再会ー2
ブルーウルフ
その群れに囲まれていたが、その中でも一つの大きな集団が有った。何匹いるのだろう。その集団の中央には、ひと際大きな個体が居る。集団のボスのように見える。護衛が言った。
「ブルーウルフだ。これは、もう終わったかもしれない。血の匂いに誘われてきたのに違いない。迂闊だった。直ぐに移動しなければならなかったのに。」
それでも新太は、人間に対するよりも興奮していた。
段々と殺すことに慣れてきたとはいえ、相手が人ではやはり後悔の念が残る。
相手が獣なら遠慮はいらない。そう思っている、残酷な感情を持った自分がいた。
「生意気なようですが、前面は私が引き受けます。みなさんは、そのほかの守りに徹してください。」
護衛のリーダーが唸りながら言った。
「そんな事できるもんか。侮るな、これでも連戦の戦士だぞ!」
戦闘はブルーウルフのボスから始まった。地面を一蹴りすると、瞬く間に30メートルの距離が縮まった。
新太の頭の2メートルほど上から、降ってくるように襲ってきた。するとその他のブルーウルフも、次々と護衛達に襲い掛かる。
新太はその速さと高さに驚いて、言った言葉とは裏腹に何もできずにいた。
ブルーウルフの鈎爪は、新太の皮膚を引き裂いたように見えた。
ところが今回も、新太の体に傷一つできていない。
流石に護衛の兵士たちだ。《終わった。》と言いながらも、何とか最初の攻撃を防いでいる。中には、早々と一匹のブルーウルフを倒している者も居る。
その第一波の攻撃の後に、控えていた集団がいた。今にも参戦しそうな勢いだ。
新太は、腕のリングに備わった武器の力を試そうと決めた。
その後方に控えていた集団へ向かって、右腕を横に大きく振って切りつける形を取る。すると、正面左側から右方向へと、次々とウルフの血が飛び散っていく。
ウルフたちの皮膚が裂けて、首や足が切り取られている個体も有る。
武器であるビームの音はしない。ウルフたちの断末魔の中、後方に居た大半のブルーウルフは絶命していた。
それを見たのだろうか?ボスのウルフがひと際大きく夜空へ向かって吠えると、新太目掛けて突進してきた。今度は新太も用意をしていた。
右腕を畳むと、パンチを繰り出すように拳を作って前に突き出した。
拳の先に明るい光が灯ったと思ったら、ボスウルフの腹に大きな穴が開いた。内臓と血糊が飛び出す。
《ヴゥエ》という声もろともに、ボスウルフがあっという間に絶命していった。
周りを見ると、それでも多数のブルーウルフは、まだ護衛の兵士へ挑みかかっている。中には、足を噛まれたり腕を引き裂かれたりしている護衛もいる。
それでも、懸命に戦っていた。
「みなさん、私の後方へお願いします。」
これ以上の犠牲は出せない。護衛の兵士たちは、充分にジェルマンたちを守ってくれた。
護衛のリーダーは、新太の不思議な力を垣間見たのだろう。
「おい、みんな、この人の言うとおりにしろ!ちりぢりになっていたら、じり貧だ。一ところへ集まれ。」
その声を聞いて、護衛達がウルフたちを退けながらも、新太の居る場所へ集まってきた。
七人は馬車を背中に隊陣を組んだ。それを、ボスを失ったブルーウルフたちが取り囲む。
まだ数十匹はいる。それでもボスを失ったためか、今までのような統制も勢いもない。1匹ずつか、せいぜい2~3匹がまとまって襲ってきた。それを屈強な護衛達が退ける。
それを数度繰り返すと、早くも辺りは獣の血で染まり始めている。
するとブルーウルフの集団は少しずつ下がり始めて、遠巻きに威嚇しだした。新太はチャンスだと思った。
一旦腕を頭上へ上げると、そのまま前方へ突き出した。
その時に、五本の指は自然と広がっていた。すると前方10メートルほどの場所に居たブルーウルフの、幅10メートルほどの一団が、次々と唸り声を上げて倒れて行く。
最前列だけではなく、その後方に居た集団も鮮血を吹き出しながら倒れて行く。
それだけではない。辺りに茂っていた木々は倒れ、雑草までが燃え始めた。指を広げると、広範囲にその威力が発揮されるようだ。
流石のブルーウルフたちも仲間の数が減り、戦闘意識も萎えたようだ。一斉に後方へと逃げだして行く。護衛のリーダーからため息が漏れた。
「はぁー、何という人だ、あなたは。どんな魔法を使ったのですか?」
