表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<R15>15歳未満の方は移動してください。
この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

「君が壊れるのを最前列で待っていた」地味女と捨てられた私が認識阻害を解いたら、陰の支配者な公爵様に捕獲されました。元婚約者の生活魔法は全部切ったので、あとは二人で仲良く国を支配します

作者: 文月ナオ

 

 王城のテラスは、吐き気がするほど寒かった。


 石造りの手すりに置いた手が、白く強張っているのが視界の隅に見える。


 でも、これは冬の寒さのせいじゃない。


 目の前に立っている男――元婚約者のミハエル・ファブレスが、あまりにもお粗末なセリフを吐いたから、全身の血が引いていっただけ。


「セラフィナ。君との婚約は、今この瞬間をもって破棄させてもらう」


 ミハエルは、さも自分が世界の中心で愛を叫んでいるかのような、陶酔しきった顔でそう言った。


 月明かりに照らされたその横顔。


 金糸の髪に、碧眼。


 侯爵家の嫡男という、誰もが羨む肩書き。


 外側だけは立派ね。本当に、外側だけは。


 私には、その碧眼の奥にある空虚な自尊心と、中身がスカスカの頭蓋骨が透けて見えるようだった。


「理由は、お聞かせ願えますか?」


 私は淡々と聞いた。


 声が震えたりはしない。


 むしろ、喉の奥から「やっとか」という安堵のため息が漏れそうになるのを、必死に堪えているくらい。


 ミハエルは鼻を鳴らした。私を見下ろすその目は、道端の石ころを見るような侮蔑に満ちている。


「君は地味すぎるんだよ。華がない。色彩がない。まるで灰色の壁と会話している気分になる」


 地味。


 その単語が出た瞬間、私はドレスの陰で、指先を小さく握りしめた。


 屈辱? まさか。


 勝利の確信よ。


 やっぱり、この男の目は節穴だった。


「ファブレス家は、次期宰相の座を狙う名門だ。その隣に立つ妻が、君のような『空気のような女』では困るんだよ。もっとこう、男の庇護欲を掻き立てるような、鮮やかな大輪の花のような女性でなければな」


「……つまり、私の容姿と、控えめな振る舞いが不満だと?」


「そうだ。君には致命的に『美』が欠けている。それに、君のその事務的な態度だ。可愛げのかけらもない。僕が求めているのは、有能な秘書ではなく、心安らぐ愛妻なんだ」


 呆れてものが言えない。


 この男、自分が今なにを言っているのか分かっているのかしら?


 自分が高尚な理想を語っているつもりなら、滑稽すぎて笑い話にもならない。


 彼が今、こうして皺ひとつない燕尾服を着て、磨き上げられた革靴を履き、社交界で恥をかかずに立っていられる理由。


 それは全部、私が裏で手を回していたからだ。


 朝起きて飲む水の温度調整から、提出する書類の誤字脱字チェック、果ては彼が愛人に貢ぐ宝石の手配まで。


 その「地味な女」が、彼の生活の全てを完璧に管理していたからこそ、彼は「有能な次期侯爵」という皮を被っていられたのに。


 彼は知らないのだ。


 自分が着ている肌着が、なぜ最高級のシルクよりも滑らかなのか。


 自分が飲む紅茶が、なぜ常に体調に合わせた最適な香りなのか。


 全部、私が魔法で調整していたからよ。


 それを「地味」と切り捨てて、「愛妻が欲しい」ですって?


 いいわよ。


 そんなに私が不要なら、くれてやるわ。貴方ごときのお守り、こっちから願い下げだもの。


「承知いたしました」


 私は、あえて抑揚のない、平坦な声で答えた。


「え?」


 ミハエルが、間の抜けた声を漏らす。


 私が泣いて縋るとでも思っていたの?


 あるいは、実家の権力を盾に抗議するとでも?


