異世界ー5
第三の鍵
女性3人との旅も、次第に慣れて来た。
美月は母親役を演じてくれているし、ルネは新太の事をご主人様と仕えてくれている。リリアだけは、新太の恋人として遠慮をしていない。
もともと、恩人のお嬢様なのだから仕方がないが、親元を離れて余計に新太に甘えてくる。新太もそれを、享受している節が見える。
日が開けた。4人はそれぞれに、剣だけを携えてシャトルを後にする。
道らしい道は無い。低いといっても、西の端に噴煙を上げている山が見えている。迷うことは無い。
下草の生い茂った、薄暗い森の中を進んでいくと、下からは空の青さが際立って見える。時折、太陽の光の帯が、幹の間に差し込んでくる。
突然、《クウェ》という鳴き声が聞こえて来た。見上げると、大きな翼を広げた鳥が2~3羽飛んでいる。広げた翼の長さが、5メートルは有りそうだった。
「今度の敵は、あの鳥か?」
新太が叫ぶと、3人は一斉に空を見上げている。
「大鷲のようですね。」
美月が答える。
どこかに巣がありそうだ。その鷲の声に誘われるように、なおも歩いて行くと前方に開けた場所が出て来た。
森から抜けると、其処には小さな池が有った。
その池の真ん中に、1本の大きな杉の木が立っている。
高さは5階建てのビル程度だったから、25メートルほどだろうか?
そして、その杉の木の一番上に、巣らしき枯れ草の塊が見えた。
「あの鷲が今度の敵だとすると、あの巣に石柱は有りそうだな。でも、あそこまで行くのがたいへんだし、空を飛んでいる鷲をどうやって退治すればいいんだろう?」
「取り敢えず、あの巣までたどり着かないといけないようね。」
リリアだった。
「私は木登り得意なの。私が先に行こうか?それにあの鷲だったら、襲われてもそれ程怖くないし。もし落ちても、怪我はしないんでしょ?」
遠くから観測しているからそうも言えるが、近くで見たらまた違う感想を持つだろうと思う。それでも、リリアに任せてみようかな、と思ってしまった。
「分かった、サポートするから行っておいで。怖いと思ったら、やめていいからね。」
その言葉に押されて、リリアは杉の木の幹に取り付いた。
そして、少しずつ登って行く。
思ったよりも早く、杉の木の3/4くらいは辿り着いている。
その時に、1羽の大鷲がリリア目掛けて突進してきた。
他にも数羽の大鷲が、その傍の上空を旋回していたけれど襲ってくる気配は無い。傍観しているようだ。
リリアは左手で枝を掴んで、右手で一本の短剣を抜いた。
大鷲が、リリアに襲い掛かる。
「いやーっ、来ないでっ。こんなに大きいとは思わなかった。」
大声で叫びながら必死で、その短剣を襲ってきた大鷲の足へ切りつけている。
大鷲は大きな足の鉤爪でリリアの体を掴もうとしている。
抵抗していくリリア。
それでも下から見ていると、バタバタ感は否めない。闇雲に短剣を振るっているだけに見える。
そして、そのリリアの攻撃を避けながらも、大鷲はついにリリアの体をその両足で掴んでしまった。
リリアは背中を掴まれ、余計に手足をバタバタさせている。
大鷲はリリアを掴みながら、上空へ飛び去った。
遠くへ連れ去られるかもしれないと、新太や美月は焦った。
ところが、杉の木の回りを飛行するだけで、何処かへ行こうとはしていない。
その内に、旋回しながらリリアの体を離してしまった。すると、リリアはその高い木の巣の中へ落ちて行く。大鷲も巣の中へ降り立って、その鋭い嘴でリリアの頭や体を突つきだした。
リリアはその攻撃に耐えられず、40メートルの高さから、真っ逆さまに地上へと自ら落下した。
悲鳴が聞こえて来た。
リリアはそのまま、悲鳴と共に池の中へ落下してしまった。
シールドに覆われていなければ、そのまま絶命していただろう。
慌てて、美月とルネがその傍へ駆け寄った。浅い水中を探している。
手を水の中へ入れると、リリアの体を引っ張り上げた。リリアに怪我はないようで、指でOKマークを作った。
リリアが不貞腐れながら、新太に言っていた。
「もう少しだったのに、でもあの鷲に巣の中へ落とされた時に、巣の中に石柱が有ったわ。間違いなくあの中に、石柱が有る。」
そう強がっている。でも巣の中に石柱が有った事だけでも、確認できたのは収穫だった。
「よし、今度は僕が行く。リリアに倣って、木に登るよ。浮遊装置は使わない。そうすれば、襲ってくることは間違いない。」
新太はそう言い残して、幹に取り付いた。
リリアと同様に、その途中まで登ると間違いなく又大鷲が襲ってきた。
よく見ると、先ほどの大鷲とは別の個体だ。それでも大鷲には変わりない。鋭い爪で新太を襲う。
やはり、新太の方が戦闘には慣れていたようだ。背中に背負った日本刀を抜くと、襲ってきた大鷲の足を薙ぎ払った。
一閃で、大鷲の足から鮮血が飛び散った。大鷲は《ギャッ》と一声哭くと、大空へ逃げ延びる。一頻り旋回したのちに、今度は上空から一気に嘴を新太に向けて突進してきた。
その間に新太は、太い枝に乗り移り、その枝の上に立っていた。
体のバランスを取りながら、大鷲の攻撃を迎え撃つ。大鷲の嘴が新太の頭に突き刺さろうとしていた時に、新太は構えた日本刀を上段から降り下ろした。
