三十話 戦士達オーロラ号の深淵に突入す!!
オーロラ号
船内通路
ズン!ズン!ズン!ズン!・・・
光子ライフルを構えた騎士とガメリカ兵が、緊張の面持ちで前方を睨み、血に染まり赤茶けた、かつての豪華な絨毯を踏みしめ、光子ライフルで感染者を排除しながら、客室エリアの生存者捜索を進めた。
「シルバーバレットだ助けに来たぞ!!聴こえないのか!!おい、返事をしろ!!」
「こちらトーマス准尉!誰か生きている者はいないか!?返事をしてくれ!」
トーマスは悲痛な叫びを上げた。
「生存者を捜索するぞ!……各部屋のクリアリングを徹底しろ!」
パラディンのジョンはそう言うと、客室の扉をヒートソードを使い蝶番を断ち切り、重厚な金属の扉をパワーアーマーでぶち破り、轟音と共に扉が床に倒れ込み、部屋の中の塵が舞い上がる。ジョンは、赤熱したヒートソードを肩に担ぎ直し、煙の向こう側へと足を踏み入れる。
その様に、その階の探索を終え、最後の一室に辿り着いた。
ボコボコにひしゃげた金属製のドア。先ほどと同じ手口で中へ入り込むと、家具でバリケードが築かれた部屋に、男と女が二人潜んでいた。
「…た、たすけ・て…」
「…たすけ・・てくれ」
「生存者2名確認!直ちに搬送しろ!」
「よく耐えた!安心しろ、安全な場所へ運ぶ!」
二人をガメリカ軍人達が励まし、水とエナジーバーを渡した。
すぐ隣に化け物がいたというのに、彼らは喉を潤すことさえ許されなかったのか。500mlの水を一滴残らず流し込み、エナジーバーを貪り食う。あの死地からの生還を噛み締めていた。
それを見ていたガメリカ軍人達も、目頭が熱くなるのを感じていた。
「彼等が安全な場所に連れて行ってくれるから、付いて行ってくれ!」
ジョンがトーマス達を見て言った。
トーマスは三人の兵士を呼んで、生存者を操舵室の穴まで連れていく様に指示をだし、ジョンはヘリの手配をした。
去っていく、民間人二人と兵士達を見送り、ジョン達一行は豪華なラウンジ、シアタールーム、浴場、プールエリア等を掃討した。
しかし、約三千人には及ばない数だった。
「おい、どれくらい敵を減らした?」
バスチスが尋ねると、リンダは呆れたように返した。
「数も覚えてないの?……そうね、だいたい五、六百ってところかしら」
「じゃあ、残りは何処に行ったんだ?!」
バスチスの疑問を耳にしたジョンが、ヘリに緊急通信を行った。
「こちらジョン、哨戒ヘリに問う、オーロラ号の船外に、異常はないか?人員確認を」
「哨戒ヘリよりジョン、船外に不審者なし。特に異状は見受けられない」
「了解。引き続き監視を継続せよ」
「了解、通信終了」
その場に嫌な沈黙が流れ、ジョンが言った。
「皆の聞いた通り、残りの感染者は下の階にいる。……いきなり襲われてもいいよう、全方位警戒だ!」
「本部、パラディンのジョンだ、船の下層に突入する!!」
「こちら、本部、了解した作戦を継続されたし、以上」
「了解、通信終了」
空中巡洋艦との通信を終え、一行は業務エレベーターに向かった。
彼らが乗った大荷物用の業務用エレベーターが最下層に到着すると、二分間の静寂を破るかのように、鼻を突く腐敗臭が襲いかかった。
「くそっ、フィルターは何をしてるんだ!?」
パワーアーマー越しでも機能不全に陥る悪臭に対し、裸同然のガメリカ軍人達は「うぉえ゛ぇ~!!」と嘔吐し、とめどない吐き気にめまいを催していた。
アーマーを着たジョン達と、そうでない者たちとの間で、地獄の状況にあまりに酷い差が生まれていた。
悪臭に鼻が麻痺し始めた頃、一行は機関室へと続く通路に辿り着いた。しかし、そこは既に人の通れる場所ではなかった。赤黒く蠢く肉の塊が通路を塞ぎ、換気ダクトや配線ダクトの隙間にまで這入り込んで、生物のように脈動していたからだ。
一同は壁際に身を潜め、その悍ましい光景を凝視した。その時、一体のバイターがのろのろと肉塊に接近し、足元の肉塊に触れた。
ズビュルルル!!ズルズル!!