 期待外れで悪かったわね。私の涙は、貴方みたいな男のために流すほど安くないの。


「婚約破棄の申し出、謹んでお受けいたします。これまでのご厚情に感謝を。……それでは、私はこれで」


 私は流れるような所作でカーテシーを行った。


 角度、速度、静止する時間。


 全てが完璧な、しかし心のかけらもこもっていない、ただの形式的な礼。


 踵を返し、私は出口へと向かう。


「お、おい! 待て! そんなにあっさりと……悔しくないのか!?」


 背後でミハエルが何か喚いている。


 私は足を止めずに、肩越しに一度だけ振り返った。


 憐れみすら込めずに、冷ややかに。


「悔しい? いいえ、滅相もございません。貴方様の崇高な理想に、私のような『地味な女』は不釣り合いでした。それだけの話ですわ」


 それだけ言い捨てて、私はテラスを後にした。


 重厚な扉が閉まり、夜会の喧騒と、愚かな元婚約者の姿が物理的に遮断される。


 廊下には誰もいない。


 私は大きく息を吐き出し、強張らせていた肩の力を抜いた。


「……終わった。やっと、終わったわ」


 解放感が、足先から脳天まで駆け抜けていく。


 まるで重い鎧を脱ぎ捨てたみたい。


 私はこめかみに指を当て、意識を集中させた。


 頭の奥で、常に鈍い音を立てて回っていた歯車を、ガチンと止めるイメージ。


 ――術式解除。

 ――対象:自己認識阻害。および、幻影偽装。

 ――連動解除:ファブレス邸内に付与した、全環境維持魔法および状態保存魔法。


 パリン、と。


 空気中で何かが割れるような、微かな音がした。


 同時に、私の体を覆っていた重苦しい澱のようなヴェールが消滅する。


 廊下の窓ガラスに映る自分の姿を見た。


 そこには、先ほどまでの「灰色の髪、そばかすのある顔、焦点の合わない眼鏡」の女はいない。


 月光を吸い込んで輝く、白銀の髪。


 触れれば指が沈みそうなほど柔らかで、血管の青さが透ける病的なまでの、月光すら透過してしまいそうなほどの蒼白の肌。


 そして、覗き込んだ者の体温を奪うような、光の届かない深海の群青。


 眼鏡を外し、私は窓ガラスに映る「本来の自分」に向かって、皮肉っぽく微笑んだ。


 これこそが、セラフィナ・ヴァルドスタの真の姿。


 前世の記憶を持つ私が、この世界で生き抜くために封印していた美貌。


 前世の私は、いわゆる「社畜」だった。


 過労死して、気づけばこの世界の伯爵令嬢に転生していた。


 でも、幼い頃に鏡を見て絶望したのよ。


 美しすぎたから。


 傾国の美女。


 そんな言葉が似合う容姿は、平穏な人生にとって邪魔でしかない。


 王族に見初められれば、ドロドロの後宮争いに巻き込まれる。


 高位貴族の飾り妻にされれば、自由など奪われる。


 ましてや、前世の記憶から「この世界には魔法がある」と知った私は、変なフラグを立てたくなかった。


 だから私は、幼少期から膨大な魔力を消費し続け、常に「認識阻害」の魔法を身に纏ってきた。


 周囲に「なんか地味だな」「印象に残らないな」と思わせる、高度な精神干渉魔法。


 そして、あえて「そこそこの家柄」で「能力は低いが見た目は良い」ミハエルを選び、婚約者という隠れ蓑にしたの。


 彼を裏で操り、実務だけをこなしながら、誰にも注目されずに平穏な一生を終えるつもりだったのに。


 彼が私を捨てた。


 なら、もうこの重たい魔法を維持する必要はない。


 私は自由だ。


 今日から私は、誰の目も気にせず、この美貌と才能を好きに使わせてもらう。


「……随分と、手の込んだ隠し事だな」


 不意に、闇の底から響くような声がした。


 心臓が跳ねる。


 私は反射的に身構え、声の主を睨みつけた。


 廊下の角、照明の光が届かない闇の中に、一人の男が立っている。


 漆黒の礼服。


 夜の闇そのものを纏ったような長身の男。


 そして何より目を引くのは、その瞳。


 暗闇の中でそこだけが燻り続けているような、昏い情熱を宿した赤眼。


「……レイン・スタンホープ公爵閣下」


 私は呻くようにその名を呼んだ。


 知っている。


 いや、知らないはずがない。


 隣国の皇帝の従兄弟にして、この国の「影の支配者」と恐れられる男。


 冷徹無比、完全実力主義。


 彼に睨まれた貴族は、翌日には不正の証拠を突きつけられ、一族郎党破滅すると噂されている。


 なんで、そんな危険人物がここに?


