多くも我が末の姫を狙う不届者がいるというのか? ……その不届者は、我らの手に余るとでも? ……馬鹿馬鹿しい、我らが我が子をそう易々と死なせるものか。……血祭りにしてくれよう、手柄は貴殿にくれてやる」

 貼り付けた余裕はそのままだが、その奥底に隠しきれない、というか隠すつもりもない怒りを感じる声だった。

 これは怒っている、というか激怒している。

 うちの妻をあんまり怒らせないでほしい、ご機嫌取りをする羽目になるのは自分なのだ、大変なのだ、この我儘女帝のご機嫌を直すのは。

 ……というか彼奴なら『末姫様のお命を狙う不届者の首をすっ飛ばしてきましたー、ボーナスくださーい』とか事後報告してくるのが普通なのに、それをしていない、できなかったということはうちの末っ子を狙う何某ってとんでもない輩なのでは? と思い立って血の気が引いていく。

 やめてくれ、これ以上の騒動や厄介ごとはやめてくれ、うちの子の危機とかいらないんだよ、普通に穏やかに幸せになってほしいんだ。

 なんて考えていたら青年は静かに首を横に振った。

「いえ、末姫様の命を明確に狙う何者かがいるわけではありません。……というか、そんな奴がいたら自分が首を飛ばします」

 見慣れぬ神妙な顔のまま青年は自分や女帝の推測を否定した。

「では、なんだというのか。何故貴殿は我が末の姫を隠せなどと?」

 女帝が不機嫌を隠さぬ声でそう問いかけると、青年は酷く真面目な顔のまま、訳のわからぬことを言い出した。

「末姫様はあまりにも愛らしく美しく魅力的な方なので。このままだと帝国中の人達が彼女のことを『よくない目』で見るかと」

「…………は?」

 虚を突かれたような女帝の声、彼女のそんな声を聞いたのは二回目くらいだ。

「というかもう見られてると思うんで、さっさと隠してしまいましょう。あの子はすっごく魅力的で可愛い女の子なので、帝国どころか世界中の輩が彼女のことをきたない目で見るかと。……一国の姫君がそういった目で見られるのはよくないと思います。だからもう、誰にも見られないように。……見られるだけでもよくないのに、触れようとしたり奪おうとする不届者もわんさか出てきますよ。そうなったらまずいでしょう?」

 自分が今どんな顔をしているのかわからない、今何かよくわからない理論を言われたような気がするが、自分の聞き間違えだったりするのだろうか?

 確かに、うちの末っ子は可愛い、なんせこの女帝の娘である。

 自分に似てない部分がないとはいえないが、見た目は大体女帝似なうちの娘が可愛くないわけがない。

 けれども、それを理由に隠せと?

 そりゃあうちの子は当然のように可愛いので宝物のように大事にしまっておきたくなるような気になることはある、それなりに厳しくしているつもりだがそれでも自分は親バカの類なので。

 けど、いくら親バカフィーバー状態の自分だって、そんな世界中からとかまでは思わない。

 可愛い我が子がそういう目で見られるかもとは思うし、うちの子達は可愛いだけでなくこの女帝の子なので、よからぬ思いを抱かれるだろうというのは覚悟していた。

 けど、彼奴がいうほどのことまでは想定していない、そこまで親バカじゃない。

 妻の顔を見る、余裕の表情はかろうじて貼り付いているが、それでも困惑が滲み出ていた。

「……確かに我が末の姫は愛らしいが、我の娘であるため当然、愛らしいというのは事実だが。…………何故、急にそんなことを?」

 言葉の合間の空白から、自分の妻が目の前の馬鹿に何をどう聞けばいいのか迷ったのを感じ取った。

 普段の彼女ならそんな空白は絶対に作らない、そんな隙は見せないのに。

「何故急にと問われますとこう答えるしかありません。つい最近、自分が彼女の魅力に気付いてしまったからです」

 ほう。

 つまりそれはつい最近までうちの子に魅力を感じていなかったという解釈であっているか?

 そういうこと言わないでほしい、怒るぞ女帝が。

「それはつまり、最近まで貴殿は我が末の姫のことを全く魅力的に思っていなかったと? 愛らしくないと?」

 ほら、怒った。

 ほらね怒った、自分も親バカだけど、親バカ具合は妻もどっこいどっこいだから。

「可愛い方だとは思ってましたけど、それだけだったんです。自分は武に生き、武に人生を……いえ、全てを捧げた身。……だからこそ、誰かのことがこんなふうに魅力的に見えるわけがないんです……つまり」

