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二十八話 寄り道するオッサン達

航空巡洋艦での遠征を決した夜、町は騎士たちの不在を嘆く住民の抗議で暴動寸前の熱狂に包まれていた。罵声と悲鳴が飛び交う喧騒の中、信雄に群がる子供たちが、大人よりも切実な響きで問いかけた。

「「「「もう、行っちゃうの……?」」」」

その声に、信雄は屈んで答える。

「いやいや、違うよ。少し秋津洲公国へ、片付けなきゃならない用事があってね」

「「「「用事って?」」」」

「はは、迷子を家まで送り届けるのさ。君たちも、帰る家がなかったら寂しいだろ?」

「「「「……うん!」」」」

「だからこそ、俺たちは行かなきゃならない。騎士になりたいんだろ?こんなことで泣いてちゃ、強くなれないぞ」

子供たちの瞳が揺れ、決意に変わる。

「わかった……泣かないよ。だから、騎士のおじさんたちも、早く帰ってきてね!」

「俺、絶対騎士になるからさ。約束だよ!」

「「「「僕も!私も!」」」」

「約束だ。いい子で待ってなさい」

子供たちの澄んだ声に、信雄は力強く頷いた。

その背後、傭兵たちがその光景を眺めていた。


戦場を渡り歩き、その手に血と硝煙を染み込ませてきた傭兵たちの瞳が、今は場違いなほどに潤んでいた。

これまで彼らが受けてきたのは、向けられる恨みの刃と、投げつけられる排斥の石礫ばかり。誰かに望まれ、その存在を肯定されることなど、一度としてなかったのだ。だからこそ、自分たちの歩んできた道や、磨き上げてきた無骨な技を「憧れ」として受け入れた子供たちの純真な言葉は、彼らの凍てついた心を溶かすに十分だった。

「さあ、腕が鳴るぞ! 騎士として、そして一人の大人として、子供たちとの約束を違えるわけにはいかないからな!」

「「「 イエス・マイロード!!」」」」

地を揺らすような咆哮が響く。主の檄に応じる彼らの声には、かつてないほどの誇りが宿っていた。

「皆様、我らは必ずこの地へ帰還することを誓います。ですから今は……どうか笑顔で我らを送り出していただきたい!」

信雄が力強く告げると、しばしの沈黙が場を支配した。

やがて、群衆の中から一人の老人が、静かに、しかし確かな足取りで進み出た。

「承知いたしました、信雄殿。……皆の衆、彼らを信じよう。信じぬことには、何事も始りはせぬのだから」

町を束ねる長老の静かな、しかし重みのある諭しに、住人たちの動揺は凪いでいった。こうして、一触即発の混乱は穏やかに収束の時を迎えたのである。


そして、二日の月日が流れた――。


信雄達はウエストベリーに鳴神を横付けし、住民達の笑顔での見送りに、信雄達は手を甲板から振り替えし、秋津洲公国への航海に出発したのだった。



出発から四時間後


信雄達の航空巡洋艦は今は太平洋上の空を進んでいた。

最初はワクワクした空の旅も、時間がたつにつれ皆退屈していた時だった。


快調な航行を続けていた信雄たちの巡洋艦が、唐突にその速度を落とした。異変を感じた信雄は、腕輪に機能追加された通信機能を使い、鳴神に連絡を入れる。

「鳴神、状況を」

「マスター。レーダーが海上の小型船を捕捉。ここから北西、約300キロ地点です」

遭難の可能性を察した信雄は、即座に決断する。

「……針路を変更、急行しよう」

「了解。マスター」

巡洋艦は唸りを上げ、北西の海域へと面舵を切った。



捜索開始から約20分、オレンジ色の膨張式救命ボートが視界に入った。中では子供がこちらに気づき、必死に手を振っている。

艦を停止し高度を下げて救命ボートを収容。救助されたその子は、髪はボサボサで服は海水を被った影響で塩が結晶となりこびりついていた。まともな食事を摂れていなかったのか、線が細く、栄養失調の様子が顕著な様子であった。


