3 噴火-2
救出
シャトルからディスプレイを通して見下ろすと、ジェルマンの別荘の上へ火山弾が次々と降り注いでいる。その内の一つが屋外のバルコニーを直撃して、粉々に壊してしまっている。
さらに多数の火山弾が別荘周辺へも飛来して、それが床下の斜面をも壊し始めていた。
土台である斜面は、もろくも崩れて行って別荘は傾き始めている。
もう一つの大きな火山弾は屋根を突き破り、屋根はおろかその壁をも壊してしまっているようだ。よく見ると、中から炎も上がり始めている。新太は祈るような気持で美月に言った。
「直ぐにあの別荘に近付いて。ミツキさん、あの屋敷がジェルマンさんの別荘だ。炎が見えてる。」
「分かりました、すぐに降ります。」
さらに新太が叫ぶ。
「シャトル頼みがある。あの別荘から火山弾の直撃を防いで欲しい、必要ならシールドを張ってくれないか。」
《了解しました。》
シャトルの、機械音が答えた。
シャトルは火山弾の落ちる方向と、別荘の位置を計算して、その中間点へ移動した。
シャトルの上部には大小さまざまな火山弾が降り注ぐ。それをものともせずに、シャトルは命令通り別荘の上にシールドを張って、火山弾を弾き飛ばしていった。
シャトルが別荘へ近づいていた時、家の中の四人は肩を抱き合い、身を縮めて次に来る災難に対処しようとしていた。いや、これ以上何もできないと、諦めていた。
火山弾は一時収まったようだが、火の勢いが止まらない。
外に出ようにも山の斜面は崩れかけている。雪は降り積もり、外は吹雪で視界も悪い。道路への階段は崩れ落ち、逃げ場はない。
リリアは、私達はもうすぐに死ぬんだ、死ぬ前に新太にもう一度会いたかった、そう思ってジェルマンとエレオノールと肩を抱き合って目を瞑っていた。
そんな風に思っていると、遠くから新太の声が聞こえるような気がした。
気のせいだ。こんな所に新太が居る訳がない。新太は今、商都にいるはずだ。でも、もっと聞いていたい。新太に会いたい。声を聞かせて!
すると、今度ははっきりと聞こえて来た。
「リリア~っ、大丈夫か~。みんな生きてるか~っ、助けに来たぞ、返事をしてくれーぇ。」
新太が何処からか大声で叫んでいる。間違いない、新太の声だ。
その声がジェルマンにも聞こえたようで、頭を上げた。
すると、窓の外に思いがけない物を見つけた。それは黒い箱のような塊だったが、何故かそれが空中に浮かんでいる。窓の向こう、バルコニーの有った場所に、音も無く浮かんでいる。
声は、その方向から聞こえてくる。
よく見ると、これも空中で浮かんでいる新太と、見た事のない服装の見た事のない女性の姿が有った。
新太たちは、新しいブレスレットで浮遊機能を取得していたのだ。
その新太と五人の前には、燃え盛っている壊れた壁と窓がある。
リリアの目には、丁度火山弾が開けた壁の穴から、新太が見えた。その間にも、炎が燃え盛り五人に迫って来る。
天井から、焼けて火の着いた丸太がリリアの傍に落ちて来た。《危ない!》新太が叫ぶ。ジェルマンが、身を挺してそれを庇った。
5人への直撃は避けられたが、新太と5人の間を妨げる堰となってしまった。
「動かないで、今そっちへ行く!」
新太はシャトルを屋敷の中へ押し込もうとも考えたが、それでは屋敷そのものが大破してしまう。却って危険だと判断して、一人ずつ抱き上げて、シャトルへ運び込もうと思った。
シャトルは今、自動操縦になっている。
「ミツキさんっ!シャトルを別荘へ近付けてくれ。二人で、リリア達をシャトルへ引き上げたい。頼む!」
それを聞いた新太の傍に居た美月は、すぐさまにシャトルをリモートで別荘の直ぐ横へ着けた。新太と美月は、ブレスレット機能の一つである浮遊装置を強化させた。
