5 異世界ー1
巨人の屯する洞窟
五 異世界
シャトルは、ゆっくりと発進した。操縦は美月が行っている。ルネは、その美月の姿にうっとりとしている。同じ女性なのに、憧れの眼差しを送っていた。
そして
《私もミツキさんと、同じ服を着たい。》と言い出した。
初めての我儘を言ったような気がした。それを聞いて、リリアも同じことを言う。
新太は、万能ボックスへ向かって、2着の服とパンツを用意した。
リリアは、ピンクのブラウスに赤のボタン。ルネは水色で紺のボタンを選んだ。同時に、新太も父の着ていた白のシャツに着替える事にした。
そして、意思の疎通を完全にするために、リリアとルネにもブレスレットとネックレスを与える事にした。これで言葉は不自由しないし、身の安全も保障できる。それに万が一の時には、武器としても使える筈だ。
それに、その武器のカモフラージュとして、また実際の武器としてもそれぞれが剣を持つようにした。
美月は長剣をリリアとルネには二本の短剣、新は日本刀を出してもらった。
剣を突き出すと、その先からビームが飛びだして行く。
シャトルは上空1000メートルを維持して、シャトルとしてはゆっくりと飛行していく。リリアにもルネにも、上空から見た景色を見させてやりたかったからだ。
海上は速度を上げて、飛行時間は10時間で済んだ。海の向こうに大陸が見えてくる。
一面に緑の大陸だ。海岸線に土色の線が見えている。
高い山や湖なども、所々に見えて来た。大半は木々が密集した深い森のようだ。
シャトルは、海岸線に沿って飛行していく。
その途中に、ルネに見覚えが有った特徴ある高い山が見えたようだ。
「あの山の向こう側が、私の故郷です。」
あの地図の中に有った《アルカント》と言う名の港町のようだ。
シャトルは山の頂上辺りで一度ホバリングすると、ゆっくりと稜線に沿って降りていく。
麓に近い森の中に空き地を見つけ、其処に着陸させた。
今回の目的の一つは、あの地図上にあった✖印の意味だ。直接、その場所へ出向けばよいのだが、その前に街中を観測する必要がある。
外国人だとは分かるのだろうが、なるべく違和感を与えないように服装も、
一般の民衆と同様に揃える必要がある、と判断した。とりあえずシャトルのサーチ機能を使い、港町の様子をディスプレイに映し出した。
港町は、貧しかった。舟は手漕ぎだけで、せいぜい2~3人しか乗ることが出来ない。家屋は、細い木の柱に回りを板で囲っただけで、床は無く土の上に
茣蓙を敷いただけのようだ。かまど類も有るのかどうか分からない。
服装はそれでもちゃんとしていた。
織った布で出来ていて、襟や袖も木の素材で出来たボタンもついている。
それに木靴も履いていた。ただし、色彩は無い。
美月は、それに似させて服を用意する。早速その服に着替えて、港町へ出てみた。
リリアは、シャトルへ残している。
特に注目される、という事もなかった。ルネの元の家が近くに有るとの事だったので、其処を訪ねてみた。ところが、家は取り壊されていて両親の姿もなかつた。
ルネの話では、ルネと同様に奴隷として売られたのではないか、という事だった。ルネの目には涙が無かった。
この辺りでは日常茶飯事として、受けとめられているようだ。
3人は、シャトルへ戻ると例の✖印の場所へ目指す事にした。
実際の地形と、新太が書き写した地図とを照らし合わせて、シャトルが目的地を設定する。
シャトルは一気に、その場所へと飛んだ。5分もかからない。
そこは山の麓にあり、回りには何もない。
シャトルを降りて、歩く事にした。今回はリリアがどうしても付いて行く、というので同行している。
しばらく徒歩で山道を登ると、其処には洞穴が有った。
思ったよりも大きな洞窟だ。幅は5メートル、高さは10メートルも有る。
それが、山の岩肌に掘られていた。
ここが✖印の場所のようだ。
そこへ入ろうとすると、中から獣らしい唸り声が聞こえて来た。
まずリリアが驚いて足を止めた。新太に縋り付いている。様子を伺っていると、真っ暗な洞窟の中から黄色に光る二つの眼が現れた。
見た事もないような巨人だ。背丈は5メートルほど。全身は剛毛で覆われていて裸だ。ゴリラに似ていたが、直立している。異様に臭い。裸足で、それでも手に棍棒を持っている。地球でいうビッグフットのような生き物だ。
新太と美月は前に出て、リリアとルネは後ろへ下がった。
「ルネっ、こいつが何なのか知ってるか?」
後方に居るルネに聞いた。
「分かりません。今まで見た事も有りません。」
海岸近くには現れないようだ。その巨人が新太たちを見つけると、猛然と棍棒を振るって襲ってきた。
体の大きさに似合わず、素早い動きだ。20メートルの間隔をあっという間に詰めて来て、その間に棍棒を降り下ろそうとしている。