「さて、質問タイムだ。……坊主、名前は? なぜあんな場所に? 両親は?」

「ボクは……っ!」

ぐううー……。

少年の空腹を告げる大きな音に、その場が和む。

「まあメシだ! 食ってから話そう!」

「主の仰る通りです!」

「そうしよう。バタバタしてて腹ペコだったんだ」

信雄とジョン、ジェイムズが応じると、鳴神が報告を入れる。

「食堂の準備ができました。どうぞ」

「ありがとう、鳴神。移動しよう」

食堂では、割烹着をまとった広子、杉崎、木崎、鳴神らアンドロイドが、騎士たちに温かいご飯をよそっていた。



「悪い、唐揚げ定食を大盛りで3つ!」

次々と上がる追加注文の声。今日のメインは唐揚げで、デザートにはプリンも付くらしい。

「信雄さん、お疲れ様です。……その子が、例の救助された?」

広子が気遣わしげに尋ねる。

「ああ。腹が減ってるみたいなんだ。その子の分も大盛りにしといてくれ」

「了解、大盛り追加4つ!」

厨房へ威勢のいい声が飛ぶ。

やがて、運ばれてきたお盆を受け取り、信雄は少年を食堂の空いた席へ案内した。

「「「「ありがとう!」」」」

礼を言うと、唐揚げの香ばしい香りが漂い始めた。


「まずは食え、話はそれからだ!」

「「「「いただきます!」」」」

少年はここ数日何も食べていなかったのか、はぐはぐ、はむはむと凄まじい勢いで食事を口に運んでいく。

「んぐっ!?」

喉に詰まったのか、少年が苦しそうにえずいた。

「ほら、水だ」

信雄が近くの水差しから急いでコップに水を注いで渡す。

「んぐんぐんぐ……はぁ〜っ!」

少年は一気に水を飲み干し、飯を胃へ流し込んだ。

「誰も盗りゃしねぇ、ゆっくり食え」

そう言って信雄は椅子にどかっと腰を下ろす。

「旨いか?」

「うん、美味しい! おじさん、ありがとう!」

その光景を、周囲の女性陣が怪訝そうな視線で見つめていたが、信雄、ジョン、ジェイムズの三人はそれに全く気づいていない。

信雄たちは少年の食事が落ち着くまでしばらく待ってから、本題を切り出した。



「そういえば名前を聞いていなかったな」と、信雄は思い出したように尋ねた。

「僕は香坂紫苑(こうさかしおん)です!」

「名前の響きからして、秋津洲公国の民間人か? 目的地の民間人とは、運がいいやつだな」

「そうか、紫苑っていうのか」

その場のオッサン三人(信雄、ジェイムズ、ジョン)は一頻り納得し、会話を続けた。

「それにしても、なんであんな海のど真ん中にいたんだ?」

「まったくだ。俺たちが見つけなかったら、干物になって死んでたぞ」

信雄とジェイムズの言葉に、ジョンも同意するように頷く。しかし、三人の言葉に紫苑は表情を曇らせ、泣き出してしまった。


「ひっ…?!」

信雄の問いかけに、ジョンとジェイムズが下卑た笑いを上げる。

「信雄、お前は無表情で圧をかけるから、泣く子も黙るぞ」と。

「お前らこそ、その殺し屋みたいな目つきで少年に絡むな。こっちが萎縮する」と信雄が反論するも、彼らもまた、泣き叫ぶ少年を囲んで凄んでいる。

「お前も俺たちが怖くないよな?」と、三人の男が少年に威圧的に肩を寄せる。その緊迫した空気の中で、ついに一人の救い手が彼らの間に割って入った。



「大の大人が寄ってたかって、子供いじめるんじゃないよ!」

姉御肌のリンダが鋭い口調で割って入った。

「リンダか。いじめてなどいない、事情を聴いていただけだ」

「そうだそうだ、言いがかりはやめてくれ。なあ、少年!」

信雄の言葉に、ジョンとジェイムズも調子を合わせて身を乗り出す。

その様子に、リンダは呆れ果てたように溜息をついた。

「少年?……はぁ、うちの男どもはこれだから。その子は女の子だよ!」

「「「なんだってーー!?」」」

三人の絶叫が響く中、子供が小さく口を開いた。

「すみません、その女性のおっしゃる通りです……」

「男と女の区別もつかないあんたたちには任せられないね。ここは私が引き継ぐよ!」

「……わかった」

少女の告白に度肝を抜かれた信雄たちは、リンダの剣幕に押されるまま、すごすごと食堂を後にした。


少し経って、喫煙所で愚痴りながら「あんなの分かるわけないだろ!」とふてくされていた信雄たちに、リンダから通信が入る。



「主殿、紫苑から話を聞いたので報告します」


「わかった話してくれ!」


信雄は腕輪のからホロディスプレイを出して、スピーカーモードにした。


「話によると、ホワイ諸島からの避難民を乗せた豪華客船から逃げたとの事らしいです。」

「「「逃げた?何故?」」」

三人共同じ言葉が出た。

「豪華客船はオーロラ号って名前らしいです、そこで洋上避難を三ヶ月程続けていたら、何故か船内に化け物が出てきて、集団感染が発生したらしいです。」

「オーロラ号、女神の名か?」

「確か暁の女神だ」

信雄の通信機からの話を聞いて、ジョンとジェイムズはそんなことを話している。

「凄いな、良く逃げれたな!」

信雄が感嘆の声をあげる。

「この子の両親が逃がしてくれたそうです。」

「わかった。で、生存者の見込みはあるのか?」

通信機を介し、リンダが紫苑に問いかける。「待って、確認するわ。……紫苑、生存者はいると思う?」

「た、多分。ガメリカの兵士も大勢乗船していたはずだから……!」

「……という状況ですが、どうされますか、主殿?」

スピーカーから漏れる紫苑の期待と、リンダの圧力。信雄は覚悟を決める。

「予定変更だ。少し寄り道をする」

ジョンとジェイムズが顔を見合わせ、肩をすくめて笑う。

「よしリンダ、寄り道すると紫苑に伝えろ。その後は、彼女を風呂に入れて休ませてやれ」

「了解!」

上機嫌な返答とともに通信が切れる。

「はぁ……二人とも、部下たちに伝えてくれ。秋津洲公国旅行は白紙だ。幽霊船の探索に切り替える」

「了解」

「御意」

彼らは葉巻の煙を燻らせた後、指示を出すべく部下のもとへ向かった。


信雄はブリーフィングルームに艦内の総員を集めると、方針を伝える。


「野郎ども、時間だ。今回のミッションは豪華客船オーロラ号の制圧と生存者救助。内部は感染した怪物どもが跋扈している地獄絵図だ。報告によるとガメリカ軍を含む複数の生存者が孤立している。同士討ちは厳禁だ。彼らの命は我々シルバーバレットの手に掛かっている。我々が真の『銀の弾丸』であることを、あの化け物共に見せつけてやれ!……さて、地獄の業火をくぐり抜け、暁の女神に会いに行こうか!」

「「「「イエス、マイロード!!」」」」

「「「「突撃!!」」」」

「鳴神、オーロラ号の位置は?」

「補足済みです」

「よし、全速力で急行する!」

「御意のままに、マイマスター」

「野郎ども、行こうぜ!!」

「「「「おおおおお!!」」」」

そうして、信雄たちは血気盛んにオーロラ号へと急行した。


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