肉塊の脈動が一瞬強まったかと思うと、それは凄まじい速度で動き、バイターに絡みついた。肉塊は一瞬にしてバイターを包み込み、貪り食ってしまった。
「……うぉ、マジかよ」
そのあまりに異様な光景に、皆の背筋に寒気が走った。
「……じゃあ、これはどうだ」
ジョンは冷静にそう言うと、近くの配管から小さなバルブのハンドルをもぎ取り、肉塊の近くの金属壁に投げつけた。
ガンッ!!! バン!! ガラガラガラ!!
金属音が鳴り響いたが、肉塊は特に反応する気配を見せない。
「ならば、これならどうだ?」
ジョンはさらに隣のバルブからハンドルを外すと、今度は肉塊のど真ん中目掛けて投げつけた。
ドス!グチュン!!!
ハンドルが直撃した瞬間、肉塊は激しくうねり、獲物を食らうかのように貪り始めた。
「まるで動く食虫植物だな……。いいか、絶対あの肉塊には触るなよ!!」と、ジョンは一同に厳重な注意を促した。
「肉一欠片も無しの復元は無理」——。
出会った時の信雄の不吉な言葉が、リフレインのように騎士たちの脳内で繰り返される。
冗談話だと思っていた、かつての余裕はもうない。
その惨状が真実味を帯びて迫り、彼らは恐怖に凍りついた。
その状況に騎士たちが互いに顔を見合わせる中、トーマスが声を上げた。
「でも、あの先に機関室があるんだぞ!まさか見捨てるつもりじゃ……!」
「当然だろ。俺たちは正義の味方だ。武装が実弾兵器だけなら厳しかったが、今俺たちが持っている武器を見ろよ!それに、主から預かっているコレもある!」
ジョンはパワードスーツの胸部装甲から、近未来的なデザインのハンドガン——クライオガンを抜き放った。
「ほう、それは……?」
トーマスの好奇に満ちた問いかけに、ジョンは不敵な笑みを浮かべる。
「クライオガンさ!」
クライオガンが放つ閃光が肉塊に直撃すると、空間全体が瞬時に銀世界へと変貌した。化け物は氷の彫刻となり、周囲の床や壁までもが氷に覆われる。
「「「「すごい!」」」」
驚く一同を尻目に、ジョンはさらにグレネードを取り出す。
「これはただのグレネードだが、アーマーのせいで正確な投擲が難しい。頼む、トーマス!」
「任せろ!」
トーマスはすかさずグレネードを受け取り、安全ピンを抜いて凍りついた肉塊へと投げつけた。
一同が身を隠すと同時に、轟音と共に閃光が通路を包む。爆風で肉塊が粉々に砕け散り、その奥に潜んでいた隔壁扉が姿を現した。
「ライフルの出力を最大に設定。足元の残骸、及び壁の肉塊を蒸発させろ。……射撃開始。」
「「「「了解。」」」」
光子ライフルが通路に特徴的な電子音を轟かせ、瓦礫を瞬時に焼き払って掃討した。
一同は機関室の隔壁前へと到達した。歪んだハッチをパワーアーマーの拳でゴン!ゴン!と叩き、生存を問う。
「中に誰かいるか!?」
「いるッ!救助か!?扉が歪んで開かんのだ!」
「了解。ドアから離れろ、抉じ開ける!」
ジョンは返答するや、ヒートソードを抜き放った。灼熱の刃が扉を四角く切り裂き、轟音と共に厚い装甲をぶち抜いた。
「シルバーバレットだ!生存者は!?」
「11人だ!怪物が壁を食い破る寸前だった……助かった……!」
「動けるか?すぐ脱出させる!」
男は息を切らしながら答えた。
「空腹と渇きで万全ではないが、歩くことはできる」
