3 噴火
ラズホンディア山の噴火
三 噴火
リリアには、シャトルの事や美月の事は誰にも内緒にして欲しい、と頼んでおいた。もし話をしてしまっても、多分信じてもらえないだろうが念のためだ。
リリアもなんとなくだったが、了承をしてくれた。自分が半信半疑なのだから、他人にどう説明したらいいのか分からないのだろう。
新太には美月から改めて交信用のネックレスと、新しいブレスレットが渡された。新しいブレスレットは、今までより性能が向上しているようだが、何がどのくらいいいのか、使ってみないと分からない。
さらに新太としては、地球へ帰るという選択肢もあったが、地球へは戻らないと決めていたので、そう美月へ伝えたのだった。美月もそれを尊重して、アローで暮らすことにしたようだ。
寒い冬の季節になった。ロングバンテ家の4人は、寒さを避けるために別荘へと出かける習慣が有る。10日ほどを別荘で過ごすのだ。
そこは温泉が豊富に湧き、冷えた体を癒してくれるとともに、日頃の疲れも取り払われ、美容の為にも大いに効果が有る、とされているらしい。
特にロングバンテ家の別荘には、温泉が流れる出る大きな風呂場が有るという事だ。
新太も誘われたが、家族水入らずの所へ邪魔するわけにはいかない。留守の間の仕事もある。それを理由に辞退した。
一行には、御者としてアンドレイだけが同行している。
ロングバンテ家の別荘は、山の中腹にあった。麓から1本道で通じていて、その上には何もない。ただ、高い山が聳えているだけだ。
行く時はそれほどでもなかったが、別荘に着いてから、大雪が降り出した。
比較的暖かな地方には珍しい事だ。一晩が開けると、辺り一面は銀世界に変わっている。
通ってきた道は雪で埋もれ、当分の間は馬車で帰れない。当然だが、歩いても無理な感じであった。バルコニーから見える景色は、日頃の鬱憤を晴らすには充分である。
深い谷間に、川が流れている。そのずっと先に、ラズホンディアという名の高い山が聳えている。そこも中腹まで雪で覆われていた。山頂から麓へと続く稜線が三角形をしていて、平原の中に広いすそ野が広がっている。それを新太が見たら、富士山に似ていると思ったであろう。
家族の四人とアンドレイは、温泉とその景色を満喫していた。
そうして過ごした3日目の昼過ぎだった。雪は依然として降ったりやんだりを繰り返し、時折は吹雪に似た様相を示す時も有った。それでも五人は、危険とは思っていなかった。
ところが、急に何処からともなく鳴動が聞こえて来た。今までに聞いたことのない音だ。
すると、直ぐに縦揺れが来た。地震だ。最初はそれほど大きな地震ではなかった為、4人は少し驚いた程度で不安を感じる程ではない。
ところが、その鳴動と地震が何度か繰り返される。すると少しずつ、不安が募ってくる。
アンドレイが、4人の居る居間にやって来て言った。
「旦那様。ここは少し、危険かもしれません。早めに避難した方がよろしかろうと存じます。私は道の様子と、馬車の様子を見てきます。」
そう言い残して、外へと出て行った。しばらくアンドレイの帰りを待っていると、今までで一番大きな地震が来た。
「キャー。」
リリアが叫んだ。ログハウスのような木造二階建ての別荘は、ガタガタと音を立てて揺れている。屋根に山の石が転がって来て、当たっているのだろうか。時々、バタバタという音も聞こえてくる。
暖炉には火が燃えている。その燃えている薪も、踊っているように跳ね上がっている。今にも暖炉から飛び出しそうだ。一気に不安が高まった。
その時、アンドレイが戻って来て言った。
「旦那様、だめです。道は雪で埋まって、馬車が通れません。避難するのは難しいかと思います。」
ジェルマンはともかく、エレオノールとリリア、それにレオも不安を加速させている。いまはただ、地震が収まるのを待つだけだと観念したかのように、ただただ顔と体を硬直させている。
その地震が起きる少し前、新太は美月から緊急の連絡を受けていた。
「アラタ、ロングバンテ家の人達に危険が迫っているかも知れない。」
新太の頭の中に、美月の声が聞こえて来た。交信用ネックレスが起動している。
「えっ、どういう事?」
「ラズホンディア山が噴火するかもしれない。その兆候をアローが察知したの。ロングバンテの皆さんは、その近くの別荘へ行ったのよね?」
「ええ、そう。詳しい場所は分からないけれど。直ぐに確かめてみます。」
