再会 4
シャトル
「あなたは誰なんですか?なんなのですか?急に出て来て、私のアラタを取らないで!」
美月は、顔を日本人の美人を元にして造られたアンドロイドだ。姿かたちも申し分ない。
そういう若くて美しい女性が、突如現れれば心中は穏やかでいられない。ましてや、リリアは新太の出自やこの惑星に来た理由も知らない。ただの外国人だとばかり思っていたのだから。
「ち、違うんだ、リリア。落ち着いて聞いてほしい。この美月は、人間ではない。機械なんだ。それで、僕の母親代わりだったんだ。」
10年前ならいざ知らず、今では新の背は、美月を越えている。それに美月は年も取らず、相変わらず若くて綺麗だ。新太と、年もそう変わらなく見える。新太の説明には無理がある。
「何言っているの、アラタ!意味が分からない。嘘つき!もう知らない。」
つい先ほど、唇を重ねたばかりなのが余計に腹立たしく思われたのだろう。
リリアは泣きじゃくっているし、美月は困惑した顔になっている。
「美月さん。シャトルは其処に来ているの?」
先ほど吹いた風は、ステルス機能で姿を隠したシャトルが着陸した時の風だ、そう判断した。
「ええ、此処に。シャトル4が。」
それを聞いて、新太はリリアにそっと言った。
「信じられない気持ちは、よく分かる。実は、美月は機械だと言ったけれど、僕はリリアから見たら宇宙人なんだ。宇宙人と言うのは分かる?この地上の人間ではなく、あの空のずっと向こうから来た人間、という事なんだ。今まで内緒にしていてゴメン。でも僕は、この星の人間として一生暮らして行こうと決めていたんだ。だから黙っていたし、今までと何にも変わらない。僕はリリアだけを愛している。」
それを聞いても、リリアの涙は止まらない。
「そんなのは信じられない。この星って何の事ヨ。もう新太の事なんて、何も信じられない。」
リリアには、惑星の概念など分かるはずもない。空に光る星と、この大地が同じなどと言っても信じられないのは当然だ。
リリアの質問には答えずに
「美月さん、シャトルを出してもらえる?」
新太がそう言うと、美月は手元のブレスレットを操作した。
すると今まで何もなかった草原に、突如としてシャトル4が現れた。
シャトル4とは、4人乗りのシャトルの事で、主に軌道上の宇宙船と地上を結ぶ役割を果たしている。時には、戦闘にも参加する。
リリアは自分の目を疑っているのか、驚きを体全体で表している。顔が引きつっている。シャトル4の大きさは、マイクロバスを横へ2台並べた程度ある。
リリアが知っている、馬車の10台分くらいだろうか。驚き恐れるのも無理はない。
その表面は黒一色に輝いていて、小さな窓が正面に2つあるだけだ。その前方に近い側面が、こちら側へ開いてタラップになっている。
「リリア、乗って。僕が言っていることが本当の事だと分かって欲しい。だから、全て包み隠さずに話す。その証明もする。それには、これに乗って貰うのが一番だ。お願いだ。僕を信じて、怖い事もないから。」
新太は誠心誠意、そう言葉に込めて言った。
その言葉が伝わったのかどうかは分からない。新太が信じられない気持ちと、信じたい気持ち、美月のリリアに対する微笑みと未知のものに対する好奇心、それらが合わさって、最初の一歩を踏み出した。
新太に手を引かれて、タラップを登る。するとその中にも、もう一枚の扉が有った。新太が壁のボタンを操作するとその扉が開いて、その向こうには広い空間が現れた。
左側の前方は操縦席、右側の後方はガラスで仕切られたリビングのようになっている。
両方、広さは15平米くらい。新太はリリアをその操縦席へ案内すると、一番前の席へ座らせ自身はその横へ座った。
美月も乗船してきて、リリアの後ろに座る。
操縦の基本は、美月と春斗に教わった覚えが有る。浮上や、周回軌道への進入と離脱、地上への着陸程度はこなせるはずだ。それに、周回軌道には、母船であるアローと同型の宇宙船が待機しているのだろう、という確信が有った。
新太が操縦を始めようとすると、後方から美月が声を掛けて来た。
「操縦方法は同じですが、前のアローやシャトルよりは数段性能が優れています。それだけを注意してね。」