浮遊しながら、まだ火が回っていない東側の窓へ移動して、屋敷内へと進入を試みる。二階の回廊と床との隙間を見つけて、四人の傍へとゆっくりと降り立った。
ジェルマンもエレオノールも、その女性や新太が何でそんな事が出来るのかと訝しがったが、それよりも自分たちは助かるかも知れない、という希望を持って二人を見つめている。
ジェルマンはその場で立ち上がろうとした。ところが足に激痛が走った。屋根から丸太が落下した時、それを左足にぶつけてしまったようだ。でもそのおかげで、リリアとレオは大怪我を免れている。
「リリアとレオを先に助けてくれ!」
ジェルマンが叫ぶ。
「分かりました。ジェルマンさん、エレオノールさん、それにアンドレイさん、少しの間辛抱していてください。直ぐに戻ります。」
新太が言った。
「ミツキさん、レオを頼む。僕はリリアをシャトルへ運ぶ。」
「シャトル?」
レオが不思議そうな顔をする。が、危険の中で興味の顔も覗いている。
「リリア、僕の首に両手を回して!浮くけど怖がらないで。直ぐに助ける。」
新太は大声でそう言うと、リリアの腰へ手を回した。
《行くよ》という声と共に、二人は空中へ浮かんでいく。その横では、美月がいち早くレオを持ち上げていた。
火の手が屋根の骨組みへ取り付いた。風雪が居間の中で渦を巻く。
それに交じって、火炎や火の粉が渦を巻いてジェルマンとエレオノールに襲いかかろうとしている。
雪が積もった屋根の重さに、焼かれ始めた骨組みが耐えられなくなりきしみ始めた。
リリアを抱き上げた新太が窓から外へ出ようとした時に、屋根の一部が焼け落ちて来た。
音を立てて二人へ襲いかかる。ジェルマンはそれを見て、もうだめだ、二人は燃えている丸太の下敷きになる、そう思った。
ところがどういう訳か、直撃すると思われた丸太は、浮揚している二人を避けて体の外側へと崩れ落ちて行く。その瞬間、新太とリリアの体の回りに、薄い光のカバーが見えたような気がした。
ブレスレットリングのシールドは、新太だけではなく二人の体の回りに作動していた。新太はリリアを抱き上げて、無事に屋外へと脱出した。続いて美月もレオを抱き上げて、屋外の上空へと浮かんでいく。
レオはその不思議さと助かった安堵感で、美月をまじまじと見つめている。こんな時でも、美月を綺麗だ、と思っていた。
そんな事には構わずに新太と美月は、シャトルへとリリアとレオを運び込んでいった。
シャトルへ着くとリリアもレオも、その床で蹲ってしまった。
助かったという安堵感は有ったのだろうが、何故助かったのかよく呑み込めていないようだ。
リリアはハッと我に返ると《お父さん、お母さんをお願い》と、新太を見つめ直した。シャトルの上から見下ろすと、別荘は既に半壊している。
居間の中は、炎に包まれていた。
その中へ降りていくのは、大丈夫だと確信していても勇気がいる事だった。
でも助けなければ、助けられるのは僕達しかいない。美月も思いは同じはずだ。
新太と美月はお互いに頷き合って、再び別荘へと降りて行く。アンドレイは炎の中でも、気丈に目印の為か手を振っている。
床へ降りると、ジェルマンとエレオノールは熱気と煙で、殆ど息をしていなかった。床に着地して呼びかけると、ようやく二人は顔を上げた。
二人は、まだ不思議そうな顔をしている。でも、今はそんな事に構っていられない。
「私はまだ大丈夫だ。私は後でいいから、先にご主人様たちを。」
アンドレイが叫んだ。
新太はアンドレイの肩に手を置くと、分かったと言うように頷いた。
「必ず戻ります。それまでもう少しの辛抱です。」
そう言うと、美月へ声を掛けた。
「ミツキさん、エレオノールさんを頼む。僕はジェルマンさんを担ぎ上げる。」