刃の先からビームが出て大鷲の体に命中したが、刀の刃は届いていない。大鷲にもビームは無力だ。
大鷲は新太の頭へ舞い降りると、両足の鉤爪で頭や顔を攻撃してきた。
とりわけ、目の位置を執拗に攻めている。新太は、その足の片方を鷲掴みにすると大鷲にぶら下がった。
驚いたのか、大鷲は今度も天空目掛けて舞い上がる。
新太は大鷲にぶら下がりながら、片手に持った刀をその足元へ突き刺した。血が滴り落ちて来る。
《ギィエッ》と一声哭いて、大鷲と新太は絡み合ったまま池の中へ落ちた。
大鷲は直ぐに経ちあがり、舞い上がろうとしている。新太も立ち上がると、その大鷲に向かって刀を降り下ろした。今度は刀が大鷲に届いて、その首を撥ねていた。
大鷲の体だけがもがきながら、池の中へと水没していった。
新太は、次の攻撃に備えた。ところが、杉の木の上で旋回していた他の大鷲は、一向に襲撃してこない。
それではと思って、新太は巣までよじ登って行く。巣の中を見ると、リリアが言ったように石柱が有った。それを拾い上げようとしたが、巣から離れない。
何の仕掛けもないように見えるが、どういう訳かどうしても手に出来ない。
今回は大鷲を倒しても石柱が取れないのだ。
仕方がないので、杉の木から降りる事にした。池の畔まで戻ると、みんなが《どうしたの》と言うような顔をしている。
新太が説明すると、ルネが恐る恐る言って来た。
「リリアさんが登った時に襲ってきた鷲と、アラタさんが登った時の鷲は、違う鷲だったですよね。それに、その鷲が襲っていた時に、他の鷲は手を出してこなかった。
これは一対一の戦いなのではないのでしょうか。私達は4人居ますから、4羽の鷲をそれぞれが一羽倒さないと、石柱は手に入らないのではないでしょうか?」
そう聞けば、そう言う感じもしてきた。それなら、後は試すしかない。
「どうせ戦わなくてはならないのでしたら、私にやらせてください。戦ったことは有りませんが、身は軽い方です。」
ルネは果敢に挑んでいった。リリアや新太と同様に、幹に取り付き少しずつ登って行く。するとそれまで静観していた、一羽の大鷲がルネに挑み始めた。
ルネはある程度の高さまで登ると、幹から幹へと飛び上がるように登って行った。
まるで忍者だ。それを大鷲が、今度は上の幹に停まって待ち構えている。
巣まで行くには、その側を登らなくてはならない。
ルネは、冷静だった。腰から短剣を抜くと、それを大鷲に投げつけたのだ。
短剣は狙い違わず、大鷲の胸の辺りに突き刺さった。驚いた大鷲は、翼を広げて木の回りを一周すると、今度はルネの下側から襲ってきた。
するとルネは、何とその大鷲に飛び降りていった。体の上へ載って首に縋り付いて、片方の手で握っていた短剣を、二度三度と突き立てた。
流石の大鷲も、ルネを背中に乗せたまま落下していった。リリアは、池から顔を出しながら笑っていた。
「やはり、ルネさんの仮説は正しかったようですね。他の鷲は、襲おうと思えば襲えたのに静観していました。ここでは一対一の戦いに間違いがないようです。」
今度は美月が挑戦すると言って、木に登り始めた。
美月は驚くべき速さで、巣までたどり着いてしまった。中を覗いて石柱を取り出そうとしていたが、やはりだめだったようで、巣の上で仁王立ちになりながら腕で✖印を出している。
その時にその後方から、大鷲が襲ってきた。様子を伺っていたようだ。
二羽の仲間がたてつづけに倒されたせいなのか、慎重になっていたのだろう。
仁王立ちになった美月を見て、チャンスだと思ったに違いない。
落下するように、突っ込んできた。美月は後ろにも目が有るようだ。
振り向き様に、、長剣を背中から抜くと同時に横殴りにした。
一振りで、大鷲の胸は切り裂かれて胴体が真っ二つになってしまった。
二つの身になったその大鷲は、なす術もなく絶命してしまった。
美月が木から降りてくると、今度もリリアが《凄―い、ミツキさん。》と手を叩いて迎えている。
新太は
「何か僕だけがてこずっていたようだな。」
と、苦笑いしている。
「じぁあ、最後はリリアさん。手助けは出来ないけれど、頑張ってね。」
美月が応援している。悲壮感は無かった。二度目の挑戦になってしまったが、3人の戦いを見て学習したのだろう。リリアも何とか大鷲を仕留めた。
でも、石柱を手にするために、巣まで登る勇気がないと言っている。高いし、その巣の上に何もないとなると不安しかない、と登る気もなかった。
それで仕方なくと美月が再度、木の上まで登って行った。巣の中へ手を入れて、探っている。また仁王立ちになって、今度は両手で丸印を出してくれた。石柱が手に入ったのだ。
大鷲の何羽かは、まだ大空を旋回している。それでも、こちらの人数に合わせてくれているようだ。それ以上襲われることは無かった。
これで、3個の石柱が手に入った事になる。
最後の石柱の所在地は《クレストヒル》と読めた村の近くだった。今度は北へ行く事になる。冬支度が必要になるかもしれない。
続きは明日。 六 迷宮ー1