「見ていたの?」


「ああ。随分と面白い茶番だった。三流の喜劇よりも笑えたよ」


 レイン公爵は、音もなく私に近づいてくる。


 その動きは優雅で、それでいて捕食者のような圧倒的な威圧感があった。


「男があれほど無様に宝石を捨てる瞬間を、俺は初めて見た」


「……宝石、なんて」


「とぼけるな。その認識阻害魔法、並の魔導士なら一生かかっても習得できん高等術式だ。それを24時間、呼吸するように維持し続ける魔力容量。……化け物だな、君は」


 バレていた。


 当然か。この男の瞳は「真実を見抜く魔眼」だという噂もある。


「地味な女を演じて、無能な男の裏で国政レベルの書類を処理し続ける。……ヴァルドスタ伯爵家の影の当主殿。君のその手腕、以前から興味があった」


 レイン公爵が、私の目の前で立ち止まる。


 至近距離。


 見上げると、その深紅の瞳が、私の顔を値踏みするように舐め回していた。


「目的は何? 私の正体をバラして、脅すつもり?」


「まさか。俺はそんな非効率なことはしない」


 彼は私の顎を、手袋をした指先でくい、と持ち上げた。


 冷たい革の感触。


 けれど、その奥にある熱量が伝わってくる。


「俺のものになれ、セラフィナ」


「……はい?」


 あまりに直球な物言いに、私は思考が一瞬停止してしまった。


「あの男には過ぎたる才能だ。それに、その顔」


 彼が目を細める。


 そこに浮かんでいるのは、純粋な、あまりに純粋な「欲望」だった。


「俺は美しいものが好きだ。機能美、造形美、そして才能という名の美。君はその全てを兼ね備えている」


「……公爵閣下は、面食いでいらっしゃるのね」


「否定はしない。だが、ただ顔が良いだけの人形には興味がない。俺が欲しいのは、その美貌の下に隠された、冷徹で強欲な知性だ」


 彼は笑った。


 それは凶悪なまでに魅力的で、背筋がゾクリとするような笑みだった。


「あの男は君を『地味』だと言った。節穴にも程がある。俺なら、君のその能力も、美貌も、余すところなく使い潰してやる。……世界中の誰よりも、君を高く買ってやる」


 使い潰す。


 普通のプロポーズなら最悪の言葉だわ。


 でも、元社畜で、有能であることを誇りとしてきた私の魂には、甘い蜜のように響いた。


 私は、私を正しく評価し、使いこなせる「主」を求めていたのかもしれない。


 隠す必要のない美貌と、隠す必要のない才能。


 それを「全部出せ」と言ってくれる男。


「……ずっと、見ていたの?」


 私は、ふと浮かんだ疑問を口にした。


 彼は「以前から興味があった」と言った。なら、なぜ今まで手を出さなかったのか。


 レイン公爵は、愉悦に歪んだ笑みを深めた。


「ああ。あの男の横で、君が才能を殺して微笑むたび、俺がどれほど歯痒い思いをしていたか分かるか? ……いつか君が限界を迎えて、その首輪を自ら引きちぎる瞬間を、俺はずっと最前列で待っていたんだ」


 ゾクリ、と背筋が震えた。


 この男、まともじゃない。


 私が破綻するのを、私が絶望するのを、ずっと暗闇の中で待っていたというの?


 なんて執着。なんて歪んだ愛情。


 ……でも、不思議ね。


 その狂気が、今の私には酷く心地いい。


 平穏な老後? 静かな田舎暮らし?


 ……ああ、馬鹿みたい。


 目の前の男の瞳を見た瞬間、そんな「常識的な幸せ」が、色あせた古布のようにどうでもよくなった。


 私はずっと、飢えていたのだ。


 この有り余る才能を、知性を、誰かに恐怖されるほど振るいたいという、傲慢な欲望に。


 私は、喉の奥から這い上がってくる哄笑を噛み殺し、凶悪な笑みを浮かべた。


「高くつくわよ? 公爵閣下」


「国の一つや二つ、安いものだ」


 レイン公爵が、私の腰を強引に引き寄せる。


 抵抗はしなかった。


 こうして、私は捨てられた直後に、この国で最も危険で、最も美しい男に拾われることになったのだ。




 ◇◆◇




 翌日。


 ファブレス侯爵家は、静かなる崩壊の時を迎えていた。


 朝。


 ミハエル・ファブレスは、不機嫌な顔で食堂に現れる。


 頭が重い。


 枕が変わったわけではないのに、首筋が強張って痛い。


 それに、部屋の空気が妙に乾燥していて、喉がイガイガする。


「おい、水だ。冷たいのを頼む」


 給仕に命じ、出されたグラスを煽る。


「ぶっ!!」


 ミハエルは水を噴き出した。


「な、なんだこれは! ぬるい! それに妙な味がする!」


「は、はあ……? いつも通りの井戸水ですが……」


 給仕が青ざめる。


 ミハエルは知らない。


 彼が今まで飲んでいた「いつもの水」が、セラフィナによって最適な温度に調整され、さらに微量な魔力で不純物を除去し、レモンとハーブの香りを微かに添加された特製品であったことを。