「つまり?」

「こんな自分ですら彼女のことを可愛いと……こんな汚らしい感情を抱いているということは、それだけ彼女に魅力があるということ。自分ですらそうなのです、それならただの普通の人間なら、自分の数倍、いえ、数十倍は彼女が愛らしく見えているのではないのかと、それってつまり、自分なんかよりもよっぽど汚い感情をみんなが彼女に向けているってことですよね?」

 首を傾げる青年に、女帝陛下はしばし黙り込んだ。

 どう答えるか考えあぐねているようだった。

 たぶん、一言で済む。

 自分の中には答えが浮かんでいる、絶対に口にしたくはないけれど。

 自分の娘の話じゃなきゃ、その一言を言って話を終わらせることは容易だった。

 青年の、これまでの言動と問題行動を思い出す。

 思い返してみると、その一言で話を終えるわけにはいかないと思った。

 なので、皇配になるにあたって付け焼き刃で身につけた話術で、この青年をうまいこと言いくるめるしかない。

 と思って閉ざしていた口を開こうとしたところで、妻に先んじられた。

「貴殿が言う、汚らしい感情というのは具体的にどんな感情だ。貴殿は……おいお前、そんな顔をするな」

 女帝陛下が青年に向かって問いかけている途中でこちらに視線をやってそんなことを言ってきた。

 今、自分がどんな顔をしているのか具体的にはわからない、酷い顔をしているのはわかる。

 察してくれ、超有能女帝かつ自分の妻ならこちらの思惑を察してくれ、と縋るような目で見るも、ふいっと視線を逸らされた。

「我が夫のことは気にするな。ひとまず貴殿の話を聞こう」

 聞きたくない。聞きたくないのわかっててなんでそう言っちゃうのかな女帝様。


 妻は淡々と彼奴がうちの可愛い末っ子にどんな感情を抱いたのか問いただした。

 聞きたくなかった。

 キラキラして見えるとか、なんかすっごく可愛く見えるとかはまだいい。

 手を握りたいもかろうじて許す、いや許さん。

 この辺の話を聞いている途中で思わず気が遠くなって、自分の馬鹿で阿呆な幼馴染が変な歌を歌っている声が脳内に流れていた。

 現実逃避だったのだろうか、そういえば最近会っていないけど元気だろうか、あの幼馴染は。

 けれどその先の、もう少し踏み込んだ話を彼奴がし始めた頃からその下手くそな歌声は脳内から完全に消えた。

 触りたいとか舐めたいとかいじめたいとか泣かせたいとか、そういうことを話し始めやがったのだ。

 許さん。

 あとそういう夢見たのは完全にアウト、処刑、極刑、拷問もじさぬ。

 うちの可愛い末っ子のことをそういう目で見ないでほしい、見たとしても黙っててほしい、それを親に向かって堂々と話すとか、正気というものがないんだろうか馬鹿なんだろうか頭がおかしいのだろうか。

 女帝に話せと命じられていたとしても言っていいこととダメなことの判断がつかないようなバカはうちの帝国にはいらん。

 彼奴が帝国一の武人じゃなかったらとっくに細切れにしているが、奴はどれだけ馬鹿であろうと不敬であろうと帝国一なのである、なんでこんな奴が帝国一なんだろうか、他の連中もうちょっと頑張ってほしい、さっさとこいつを帝国一の座から引き摺り下ろしてほしい。

 おおよその話を聞いたあと、自分と比べて幾分冷静そうな女帝は、若干呆れを含んだ声色で彼奴に向かってこう問いかけた。

「……つまり貴殿は、我が末の姫に惚れているということでいいのか?」

「いえ、違います! 自分のような武に生きる者が誰かに惚れるとかないです。ただ末姫様がこんな自分ですら魅了するようなヤバいお方だというだけなのです!」

 彼奴はさらっとそんな口をきいた、うちの子で淫らな夢見ときながらよくもまあそんなことが言えるものだと思った。

 これがうちの子の話でなければただ呆れて半笑いするだけで済んだ、けどうちの子の話なので全く笑えない。

「……そうか」

 女帝はどうしたものかとこちらに言いたげな声色でそう呟いた。

 あんたが勝手にすすめた話でしょう、今更こちらに意見を求められても困ります。

 そもそも自分は誤魔化して言いくるめる方向性で話を進めたかったのに、それを察しておいて無視したのはそっちだ。

 ……とはいえ、大事な末っ子の話だ、さてどう始末をつけるべきか。


 一旦、全部彼奴の気のせいもしくは勘違い、春の陽気のせいで脳や精神に若干変な影響が出ているようであると無理矢理ゴリ押しして話を終えることに成功した。

 彼奴は不服そうだった、何かあったら遅いんですよ、というか何もされずとも彼女が変な目で見られるのはよくないのではと苦々しい顔をしていた。

 なので隠さずともうちの子相手に何かできるような輩はほぼいないと断言しておいた。

 あと彼奴がいうところの変な目でうちの子が見られるのは可愛いお姫様だからある程度は仕方がないことだとも、その辺はわかってて親としても守るつもりであると、あの子に簡単に手を出させるつもりは毛頭ないと。