「分かったわ。お願い。慎重にね。」
新太はジェルマンに近寄り、その腕を自分の肩へ掛けさせて、脇の下で手を廻して床を蹴った。すると,思ったよりも簡単に空中へ浮揚する。
その直後、屋根と壁が崩れ落ちて来て、今まで二人が蹲っていた辺りに落下して轟音を響かせた。その下には、アンドレイがいる筈だ。
あれでは助からない、新太は無念さに胸が締め付けられた。
美月はと思い、辺りを見ると既に新太より高く舞い上がっている。
でもまだ熱気は襲ってくる。エレオノールはゴホゴホと咽って、肩で息をしている。
今は美月のシールドで守られているものの、その前に吸った熱気を帯びた煙で喉をやられたようだ。
シャトルへ運び込んでも、二人の意識は段々と遠ざかる様子を見せていた。
アンドレイが気になったが、シャトル内のラウンジに寝かせ、新太は万能多機能ボックスが有るキッチンへ向った。多機能ボックスは、リクエストした物の大半を作り出してくれる。
リリアとレオは無事であったが、ジェルマンとエレオノールは安心できない。リリアはエレオノールに縋りついて、何か叫んでいる。
「ミツキさん、ミツキさん、薬をおねがいっ!」
必死で新太が叫んだ。
皮膚への火傷だけではなく、気管支まで損傷を受けている可能性がある。
美月は、多機能ボックスへ向かってリクエストした。
「火傷の薬を早く出して!喉も損傷を受けている。」
美月がリクエストすると、直ぐにボックスから二つの薬が出て来た。それを持って美月とリリアは、二人の体を起こすと薬をその体に塗布する。
それが終わると、飲み薬を少しずつ飲ませ始めた。新太は、ボックスに向かって、ガーゼが欲しい、と言ってみた。すると棚からガーゼが出て来る。それはレオに依頼した。レオは二人の火傷の場所へ、ガーゼを巻き付けている。
暫くの後、段々に二人の息が楽になってきているようだった。エレオノールが目を開いた。
「あ、ありがとう、助かったのね。リリアもレオも大丈夫?」
「お母さん、気が付いた、良かった。レオは元気よ。お父さんもだいぶ楽になっているみたい。足に怪我して、歩く事は出来ないみたいだけど。」
「そう、良かった。有難う、誰が助けてくれたの。ちゃんとお礼を言ってね。」
エレオノールは、新太と美月を見ていないようだ。
「助けてくれたのは、アラタとミツキさんという女性よ。安心して、まだ横になっているほうがいいわ。」
そう言うと、エレオノールは安心したのか、また目を閉じている。
ジェルマンも気が付いた。息をするのが楽になった、と言っている。リリアは改めて新太に向き直り、目に涙を溜めて《有難う》そう呟いて新太の体を抱きしめた。
ジェルマンは床へ横になりながら、そっとその様子を笑顔で見つめている。
その様子を確認してから、新太はもう一度、アンドレイを助けるためにシャトルを出て別荘へ向かった。
助からないかも知れないが、助かる可能性も有る。
そう信じながら降りて行ったが、もう屋根は崩れ落ちて床はその残渣で埋まっている。
あちらこちらで炎も上がっていた。その炎の下に、顔も分からないほどの火傷を負った、アンドレイの変わり果てた姿を発見した。息は無い。
新太は、その姿に向かって
「ごめんなさい。アンドレイさん。」
と声を掛けていた。
そして、その遺体を担ぎ上げてシャトルへと戻った。
リリアはアンドレイの死に対して、涙を流している。エレオノールも、同様だったが、ジェルマンとレオは黙ったままだった。でも、その無念さは伝わってくる。
その時レオは、そこから見えるディスプレイに映し出された、今まさに燃えだそうとしている麓の別荘を凝視していた。
「アラタ!麓の別荘に誰かいる!」
次回は明日。 アド・ウィストリア卿