新太は邸宅の執事に聞きにいった。
すると執事の話では、別荘のある場所は紛れもなくラズホンディア山の近くだという。詳しい場所も聞いた。
「ミツキさん、間違いない。危険なら、助けに行かないと。」
「それに、現地では大雪が2日前から降っているの。退路を断たれているようなら、直ぐにでも向かわないと。向こうには5人居るのよね。それなら、シャトル8で行くわ。とりあえず、新太を迎えに行く。それからすぐに向かいましょう。」
「それなら、お屋敷の2階一番西側のバルコニーへ寄せて。そこで待ってる。」
新太は冬支度を整えると、直ぐにバルコニーへ出た。
美月と連絡を取り合ってから、五分と経っていない。バルコニーのすぐ横には、8人乗りのシャトル8が既に到着していて、美月だけが空に浮かんでいるように見える。
新太はバルコニーの手摺から、その美月のすぐ横へ跳んだ。何もない空間に、新太の足が着地する。そこにはステルス機能で隠してあった、シャトルの足場が有った。
新太を乗せると、直ぐにシャトルは発進した。
ラズホンディア山までも、5分で到着する。やはり周辺は雪で覆われているし、道も全くと言っていい程見えない。
「あの北側の山の、中腹にあるログハウスが別荘だと思う。」
新太が指差す。
その時だった。大音響と共に、ラズホンディア山の頂上付近から噴煙と火山弾が噴き出した。地震も伴っているようだ。別荘が有る山も、所々で山崩れが起きている。
すると別荘が建っている平地の一部が、斜面に向かって傾きだした。今にも別荘は崩れ落ちそうだ。
ドドーン、という大きな音が聞こえ、柱がびりびりと音を立てている。
《きゃーっ》とリリアとエレオノールは声を上げた。思わずレオが窓際へ寄り、ラズホンディア山の様子を見た。
すると山の頂上は、吹き出た真っ赤な溶岩に交じって、灰色の噴煙が空高く上がっている。火山弾も混じっているのが見える。
すると直ぐに、火山性の地震がまた襲って来た。今度も大きい。
レオは、ワッと言いながらその衝撃で床へ転がった。窓際のバルコニーが崩れ落ちていく。
「危ない、窓から離れろ、レオっ!」
ジェルマンが叫んだ。
全員が立ち上がり、レオも急いで三人の所へ合流した。レオの額に血が流れている。割れた柱の木片が当たったようだ
エレオノールはハンカチで、その額の傷を押さえた。血が少しずつハンカチに滲んでくる。
すると別荘全体が、少しずつ崖側へ傾いていった。
壁に飾ってあった額が、音を立てて床へ落ちる。暖炉の上の飾り物が落ちて来る。天井にぶら下がったシャンデリアが、大きく傾いて今にも落ちてきそうだ。食堂の食器棚が倒れて、中の食器が音を立てて割れ落ちていく。
最後には、椅子や家具も少しずつ滑り出すありさまだ。
四人はお互いに抱き合い支え合って、ただ床の上に座り込み、床の傾斜に抗う以外術がない。
護衛は居ない。ジェルマンが家族だけで過ごしたいと言って、連れてはこなかったのだ。ただ、護衛が居たとしても、役立ったかどうかは分からない。
暖炉が壊れ、中で燃えていた薪が今度は飛び出して来た。その薪が床を転げて窓に掛かっていたカーテンへ火を点けてしまった。徐々に火の点いたカーテンは、天井へと燃え上がっていく。
そのカーテンの火は、天井や壁の装飾品へも少しずつ火を点け始める。
さらに悪い事が重なった。最初は近くでガーン、という大きな音が聞こえてきた事から始まった。すると壁の一部が割れて、隙間風が入って来た。大きな火山弾が直撃したようだ。
その次には、大小さまざまな火山弾が雨のように降り注いで来た。バタバタバタと、屋敷中で音がしている。
するとその中の一つであろう、大きな岩の塊が別荘の壁を突き破り、斜めに床へと当たると壁と床の一部を壊してしまった。
冷たい風が部屋の中を駆け巡り、渦を巻き始めている。壁や天井へ点いていた火が、一気に燃え広がってきた。
四人は既にパニックに陥っていた。何処へ逃げようにも、逃げ場所は無い。
屋敷はなおも崖側へ傾いていく。別荘を支えていた地面が崩れているのであろう。
ジェルマンもエレオノールもリリアもレオも、それぞれに体のどこかに怪我を負っている。もうだめだ、みんながそう思った。
すると気のせいだろうか、それまで激しく降り注いでいた火山弾の音がしていない。炎は燃え広がっているのだが。
次回は明日。 救出




