表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

3/5

第三話 父の強さ

 あの頃の父さんは――俺にとって、本当に無敵だった。


 「空和ー、そろそろ起きろ〜?」


 眠気の奥で、父さんの声が聞こえた。


 「んん〜?なあに?父さん……」


「朝だ!今日も稽古をするぞ!」


 父さんが子供みたいに笑いながら俺を誘う。

 強くて、楽しそうで――俺は昔からそんな父さんに憧れていた。


 「え〜?また稽古?毎日毎日そればっかりじゃん!休日くらい一緒に遊ぼうよ!」


「稽古を遊びだと思えばいいだろう?ほら、行くぞ!」


 無理やり布団を剥がして俺を引っ張る。


「あら?お父さん、また空和と稽古でもするの?」


「もちろんだ!」


「この時代、刀なんて持ったらすぐに警察呼ばれるでしょ」


 俺が呆れ声でそう言うと、父さんは調子を崩さずに答えた。


「持ち歩かなければ何も問題はないだろ?」


 ……そのとおりだけど。


「お兄ちゃん!朝ごはんお母さんと作ってるから、けいこ、頑張ってきてね!」


「ほら、妹に応援されてるのに、お兄ちゃんがそれに応えないってのはないだろ?」


 父さんが煽り気味に言ってくる。

 ……妹にそう言われたら、断れるわけない。


 「これは美雨が応援してくれたからするんだからな?自分でやりたいわけじゃないからな?!」


「ふふっ、ツンデレさんね〜空和は」


「誰がツンデレだっ!」


 母さんまで、俺をからかって!


「もう!父さん!早く稽古やるよ!」


「おお?急にやる気じゃないか!」


 父さんは木刀と真剣をそれぞれ担ぎ、もう準備万端だった。

 

 俺と父さんは、家の近くにある道場に向かった。



 ――――――――



「いいか?父さん達が受け継いでいるのは剣道じゃあない。刀術だ」


「父さん……その話何回目?」


 俺は父さんの何度目かになるかわからない、伝統の話をだるそうに聞いていた。


「何度だって言っていいだろ。大事なことなんだ。空和も覚えておかないとな」


「何十回も聞いてるんだから、さすがに覚えてるって」


「そうか?じゃあ神代家家訓を言ってみろ」


 「刀は己の為に振るのではない。

 身近な人を守る為に振る――神代家の家訓でしょ?」



 全て言うと、父さんは満足げに頷いた。


「そうだ。断じて自分の欲のために刀を振らないことだ。空和もお嫁さんができたらその人のことを守る。そのためにあるんだぞ」


「急に何の話……?」


 小学生にお嫁さんの話とか言われても……。


「さ、道場着いたし、始めるぞ」


 父さんが開始の合図を出した瞬間、木刀が鋭く放り投げられた。

 受け取った直後にはもう、父さんの斬撃が目前に迫っていた。

 

 父さんの動きは無駄がなく、美しかった。

 悔しいけど――俺はその剣に憧れていた。


 父さんの斬撃をなんとか躱した俺は、姿勢を立て直し、反撃を繰り出す。


 しかし、速度が甘かったようで、簡単に弾かれてしまう。


 父さんの斬撃は、弾いてすぐに持ち替え、俺の腹を突く。


 「あ゙っ……」


 腹から鈍い音が出る。

 あらかじめ腹に力を込めていなかったら内臓までやられていただろう。

 後方に吹き飛ばされた後、すぐに立ち上がることができず、そのまま追撃を受けてしまう。


 父さんが構えるのが見える。


 ――っ!

 あの構えは、まさかっ!


 このままじゃ、本気でヤバい。

 足が止まり、呼吸が浅くなる。

 本能が「逃げろ」と叫んでいた。


 なのに――体が動かなかった。

 

 父さんの目だけが、静かに俺を捉えていた。


 俺の周りが、桜の花びらで覆われる。


 ここは父さんの領域内。

 だめだ――逃げ場が、ない……。


 《――抜刀術・桜花爛漫――》


 技が放たれた瞬間、俺は何もできなかった。

 気づいたときには倒れていて、ただ父さんの背中だけが見えていた。


 ――ああ、この人には一生敵わない。

 そう思ったのを、今でも覚えている。


 だから俺は――あの人みたいに、守れる強さを求めたんだ。

 

 


 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