 というか今のところ親というか帝国と女帝と自分でもどうにかできそうな実力者なんて彼奴本人くらいだったりする。

 それが自分的には大問題だったりするのだが、ひとまず全部彼奴の勘違いの気のせいでゴリ押すことにしたので一旦そこを考慮するのはやめた、現実逃避ともいう。

 強引に話をまとめ上げたあと彼奴をポイっと追い出した。

 頭が妙に疲れた、あとなんか胃が痛い。

 頭がおかしくなっている感覚がある、こういうの前にもあった、女帝との婚約が決まった日とかこれに似た感じだった。

 なんで自分がこんな思いしなきゃならないんだろう。

 口から先ほど彼奴の話を聞いている途中で聞こえてきた幼馴染の下手くそな歌声が漏れている、なんかもう胃が痛いし頭もなんとなく痛くなってきたし、全部放っぽり出して彼奴のことなんてぜーんぶ忘れて、帝国の端っこにある南の島に家族でバカンスに行きたくなってきた。

 妻が今、自分の様子を見てどんな顔をしているのか見たくない。


 それから二週間程度経った頃。

 彼奴をひとまずそれとなーく我が子から遠ざけつつ、どうしたものかと思い悩んでいたそんな時だった。

 女帝と自分に火急の知らせが届いた。

 曰く、彼奴がうちの末っ子を拐ってどっか行ったと。

 曰く、陛下に直談判しても何も改善することもなく、これ以上彼女を良からぬ目に晒すわけにはいかないからという訳のわからない証言をして、引き留めようとする全員をサクッと倒してどっか行ったって。

 その言葉を理解した直後、吐いた。

 女帝その他の前でえらい醜態を晒してしまったが、我が子が拐われたという人生最大の危機なので許してほしい。

 というか自分は本来だったら女帝の配偶者になれるような肝が座った男ではないのである、可愛い娘が拐われた程度で吐き気を我慢できない雑魚なのである。

 妻の顔は見なかった、だいたい想像がついたので。

 自分と違って度胸もあり肝が座った彼女なら、自分ほど動じていない。

 というか多分、あの子を他所の国とか権力にしか興味がない貴族連中にやるくらいならアレにやっていいかとすら思っていそうななのだ、彼女は。

 あんな問題児にうちの子を? 正気で?

 ふざけるなと思う、そう思ってしまうのだからやっぱり自分に皇配なんて向いていないのだろう。

 吐瀉物まみれの口を拭って、妻が何か口にする前に、報告だけしかできない無能に向かって命じる。

「死力を尽くして奪い返せ。どれだけ犠牲が出ようが姫を取り返せ。下手人の生死は問わない」

 生け取りしろとも殺せとも言わない、どちらにしろ死んでもらう。

 生きて捕らえたのなら自分が手を下す、殺さなければ取り返せないというのならそれで構わない。

 妻が何か余計なことを言おうとしているようなのでギッと睨んで黙らせておく、多分そのうち不敬罪とかに問われるかもしれないが、自分とあんたの子が窮地に陥っているという緊急事態なので不問の方向でゴリ押そう。

 自分の顔を見た女帝が珍しくたじろいだ、本当に珍しい、これが平時だったらポカンと見惚れていただろうけど、今はそんなことをしている場合じゃない。

 何よりも優先すべきは、拐われたうちの子を取り戻すことである。

 あんな問題児にうちの子を渡してたまるか、絶対に取り戻すし彼奴には死んでもらわないとならない。

 どんな手を使ってでも取り戻してやる、どれだけ犠牲が出ようとも、そのせいでこの国が乱れようとも。

 というか下手したら帝国が滅ぶかもしれない、彼奴の帝国一の武人というのは伊達でもなんでもなくて事実だし、彼奴と彼奴以外の帝国兵が戦った場合、彼奴が余裕で一人勝ちする可能性の方が高いので。

 けど、それでもだ。

 ここで国ではなく自分の子を優先してしまえるのだから、やっぱり自分に皇配なんて全く向いていないのだろうと思う。

 けれども自分だってなりたくてなったわけではない、全部女帝の我儘のせいである。

 だから、そんな自分を皇配なんかにしやがった女帝様のお気に召すような行動を自分なんかができるわけないのである。

 女帝がまた何か余計なことを言おうとしたのでそれをまるっと全部無視して、報告しかできない無能に「何をぼさっとしている」と睨みを効かせる。

 無能は震え上がっていた、普段だったらそんな様子を見ればただ「かわいそうに」と思うのに、今は全くそんな気にはならなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