 そして昨夜、その維持魔法の供給が絶たれたことも。


 ただの井戸水など、彼にとっては泥水も同然だ。


「着替えだ! 外出する!」


 気を取り直して着替えを始めるが、ここでも悲劇が起きる。


 シャツに袖を通した瞬間、背中にヤスリをかけられたような不快感が走った。


「痛っ! なんだこのシャツは! 糊が効きすぎているぞ!」


「い、いえ、いつも通り洗濯係が洗ったものですが……」


 これも知らない。


 セラフィナが、彼の敏感肌に合わせて、繊維の一本一本を魔力でコーティングし、極上の肌触りに仕上げていたことを。


 彼女がいなくなった今、彼が着ているのは「高級だがゴワゴワした麻」に過ぎない。


 首筋が擦れ、脇が食い込む。


 歩くたびにチクチクとした痛みが走り、ミハエルは常に体を掻きむしりたくなった。


 極め付けは、執務室だった。


 机の上に、山のように積まれた未決裁の書類。


 いつもなら、朝には綺麗に分類され、重要な箇所には付箋が貼られ、あとはサインをするだけの状態になっていたはずのものが、雑然と積み上げられている。


「おい、これはどういうことだ! なぜ整理されていない!」


 執事が、憔悴しきった顔で答える。


「……セラフィナ様がいらっしゃいませんので」


「は? そんなことは分かっている! 僕が言っているのは、なぜお前たちがやらないのかということだ!」


「我々には……その、内容が高度すぎて……」


 ミハエルは書類をひったくった。


 領地経営の収支報告。


 隣国との貿易関税の計算書。


 鉱山の採掘権に関する契約書。


 数字、数字、数字。


 専門用語の羅列。


 ミハエルは愕然とした。


 判断できない。


 文字は読める。数字の意味も分かる。だが、『で、どうすればいい?』が分からない。


 この数字の裏にどんなリスクがあり、どの派閥に配慮して、どう決断するのが正解なのか。


 今までは付箋に『ここを承認』『これは却下』と書いてあったのに、何も書かれていない書類だけ渡されても、責任の取りようがない。


「……な、なんだこれは。いつもは、もっと簡単な要約がついていただろう!」


「ですから、その要約を作っておられたのが、セラフィナ様でございます」


 執事の言葉が、死刑宣告のように響く。


 ミハエルは椅子に崩れ落ちた。


 頭痛がする。


 肌が痒い。


 喉が渇く。


 そして、目の前の仕事が一つも片付かない。


 昼前には、さらに追い討ちがかかる。


 王宮からの使者が現れたのだ。


「ミハエル・ファブレス殿。先日の夜会での失言について、釈明を求めます」


「は? し、失言? 僕がいつ……」


「隣国の大使に対して『田舎者』と発言された件です。正式な抗議文が届いております」


 記憶にない。


 いや、言ったかもしれない。


 でも、いつもならそんな失言は、セラフィナがその場でにこやかにフォローし、相手をヨイショして、笑い話に変えてくれていたはずだ。


 彼女という緩衝材を失ったミハエルの言葉は、ただの「無礼な暴言」として、直接相手に突き刺さっていたのだ。


「そ、そんな……」


 ミハエルは青ざめた。


 自分の足元の床が、音を立てて崩れ落ちていく感覚。


 彼はようやく理解し始めていた。


 自分が立っていたのは、堅固な大地の上ではなく、セラフィナという一人の女性が支える、細い細い柱の上だったのだと。


 そして、その柱を自ら叩き折ってしまった愚かさに。




 ◇◆◇




 一方その頃。


 スタンホープ公爵邸の最上階。


 私は、最高級のソファに深々と身を預けていた。


 目の前には、湯気を立てる紅茶と、山積みの書類。


 ただし、それはミハエルのところにあったような低レベルなものではない。


 国家予算の裏帳簿。


 貴族派の粛清リスト。


 大陸全土の情勢分析。


 ゾクゾクするような、一国の運命を左右する機密文書の山だ。


「……素晴らしい」


 向かいに座るレイン公爵が、私が修正を入れた書類を見て、恍惚としたため息を漏らす。