子供に教えるように美月が言った。
新太が、起動スイッチを押す。本格的に操縦するのは初めてだ。少し緊張した。
操縦盤の上昇ボタンを押すと、機体が少し揺れた。リリアが《あっ》という声を上げる。と同時に、体が上昇する気配がして来た。
リリアは、ひじ掛けを両手で強く握りながら緊張している。
「リリア、心配しないで、僕を信じて。窓の外を覗いてごらん。綺麗な地平線が見えるよ。」
伏し目がちだったリリアの顔が、前方を見始めた。
そこには一面の緑の平原が広がっている。一番遠くには、少しだけ弧を描いた地平線が現れている。
近くには森も川も泉も、住んでいた商都の街も城壁が見えている。そして数本の道路も見えてきている。
「綺麗!」
リリアが席を立って,感嘆の声を上げた。
「空を飛んでいるんだよ。怖くないだろ?」
「ええ、怖くないわ。」
リリアに笑顔が戻った。シャトルは、スピードを上げて大気圏を離脱し始めた。体が背もたれへ押されるような感じがする。それでも特別な負荷は掛からない。
しばらくすると、窓の外は真っ黒に変化していた。惑星の表面が現れる。新太も初めて見るこの惑星の表面だ。シャトルは、周回軌道を回り始めている。
惑星には大きな大陸が二つ見えた。その一つが、新太たちが暮らす商都の有る大陸だという事は分かった。その大陸と、もう一つの大陸は、広い大洋を挟んで存在している。
商都の正確な位置が分からないため、その海岸までどの位の距離が有るのかは分からない。二つの大陸で、惑星のほぼ半分を占めていた。
後は海になるが、地球と同様に北極と南極に当たる場所は白くて、海は凍っているようだった。惑星自体は、それほど大きくない。地球の月くらいだろうか。
「あれが、僕たちが住んでいる惑星だよ。丸くて、空に見える星と同じだと思っていい。この宇宙という所には、こういう惑星という星や、月のような衛星、それに様々な星がたくさんあるのだけれど、どれも殆ど丸い形をしている。人の住めない星が大半なのだけれど、人は其処でも暮らせるような技術というものを取得している。ミツキさんが生まれた星は、その技術がとても優れていて、こんなシャトルやこれから行くアローという宇宙船を作り出したんだ。」
新太は、少し言い淀んだ。
「それと、僕と父はミツキさんと一緒にその宇宙を旅していたんだけれど、どこかの宇宙船に攻撃されて僕だけ助けてもらった。父もミツキさんも亡くなって、僕だけリリアの居る惑星にたどり着いたんだ。そこで、ジェルマンさんに助けられた。」
リリアは黙って聞いていたが、ふと気づいたようだ。
「でも、ミツキさんは此処に居る。」
「そう。でもミツキさんは、その時のミツキさんとは違うんだ。新しく作られたみたいなんだよ。人間ではない、と言ったよね。機械なんだ。アンドロイドと言うけれど。」
リリアはミツキを見つめて、信じられないような顔をした。
「ミツキさん。少し触ってもいい?」
美月は笑顔で応じた。恐る恐るリリアの手が、美月の腕を触る。柔らかい。と感じたのか、もう一度遠慮がちに胸の膨らみも触りに行った。そして自分の胸を触った。
「同じだ。ミツキさんは私と同じ人間だよ。」
「そうだね。僕もミツキさんに育てられたけれど、機械だと思ったことは一度もない。本当に母親代わりだったんだ。」
リリアは、新太が話したことが本当だったのだと、納得したようだ。
「ごめんなさい。アラタを疑って。みんな本当だったんだ。」
「ああ、でも仕方ないさ。信じろ、という方が間違っていたんだから。」
新太はリリアの手を握った。リリアも、その手を握り返してきた。
「アラタ、良かったね。分かって貰えて。それでも、アラタにこんな綺麗な彼女が出来ただなんて、私はとっても嬉しいわ。」
美月が少しおどけて言った。新太は照れて、リリアははにかんだ。
シャトルの前方に、アローが見えて来た。小型宇宙船なのに、何か頼もしく感じる。
リリアの邸宅より、少し小さいかも知れない。
「あれがアローという名前の宇宙船だよ。」
美月をはぐらかすように、新太がアローを指差した。
続きは明日。第三章 噴火