新太はそれには答えず、興奮しながら言った。
「それよりも、怪我をしているみなさんの手当てを。薬は有りますか?」
「ああ、いつも携帯している。何が有るか分からないからな。此方の事は心配しないで体を拭いたら早く休んでください。明日は納品ですよね。」
そう話している間に、ジェルマンが馬車から降りて来た。
「アラタ君、また君に助けられたな。ありがとう。クレマン君、ここで見聞きした事は内密にしておいて欲しい。礼はする。アラタ君の魔法の力が公になれば、ひと騒動起きかねない。お願いできるかな。」
言葉は丁寧だったが、目に威嚇の力が有った。クレマンとはリーダーの名前のようだ。
「も、勿論です。私の仲間も助けられた。本来なら私たちがお助けしなければならないのに、面目ない。」
「いや、そんな事は無い。充分に役目は果たしてくれていた。それで相談なのだが、依頼は往路だけだったが、復路も頼めるかな。また獣にでも襲われたら心配だ。」
「あ、有難うございます。精一杯努めますので、よろしくお願いします、あっ、それと一つお願いがございます。ブルーウルフの毛皮は高価で取引できます。今から出発までの間、なるべく沢山の毛皮を剥ぎますから、その一部を報酬として頂けませんか?勝手なお願いで申し訳ありませんが。」
「それはアラタ君に聞いてください。彼とあなた達が倒したのですから。」
クレマンと新太は話をして、剥いだ毛皮は全て護衛の兵たちに与える事になった。
4人の犠牲者が出た、せめてもの償いになればと思ったからだ。クレマンは、大いに喜んだ。
それからは新太もぐっすりと眠りに就いた。その間にも、護衛達は馬車の警護をする傍ら、ブルーウルフの毛皮を剥いでいたようだ。夜が明けると、荷駄の傍には山積みの毛皮が置かれていた
翌日の昼頃には隣町に着いた。早速、積み荷を買主に渡して代金を受け取り、その代金は商業ギルドで為替とした。こうして今回の取引は終了し、帰路へ着いたのだった。
ただ、襲ってきた賊の正体は分からない。多分、商敵だろう事は推察できたが、また何時、襲撃されるか分からない。いつも以上に、備えが必要になるだろうと思われた。
大規模な納品から数日が経った。賊やブルーウルフとの戦闘の余韻も、薄らいできた時だ。いつも通りに、リリアの教師や、仕事の手伝いをしていた。この頃は、リリアと一緒に過ごす時間がすこぶる多い。
地球で言えば、新太もリリアも青春の真っ盛りだ。意識するとしないにかかわらず、体の中から溢れる若さの魅力は隠せない。
新太も時折、リリアの姿を正視できない時が有った。眩しすぎたのだ。でも、リリアは恩人の娘だ。新太はそう言い聞かせて、自制を保っている。
ところが、リリアはそのような事には無頓着だ。事あるごとに、無意識のうちになまめかしい姿態をさらけ出してくる事が有る。
ある日のことだった。もう新太は就寝しようと準備をしていた。
すると、ドアーのノックの音が聞こえた。《はい。》と返事をして、ドアーを開けるとそこにはリリアが立っていた。
手には、帳簿らしき書類を持っている。こんな時間まで、仕事をしていたようだ。
大金持ちの娘なのだから仕事などしなくてもいいのに、と思う時もあるが、リリア以外は計算や簿記などの知識を習得できない。いくら教えても理解できないのだ。
仕方がなく、帳簿の整理や見積もりなどは新太とリリアが担当している。
「なんですか?こんな時間に。」
新太は、わざとぶっきらぼうに言った。
「どうしても数字が合わないところが有って、アラタに確認してもらおうと思って。」
「分かった。そこへ置いて行って。明日の朝にでも確認するから。今日はもう遅い。部屋へ戻って、もう寝なさい。」
「じぁあ、その所だけ。」
リリアは机の上に帳簿を広げて、その数字が合わない場所を指している。
新太が机の前に移動すると、その横へ移動してきて体を密着させた。そして、前屈みになって帳簿の説明をし始める。
広く開いていたドレスの胸元が緩んで、新太の目にはその胸の膨らみが見えてしまっている。わざとではないようだが、とても無防備だ。
その胸の膨らみは、白くて張りがあり弾力がありそうに見える。新太は、思わず目を逸らせた。
「んっ、何?」
リリアが気付いて言った。
「馬鹿だなー。胸の膨らみが見えてるぞ。」
続きは明日 リリアと美月