「ここだ。この物流の抜け穴を使って、敵対派閥の資金源を断つ。……俺が三日かかって構築しようとしていた作戦を、君は紅茶一杯飲む間に完成させた」


「単純な構造でしたもの。血管を二、三本詰まらせれば、巨人も死ぬわ」


 私はカップを置く。


 レイン公爵は、書類を放り出し、立ち上がると私の手を取った。


「美しい」


 彼が私の指先に口づけを落とす。


 その熱っぽい視線は、私の顔、そして私が書き込んだ文字の両方に向けられていた。


「君のその冷徹な知性。そして、隠す必要のなくなったその美貌。……最高だ。俺の求めていた伴侶は、君以外にあり得ない」


「伴侶、とおっしゃいました?」


「ああ。当然だろう。これほどの才能を、ただの秘書で終わらせるつもりはない。公爵夫人として、俺の隣で世界を支配してもらう」


 レイン様は私の眼鏡を優しく外し、素顔を覗き込んだ。


 至近距離で見つめ合う。


 彼の瞳にあるのは、ミハエルが向けていたような「自分のための装飾品」を見る目じゃない。


 対等な共犯者、あるいはそれ以上の存在を見る、崇拝と独占欲の混じった瞳。


「君を捨てたあの愚か者は、今頃地獄を見ているだろうな。……礼を言ってやりたいくらいだ。おかげで俺は、世界一の宝を手に入れた」


「ふふ。……ええ、そうね」


 私は窓の外、遠くに見える王城の方角を見やった。


 あの場所で今頃、ミハエルは着慣れないゴワゴワの服に肌を赤くし、読めない書類に埋もれ、不味い水を飲んで泣いていることだろう。


 想像するだけで、極上のデザートを味わったような甘美な気分になる。


 私はレイン様の首に腕を回し、妖艶に微笑んだ。


「精一杯、こき使ってくださいませ、閣下。……私、退屈な仕事は大嫌いですので」


「望むところだ、マイ・レディ」


 重なる唇。


 それは契約の印であり、甘い溺愛の始まりだった。


 地味な女?


 ええ、そうね。


 私はこれからも、貴方たちの目には映らない場所で、この国を、そしてこの愛おしい公爵様を、私の色に染め上げていく。


 誰よりも鮮烈に、誰よりも残酷に。

ここまでお読みいただきありがとうございました!


「面白かった!」と思っていただけたら、

下にある【★★★★★】評価やブックマークで応援していただけると、創作意欲が爆発します!

★評価は『星1つ』からでも、とても嬉しいです!泣いて喜びます!


──────────────────

★1/31まで毎日短編投稿してます!ゲリラ的に2本投稿する日もございますので、興味のある方は作者マイページよりお気に入り登録していただくか、チラチラと確認していただけると、見逃さずにお読みいただけるかなと思います!

──────────────────

【お暇な時にこちらもどうぞ!】


【対等なパートナー、恋がお好きな方】

▼「貴様との婚約を破棄する」「謹んでお受けします」直後、私達は「じゃ、お疲れーッス」とハイタッチして国を出た〜今更泣きついても遅い。押し付けられた借金まみれの国は、王妃の座を夢見る聖女様に差し上げます〜

https://ncode.syosetu.com/n5627lp/


【妹ざまぁ、イケメンに愛されたい方】

▼妹に婚約者を寝取られましたが、どうぞ差し上げます。私は「呪われた悪魔公爵」と噂される辺境伯様に嫁ぎますので。〜実は彼が呪われてなどおらず、ただの愛妻家な超絶美形だと知っているのは私だけ〜

https://ncode.syosetu.com/n0859lq/


【ざまぁ、悪人、難しい話なし、IQ3に下げて読めます】

▼元宰相で義兄だった夫と、今日もふわふわのメロンパンを焼き上げます。〜この、やさしくて、ゆる〜い世界で。〜 常連さんは王様のようです。

https://ncode.syosetu.com/n2113lr/


他にも30本以上、投稿済みの短編がございますので、作者マイページからお好みのものを見つけてご覧いただけると幸いです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