あっ、と思う間もなく4人は忽ちのうちに薙ぎ払われ、空中高く投げ出された。
美月も新太も怪我は無かったが、二人の女性が心配だ。起き上がると直ぐに
二人を探すと、新太より遠くに二人は投げ飛ばされていて、太い木の幹に打ち付けられたのか、その根元にぐったりとした様子で横たわっていた。
「リリアっ、ルネっ、大丈夫か?」
新太が叫んだ。リリアもルネも、巨人の攻撃とその衝撃と驚きで、気を失いかけていたようだった、が体に異常は見られないように見える。
「あっ、アラタ、わ、私は大丈夫みたい。ル、ルネは?」
驚きを隠せずに、体を触りながらそう言った。するとその近くで、同じように倒れていたルネも返事をした。
「わ、私も大丈夫です。怪我は有りません。」
そう言いながら、起き上がってきている。巨人はその様子を見ていたのか、またしても攻撃を仕掛けて来た。
「リリアもルネも、其処で目を瞑っていろ!」
新太はそう叫ぶと、
地面を蹴って空中へ跳んだ。浮遊装置が働き、5メートルも有るだろう巨人の頭の上まで跳び上がった。落下する勢いを借りて、棍棒を振り上げたその巨人の腕に、日本刀を降り下ろした。刀の先からビームが出た。巨人の棍棒も新太をかすめる。
そのビームと刀の刃が、巨人の腕にヒットした。ヒットしたと同時に、その太い腕が、肩口から切り落とされた。
「フンギャーっ。」
絶叫と共に、鮮血が飛び散った。それでも巨人は立っている。
着地した新太を狙って、足蹴にしようとしていた。
それを見た美月が、今度は地上からその足を狙って、長剣を横殴りにする。
ビームをまとった長剣の切れ味は凄まじく、今度は左の足首から下が、切り落とされた。
其処からも鮮血が流れ出して、辺り一面は血の海に変わっていく。
流石の巨人も立っていられず、どっとその場で倒れた。その心臓へ目掛けて、新太が日本刀を突き刺した。
巨人は断末魔の叫びと共に、徐々に息をしなくなっていった。
「もういいよ、目を開けても。」
二人が目を開けると、血の海と化した洞窟の入口辺りに、新太と美月が平然と立っていた。
肩で息をしていたが、何処にもけがはない。安心したのと、その凄惨さに腰が抜けてリリアは立ち上がれずにいる。涙も流していた。やっとの思いで腰を上げるとリリアが言った。
「これからどうするの?」
新太が答えた。
「中へ入ってみるつもり。リリアとルネは、シャトルへ戻っていて。シャトルまでは一緒に行くよ。」
途中で何かあっても困る。リリアとルネは、まだ怖さと興奮が冷めていない。それで二人は戻る事にして、四人は一緒にシャトルへと戻った。
再び、新太と美月は洞窟へと入って行く。あの✖印は此処で間違いない、と確信した。中に何が有るのか確認したい。暗闇の中、ヘッドライトを使用して明るく照らす。
洞窟は1本道だ。あの巨人が入っていたのだから、天井までは10メートルほどある。しばらく歩いて行くとその途中に、少し広い場所が有った。其処に
10体くらいのあの巨人が屯していた。
洞窟はその先へも、ずっと続いているようだ。
「あの数とやり合うのは、少し骨が折れるな。」
新が呟くと、美月も同意した。
「頭の上を静かに通り過ぎましょう。」
美月の提案で、少し手前で静かに地面を蹴った。二人は空中へ浮遊する。
物音を立てないように気を付けながら、その集団の頭上を越えていく。
そして、ここまでくれば大丈夫であろう、と思われる所で着地した。
巨人たちには、気付かれていないようだ。また狭くなった道を洞窟の奥へと進んでいく。
真っ暗な洞窟の中をしばらく歩くと、最後は行き止まりになっていた。
そして其処には人造と思われる、石で出来た両開きの大扉が行く手を遮っている。
高さは天井と同じで10メートル、片方の扉の幅は、2メートルも有る。
「なんだ、これは?」
つい、口に出てしまった。
その石の大扉は天井まで続いていて隙間は無く、その先にはどうしても行くことが出来ない。扉は引いても押してみても、びくともしない。
よく観察すると、二つの扉の片方ずつに2つずつ、合わせて4つの四角な凹みが有った。一辺の長さが10センチ程度の正方形。奥行は20センチほど。その凹みの突き当りには似通ってはいるものの、それぞれに違う紋章が刻んであった。
そして、その上下2つの凹みの中央辺りに、間違いなく取っ手が有った。
という事は、どうにかすると開くという事だ。
「これは、鍵なのではないでしょうか?」
美月が言った。
「この凹みが鍵穴って事?」
「ええ、この凹みにこの紋章と同じ紋章のついた石か何かの鍵を差し込むと、扉は開く仕組みなのだと思います。」
続きは明日。 第一の鍵