「よし。トーマス准尉、隊員を二人付けてやる。この人たちを安全な場所へ誘導しろ。俺達は船倉へ向かう」
更なる激戦を予感したジョンは、パワーアーマーを装備していないトーマスたちを危険地帯から一時離脱させようと指示した。
「……了解!すぐに合流する!死ぬなよ、ジョン!」
バッ、と統制の取れた動作で敬礼したガメリカ兵たちは、負傷した生存者に肩を貸し、担架を担ぎ上げると、足早に撤退ルートを戻っていった。
「さて、オーロラ号最終区画へ突入する! 準備はいいか!?」
「「「「応!!」」」」
張り詰めた空気の中、約10分ほど警戒しつつ歩を進め、我々は船倉の隔壁前へと到達した。
「……あれ以降、敵の気配はないな」
「まさか、残りの2000人が全員ここに……?」
騎士たちの間に動揺が広がる。
「……何が待っていようと、進むしか道はない。開けるぞ!」
幸い隔壁に損傷はなく、ハンドルを回し、一同は一斉に船倉内へ雪崩れ込んだ。
内部は薄暗く、死人のような静寂が支配している。積荷の合間を縫って捜索を続けるが、人の気配は全くない。
最深部へと行き着いた瞬間、誰もが最悪の可能性を連想し、背筋に冷たい汗が伝うのを感じていた。
「本当に、どこへ消えたんだ……!?」
「不気味すぎる、この場所は!」
口々に狼狽する騎士たちの中で、バスチスが異常に気づく。
「待て……この辺りにあるコンテナ、すべて同じロゴじゃないか?」
「バスチス、急に何を……本当だ! 一体、いくつあるんだ!?」
「……読めないな」
「『Ashiya Pharma』……製薬会社か」
英語の併記に目を細めたのも束の間、ジョンが鋭く号令を飛ばす。
「調査終了。撤退する!」
踵を返そうとした、その時だった。
ゴゴゴッ、と重苦しい音を立て、バスチスが触れたコンテナが不意に開く。
「隊長、すまん……仕掛けを作動させちまったみたいだ」
隠し通路の先、船の深淵へと続く階段が現れる。一行は表情を引き締め、更なる深淵へと足を踏み入れた。
そこは、白一色の無機質な空間に、培養槽と実験器具が立ち並ぶ異常な場所だった。
ジョンの視線は、机の上に放置されたノートパソコンに吸い寄せられた。誘惑に負けて保存データを覗き込むと、そこには悪夢のような光景が記録されていた。
画面の中で、一人の少女が謎の液体を投与され、見るも無惨な異形へと変貌を遂げる。肉塊と化した「それ」が民間人を次々と蹂躙する地獄絵図の傍らには、すべてを静観する黒幕らしき男の姿があった。男は歪んだ笑みを浮かべ、薄ら笑いを湛えたままレンズ越しにこちらを射抜く。そこで動画はぷつりと途切れた。
「この船で、こんな非道な人体実験を……!?」
「許せんな!」
騎士たちは憤怒を抑えつつ膨大な資料を確保し、一部を先遣隊に託して艦へ搬送させた。パラディン・ジョンは携帯式の保管バックに薬品やサンプルを詰め込み、「専門的な内容は解析班に任せればいい。さあ、脱出だ」と保管庫を閉めようとした瞬間、輸血パックが弾け、赤い液体が足元に飛散した。だが、男は一瞥もくれず「行くぞ!」と号令をかけ、ジョンと騎士たちは来た道を振り返りもせずに立ち去った。
パワーアーマーの脚部が血で汚れていることなど、誰一人として気づいていなかった。この血の足跡が、彼らをさらなる地獄へと誘う道標となるとは、その時の彼らは知る由もなかった。
出てくる団体は架空の団体です




